死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第7話「久々のタイマンだったわ」

「オラァ!」

「ぐふぅ!!」

 

 午後8時半ごろ、アタシは公園の近くで集団狩りをしていた。

 このミッドチルダに来てからもうすぐ3年が経つ。インターミドル・チャン……えーっと……なんだっけ? まあいい。そのインターミドルとやらにも3回は出ている。――あれ、てことは4年か。

 しかし、未だに強者は現れない。試合では一人いたけど。確かジークなんとかエレミアだったかな? ずっとジークやエレミアって呼んでたから覚えてねえや。

 

「やっぱり暴れてる最中に考え事はダメだな。集中できねえよ」

〈……いつまで続ける気ですか、これ〉

 

 暴れた場所から少し離れて休憩していると、愛機(デバイス)のラトが呆れたような声で話しかけてくる。

 つーかその質問、これで何回目だよ。軽く20回はいってんぞ。

 それにまだ資金を調達していない。コイツら結構持ってそうなのに。

 

「飽きるまでずっとだ」

〈つまり無期限ですか。バカですか? バカですよね?〉

「うっせぇ。アホよりはマシだ」

 

 それにしても足りねえなぁ。こっち側でも強い奴がいてくれるとよかったんだけど……どうやら地球とは勝手が違うらしい。

 今日はもう帰ろうと、タバコを吸いながら立ち上がったときだった。

 

「おい、あれやったのお前か?」

「あァ?」

 

 いきなりなんだ? と思って声がした方へ振り向くと、そこには赤い髪と黄色い目が特徴的な女が立っていた。うん、そこまで年は離れてないな。

 あれというのはおそらくさっきの集団狩りに違いない。でなきゃ少し怒気を含んだ声で話しかけてはこないだろう。

 

「……だったらどうなんだ?」

「どうなんだ? じゃねえ。やるにしても限度ってものがあるだろ」

「知るかそんなもん」

 

 確かに血だらけになるまで殴り続けたのは認める。だが骨を折ったわけじゃない。

 せいぜい関節を外したりした程度だ。つーか誰も死んじゃいねえだろ。

 

「ま、そういうことで」

「いやいや、このまま帰すわけないだろ?」

 

 今度こそ帰ろうとしたら肩を掴まれたでござる。ですよねー。

 ……仕方がない。吸っていたタバコを捨てて、女と正面から向き合う。

 それに今、コイツが誰なのか思い出したよ。直接会うのは初めてだけどな。

 

「……おい」

「ん? なんだ――っ!?」

 

 アタシはその女をいきなり殴り飛ばす。

 女は拳が当たる直前に両腕でガードし、数十メートルほど後ろに下がったところで止まった。

 

「お前、確かナンバーズのノーヴェって奴だよな?」

「なんでそれを……」

「姉貴から聞いた」

 

 たまにアタシの元を訪れる姉貴がよく話してたのを覚えている。JS事件の内容と共にな。

 なんで姉貴が知ってるかというと、その姉貴が当事者だったからだ。つーかそんな大事なこと話してもいいのか? って毎回思う。

 

「姉貴……そうか。お前、スミレの妹か」

「…………緒方サツキだ」

 

 まさかこんな形で会うことになるとは思いもしなかったけどな。

 実は戦闘機人ってのにちょっと興味があったんだわ。これでやっと実現できる。

 

「さっそくだがノーヴェ、やろうぜ」

「……チッ、先にやったのお前だからな?」

 

 ノーヴェが同意したことを確認し、お互いにバリアジャケットを着用する。

 久々のタイマンだよ、タイマン。ちょっと楽しみだわ。アタシは少し背伸びしてから……

 

「いくぞ」

「お――おぉっ!?」

 

 ノーヴェの顔面目掛けて飛び蹴りを繰り出すも、ギリギリのところでかわされた。おいおい、マジかよ。こっちは当てるつもりだったんだぞ。

 着地してからすぐに体勢を整え、振り返り様に右拳を打ち出す。ノーヴェはこれを左腕でガードし、右蹴りを繰り出してきた。

 アタシはその蹴りを左腕で受け止め、空いている右手で肩を掴んでから頭突きをお見舞いする。

 

「っ……!」

 

