東方風天録   作:九郎

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久々の更新ですかね?

クロの内面を抉り取るのはいいですね〜
完璧超人じゃない主人公の方が人間味があって良いとは思いますけど……もはやクロは人間じゃないんですよね〜


では、本編です。


地べたに這いつくばって空を見上げた

ザァー……

 

雨は勢いを増して土砂降りだ。

 

ずぶ濡れになってX字の前髪が額にくっ付いている。

 

特に行く場所なんて無いんだ。

 

行きたいところだって無い。

 

帰る場所も無い。

 

何にも無い……

 

虚しい……

 

クシュッとくしゃみをして飛び立った。

 

ふと目をやると民家がある。

 

人里から少しだけ離れた民家だ。

 

中に人がいる様だ。

 

別に気になった訳じゃない。

 

ほんの気まぐれでしかない。

 

オレはぼんやり上空から見つめて居た。

 

民家から人が出てきて、隣にある小屋に向かう。

 

どうやらその小屋は、鶏小屋のようで、コッココケーと鳴き声が聞こえる。

 

もう少しだけ近くで観察したくなって上空から着陸して物陰に隠れて様子を伺ってみた。

 

人は鶏達に餌を与えている様だった。

 

パラパラと撒かれる餌……

 

それに我れ先にと群がる鶏達……

美味しそうに餌を啄む鶏達は、とても幸せそうだった。

 

 

「管理された幸せ……」

 

不意にそんな事を口走ってた。

 

あまりにも鶏達が幸せそうに餌を啄んで、もっと欲しい……もっとちょーだい!!

とねだる様に主人の周りをクルクルと回っていたからだ。

 

「こいつらは……幸せなのかな?」

 

誰も答えてくれないと知っていながら問うた。

 

こんな時、文が側に居てくれたら

 

なんて答えてくれるんだろ?

 

暫く見つめていると、人は鶏を1匹手に抱えて小屋を出る。

 

鶏は嬉しそうにコケコッコと鳴いていた。

 

オレが鴉天狗だからかな?

 

何となくだけれど……

 

オレには鶏がとても幸せで、自分だけ特別に主人に愛されているのだと思って喜んでいる様に思えた。

 

 

人は木製の台に鶏を押さえつけた。

 

押さえつけられているのに鶏は嬉しそうだった。

 

「ふぅん……」

 

これから先なにが起こるのか予想がついて、少し気分が悪かった。

 

人は懐から鉈を取り出して狙いを定める。

 

「逃げれば良いのに……」

 

鶏は嬉しそうだった。

 

きっと産まれた時からこの小屋の中で育ってきたんだろうな……

 

これから先……何をされるか理解してないんだ。

 

ある意味幸せなのかな……この子にとっては。

 

振り下ろされる鉈

 

飛び散る血飛沫

 

吹っ飛ぶ鶏の首

 

トトトトトっと辺りを歩き回る首の無い鶏……

 

最後に主人の足元に寄り添う様にコテッと倒れて生き絶えた。

 

「…………」

 

滑稽だ……

 

まるで死ぬ為に産まれてきた様だ。

 

嫌だったら逃げれば良いのに

 

あいつ……微塵も嫌じゃなかったみたいだ。

 

だって何をされるか理解してないから……

 

生活を全て管理されて、バカみたいに嬉しそうに餌を啄んで……

 

それでも、餌をくれる主人が好きだったみたいだ。

 

幸せだったみたいだ……

 

「ニセモノだ……こんなの認めない……」

 

チッと舌打ちをした。

 

だって殺された鶏は知らないんだ。

 

本来の野生である鶏本来の幸せを……

 

知る事さえ許されなかったんだ。

 

幸せを管理されてるから……

 

ゴロゴロ……

 

ピカッ……

 

雷が鳴り始めた。

 

 

ザァーザァーと降りしきる雨が一層勢いを増した。

 

人は雨の中鶏を逆さ吊りにして血を抜いていた。

 

気分が悪いからオレは飛び立つ事にした。

 

 

嫌な物を見たな……

 

ボタボタと水が身体から滴る。

 

オレには傘が無い……

 

必要ないけど。

 

伊織の事を考えた。

 

「まるで家畜じゃないか……」

 

小さく呟いて天を仰いだ。

 

ニセモノの幸せを与えられて、真っ当な人間の幸せを剥奪された伊織が……

 

首を刎ねられた鶏と重なって見えて……

 

辛かった。

 

「ウッ……」

 

急に背中の大剣の重さが増してドシャッと地面に墜落する。

 

ぬかるみに落ちて全身ドロだらけだ……

 

重い……重い……

 

立つ気力が湧かなくて、暫くズリズリと地面を這った。

 

いいやもぅ……このまま地べたに這いつくばって寝てよう

ずっと雨に打たれて……

 

ゴロッと仰向きになって空を見上げた。

 

ポツポツと雨が目に入った。

 

目から水が沢山滴る。

 

視界がボヤけて見えない……

 

「ずっとこうしてたいな……」

 

あははは……と笑う。

 

嗚咽が出そうになりながら……


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