死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

83 / 179
第63話「ウチとサッちゃんととある一日」

 

「ん~……!」

 

 罰ゲームとはいえサッちゃんにちゅーされた日から二日後。(ウチ)は窓から差し込む陽の光で目を覚ました。よう寝たなぁ~。

 隣ではいつも通りサッちゃんこと緒方サツキも目を覚まし、まじまじとこっちを見ていた。まだ眠そうにしているその顔を見て思わずニヤけそうになるも、そこは気合いでグッと堪える。

 普段のサッちゃんはどこか刺々しいんやけど、寝惚けてるときのサッちゃんは抱き枕にしたくなるほど可愛いものがあるんよ。

 

「よう、ジーク」

「おはよ、サッちゃん」

 

 右手で目を擦るサッちゃんと挨拶を交わし、ベッドから出る。今日のパジャマは星柄っと。下着は……確か昨日は赤やった気がする。

 完全に目が覚めたらしいサッちゃんは(ウチ)を見るなりなんでアタシの部屋にいるんだ? とか思ってそうな顔になった。そして何を決意したか、ベッドから出ずにこう言ってきた。

 

「ジーク。ちょっとそこから動かないでくれ」

「? 別にええけど……」

 

 サッちゃんの指示に従い、近くにあった椅子に座って待機する。

 なんやろ? もしかしてご褒美かな?

 その可能性もあるかなと考えていると、おもむろに通信機を取り出してどこかへ連絡し始めた。

 外食の予約でもするんやろか? だとしたら近くの回転寿司がええなっ。

 

 まあ、そんなこんなで――

 

「――もしもし管理局ですか? 不法侵入です」

 

 (ウチ)らの一日は始まる。

 

 

 

 

 

 

 

「サッちゃんのアホッ! 脳筋!」

「黙れカス」

 

 無事に朝食を食べ終わり、すぐさまサッちゃんに抗議する。

 もしも管理局の人がサッちゃんを二次元と三次元の区別ができない妄想ヤンキーとして扱ってなかったら、(ウチ)は今ごろ御用になってたんよ。

 それにしても何があかんかったんやろ? 一緒に寝るなんて今に始まったことやないし……。

 あ、寝る前に胸を揉んだこととか? でもそれに関しては右手首の関節を外すだけで許してもらえたし……ほんまに何があかんかったんやろ?

 

「あのさ、お前いつまで居候するつもりだよ」

「サッちゃんが死ぬまで」

「ごめん。聞いたアタシがバカだった」

 

 な、なんで今謝罪されたん? あとそんな哀れむような目で見んといて。

 けど暇やなぁ~。なんもやることがあらへ……そうや、デ――お出かけしよか。

 

「サッちゃんっ」

「ドラム缶にでも入ってろ」

「せめて話だけでも聞いて!?」

 

 何をどう考えたらドラム缶に入れなんて言えるんやろ? サッちゃんが素直やないのは知ってるけどこういうところは酷いんよ。

 それでも(ウチ)は諦めず、なんかの本を読んでるサッちゃんに話し掛け続けた。

 

「あ、あのなっ」

「ノーロープバンジーでもしてろ」

「ええ天気やから」

「タイキックでもされてこい」

「デパートにでも」

「(放送事故)でもやってろ」

「い、行かへん?」

 

 あかん。ちゃんと話しても適当に流されてまう。あと最後のは聞かなかったことにしとく。しかもサッちゃんにしては珍しくクールな表情をしてるから思わず見惚れそうになった。

 ……こうなったら強行手段や。どんなことをしてでもサッちゃんを連れ出す!

 

「サッちゃん!」

「星に帰れ」

「ガイストとデパート、どっちがええかな?」

「ちょっと待ってろ。五分で支度する」

 

 ふふん。これぞ発想の勝利や!

