東方風天録   作:九郎

193 / 213
もっとエグく書きたかった。
書き直すかもしれないです。


散花

からたちの花が咲いたよ

白い白い花が咲いたよ

 

からたちのとげはいたいよ

靑い靑い針のとげだよ

 

からたちは畑の垣根よ

いつもいつもとほる道だよ

 

からたちのそばで泣いたよ

みんなみんなやさしかつたよ

 

からたちの花が咲いたよ

白い白い花が咲いたよ

 

クロは好きで好きだよ

あやも好きで好きだよ

 

クロは痛い痛いよ

痛いけど泣かないよ

 

みんなみんな大好きだよ

 

________

____

__

 

「伊織……」

 

幼子を抱き抱えて青年は妖怪の山への道を行く。

 

青年は消え入りそうな声で呟いた。

 

「ごめんな……ごめん」

 

瀕死の状態で、ドクドクと血を流して青年は言う。

 

「なんで……こんな事に……なったんだろ……」

 

幼子は、青年をギュッと抱きしめて、耳元で囁いた。

青年は、ハッと目を見開いて、一瞬崩れ落ちそうになった身体を元の体制に戻した。

 

青年は、深く深く、まるで奈落の底でも見てきたかのような暗い表情を浮かべる。

 

「うん、うん、わかってる……わかってるよ、言ったろ?例え世界が終わってもオレはお前を離さない……うん、約束だもんな」

 

「いいよ、側に居るさ、ずっと側にいてやる……なんでって、理由を聞くなよ……愛してるんだよ……お前のこと」

 

何かを諦めた様な表情で青年は幼子に言った。

 

少し歩いて開けた場所に出る。

草も木も生えていない寂しいところだった。

 

あーあ、そういえばこれ、オレが大剣振り回してこんなにしちゃったんだっけ?

 

青年は、苦笑いして辺りを見渡し、そして天を仰いだ。

 

曇り空で今にも雨が降りそうだ。

嫌な天気……

 

「たぶん、ここなら誰も居ないと思う……オレとお前の2人だけ……

死ぬには……良い日和だ……」

 

フッと青年は笑う。

今にも泣き崩れそうなのを堪えて笑う。

 

「うろ……あい……あと……」

 

「うん……」

 

「うろ……あいあと」

 

「うん、うん」

 

「うろ……だい……す……き」

 

「そっか……」

 

静かに青年は目を閉じた。

ドクンドクンと必死に生きようとする音が幼子から聴こえる。

チッチッチと、終わりの音が確かに聴こえた。

 

「ごめんな……幸せにしてやれなくて……ごめんな……」

 

「うろ……」

 

ドォン!!!!

 

伊織は爆ぜた。

 

大きな音を立てて

 

青年を巻き込んで爆ぜた。

 

辺りが煙に包まれる。

 

肉と骨の焼ける匂いが充満する。

 

「………………」

 

煙の中から人影が現れる。

 

黒焦げの男が立っていた。

 

青年は何故か死ななかった。

ほぼ間違いなく死ぬはずだったのに、青年は辛うじて生きていた。

意識も朦朧として、身体の傷は更に抉れそして、青年の頭に二本、尖った物が生えている、

幼子の中に仕掛けられていた物の破片が頭に突き刺さったのだ。

 

まるで鬼の角のようだった。

 

「なんで……」

青年はポツリと呟いた。

 

「死にたかったんだけどな……」

俯いて青年は言う。

青年の目には光は無い。

ギュッと歯を食いしばり、今にも倒れそうな身体を無理矢理立たせていた。

 

「伊織、やっぱさ……お前が幸せになれない世界なんて……終わらせてしまった方が良いと思うんだよ……他の奴らなんて知らない、ただ、ただ、お前が幸せになって欲しかった。たったそれだけだったのに……」

 

青年の周りを、黒い旋風が包み始める。

 

そして、嵐が吹き荒ぶ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。