「はろはろ~」
「おう、サツキか」
今日も珍しく朝からの登校。このあとどうやってサボろうかを考えている。
昨日はアピニオンをほんの少ししか弄れなかったし。残念だわ。
アタシは荷物を机の上に置き、教室から出ようと歩き始める。
「いきなりどこに行く気だ?」
「保健室だ。ハリー、お前も来るか?」
「さらっとオレを巻き込もうとすんな」
なんでやねん。
「お前なぁ……」
「さらばだっ!」
「あっ、コラ待て!」
ふははは、もう遅い! 一度走り出したら止まれないのだよ!
それにしても保健室に行くのは久々だな。サボるときはいつも屋上だったし。
ちなみに保健室の存在、ついさっき思い出したんだよね。すっかり忘れていたよ。
〈そのサボり癖、どうにかなりませんか?〉
「なんねえよ」
「意外と早かったな。戻ってくるの」
「うっさい」
一時間後。あっさりと教室に帰ってきてしまった。というか毎回サボってたら留年しちまうだろうが。別にいいけど。
そういや二時間目ってなんだっけ? 時間割りも喪失してしまったから忘れちまったよ。
ま、見てるがいいさ。アタシだってその気になれば授業に出られるんだよ。
「――であるからにして――」
「………………」
〈マスター。真面目に受けるふりをしつつパラパラ漫画を書くのはやめてください〉
「ちょっと黙れ。今いいところだから」
〈よくバレませんね……〉
「伊達にサボってるわけじゃないんだよ」
「……緒方。保健室に行ってきなさい」
「は?」
「――つまり、この公式は――」
「……………」
〈今度は爪の手入れですか〉
「別にいいだろ」
〈そういうのは休み時間にしてください〉
「やだね。アタシがやりたいときにやる」
「……緒方さん。保健室に行ってきては?」
「あァ?」
「――これらの活用は――」
「…………」
〈まさか授業中にゲームをしながらお菓子を食べるとは思いませんでした……〉
「だって食いたかったんだよ」
〈そういう問題ではありません〉
「くそっ! また打た――」
「緒方。保健室で寝てこい」
「――んだとゴラァ!?」
「サツキ抑えろ! 相手は先生だぞ!?」
「おいサツキ」
「どうした?」
昼休み。ハリーがちょっと怒った感じで話しかけてきた。アタシ、なんもしてないぞ。
つーかよぉ……
『緒方。保健室に行ってきなさい』
これ何回言えば気が済むんだよ!? さっきなんか思わずキレちまったぞ!
あれから何度も言われたから間違いなく20回は越えたはずだ。
ハリーが止めてくれなかったらその先公は血祭りにされたあと、窓から投げ捨てられていただろう。
「お前、まったく授業聞いてなかっただろ」
「なんのことやら」
「いや、明らかに聞いてなかったよな?」
なんて確信の強さだ。
「ま、いいか。ハリー、何度も思うんだがお前なんで自称なんだよ」
「いいじゃねーか別に。そういうお前だって不良つっても何やってんだよ?」
「…………」
言えない。こっちじゃまだ前科はないけど実は地球じゃ鑑別所に収容されたこともあるだなんて。
ネンショーじゃなかっただけマシかもしれない。まあ、公にならないとはいえ前歴には残ってしまうけど。
仕方がねえ。ここはとりあえず逃げるとするか。アタシはハリーの後ろをじっと見つめる。
「どうした? なんもねえぞ――っていねえ!?」
ハリーがアタシが見つめていた方向に視線を向けた隙に教室から逃げ出す。
気配を消すのには結構慣れているものでね。ていうか視線誘導マジ便利。
目指すは屋上! だがハリーを完全に撒いてからだ。でないとすぐに捕まってしまう。
『サツキィィ――!!』
教室からハリーの叫び声が聞こえてきた。捕まったら地獄行きだな、確実に。
「ふぃ~」
屋上にある炬燵でお休みなう。相変わらず気持ちいいな~。ミカンも美味いわ。
旗は珍しく降ろしている。立てたら絶対に見つかってしまうからな。
その肝心のハリーだが、今のところは大丈夫だろう。
なぜなら……、
『サツキ!! どこ行きやがった!!』
奴は今も校舎を探し回っているからだ。一度屋上にも来たが、そのときはぶら下がって回避したよ。
猿みたいに両手でぶら下がりつつ移動するのはホントに大変だったよ。
ていうか少しは静かにしろってんだ。屋上にまで声が響いてんぞ。
〈マスターって人間なんですよね?〉
「当たり前だ」
ちょっとケンカが大好きで仕方のない、どこにでもいる普通の女の子だ。
〈普通なら素手でアスファルトを粉砕したり、バインドを力ずくで振りほどいたりすることはできないはずですが? それも魔法なしで〉
「…………」
どうしよう、弁解の余地すらなくなったよ。
「今年もやるのかインターミドル」
〈どうなされますか?〉
「一応、出るさ」
気分次第でもあるけどな。去年はまあ……失望ってやつをして出場辞退したんだよな。
今年はそんなことが起こらないことを願うよ。
インターミドルで一番印象に残ってるのは一昨年の都市本戦決勝だな、やっぱり。
〈それにしてもなかなか来ませんね〉
「そうだな。さすがに同じところを探しには来ないだろうし、このままいけば勝つる!」
――ガチャッ!
