東方風天録   作:九郎

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久しぶりの更新です。
書き方がコロコロ変わるんで申し訳ないです。

どれが適してるのか自分でも分からないんですよね……


では、本編です。


甘えて欲しくて

アレからまた数日経った。

 

今日は待ちに待った日だ。

 

だから、天狗の里に伊織と手を繋いでやって来た。

 

 

「伊織、今日はね?お給料が入ったんだよ、だからさ?なんでも欲しいものを伊織にあげる、なんでもね」

 

にっこりと笑って伊織に筆談した。

 

 

すると伊織はニコニコと笑うものの、何かをねだってはこなかった。

 

だから、オレは困ってもう一度筆談した。

 

「何だって大丈夫だよ!!気にすることはないから、欲しい物を言ってごらんよ」

 

この子はワガママを知らないんだ。

 

今までした事が無いから。

 

でも、オレに対してはワガママ言って欲しかった。

 

だって、そのためにオレは決闘して出世したのだから。

 

しばらくオレたちは歩いた。

 

ふと、伊織が足を止める。

 

「どした?」

 

伊織を見ている方を見ると、露店があって色んな物が売ってあった。

 

そこには、子どもが好みそうな玩具が置いてあったので

オレはしめた!!

 

と思った。

 

「良いよ、買ってあげるよ、何が欲しい?」

 

再び伊織に問う。

 

すると、伊織は薄汚いお面を手に取った。

 

ひょっとこ……

 

お祭りのお面だった。

 

「えっ?」

 

思わず声が出る。

 

お面なら他にも種類があった。

 

何処かで見たような戦隊物のヒーローのお面とか……

 

なんで、こんな物を選ぶのかと疑問に思ったのだ。

 

値段を見てみる。

 

安い……そりゃそうだろうな。

 

「伊織、遠慮すんなって」

 

筆談すると伊織はフルフルと首を振ってニコッと笑う。

 

本当にこれが欲しいみたいだった。

 

そっか……

 

「他にも買ってあげるよ、ホラッ、ベーゴマがあるね、けん玉だってあるよ?あっ、この人形だって……」

 

オレは腕に一杯の玩具を抱え込んで伊織を見る。

 

「う〜う」

伊織は困った顔をしてまた、首を振った。

 

遠慮しなくたっていいのに……

 

オレはお前に何だって与えてやる

欲しい物なら何だって……

 

この子は今まで一度だって愛されてなんていなかった。

 

だから、思い切りオレに甘えればいいんだ。

 

けど、もし君が甘え方を知らないならば

 

オレが思い切り甘やかしてやる。

 

君は、まだ幼いのだ。

 

そのために、オレは出世したんだから……

 

「本当にいらないの?」

 

残念そうな顔をしてオレは伊織を見る。

 

伊織はコクリと笑って頷いた。

 

ちょっと悔しい。

 

張り合いが無いじゃないか

 

こんな薄汚いお面なんざ出世する前にだって買えるのに……

 

渋々オレは露店を経営している天狗に金を払った。

 

「う〜」

満足そうに伊織はお面を眺めている。

 

とても嬉しそうだった。

 

だから、オレも少し嬉しい。

 

ぐ〜とお腹の鳴る音が聞こえた。

 

「ん?伊織、お前お腹すかしたのか?」

 

「あうあ〜」

伊織は頷いた。

 

よ〜し……

食べ物なら……

 

オレは、伊織を料理屋が立ち並ぶ場所まで連れて行くことにした。

 

 

そして……

 

「なんでも好きな物食べさせてあげるよ?」

 

高位の天狗が立ち寄る高級な料理店の前でオレは言った。

ここでは、海の魚が食える。

 

海の無い幻想郷では、海の魚はとても貴重なのだ。

 

いい匂いがする。

オレまでお腹が空いてきた。

さぁ、伊織……今度こそ遠慮なくワガママ言ってごらんよ。

 

「う〜う」

伊織は、またもや首を振った。

 

「え〜」

また思わず声が出てしまった。

 

食べ物ならワガママ言ってくれると思っていたのに……

 

そして暫く手を繋いで歩く。

 

そして、ピタッと伊織は足を止めた。

 

そこにはショーケースがあって、その中にはドーム状に盛った炒飯に旗を付けた定食が置いてある。

 

いわゆるお子様ランチというやつだ。

 

思った通り安かった。

 

くそぅ……

 

「おや?どうしたんですか2人とも」

 

空から文が降りてくる。

 

「文、新聞の配達終わったの?いやさ?腹減ったからこの子と外食しようかなって思ってさ?」

 

「へぇ、ちょうど私もお昼の食材を買おうかなって思ってたとこなんですよ、クロ達が外食するなら手間が省けて助かります。」

「う〜!!」

伊織ほ、文を見てピョンピョンと跳ねた。

 

「みんなで一緒に食べたいの?」

なんとなく様子を察して伊織に問うた。

 

すると伊織は深く頷く。

 

「そうですね!!じゃあ今日はみんなで外食しましょうか!!」

 

文はにっこりと笑って伊織に言った。

 

快諾された事が分かった伊織はとても嬉しそうだった。

 

しかし、オレはちょっと悔しいと思っていた。

 

外食するならもっと良い物をこの子達に食べて貰うつもりだったのに……

 

下級の天狗達が多く立ち寄る料理店だ。

食べた事は無いけれど、そんなに良いものは出してはこないだろう。

 

現代で言うならばファミリーレストランみたいな所か……

 

ショボい……

 

「……」

 

文はオレの様子を見て察したのか

 

「高いお店なら私は大歓迎ですよ?今度2人きりで行きましょうか?」

と笑って言った。

 

「図々しい奴だな」

 

とオレは冷淡に答えてやった。

 

すると文はムスッとして

 

「バカ……」

と答える。

 

何故バカと言われるのやら、オレには理解が及ばないので、無視して

 

目の前の安い料理店へと重い足取りで入る事とした。

 

そして、みんなで食卓を囲って昼食を取った。

 

伊織はお子様ランチが気に入った様で、お子様ランチの旗を楽しそうにパタパタと振って遊んでいる。

 

幸せそうだった。

 

本当に本当に幸せそうだった。

 

だから、オレも嬉しくなった。

 

けれど、オレはもっともっとこの子を幸せにする事ができる。

できる筈だ!!

 

お金にも困らない様にする。

勉強だって人里の寺子屋にでも入れてさせてあげる。

 

この子が立派な大人になるまで、オレは責任を持ってこの子を育てなくちゃ、だから……もっと頑張ろう。

 

そう思った。

 

「立派なお父さんやってるじゃないですか……」

 

クスッと笑って文は言う。

 

「偽物だよ……」

 

オレは自嘲気味に答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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