 

 

 □

 

 

「到着やー!」

「帰りてえ……」

 

 バイクで一時間ほど掛け、(ウチ)とサッちゃんは隣町のショッピングモールへと来ていた。

 サッちゃんには電車やバスという交通手段はないんやろか? いつも『親切な人が貸してくれた』とか言うてバイクに乗ってるけど……明らかに窃盗な気がしてならへんのよ。

 肝心のサッちゃんは今にも(ウチ)を置き去りにして逃げそうやから右腕に関節技を掛けることで捕獲してある。いつもは掛けられる側やけど、そうは問屋が卸さへんよ。……というか、なんでこの人は平然としてるんや? 普通なら痛がるやろ。

 後は周りの視線やけど……いつも通りフードを被ってるし、何よりサッちゃんの方が目立つから大丈夫……やんな……?

 

「ジーク」

「んー?」

「帰りたい」

「あかんよ。今日は帰さへんから」

 

 モール内を歩いていると、いきなりサッちゃんがアホなことを言い出した。ここで逃がしたらほんまに帰れなくなる。かなり荒々しいとはいえ、バイクを運転できるのはサッちゃんだけやし。

 ようやく観念したのか、サッちゃんはため息をつくと左手で(ウチ)の頭を撫でてきた。こ、これはあかん……! 力が抜けてまう……!

 その隙に関節技を掛けていた右腕を強引に振りほどかれ、同時に頭を撫でていた左手が離れていくのが見えた。うぅ……またやられた。

 あ、べ、別にもっと撫でてほしいとかそーゆーわけやないんよ?

 

「そんで、どうすんだこの先は」

「……………………あ」

 

 どないしよ。サッちゃんを連れ出すことで頭がいっぱいになってたから考えてなかった。ショッピングモールって何があるんやろ?

 

「え、えっと……」

 

 やっぱりここは食べ物がええかな? ううん、それやと(ウチ)が食べ物を見てる間にサッちゃんが神隠しのように失踪してまう。ほんならお化粧のコーナーとかは…………うん、サッちゃんそーゆーのまったくせえへんからこれもアウトやな。

 うーん……あ! こんだけ広いんやからきっとゲームセンターもあるはずや。そこにしよか。

 

「げ、ゲームセンターでええかな?」

「…………無難だな。なんでお前がゲームセンターを知ってるのかが気になるけど。それと正確にはアミューズメントエリアだ」

 

 一言余計やけど似たようなことを考えていたのか、サッちゃんは渋々ながらも了承してくれた。

 ……ところで、

 

「ゲーム――アミューズメントエリアってどこにあるんや?」

「帰ろう、ジーク」

「あかんよ」

 

 帰すまいとサッちゃんの首元を掴む。まあ、関節技に比べたらマシやろ。

 まったく、(ウチ)が方向音痴でもないのに高確率で迷子になるからって不安になりすぎなんよ。そらこないだ別の街へ行ったときは六時間も街中をさまようはめになったけど……今回は大丈夫や。広いとはいえ、一応屋内やからな。屋外よりも迷子になる確率は結構下がると思うんよ。

 

「なあジーク」

「あかんよ」

「いや、そうじゃなくて……ほら」

「へ?」

 

 サッちゃんの目線の先にあったのは今から探そうとしていたアミューズメントエリアだった。

 

「探す手間が省けたなぁ~」

「…………」

 

 なんやろ? 今日のサッちゃん、今までで一番大人しいやんか。

 ――もしかして、偽物?

 あのサッちゃんがこんだけ大人しいのはさすがに珍しすぎるわ。ちょっと確かめてみよ。

 

「サッちゃん」

「あ?」

「今夜一緒にお風呂入らへん?」

「目ぇ瞑って歯ぁ食いしばれ」

 

 よかった。この反応は本物や。

 

 

 □

 

 

「迷子になってもうた……」

 

 数時間後。サッちゃんとはぐれた(ウチ)は朝から懸念していた迷子になってしまった。さっきアミューズメントエリアではしゃぎまくったときや食堂でおにぎりとおでんをお腹いっぱい食べてたときはまだおったんやけど……。

 それにしてもここ何階やろ? サッちゃんを探し回って地下から屋上まで走り続けたのにまったく見つからへん。まだサッちゃんの気配がするから帰ってへんのは確かなんよ。

 

 

『お、これはいいな』

 

 

 はっ! 今のはサッちゃんの声! 間違いない、近くにサッちゃんがおる。えーっと、声が聞こえたのはこっちの方向……あ、ここや。

 微かに聞こえたサッちゃんの声をたどっていくと、見えてきたのは女性用下着店だった。

 

 ――下着、店?