「見つけたぞサツキィィ!!」
〈マスター、見事なフラグです〉
「しまったぁああーっ!!」
今日も逃げ切ることはできないようだ。
「――ここはこの方式を使って――」
「……………」
〈マスター。何をしているんですか……〉
「エロほ――参考書を読んでるだけだが?」
〈それが当たり前みたいに言うのやめてください。どこから仕入れたんですかそれ〉
「内緒だ」
「緒方。体調が悪いなら保健室に行ってきてもいいんだぞ……?」
「…………」
「――物体の落下速度というものは――」
「……………」
〈よりによってコインを垂直に立てるとはどうかしてますね〉
「話しかけるな。倒れたらどうしてくれるんだ」
〈いっそ倒れてほしいものです〉
「冗談じゃねえよ」
「……緒方さん? 無理せずに保健室で――」
「ぶっ殺すぞコノヤロー!?」
「だから抑えろって!」
「頭いてえ……」
放課後。アタシは頭を抱えながら自分の机で項垂れていた。
あれからどうなったかって? 授業には出たさ。その結果が……、
『緒方。保健室に行ってきなさい』
これだよ。全く変わってねえ。ちなみに言われた回数は11回だ。
つまり一日で30回以上は言われたことになる。そこまでアタシが授業に出てるのはおかしいか?
「サツキ。やっぱり授業聞いてなかったよな?」
「聞いてたっつーの」
「嘘つけ。さっきなんか読んでたろ」
「さあ?」
お前にはまだ早いものを読んではいたな。コイツ、なんだかんだでウブだからな。
それに加えて怖がりでもある。前にテケ○ケの話をしたときなんか大泣きしやがったし。
あの反応をもう一度見てみたいものだ。写真を撮って男子に売りつけたらかなりの額になる。
「サツキ。なんか企んでねーか?」
「ハリー、こないだ話したテケ○ケの話には続きがあってな――」
「やめろぉ――っ!!」
耳を塞ぎながら一目散に逃げ出してしまった。おいおい、まだ話し始めたばっかだぞ。
まさかここまでとは。次は口○け女の話でもしてやるか。また違う反応が見られるかもしれない。
他にはなんかあったかな……うーん……やっぱスプラッターものだな。今度話してやるか。
「たでーまあぁあああっ!?」
玄関の扉を開けた途端にガイストが飛んでくるなんて斬新なお出迎えだなおい。
何も壊れなかったのが幸いといったところか。ていうか危ねえだろうが。
ガイストが飛んできた方向を見ると、顔を俯かせたジークが佇んでいた。
「サッちゃん……?」
「なんだよ」
「
「死ね」
そんな理由でアタシはお星様になりかけたのか。さすがにキレてもいいかと思っている。
そんなアタシの心情をよそに、ジークは笑顔でこう告げてきた。
「おにぎりとおでんで許したるわ」
「テメエ何様だ」
わりとマジで。コイツ、居候だよな? いや、まだ居候にはなってないか。
どんだけ態度でかいんだよ。ハリーの次くらいにはペッタンコなくせに。
「お代官様や!」
「どこでそんな言葉を覚えたのかはともかく、意味わかってんのか?」
「え、あ、う~…………え、偉い人やっ!」
「お前はアホだ」
お前みたいなのがお代官様とか同業者涙目でしかねえんだよ。お代官様やってる人たちに謝れ。
見た目だけならなんて可愛らしいお代官様なんだ! とか騒がれそうだがホントに見た目だけだ。
その役にはまず向いてないだろう。つーか向かないでほしい。
「そ、そんならサッちゃんは何様なん?」
「アタシか? アタシは――」
あんまりこういう言い方はしねえんだけど……まあいいだろう。たまには。
アタシはジークの目をしっかりと見つめ、当たり前のように返答する。
「――強いて言うなら、不良様だ」
そこまでこだわっているわけではないが、何様かと聞かれたらこう答えるしかない。
そのあとはガイストされた仕返しにジークを殴り飛ばし、一服してから眠りについた。
《今回のNG》TAKE 42
「テメエ何様だ」
わりとマジで。コイツ、居候だよな? いや、まだ居候にはなってないか。
どんだけ態度でかいんだよ。ハリーの次くらいにはペッタンコなくせに。
「神様や!」
「…………」
「あっ! 痛っ! サッちゃ……っ! ビンタはグーでするもんと……っ!」