東方風天録   作:九郎

108 / 213
これは酷いかも知れないです。

色々と試した事もありますし
色々と修正しますね。


では、本編です。


初仕事

ボコボコにされた青年は、赤く腫れた頬を右手でさすっていた。

 

「痛ってぇな」

 

拗ねた子どものような表情で青年は少女を見る。

 

「うっさい変態!!」

 

不機嫌そうに腕を組んで青年にソッポを向いて

少女は、それを一蹴する。

 

「ヒステリー女……」

ムスッとした表情でボソッと青年は呟いた。

 

「うっさいバカ!!」

 

 

先程とはうって変わってとても険悪な雰囲気になった。

 

青年は不思議に思う。

 

こんな雰囲気さえも、とても愛おしく感じてしまう。

 

変だなぁ。

 

わざとらしく見せた不機嫌な表情が、無意識の内に綻んでいた。

 

でも、少女は違う様だ。

 

顔を真っ赤にしている。

 

「怒ってる?」

 

叱られた子どもが、親の機嫌を伺うように、青年は上目遣いで少女を見た。

 

「ええ、とっても」

冷淡な言葉が返ってくる。

 

青年は混乱した。

善意で注意しただけなのに何故なのだ?

 

何故オレはこんなにこの子の機嫌を損ねたのだろう?

 

分からない。

 

 

少女は、別に怒ってなどいないのだ。

 

恥ずかしかっただけである。

 

 

そんなこと、青年は露とも知らない。

だから、訳が分からない。

 

 

「クロ、仕事よ」

 

静かに青年の耳元で紫は、スキマを使って囁いた。

 

「ッ!?」

青年は突然の事で動揺したが、直ぐに冷静になった。

 

「文!!」

優しく青年は少女を呼んだ。

 

「もぉ、なんですか!?」

とても不機嫌そうに少女は、振り向いた。

 

「オレ、もう行かなくちゃ……」

 

ニコッと笑って青年は姿を消した。

 

「えっ、ちょっと!!」

反射的に少女は、青年を掴もうとする。

しかし、青年は風の様に少女の手からすり抜けていった。

 

「…………」

少女は、暫く自分の手を見つめていた。

 

 

スキマの中にて。

 

「人殺しがいるの」

 

紫は、不気味な笑みを浮かべて言った。

 

「で?」

不機嫌そうに青年は問う。

はぁ、と溜息を吐いた。

 

怖かったのだ。

 

殺す事が。

殺したくなんてないのだ。

 

オレは化け物なんかじゃない……

そんな気持ちがあった。

 

それに、その人殺しという奴は、本当に悪い奴なのか?

 

どうしようもない状態だったんじゃないのか?

 

説得したら分かってくれるかも知れない。

すこし、ぶちのめしたら色々と気付くかも知れない。

そしたら、前とは別人の様にとても良い人になるかも知れない。

 

 

青年はそんな男を知っていた。

 

 

だから、迷っていた。

 

「貴方の好きになさい」.

 

耳元で紫は、囁く。

不気味な笑みは、消えなかった。

 

 

そして、気がつくとスキマから放り出されていた。

 

ここは、里の外れのようだ。

 

「甘ちゃんね……」

 

溜息と共にそんな声が何処かから聞こえてきた。

 

その後に、鼻をつくような血の匂いがした。

 

前方を見ると小さな小屋が見える。

 

この匂いはそこからだろう。

 

青年は、歩を進める。

 

ザクッザクッと音が聞こえた。

 

嫌な音だ。生々しい音だった。

 

青年は、小屋の戸を開けて中の様子を伺った。

小刻みに動く男の背中が見えた。

右手には何やらチャリチャリと音の鳴る袋を握り締めている。

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

ああ、血の匂いの正体はこれか。

 

青年は、理解した。

 

目の前の男が、倒れている男をメッタ刺しにしているのだ。

見回してみると、部屋の奥の方に何かに覆い被さるように女が死んでいた。

 

 

夫婦だろうな。

 

青年は目を細めてそれをジッと見つめていた。

何に覆い被さっているのだろうかと疑問に思ったからである。

 

不思議と動揺しなかった。

 

これは、オレが人間じゃなくなったからなのだろうか?