 

「う、嘘やろ……!?」

 

 あのサッちゃんが下着店を徘徊している。

 そんな信じられない気持ちを抑え、とりあえず店内へ入ってみた。

 白。

 黒。

 赤。

 水色。

 何種類ものブラジャーやショーツがディスプレイされている。見てるこっちが恥ずかしくなってくるんやけど……布地が薄いやつもあるし。

 一通り店内を見渡すも、サッちゃんらしき人影は見つからなかった。ってことはもう――

 

「ん? この気配は……ジークか?」

「さ、サッちゃん!?」

 

 (ウチ)の真後ろにある更衣室からサッちゃんの声がはっきりと聞こえてきた。やっぱり、そこにおったんか……!

 すかさず声がした方の更衣室のカーテンを開け、中を確認する。そして、

 

「……………………何してんの? お前」

 

 下着姿のサッちゃんと目が合った。

 ヴィクターやミカさんには及ばへんけど充分に大きなバスト。引き締まったウエスト。それらが今、下着姿とはいえ目の前で露になっている。残念ながらお尻は見えへんけど、それでも眼福であることに変わりはなかった。

 ……って、なんで同性の下着姿を冷静に分析しとるんや(ウチ)は! いくら相手がサッちゃんやからってこれはあかんやろ!

 

「さ、サッちゃん! はよ前を隠して! 見てるこっちが恥ずかしいからっ!」

「いや、同性相手にそこまで慌てる必要ねえだろ。それにお前、こないだは――」

「聞こえへん聞こえへん! (ウチ)にはなんも聞こえへんよ!」

 

 なぜかこみ上げてくる鼻血の衝動を必死に堪え、できるだけサッちゃんを見ないように顔を逸らしつつカーテンを閉める。

 するとその二分後、サッちゃんが更衣室から出てきた。――どこか怒ったような表情で。

 

「サッちゃん?」

「んだよ」

「お、怒ってる……?」

 

 恐る恐ると言った感じでサッちゃんに話しかける。そんな引け腰の(ウチ)を見たサッちゃんはため息をつき、こう言ってきた。

 

「あのさジーク」

「はいっ!?」

「実は今日、お前をブチ殺したいって衝動を必死に抑えてたんだよ」

「え……」

 

 それを聞いた(ウチ)は表情にこそ出さなかったものの感動してしまった。だって暴力の化身であるサッちゃんがそれを抑えてるんやで? これはちょっとどころかかなりの進歩やと思うんよ。

 まあ、どうりでいつもより大人しかったわけや。いつもなら事あるごとにぶん殴ってくるサッちゃんが、関節技を掛けられても怒るどころか反撃すらしてけえへんかったし。

 

「でも……それは逆効果だったぜ」

 

 あ、あれ? なんやサッちゃんからやたらとオーラのようなものが見えるんやけど? それに雰囲気もだんだんと変わってきとる……? いや、これは変わってるというより、いつものサッちゃんに戻ってきてるような……!?

 

「さ、サッちゃん……?」

「やっぱりさ、無理に我慢するのは良くないと思うんだよね。だから――」

 

 サッちゃんはそう言うと、普段は絶対に見せない可愛らしい笑顔で、

 

「――この際、全力全開でやってやるよ」

 

 と、無慈悲に死刑宣告をすると同時に力の込められた拳を放ってきたのだった。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 1

「いや、同性相手にそこまで慌てる必要ねえだろ。それにお前、こないだは――」
「聞こえへん聞こえへん! (ウチ)にはなんも聞こえへ――待って。なんでそれを知ってるんや!?」
「内緒」
「サッちゃんのアホー!」
「ブチ殺すぞテメエ!?」



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。