 まさか頭突きをされるとは思っていなかったのか、ノーヴェは少しだけ驚いていた。もちろん、それを見逃すアタシではない。

 すぐさま右の前蹴り、左のハイキックと連続で繰り出す。前蹴りはガードされ、ハイキックはギリギリで避けられてしまい、代わりに奴の右拳を顔面にもらってしまった。

 

「……へぇ、そこらの奴よりはできるみてえだな」

「うっせぇ……!」

 

 ちょっと頭にきたのか、ノーヴェは怒り気味に左拳を突き出してきた。アタシもそれに合わせて左拳で殴りかかる。

 その結果――先にノーヴェの拳がアタシの顔面に突き立てられたが、アタシはこれを意に介さず奴を殴り飛ばした。

 殴られたノーヴェはかなり後ろに下がったが、ローラーブーツみたいなので踏みとどまっていた。

 いいねぇいいねぇ、そうこなくちゃおもしろくねえよなぁ!

 

「オラァ!」

「ぐおっ……!」

 

 その隙を突いて一気に詰め寄り、一歩手前で急停止すると同時に押し出されるような感じで前蹴りをぶつける。

 これには反応できなかったのか、蹴りを食らったノーヴェは体勢を崩して倒れた。

 倒れたから待つ――なんてことはせず、少しダッシュしてからジャンプし、ノーヴェが起き上がった直後を狙って右フックを打ち込む。

 ジャンプしているのでフックが当たる場所は必然的に顔面だ。

 

「おま……!」

 

 しかしノーヴェはこれを両腕でガードし、直撃を免れた。その様子だと待ってほしかったみたいだな。

 まだ追撃は終わっちゃいねえ。すぐに体勢を整えてから前蹴りを繰り出し、左拳で殴り飛ばす。

 蹴りは防がれたものの、痛そうにしている表情から察するに拳は入ったようだ。

 

「かはっ、待てよっていうならお断りだ」

「……そういうとこ、マジでスミレに似てんな」

 

 否定はしない。とはいっても一息つくときはさすがに追撃しねえけどな。

 

「ま、それでも少しは待てってんだっ!」

「が……!?」

 

 そう言うとノーヴェはアタシの腹部にボディブローを打ち込む。次にお返しと言わんばかりにアタシが突き出した右の掌底をかわし、その隙をついて後ろ回し蹴りを顔面にぶつけてきた。

 アタシはそれをモロに食らってしまい、少しふらつくもなんとか踏ん張った。痛いなコノヤロー。思わず倒れそうになったじゃねえか。

 すぐさま右拳を振るうも、かわされてハイキックを頭にぶつけられる。今度はノーヴェが右拳を突き出してくるもこれをしゃがんで避け、そのまま足払いで奴を転倒させた。

 

「いって……」

「あたた……あれ」

 

 一息つこうと口元を右手で拭ってみると、手には血が付いていた。あーらら? さっきの蹴りでやられたのかぁ?

 だとしたら――おもしれーじゃん。アタシはこういうのを待ってたんだよ。

 

「あっはは……!」

「チィッ!」

 

 そこからは拳の打ち合いとなった。嬉しすぎて思わず声が出ちまったよ。

 しばらくの間はアタシもノーヴェも譲らなかったが、お互いの右拳が顔面に直撃したことでその打ち合いは終わった。

 一旦距離を取ったノーヴェはアタシを見て少し驚くも、すぐに苦笑いした。

 

「なんか……嬉しそうだな、お前」

「ああ、嬉しくて仕方がないさ」

 

 なんせ久しぶりに強そうな奴とケンカしてるんだからな。ただひたすらに、めちゃくちゃ楽しい。今はそれで充分なんだわ。

 ノーヴェは気を引き締めると、今度は右拳を振るってきた。アタシはこれを左手で受け止め、腕をガッチリと掴んでから空いている右でボディブローを二発ほど打ち込み、最後に顔面を殴りつける。

 かなり効いたらしく、ノーヴェはふらついている。それでもすぐに踏ん張ってから足下に魔法陣を浮かばせ、そこからウイングロードのようなものを展開し始めた。そして――

 

 

 ――ガキィンッ

 

 

 アタシの四肢にはバインドが掛けられた。

 

