死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第76話「一体何が起きているんだ」

 

「……サツキ」

「なんだ? 珍しくマジな顔になっちゃって」

 

 ジークがルーフェンへ旅立ってから二日ほど経ったある日。リビングにあるソファーでくつろいでいると、いつもの無表情はどこへやら、真剣な表情のクロがそこそこ大きな箱を持ちながら話しかけてきた。ってかその箱、なんか見覚えがあるんだけど……。

 ただ、ジークがいなくなっても自分のペースには持っていけないようだ。解せぬ。

 箱の中身は全くわからねえが、まずはその箱について聞いてみるとしよう。絶対にろくなもんは入ってなさそうだが。

 

「その箱は?」

「…………覚えてないの?」

「覚えてたら聞かねえよ」

「………………福引きのシークレット」

 

 それを聞いた瞬間、自分の顔が引きつったような気がした。お、おう。あれか。景品の順番と内容がとにかくおかしかったあの福引きのやつか。

 どうでもいいから適当にはぐらかそうと思ったけど気が変わった。それの中身がなんなのかずっと気になっていたからな。

 

「開けるのか?」

「うん」

 

 クロにしてはこれまた珍しい即答だった。なんで今に至るまで開けなかったのかそれも気になるところだが、とりあえず箱の中身を確認することだけに集中しよう。何が出てくるかわからんし。

 それと同時に表向きは真剣になりつつも内心ではワクワクしている。なんつーか……幼かったあの頃に戻ってるような気分だ。

 アタシがワクワクしてる間にも、クロは箱の蓋を持ち上げていた。さてさて、中身は――

 

「……………………おい」

「…………何?」

「………………なんだこれは」

「…………私も同じことを考えてた」

 

 箱の中にあったのは千手観音の銅像(手のひらサイズ)だった。よく見るとそれはまるで生き物のように動いており、しかも全自動なのかゼンマイらしきものも見当たらない。マジでなんなのこれ。見てるだけで妙な恐怖を感じるんだけど。

 手のひらサイズの千手観音は上を向くようにこちらを見ると、挨拶するように何も持っていない手を上げた。もしかして意思疏通が可能なのか?

 アタシとクロはそんな千手観音を見て呆然としている。ブリキにしては出来すぎだぞコイツ。

 

「…………どうすんだ、これ」

「…………とりあえず箱から出してみる」

 

 そう言うとクロは箱から千手観音を出そうとするも、そんな必要はないと言わんばかりに千手観音の方から勝手に出てきた。

 千手観音は箱から出るとテレビでも見たかったのか、近くにあったリモコンを勝手に操作してテレビの電源を入れやがった。おいおい、いくらなんでも自律しすぎだろ。ここまで来たらただの小人じゃねえか。

 まさか全自動型のロボット? いや、にしては動きが人間臭いし……今にも言葉を話しそうでこれまた恐怖を感じる。だとしたらティミルが作ったゴーレムか? でも魔力はほとんど感じられないし……何よりゴーレムにしては自律しすぎだ。

 

「おいクロ。あれをなんとかしろ」

「…………あなたは何者? どこの星からやって来たの?」

 

 クロに話しかけられた千手観音はリモコンを器用に弄りながら彼女の方を振り向くも、お前には興味がないという感じで顔を背けた。ていうか宇宙人扱いなのね、千手観音。

 生意気な態度で顔を背けた千手観音は、リモコンを操作しながら周りを見渡している。そして何か見つけたのか、リモコンが置いてあるテーブルから華麗に飛び下りると、冷蔵庫の方へと走り出した。この光景を他の奴らに見せたら大騒ぎ間違いなしだな。

 ちなみにクロはさっきから顔を俯かせてしょんぼりしている。ていうか半泣きになってやがる。

 

「…………私が、主なのに……っ!」

 

 拳を握り締め、血が出るほど唇を噛み締めながら「納得いかない」と怒り気味に小声で呟き始めた。まあ、一応そうなるな。あれが入った箱を手に入れたのはクロだし。

 どうしようかと考えていると、缶ビールを持った千手観音がクロの肩に飛び乗り、そのままテーブルに飛び移ってさっきまでいた位置に舞い戻ってきた。おいコラ何人の缶ビールを勝手に飲もうとしてやがる。それはアタシのだぞ。

 

「返せコノヤロー」

 

 すぐさま千手観音から缶ビールを取り上げ、もう取られないようにその場で開けて飲む。当の千手観音は缶ビールを取られたことへの怒りか、剣を持っている手をアタシの方へ向けていた。

 お、なんだやんのか? 手のひらサイズだからって容赦しねえぞ。

 千手観音は助走をつけてからジャンプし、剣をアタシの顔面に突き刺――

 

「ゲッゲー!」

 

 ――そうとしたところで、どこからともなく現れたプチデビ三号に槍で吹き飛ばされた。

 吹っ飛んだ千手観音は空中で回転しながら床に着地し、剣を構える。ムカつくから無駄にカッコいい動きすんのやめろ。ティミルの巨大ゴーレムですらそんな動きはしねえぞ。

 それを見た三号も槍を構えた。え、何? アタシの目の前で何が起きようとしてんの?

