やはり戦闘は苦手ですね。
もう少し生々しく描きたいんですけどね残念です。
では、本編です。
「さて、これから何処へ逃げようか?」
困ったように笑いながら青年は伊織を見た。
伊織は、それに気づいてニコッと微笑んだ。
以前とは違う。
作った笑みとは違う表情を伊織はしていた。
「う〜う!!」
きっと何処へでも行くよと言っているのだろう。
伊織の声を聞いて青年はそう解釈した。
ふと青年はある事に気付く。
「お前……なんて澄んだ目をしているんだ……」
青年は伊織の目を見て驚いていた。
いや、普通の目である事は間違いないのだ。
しかし、なんだか見透かされているような……
例えば快晴の空を見上げたとする。
曇り一つない空である。
なんだか、吸い込まれそうな感覚を覚える光景。
それと似た感覚を青年は感じていた。
「今更気付いた……」
ハァとため息をつきながら青年は言う。
青年は、まともに伊織の目を見た事なんてなかったのだ。
大切な物ほど、青年は直視できていないのかも知れない……
「…………」
少し情け無いと青年は思った。
そして、一つため息をついては青年は伊織を抱えて飛び立とうとする。
「待て」
背後から声が聞こえた。
「チッ……」
青年は舌打ちをして振り向いた。
知ってる声だったからだ。
「返してあげなよ、その子……人間は人間に育てられるのが一番良いよ、例えまともに育てる気のない相手でもね、あんたが介入したら、どっちも不幸になる……」
銀髪に刀を携えた少女、妖夢である。
青年はいつも彼女をおちょくっているが、今回ばかりはふざけていられなかった。
「オレは別にいいよ?不幸になったって……きっと天狗の組織からも破門されたりするのかな?でも、それでもいいよ?この子が不幸にならなければね……それに、オレがこの子を金で買わなきゃこの子、ずっと不幸だったと思うよ?そんな生活に戻せって言うの?」
「そうだよ、戻せって言ってるんだ。その子の親がダメでも、他の人が助けてくれるかも知れない」
「馬鹿かお前?他の人って誰だよ?誰がこの子を助けるんだよ?今までずっと酷い目に遭ってきて誰一人として助けてやらなかった……誰一人としてこの子を愛してやらなかったのに」
青年は、キッと妖夢を睨んだ。
妖夢は、それでも続けた。
「いつまで人間のフリしてるんだ?いつまで人間の正義感で動くんだ?バッテン前髪……あんた妖怪なんだぞ?妖怪として立ち振る舞いなよ……妖怪のあんたがそこまで人間に関わってしまったからこんな事になってるんだぞ?」
「黙れ……」
低い声で青年は言った。
伊織を背後に隠しつつ背中の大剣に手を掛ける。
それを見て妖夢も刀を抜く。
「絶対悲しい事になる……だから、私はお前をここで止める!!」
ダッと地面を蹴り妖夢は青年に斬りかかる。
「クッ……」
青年は、それを大剣で受け止めて応戦する。
そして……長い剣戟が始まった。
キィンキィン!!と金属音が鳴り響く。
伊織は、頭を抱えて目を瞑っていた。
何かを祈る様に……
闘いながら、青年は思う。
「ああ……この子、この音嫌いなんだな、いや、誰かが争っているのを見るのが嫌なんだ……」
そして青年と妖夢の斬り合いは続く。
思ったより青年の力が出ない。
きっと……青年にとって妖夢も大切な友人の1人だからだ。
だから両者の力は拮抗した。
何度も鍔迫り合いになり、妖夢を斬るも全て無意識に峰打ちとなる。
そして、青年だけが傷付いてゆく。
しかし、天狗と半人半霊の勝負だ。
体力の差が出てくる。
「くそッ……」
ゼェハァと肩で息をしながら妖夢は刀を振るう。
「帰れよ、こんな事してる暇ないんだ」
傷だらけではあるが、冷たく青年は言い放つ。
「それでも……お前を止めないといけない!!」
妖夢は、渾身の力で刀を青年に振り下ろす。
「いい加減にしろよ……」
難なく青年は刀を受け止めようとした。
その時……
空間が割れて妖夢の刀がその中に入った。
「ッ!?」
自分に当たる筈の刀はどこへ行ったのか?
青年は何故かその行き先が分かった。
そして身体が勝手に動いた。
瞬きするよりも速い時間の流れを、青年はまるでそれがスローモーションの様に感じ、そして自分だけが早送りの様に動く事ができた。
消えた妖夢の刃は……スキマに入って伊織に向かっていたのだった。
だから……青年は守った。
何かを失ってでも守りたいと願っているから……
ボタボタと血が地面に落ちる。
「グッ……」
青年は歯を食いしばり、痛みに耐えて伊織を守り抜いた。
「あっ……ああ……」
妖夢は、呆然としていた。
妖夢にとっても予想外の出来事だったらしい。
「それが代償よ……これ以上貴方が自分の身をわきまえずにその子を守るなら……もっと失う事になるわ」
スキマから口だけだして、紫は青年の耳元で囁いた。
「それでも……」
右目部分からボタボタと血を流しながら青年は答えた。
出血を抑える為に青年は、右目を抑えていた。
血が止まらない……
ザックリと目玉を斬られている事に青年は気付いた。
そして青年は右目を失った。