「チッ……」

「最後に聞いておく。お前、なんで喧嘩なんかやってたんだよ? 確かインターミドルにも出てるって聞いたんだが」

「……お前にはわからんさ。アタシはこっちの人間だからな」

「…………そうか」

 

 納得したのか、それ以上聞いてくることはなかった。ノーヴェはすぐに展開した道を激走し、跳び回し蹴りを繰り出してきた。

 しかし、それとほぼ同時に全身がアタシの魔力光である赤紫色に輝き始める。

 

「ノーヴェ。一つ訂正させてもらうぞ。お前は最後といったが――」

 

 アタシは一旦言葉を句切り、薄笑いではっきりと告げる。

 

 

 

「それを決めるのはアタシだ」

 

 

 

 そう宣言した瞬間、全身から魔力の衝撃波が放たれた。四肢のバインドは破壊され、跳び回し蹴りを繰り出していたノーヴェは吹き飛ばされた。

 ノーヴェが体勢を整えたことを確認すると、助走をつけてからジャンプし、右脚による跳び横蹴りを繰り出す。

 ノーヴェはこれを胸部に受け、踏ん張ることすらできずに倒れた。まあ、それでも終わってねえけどな。

 

「ほら、立てコノヤロー」

 

 倒れたノーヴェを無理やり立たせ、懐に膝蹴りを二発ほどかまし、次に頭突きをお見舞いする。

 それでもなお力は残っていたらしく、アタシの顔面に右拳を突き立て、ハイキックをぶつけてきた。

 アタシはこれを避けずに受けきり、再び助走をつけてからジャンプし、左拳によるトドメの一撃を顔面にぶちかました。

 これをモロに食らったノーヴェはその場で頭を撃たれたかのように倒れ、やっと沈黙したのだった。

 

「はぁ……はぁ……っしゃ!」

〈お疲れ様です、無駄に暴れたマスター〉

「うるせぇよ……」

 

 ヤッベェ、久々だったからかめちゃくちゃ疲れた。ダメージも結構受けたし。

 気を緩めたら倒れちゃいそうだ。――結局、本気を出すには至らなかったけど。

 

〈ですが楽しめたはずですよ? なんせ久しぶりに技能(スキル)を使ってましたから〉

「……マジで?」

 

 いやホントにマジかよ。今初めて知ったぞ。

 

「まあ、お前の言う通り楽しかったよ」

 

 これはホントだ。でなきゃラトの言うように、技能(スキル)を使ったりはしなかっただろう。

 とりあえず口に溜まっていた痰を唾ごと吐く。珍しく血は出なかったな。口は切れたけど。

 

「さぁて、どうすっかなぁ……あれ」

〈ノーコメントで〉

「おい」

 

 そこは助言するだろ普通。ま、ぶっちゃけどうするかは一応思いついてるけどな。

 アタシはノーヴェを担ぎ上げ、その場から立ち去ろうと歩き始める。

 

「家まで送り届ける」

〈気と頭が狂ってしまわれましたか、マスター〉

 

 なんて失礼なことを言うんだコイツは。

 

「いやいや、貸しを作っておくのは大事なことだろ?」

〈なるほど。いつものマスターで安心しました〉

 

 このあとノーヴェをナカジマ家に届けてから帰路につき、勝利の味という感じで一服した。

 出てきたスバルには驚かれたが、アタシがちょっと説明するとすぐに納得された。

 

 

 

 これがアタシ、緒方サツキとノーヴェ・ナカジマの邂逅となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ希望は残ってたんだな、この世界にも」

〈あくまでマスターにとっての希望ですけどね〉

「ホントは今年で地球へ帰るつもりだったけど……もう少しだけいてみるかぁ」

〈マスターにしてはいい心掛けです。これを機に更正してくれると――〉

「ぜってーしねえぞコノヤロー」

〈ですよねー〉

 

 

 

 




※IFルートを読みたい人はこちらからご覧ください。

https://syosetu.org/novel/61711/113.html


 予告通り、今回は過去話でした。サツキとノーヴェはこうして出会った。


《今回のNG》


※サツキが怪我をしたカラスの治療をするそうなのでお休みします。


「そうや、(ウチ)もカラスになればサッちゃんに優しくしてもら――」
「やめてくれマジやめてください」



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