 

と青年は思った。

 

嫌な気持ちになった。

 

「何やってんの?」

 

冷たく青年は男に問う。

 

すると男は、ビクッと背中を動かし振り向いた。

 

「見られたからには仕方ねぇ!!」

 

 

「黙れ、質問に答えろ」

 

一瞬で青年は間合いを詰めて片手で男の喉笛を掴んだ。

 

「グッ、グエッ!!」

 

カランと音を立て男の左手に持っていた刃物は地面に落ちた。

ギリギリと青年は、男の喉笛を締め上げる。

 

「ダズ ゲデ」

真っ青になった男は必死に声を出した。

 

なので青年はパッと手を離し、男はドサッと地面に倒れ込む。

 

「ゲホッ、ゲホッ、オエッ」

 

咳き込む男に背を向けて、青年は女の死体をひっくり返す。

 

そして、何に覆い被さって死んでいたのかを理解する。

グッと青年は拳を握りしめた。

 

「強盗殺人か、そんなに金が無かったの?」

 

「おっ、お金なら返します!!」

 

怯えた様子で男は言った。

 

「今更遅いじゃん」

 

氷の様な表情で青年は言った。

 

「うっ!!」

 

まごついている男を青年は、見て思った。

 

なんか変だな。

ワザとらしい。

 

「アンタは何も返せやしないんだ、これから、アンタは一生罪を背負って生きていくんだ」

 

冷淡に青年は男に言い放った。

 

「…………」

 

男は何も言い返せず俯き黙り込んでしまう。

 

「アンタは――」

ビリビリビリ!!!!

 

言葉の途中で、青年の身体に電流が走る。

 

(身体が重い、力が……抜けてく……)

 

「ギャハハハハ!!」

 

汚い男の笑い声が小屋に反響した。

 

「護身用に持ってた対妖怪用の結界の札がこんな所で役に立つとはなぁ!!」

 

 

「チイッ!!」

 

ガクッと青年は膝をつく。

どんどん身体から力が抜けてゆく。

 

「博打で有り金全部スッちまって金が欲しかったんだよ!!最初は、脅して盗み取るつもりだったのさ!!でも、幸せそうなこいつらを見ていたら無性に腹が立ったのさ!!だから殺してやった!!」

 

ニィッと笑って男は言った。

 

「自分には持ってないものを持ってた訳だ……」

 

呆れた様に青年は男を見つめる。

 

 

「そうだよ!!イライラした、特にコイツ!!」

 

男は、メッタ刺しにした男の死体を蹴り上げる。

 

「コイツは持っていた、金も職も女も家庭も!!!」

 

興奮した様子で男は死体を蹴り続ける。

 

死体の腕や足が有り得ない方向に曲がっていて、それを青年はぼんやりと眺めていた。

 

「博打なんかせずに真面目に働けよ、真面目に生きてないから何も得られなかったんじゃないの?」

 

青年はゴミを見る様な目で男を見て、ペッとツバを吐いた。

 

「黙れ!!黙れ!!黙れ!!黙れ!!」

 

 

(ああ、なにも言い返せない所を見ると、博打ばっかりで何もしてこなかったんだろうなぁ、真面目に生きてなかったっていう自覚はあるのか……)

 

青年は哀れむような表情で男を見ていた。

 

(正真正銘のクズというやつだなぁ。

何故オレはこんなのに情けをかけたのだろう)

 

この小屋の家族に申し訳ない気持ちで一杯になった。

きっと、貴方達は幸せだったんでしょうね?

 

青年はチラッと女の死体を見つめる。

 

(守ろうとしてたんですね、背中に傷が一杯あった。でも、守れなかった……さぞ無念な事でしょう)

 

青年は遠い目をして女の死体の隣にある小さな死体を見つめる。

 

それは、頭が割れた乳呑み子だった。

 

大方、頭から地面に叩きつけられたんだろうな。

 

陶器みたいに割れている。

見たくないものがはみ出している。

 

 

青年は拳を握りしめる。

どんどん力が抜けてゆくのに。

 

どんどん溢れてくるものがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。