東方風天録   作:九郎

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最強の足止め

フラフラと青年は里の方に向かって歩く。

 

やはり折れた翼では長い間飛べなかった。

 

「クロ……なの?」

 

青年の背後から声をかける幼い声。

 

「チルノちゃん……」

 

光のない目で青年はチルノの方を見た。

そして、困ったような笑みを浮かべる。

 

「クロ、ひどい怪我してる!!はやく治して貰わなきゃ!!」

 

「いいんだ……」

 

「よっ、良くないよ、血が沢山出てるよ!!」

 

「気にしないで……チルノちゃんは優しいな、それなのに、オレ、今から酷いことしに行くつもりなんだ」

 

「酷い事?クロ、何を言って……」

ゾオッっとチルノの背筋が凍る。

まるで、背中に氷を当てられたようだ

気づけば全身が震えていた。

 

目の前の男が、チルノの良く知るいつもの優しい青年ではない事を察した。

 

「終わらせてしまおうかと思ってさ……こんな世界」

 

遠い目をして青年は答えた。

 

 

「だっ、ダメだよ!!」

チルノは、逃げ出してしまいたい程の恐怖の中、振り絞るように叫び、青年の前に立ちはだかり、臨戦態勢をとる。

 

青年はそれを見て、悲しげな表情を浮かべた。

 

「チルノちゃん、今のオレ……怖い?」

 

青年はチルノに問う。

 

「うん、すっごく怖い……すっごくすっごく怒ってるよね?でもさ、今のクロを見てるとすっごくすっごく可哀想なんだ……だから、この先に行かせちゃダメだと思う」

 

「なんか、意外な反応だな……ホラッ、頭に角みたいなのが生えてて鬼みたいで怖いって言うかなって思ったんだけど……」

 

「鬼よりも怖いよ……今のクロ……でも、悲しそうだもん、悲しくて悲しくて全部どーでも良くなってるんじゃない?だから、クロのしようとしてること、止めた方が良いと思うんだ!!アタイ、クロよりも弱いけど、それでも……」

 

チルノは、勇気を振り絞って青年に言う。

 

それを聞いた青年は、グッと歯を食いしばった。

 

「チルノちゃんが一番怖えわ……」

 

そう呟いて、自身の周りに黒い旋風を展開した。

 

「退いてよ……」

青年は氷のような冷たい眼差しでチルノを見る

 

「やだ!!」

 

チルノは、青年にとおせんぼしながら答えた。

 

暫く青年とチルノの睨み合いが続いた。

そして、長い長い睨み合いの末にチルノが口を開く

 

「やめようよ……こんなの……アタイ、友達と戦いたくない……」

 

「…………」

青年は、何も答えなかった。

 

暫く沈黙したのち、青年はやっと口を開く

 

「ごめんね……」

 

 

 

 

哀しげな表情を浮かべ、倒れたチルノを背に青年は、歩みを進める

 

「全部終わらせてやろうとしてるのに……なんで殺さなかったんだろ?いや、分かってる……分かってるさ……でも、やっぱり終わらせてやる……こんな世界……かかって来いよ、博麗さんに八雲さん……異変っていうか危機だぜ?この幻想郷のさぁ?」

 

なにかを諦めたような哀しげな表情で、青年は呟いた。

 


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