では、本編です。
ぼんやりと青年は空を見上げていた。
ここの空はとても綺麗だ。
オレがいた所の空は、なんだか狭くってこの空の様に真っ青じゃなかった。
空気が澱んでいたのだろうか?
風だってここと比べると心地良いものじゃない。
遮蔽物が多いからかなぁ?
ふむふむと青年は考えた。
青年は自然が好きだ。
こうやって、空を見上げて風の音に耳を傾ける事が好きなのだ。
「そっか、静かなんだ……」
ポンと青年は手を打って納得する。
元いた世界の街の喧騒――車の走る音や人々の話し声や足音。
凄く耳障りだった。
それに、見たくない物、聞きたくない事だって沢山あった。
それに関してはこの世界だって変わらないのだが、青年にとっては大きな違いだった。
目を閉じて、耳を澄ます。
そしたら聞こえてくる。
自分の心臓の心拍。
筋肉の伸縮。
血の流れ。
全部青年の身体の声である。
自身の身体声を聞くのが好きだ。
自分の本懐には、耳を傾けようとはしない癖に……
苦笑いしながら青年は目を開けて再び空を見上げた。
「いっそのこと、耳が聴こえない方が聴こえるんだろうな」
遠い目をして、青年は空を撫でる。
絶望的なまでに美しい。
ここに来て結構時間が経ったのに。
青年はこの空が美しい事に気がつかなかった。
こうやって空を見上げる事はあんまりなかったからだろうか?
否
青年自身に心のゆとりがなかったからである。
「ん?」
ポツンと空に点が見える。
何だろうと思って青年は目を細めた。
するとそいつは、大きくなってゆく。
それは、青年の良く知る人物であった。
「探したんですよ!!クロ君!!」
ちょっぴり不機嫌そうに少女は言った。
「…………」
青年はボ〜っとしている。
「こらっ!!クロ君!!」
「あっ、ごめん」
少女の声に青年はビクッとして少女の方を見た。
「どうしたんです?」
ふふっ、少女は微笑んで青年を見た。
青年は、まだ虚ろな表情のままだったので、少女は首を傾げていた。
「見とれてた――」
「あははは、何ですかいきなり〜、天使でも降りてきたのかと思ったのかなぁ〜。ほれほれ〜、天使の様な射命丸が会いに来てあげましたよ〜」
ニヤニヤしながら少女は、肘で青年を突く。
「うぜぇ……」
青年は笑って言った。
「ふ〜ん。私に見とれてた癖にそんな事を言っちゃってまぁ〜素直じゃないですね〜」
「分かりきった事でしょ?」
「まっ、そーですけどね〜」
フッと少女は、笑う。
そよ風に靡く少女の髪と、少女の笑顔を青年は見つめていた。
悪くないな……
青年は心の中で呟く。
「ねぇ?」
おもむろに青年は言う。
「ん?」
少女は、それに対して微笑んで青年の方を見た。
「もしも、オレが凄く悪い奴になったらさ――お前どうする?」
「変な質問ですね、クロ君が悪い奴になんてならないですよ――と言ってもクロ君は満足しないでしょうから、私は今と変わらないと答えましょう。それが答えです。」
少女は、ニコッと笑って答えた。
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『悪い奴』というのは、きっと前にスキマ妖怪が言っていた事なのだろう。
妖怪側について、不利益な物を消していく。
貴方はそんな存在になるのでしょう?
まったくまた貴方は重い物を1人で抱え込んで。
どうしようもない人だなぁ。
そう思って少女は、また笑顔を青年に見せた。
「―――ッ!!」
青年は少女の笑顔を見て少しだけ顔を赤くする。
そして、少女と目を合わせられなくなる。
いつもの事である。
青年はドキッとすると決まってそんな仕草をしてしまう。
青年は、気付いていないのだが、少女は分かっていたので、ドギマギする青年の仕草を少女は、笑って見つめていた。
「バカだなぁ」
気まずそうに青年は後ろ頭を掻きながら言った。
「貴方だって」
少女の返答に青年は頷いて、再び空を見上げた。
やはり綺麗だと青年は思った。
少女も空を見上げる。
無言の状態がずっと続いたけれど、別に気まずくはなかった。
幸せだと思った。
「あのさ」
何かを思い出したように青年は口を開く。
「次はなんです?」
いつもの様に少女は青年を見つめる。
少女は、とても幸せそうである。
「お前、スカート短いよな?そんなんで空から降りてきたらさ?スカートの中見えるよ?」
「は?」
少女は絶句した。
「ん?」
青年は絶句している少女の顔を見て首を傾げる。
青年にしては、善意で注意したつもりなのだ。
「まさか……見とれてたっていうのは……」
少女は、ワナワナと拳に力を込める。
「いや、見てな――」
ボコォッ!!!
青年が取り繕う前に青年の頬目掛けて少女の拳が炸裂する。
「死ね、バカ!!」
2発3発と少女は、青年を殴る。
せっかく良い雰囲気だったのに!!
と少女は、顔を真っ赤にして思ったのだった。