死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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 遅れましたが明けましておめでとうございます。


第8話「闇拳の猛者vs暴虐の帝王」

「…………」

 

 アスカにひたすら殴られ、弾幕を撃ち込まれたアタシはうっすらとした意識で天井を見上げていた。格闘技ができるとは聞いていたが、まさかボクシング経験者だったなんて思いもしなかった。

 それだけならまだしも、さっきの弾幕の撃ち方は明らかにシューターと同じものだ。魔導師としても相当な実力者なのは間違いないだろう。

 ボクシングができるアウトレンジシューターとか反則にも程があんだろ……。

 ていうかヤバイ。意識が遠のいてきた……もういっそのこと寝てやろうかと思っていると、アスカが物足りないといった感じで呟いた。

 

「――起きなよ」

 

 その一言は断ち切れそうだったアタシの意識を取り戻すには充分なものだった。そうだ、まだ勝負は始まったばかりじゃねえか。

 とりあえず身体をゆっくりと起こし、口の中に溜まっていた血の混じった痰を吐き捨てる。

 そしてすぐさま懐へ突っ込むが首を脇に抱えられる形で受け止められ、そのまま膝蹴りを連続で食らわされる結果となった。

 それでもアタシは突っ込んだ状態のまま堪えていたが……

 

「ぐ……!? ぉお……ぁ、がぁ……!?」

「あっはは、死んじゃいなよ」

 

 アスカはそれを良いことに、いきなり脇に抱えていたアタシの首を絞め出した。

 意識を遮断するだけのフロントチョークが遥かにマシなレベルだ……!

 や、ヤベェ……! このままじゃ、マジで逝ってしまう……!

 

「――ラァァッ!!」

「!?」

 

 アタシは思いきってアスカの身体を持ち上げ、近くにあった柱へ突っ込む。

 さすがのアスカもこれは予想外だったのか、なす術もなく柱に叩きつけられた。

 もちろんこの好機を逃すアタシではない。そこから連続でタックルをかまし、ようやく左拳をアスカの顔面に叩き込んだ。

 ダメ押しでもう一発打ち込もうとするも右手で受け止められ、右フックを顔面に叩き込まれてから前蹴りを入れられた。

 さらに追い討ちと言わんばかりに三つの魔力弾を撃ち込まれて倒れそうになるも、どうにか踏ん張ることができた。危なかった……。

 

(へぇ、やればできるじゃん)

(黙れカス)

 

 アスカが念話で話しかけてきたが、上から目線だったので一蹴してやった。

 互いに一息ついてから少しずつ歩み寄り、距離的に殴り合えそうな位置で立ち止まる。

 先に仕掛けてきたのはアスカだった。アタシの顔面に左、右の順にジャブが、最後に左ストレートが打ち込まれる。

 しかしさっきのタックルが効いたのか、動きが若干鈍くなっているな……。

 これを逆襲のチャンスと判断したアタシは繰り出された左の回し蹴りを受け止め、空いていた左手で肩を掴んでから頭突きをお見舞いした。

 

「う……っ!?」

 

 次に怯んだ隙をついて奴の身体を真横に投げ捨て、起き上がろうとしたところを蹴り飛ばし、さらに立ち上がった瞬間を狙って旋風脚を放つ。

 間髪入れずに繰り出される猛攻を前に、アスカは柱に誘導される形で食らい続けるだけだった。

 別の柱が見えたところでアスカの懐に横蹴りを入れ、左拳を連続で放つも右手で捌かれる。

 だけど反撃される前にアスカを柱へ蹴り飛ばし、そこに密着させてから膝蹴りを入れる。

 そして奴の懐にひたすら拳の連打を放ち、最後に蹴りを入れた勢いで宙返りしてから着地した。

 

「調子に、乗るな……!」

「調子に乗ってんのはテメエだろ……っ!」

 

 さっきまでの余裕はどこへやら、アスカの表情は怒りに満ちていた。いや、怒りたいのはアタシの方なんだけど。散々人をコケにしやがって。

 アスカは周囲に弾幕陣を生成し、それを一つ一つ違うタイミングで撃ってきた。

 アタシはその一つ一つを上手くかわしていき、かわせないものは右手から放つ魔力の衝撃波で相殺していく。

 

「……そういえば君の名前、まだ聞いてなかったね」

「……………………サツキだ」

「そっか。じゃあ――続きをやろうか」

 

 そんな中、なぜ今アタシの名前を聞いたのか全くわからなかったが、それもアスカが魔力弾を撃ってきたのですぐにどうでもよくなった。

 飛んでくる魔力弾をかわして近づき、右のミドルキックを入れるも左腕でガードされる。

 そして右のボディブローと左のアッパーを打ち込まれるも、どうにか耐え抜いたアタシはハイキックでアスカとの距離を広げ、跳び膝蹴りと右のアッパーというコンビネーションを放った。

 

「が……っ!?」

 

 これを食らったアスカは地に伏した。けどな、これだけで終わりだと思うなよ。

 苦しそうに倒れ込んでいるアスカの元へ歩み寄り、顔面に思いっきり蹴りを入れる。次に右腕を踏みつけ、さらに懐を何度も蹴りつけた。

 アスカが大量の血を吐いたところで蹴るのをやめ、一旦距離を置く。

 

「ほら、起きなよ、ねぇ?」

 

