死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第14話「死戦女神」

「はぁ……はぁ……」

 

 ミッドで二度目の正月を迎えてから一ヶ月半は経ったある日の夜、アタシは各地の路地裏でひたすら暴れていた。

 怪我がある程度治って以降、自分の足で得た情報を頼りに強いと噂される奴らを見つけ出し、問答無用でブチのめすことを繰り返している。

 あれからエレミアとは一度も会ってないし、会いに行くつもりもない。

 

「ふぅ……50点かな」

 

 今回の標的は大規模らしい集団を束ねているリーダー格ということもあり、一応評価は高めにしておいた。実際にそこそこ強かったし。

 周りにはその集団の構成員である男たちが倒れており、アタシの目の前にも一人倒れている。まあ、ソイツがリーダー格なんだけど。

 

(これで何人倒したっけ……)

 

 首都のクラナガンを始め、いろんな街(の路地裏)に出向いたからなぁ。さすがに白昼堂々と出歩いている奴はいなかったし。

 地球でいう暴走族の頭、ギャングの長、不良校を占める番長、札付きのワル。

 様々な敵と戦ってきたが、やはりあのアスカやエレミアほどの強者は現れなかった。

 しかも暴れすぎたせいか、最近は闇討ちまでされるようになった。

 

〈そりゃあれだけ派手にやれば目をつけられるのも無理はありませんよ〉

 

 愛機のラトにそう言われ、思わず苦虫を噛み潰したような顔になる。まあ、仕方ないよね。

 ちなみにその派手にやったというのは、こないだの大晦日に下水道で戦ってる最中、いきなりカウントダウンが始まったせいでアスファルトを粉砕したことである。

 おかげでカウントダウンには間に合ったが、その事が後日ニュースになってたから焦ったよ。

 

「あれは危なかった……」

〈今も充分に危険です〉

 

 右手に付いた血をキレイに舐め取り、唾と一緒に吐き捨てる。

 さっきから左手が痛いな……もう少しだけ評価上げとくか。

 

「さーて、帰りますか」

〈道、わかるんですか?〉

「全然」

 

 そういやここ、どこの路地裏だっけ?

 

「……明日は明日の風が吹くってね」

〈誤魔化さないでください〉

 

 このあとひたすら歩き回り、夜が明けたところでようやく我が家にたどり着いた。

 眠かったのですぐにベッドで爆睡したよ。その日が休日でホントに良かった……。

 

 

 

 

 

 

 

「なあサツキ」

「……………………ん?」

 

 数日後。学校で寝不足のあまり机に突っ伏してボーッとしていると、なんとも言えない表情をしたハリーが話しかけてきた。

 まあ、今は休み時間だから先公に注意されることはないけどさ……。

 とりあえず右手で目を擦ってから上半身を起こし、座ったまま背を伸ばす。

 

「大丈夫か?」

「…………は? 何が?」

「いやお前……ここ最近凄え眠そうにしてるからよ」

「あー……………………ぐぅ」

「おい寝るな! 起きろサツキ!」

「はっ!?」

 

 いけない。少しでも気を抜いたら寝てしまうぞこれ。

 そういや最後に寝たの数日前だったな……あれから仮眠すら取ってないし。

 欠伸しながら今夜はどこで暴れようか考える。もうほとんど出向いたもんなぁ。

 

 

『聞いたか? また現れたってさ』

『ああ。なんでも腕自慢のヤンキーや集団相手に一人で蹂躙してるってやつだろ?』

『最近じゃ“()(せん)()(がみ)”って名前で有名だぜ』

 

 

 なんか近くで数人グループになっている男子が妙な会話をしているな。……死戦女神?

 

「おいハリー。死戦女神ってなんだ?」

「え? …………お前知らねーのか!?」

 

 知らねえから聞いてんだろ。

 

「最近ミッドチルダで暴れてるって噂の不良だ」

「……それだけ?」

 

 そんなのいくらでもいるぞ。真面目な奴が頭を抱えてしまいそうなレベルでいるぞ。

 

「わかってるのは各地の路地裏に一人で現れるってことぐらいだ。情報がごっちゃになってるせいでどれが本当なのかわかんねーんだよ」

「なるほど」

 

 なんか今回は胡散臭いな。そんなすげえ奴がいるならアタシが見逃すわけがない。

 一人ね……アタシと同じだな。もしかして一匹狼か? にしても死戦女神ってなんつー大袈裟な名前だよ。名付け親の顔が見てみたいわ。

 何が由来でそんな名前になったのかは知らんが、女神とな。……死神の間違いだろ。

 

「う~…………」

「寝るなよ? もうすぐ授業始まるから寝るなよ!?」

 

 ま、それよりも今は眠たくてたまらない。ていうか今すぐ寝たい。

 次から毛布でも持参してやろうかな? そうすれば暖かで眠れるぞ。

 ある漫画じゃ学校に布団を持参してるやつもあったしな。

 

「頼むから寝かせてくれ」

「ちゃんと睡眠を取らなかったお前が悪い」

 

 正論すぎて何も言えない。

 

「だってよ~……………………むにゃ」

「喋ってる最中に寝るやつがあるか! ほら起きろって待て! オレは枕じゃねーからしがみつくな! 周りが見てるから早く離れろ!」

 

 どうやらハリーは抱き枕としても使えるみたいだ。めちゃくちゃ暖かい……。

 今度業者に頼んでハリーをアタシ専用の抱き枕にしてもらおうかな?

 この数分後、ハリーに頭を殴られてようやく目を覚ましたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「はい終了~……げほっ」

 

 その日の夜。以前アピニオンと遭遇した廃墟を探検していると、いきなり数人の男が闇討ちを仕掛けてきたので返り討ちにしておいた。今は廃墟の中で休憩している最中だ。

 こっちの連中は地球の奴らと違って魔法を扱う奴もいるからたまに苦労させられるよ。さっきだって一人を殴ってる間にもう一人が後ろから魔力弾をぶつけてきたりしたし。

 おかげで頭がクラクラしたよ。ゲームやアニメでいう目を回したような感じだったね。

 

〈それにしても皮肉なものですね〉

「だよなぁ……」

 

 

 ――まさか“死戦女神”の正体がアタシだなんて思いもしなかった。

 

 

「楽しみが一つ減っちまったよ」

 

 せっかく骨のある奴とやれるかと思ったのに……かなりショックだわ。また新しい標的を探さなきゃなんねえのかよ。

 近くにあった柱にもたれながら座り込み、ズボンのポケットからタバコを取り出して一服する。

 

「ふぅ……やっぱりケンカした後のタバコは最高だな」

〈やめてください。せめてガムにしてください〉

 

 やなこった。

 

「んなことより、そろそろ帰らないとな。このまま過労死なんてゴメンだし」

〈数日前のように丸一日休んでみては?〉

「気が向いたらそうするわ」

〈気が向かなくてもお願いします……〉

 

 結局この日は闇討ちされただけで、収穫は噂されていた死戦女神の正体がアタシだってことぐらいしかなかった。ちくしょうめ。

 ……たまにはラトの言う通り、ベッドに入ってぐっすり眠りますか。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 17

「だってよ~……………………むにゃ」
「ちょ、おいコラ力を弱めろ! このままじゃオレの腰がエビ反りみたいになってしまうっ! いや冗談抜きでやめいだだだだだっ!!」

 うるせえなぁ……こっちは眠たくて仕方ないんだバカヤロー……。



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