では、本編です。
数日後……
青年と黒狼は山の哨戒に当たっていた。
ここは侵入者が断トツに多い場所で、面倒事が嫌いな哨戒天狗ならは疎まれている場所である。
「ふぁ〜」
青年は地べたに胡座をかいて大きな欠伸をした。
「のんきなもんなだなぁ、糞鴉」
チッと舌打ちをして黒狼は青年を睨みつける。
「お前は要らないからどっかで遊んどけよ、ワン公」
眠気眼で青年は呟いた。
そして、再び大きな欠伸をする。
昨日は、少女に嫌という程新聞の記事の添削をやらされた。
天狗の武道場を全壊にした件から、少女は青年への当たりが強いのだ。
いつも怒られる。そして、文句を言おうにも言う事ができない。
自分としては前回の件を咎められるのは別に構わない。
しかしながら、少女の機嫌が悪いのは嫌だった。
「おい!!上司に向かってなんて口聞きやがんだよテメェ!!」
今にも腰の刀を抜きそうな勢いで、黒狼は青年に言う。
黒狼の左頬は赤く腫れていた。
たぶん、前にこいつを怒っていた白狼天狗の少女の仕業だろうと青年は推測して笑う。
(確か、犬走さんだっけか?)
ニヤッと青年は笑い、黒狼を見て言う。
「上司?違うだろ、今は同じ階級だ」
「それでも、オレが先輩だろうが」
黒狼は不機嫌そうに、地面に落ちていた小さな木の枝で青年を叩く。
「zzzz……」
が、青年は居眠りをしていて全く意に介さない。
「糞が……」
黒狼はペッと唾を吐き、腕組みをして見張りを続けた。
前回の一件以来、青年は下っ端の哨戒天狗から哨戒天狗の隊長になった。
異例の出世である。
しかしながら、下っ端とは言え哨戒天狗達が束になってかかっても青年を倒す事が出来なかったという実績が出来てしまった。
それを聞いた天狗の新聞屋達は多いに騒いだ。
ここ数日の天狗達の新聞の一面は青年の記事で一杯だったのだ。
それを大天狗を始めとする上部の天狗達は黙って見ている訳にはいかない。
それ故に、青年を哨戒天狗の隊長へ出世させたのだ。
しかし、青年1人だけの隊の隊長である。
要するに青年は、哨戒天狗の隊長とは名ばかりのお飾りの隊長なのだ。
「いい加減に起きろ!!!」
居眠りを続ける青年に腹を立てた黒狼は、腰の刀を抜いて青年をバッサリと斬ろうとする。
キィン!!
「も少し……」
青年は目をつぶったまま大剣でそれを受け止め、再び居眠りをする。
青年は寝不足だ。
最近は新聞屋の仕事の量が増えてしまった。
その理由としては、天狗の里を沸かせている青年の情報を文々。新聞だけが独占している点にある。
毎日毎日夜遅くまで少女と新聞記事の構想を練る。
少女としてはあまり事を荒立たせたくないので乗り気ではないのだが、青年は寧ろ好都合だと言って記事を書いている。
自作自演と言ってしまえばそれでお終いなのだが……
情報が独占できるのはチャンスだと青年は思ったのだ。
しかし、少女は、それが気に入らない。
――青年が心配だから――
その意見の相違によって衝突する事も良くある。
他の天狗の記者が青年に対して取材を試みても、青年は全て断っている。
業を煮やして強引に取材を受けさせようとする者は、少女の風に吹っ飛ばされるか、若しくは青年に物理的にぶっ飛ばされる。
故に、青年はこの山で何をしでかすか分からない要注意人物として見られてしまっているのだ。
「眠気覚ましに一服〜」
目を擦りながら、青年は煙草に火をつけた。
ふと気づけば黒狼もイライラと貧乏揺すりをしながらキセルで煙草をふかしていた。
「だせぇな」
青年はニヤッと笑った。
そして、黒狼はジッと青年の煙草と白い煙を見つめていた。