 さっきアスカが言ったセリフをそのまま返す。

 癪ではあるが、この一言でアタシは目を覚ました。コイツにも効果はあるだろう。

 するとアスカは、左手でアタシが踏みつけた右腕を痛そうに押さえながらも立ち上がった。

 

「ぼ、僕はまだ……!」

「しつけえ野郎だ……」

 

 とはいえ、こっちも受けたダメージは大きい。ふらつきながら立っているのがやっとだ。

 それでもアタシは止まらない。なぜなら――

 

「はは……!」

 

 ――力がどんどん湧いてくるから。もう自分で抑えるのが難しいほどに。

 以前から似たような感じはあったが、ここまで力がみなぎってくることは一度もなかった。

 もしかしたらどっかのネジが外れかけているのかもしれない。

 

「オラ、よっ……!」

 

 よろめくアスカの髪を右手で掴み、思いっきり顔面を柱に叩きつける。

 吐血し、額から血を流すアスカ。しかしそんなことに構うようなアタシではない。

 その後もアスカの顔面を何度も柱に叩きつけたが、傷は増えたものの大量出血はしなかった。

 

「お前、丈夫だなぁ?」

「……そ、それは、褒めてるのかな? 貶してるのかな?」

「さぁなっ!」

 

 アタシはアスカの髪を掴んだまま頭突きをかまし、顔面に膝蹴りを入れる。

 続いて左拳を顔面に叩き込んだが、その際に腕から変な音がした。

 

「ぐぅ……!?」

「しっ!」

 

 その隙をつかれ、ワンツーからのアッパーというコンビネーションを受けてしまう。

 思わず倒れそうになるも、両手を膝の上に置くことでなんとか堪える。

 マズイ。これ以上あのパンチをモロに食らったらマジでくたばっちまう。

 

「うおら……っ!」

「げおっ!?」

 

 繰り出されたワンツーをかわし、右のアッパーを打ち込む。

 その衝撃で後退したアスカは、これで最後と言わんばかりに無数の魔力弾を撃ってきた。

 

「チッ……!」

 

 それをいくつか避けるも、大半は避けきれずに命中。しかも一発は額に当たったので意識が翔ばされそうになった。

 それでも歯を食いしばって耐え抜く。全身が痛い。とにかく痛い。おそらく顔は傷だらけだろうな。さすがに無傷はあり得ないし。

 まあ、これだけやられてるのに立っていられること自体が奇跡かもしれんが。

 アタシは助走してからジャンプし――

 

「だらぁっ!」

 

 ――アスカの顔面目掛けて豪快な跳び膝蹴りを放った。

 アスカは反応すらできずにこれを食らい、数メートルほど転がっていった。

 しかし、奴は辛うじて立ち上がった。こればかりは驚くしかなかった。

 

「負けられないんだよ……! だってここは、僕の……!」

 

 なんつー執念だ。何が奴をあそこまで動かしてるんだ?

 もう負けたら後がないみたいな言い方なのも引っ掛かる。

 だけどアタシにそこまで考える気力は残っていない。だから……

 

「これで――しまいだっ!!」

 

 握り込んだ左の拳を、アスカの顔面にブチ込んだ。

 同時に左腕からさらに変な音が、それこそ骨が砕けるような音が響く。それでもアタシはこの拳を振り切った。

 渾身の一撃を食らい、アスカは派手に吹っ飛んだ。そのあと地面をゴロゴロ転がり、壁に激突してついに動かなくなった。

 実況者や観客も静まり返っており、完全な静寂がその場を支配していた。そして――

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 

 ――()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「で、今度は何をやらかしたの?」

「ケンカの最中に階段から転げ落ちました」

 

 一週間後。左腕をギプスで固定され、頭に包帯を巻かれた状態のアタシは今、八神家でシャマルから事情聴取を受けている。

 あれから賞金を受け取ったアタシはついでに実況者を殴り飛ばし、左腕の治療をしてもらうために満身創痍のまま八神家を訪れた。

 ぶっちゃけそこしか宛がなかったからな。無料で診てくれそうな場所は。

 診てくれたシャマルによると、左腕は完全に骨折しており、顔は案の定傷だらけとのこと。そのせいかしばらくは絶対安静って言われたよ。

 

「そう。――真相は?」

「だからケンカの最中に階段から転げ落ちたんだよ」

「その左腕の怪我は転んでできたというより、何らかの負荷に耐えられなかった結果できたものだと思うんだけど……」

 

 なぜだろう。全く否定できない。

 

「……ケンカでやり過ぎたのね」

「…………ケンカの最中に、階段から転げ落ちたんだ……っ!」

「まるで自分は犯人じゃないみたいな言い方になってるわよ?」

 

 これも否定はしない。

 

「とにかく、アタシは階段から転げ落ちたんだ! それでいいだろ!」

「あ、ごまかした」

 

 そんな事実は認められない。

 

「…………」

「どうかした?」

「いや、ちょっと気になることがあってな」

 

 これはマジだ。あのとき聞こえた、何かが外れた音は一体なんだったのだろうか。

 魔法が使えるようになったときといい、今回といい、アタシの身体はどうなってるんだ?

 

「そういうわけだから、アタシは寝る」

「はいは――ん?」

 

 シャマルがなんか首を傾げていたが、そんなことには構わずベッドの中に入る。

 このあとアタシはホントに寝てしまい、危うくベッドから落ちそうになるのだった。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 44

「…………」
「どうかした?」
「いや、どら焼きはないのか?」
「ないわよ……」

 早く食べたいんだけど。



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