 

「ゲゲゲッ!」

 

 先に動いたのは三号だった。千手観音目掛けて急降下し、槍頭で突き刺そうとする。千手観音は複数の腕を波のように動かし、剣先を当てることで突き出された槍を弾いてみせた。

 なんかドラ○エの某暗黒の使いを彷彿とさせるような動きだったな。どうせなら外見も同じにするべきだとアタシは思う。

 魔女の使い魔と手のひらサイズの千手観音によるとにかく小さな決闘が行われている中、やっとクロが泣き止んだ。まだ目が赤いけど。

 

「…………計画通り」

 

 そう呟き、どっかで見たことのある邪悪な笑みを浮かべるクロ。全然似合わねえからその顔はやめろ。泣き止んだばかりの顔でそれをされても違和感バリバリだからやめろ。

 それからも両者による決闘は続いたが、途中で加勢したプチデビ一号と二号により、千手観音がボコボコにされたことで決着はついたのだった。

 ……とにかく寝よう。そうすればこの奇妙な夢は覚めるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

「――センジュカンノン? なんやその真珠みたいな名前は」

「………………あ?」

 

 数日後。ルーフェンから帰宅し、インターミドルの予選決勝を勝ちで終えてアタシん家に戻ってきたジークに数日前の出来事を話すと、アホちゃうかこの人って感じの視線を向けられた。これにはさすがのクロも苛立ちを隠せず、無表情ながらも額に青筋を浮かべている。

 あれから話し合った結果、千手観音はアタシん家に住ませることが決定してしまった。めちゃくちゃイヤなんですけど。今現在もリモコンを操作して勝手にテレビを見ちゃってるんですけど。

 ちなみにそんなアタシも予選決勝は余裕で通過したので、都市本戦への出場が確定している。

 

「…………エレ、ミア……ッ!!」

 

 落ち着けクロ。気持ちはよくわかるがとにかく落ち着くんだ。

 

「サッちゃんが珍しく真剣な顔になってるから話を聞いてみれば、なんやただの妄想やないか」

 

 じゃあなんでテレビの前でリモコンを操作している千手観音から目を逸らしているんだ。本当にアタシたちの妄想ならそんなことする必要はないはず。さてはお前、現実を見れてないな?

 ちょっと現実逃避しちゃってるジークを現実に引き戻すべく、テレビに夢中になっている千手観音を右手で掴み彼女の眼前へ持ってくる。

 

「…………(サッ)」

「キスしてやるからこっち見ろ」

「なんやて――ぎゃあぁあああああっ!!」

 

 アタシの巧みな言葉に釣られたジークがこっちへ振り向くと同時に悲鳴を上げた。なるほど、彼女にとってはあまりにも非現実的な光景だったのか。どうりで見たくなかったわけだ。

 目の前で悲鳴を上げられた千手観音はブチギレたのか、アタシの手から離れてジークの額をひたすらシバき始めた。

 

「いたたたたたたたっ!! 謝る! 謝るからシバくのやめてぇっ!」

 

 ジークはどうにかして千手観音を引き剥がそうとするも、千手観音はタコのように張りついて全く離れない。いいぞもっとやれ。

 

「クロ。アイツの名前は決めたのか?」

「…………田中でいいと思う」

 

 どんだけ適当なんだよ。せめてアレックスにしてやれよ。しかも田中って苗字じゃねえか。

 ……田中と言えばそんな名前の宇宙人が主人公の漫画があったな。

 

〈マスター。遊んでる暇があるなら次の試合に集中してください〉

「………………言われるまでもねえさ」

 

 久々に喋った愛機のラトにそう言われ、ため息をつきながらそう答える。

 集中しないわけがねえだろ。次は一年ぶりの都市本戦だぜ? それに――

 

 ――次はハリーとやるのだからなおさらだ。

 

 まさか一回戦でアイツと当たるとはね。ハリーとやるのは無限書庫以来だが、公式戦だと今回が初めてだったりする。

 今年ほど都市本戦が楽しみだと思ったことはおそらくない。あるとしても一昨年以来だ。

 だから嬉しいんだよアタシは。引退試合には持ってこいの相手だし、何より……

 

「アタシが本気を出せるかもしれない、数少ない相手だからな」

 

 リビングで戯れている千手観音とジーク、それを見守るクロを尻目に一人微笑んでそう呟いた。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 88

「クロ。アイツの名前は決めたのか?」
「…………ヘルクラッシャーでいいと思う」

 それはそれでアウトな気がする。



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