死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第6話「二つの噂」

「うぅ、寒い……」

 

 1月中旬。寒さが一段と増した街中を、アタシは一人で歩いている。久々に朝早く出歩いているのにこの始末だ。やっぱり寒すぎる。

 ちなみにカウントダウンは無事に完遂した。あのときの達成感は絶対に忘れない。

 それとやはり地球とは文化の違いがあるのか、初詣はできなかった。

 

「やっぱ早朝に出歩くのは無理があったか?」

〈それ以前にどうして冬の早朝に出歩く必要があるんですか……〉

 

 暇だから。

 

「おー寒い寒い……ん?」

「あ?」

 

 声がしたかと思ったら、こっちに歩いてくる人影があった。

 目を凝らして容姿を確認してみるも、ビルの影が邪魔でわかりにくい。

 だけどこっちに近づいてることもあり、影はすぐになくなったので容姿を再確認してみる。

 栗色の髪に紫色の瞳、そして上半身に着ているジャージが特徴的な……男か女かわからない奴がそこにはいた。

 両手にゴミ袋を持っているのを見る限り、どうやらそれを出しに来たらしいな。

 

「…………」

 

 ソイツはこっちに気づくと立ち止まり、こちらを睨むような感じで見つめてきた。

 あくまで睨むような感じだ。ホントに睨んでるわけじゃない。強いて言うなら観察されている。なのでアタシも睨むような感じでソイツを見つめ、その場で立ち止まる。

 しばらく互いの視線が交差していたものの、先に動いたのはアタシだった。別に何かする必要もないしな。あと寒い。

 ソイツもゴミ出しの最中なのを思い出したのか、それを特定の場所に置くとこっちを一瞥してから立ち去っていった。

 

「……………………」

〈あの方がどうかしましたか?〉

「……いや、別に」

 

 風も強くなってきたし早く帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 

「闇拳クラブ?」

 

 昼休み。昼飯であるメロンパンをちぎってから食べていると、ハリーが妙な話題を出してきた。

 あれから家に帰宅して制服に着替えるところまでは良かったが、あと数十分で遅刻という緊急事態に陥ったため全力でダッシュした。

 結果はギリギリだったよ。よくボイコットしなかったな、アタシ。

 

「おう、最近噂になってるんだよ。なんでもそこで勝ったら凄え大金が手に入るとか」

「ふーん……」

 

 そりゃ闇金融みたいな名前なんだから金は間違いなく絡んでるだろうよ。

 大金か……アタシとしてはそれよりも強い奴を所望したいところだ。

 そんなアタシの願望が通じたのか、ハリーの口から興味深い内容が語られた。

 

「実はその闇拳において常勝を誇る凄腕のファイターがいるって噂もあるんだけど……」

「なんだよ? 言いにくいことなのか?」

「昔、格闘技の試合で対戦相手を再起不能にしたことがあるってよ。ま、全部なんの根拠もない噂だけどな」

「…………へぇ」

 

 正直闇拳クラブはどうでもいい。個人的にはそのファイターが気になる。果たしてホントにいるのかどうか……いるなら戦ってみたい。

 闇拳クラブの所在はさすがにわからないが、ファイターの方には心当たりがある。しかし確証がない。こればかりは調べる必要があるな。

 

「ところでお前、髪切ったのか?」

「……なぜわかった」

「いや、ロングがショートになれば誰にでもわかるぞ」

 

 なんてこった。そんな盲点があるなんて……!

 ハリーの言う通り、アタシは正月に入ってからすぐに髪を切った。正直腰まで伸びていたから邪魔でしかなかったんだよね。

 それにほら、ケンカになるとよく引っ張られるし。こないだなんて燃やされそうになったよ。

 まあデメリットもある。首筋がスースーして寒い。マフラーを巻こうと思うほどには寒い。

 

「髪のことはまた今度にして、さっきの噂はどこで聞いたんだ? 出所は?」

「知り合いに聞いたんだよ。出所はオレにもわからねえ。ただ、クラナガンでも同じ噂が流行ってるみたいだぜ?」

「クラナガンか……」

 

 そこって確かミッドチルダの首都だったな? そんな国の中心部とも言える大都市でも噂になるなんて影響ありすぎだろ。

 とはいえ、ニュースや記事にもなってないから信憑性自体は薄そうだ。

 

「サツキ、まさかとは思うが――」

「一応調べる。もしかしたら掘り出し物があるかもしれない」

「……そうか。悪いがオレはパスだ。今日はスパーの予約もあるしな」

「最近スパーしかやってなくねえか?」

「いいんだよ別に。あんな結果は二度とごめんだからな」

 

 どこまで進んだかは覚えてないが、コイツはインターミドルでおっぱい侍に秒殺されている。

 あれ? 侍……で一応合ってるよな? 居合の剣術みたいなの使ってたし。

 ソイツに秒殺されてからだ。ハリーのスパー回数が増えたのは。

 

「あー、確か瞬殺だったか?」

「……………………秒殺だよ」

「同じだろ」

「同じじゃねえ! 秒殺の方が酷いんだよ!」

「……自分で言ってて悲しくねえのか?」

「…………ぐすっ……!」

 

 あ、悲しいんだ。

 

「お前……弱虫だったのか」

「…………悪いか?」

「うん、悪い。だからアタシの前でメソメソそんな。――ブチのめすぞ」

「オレは泣いただけで殺されるのか!?」

 

 もちろん。だって状況によっては泣かれてもウザいだけだし。

 でも負けて悔しいってのはなんとなくわかる。アタシも負けたし。

 

「ところでサツキ」

「まだなんかあんのか?」

「予鈴まであと数分だ」

「……マジかよ」

 

 ヤベェ、まだメロンパンが半分も残ってる。早く食べなければ。

 ……今日の放課後から調査に当たってみますか。まずは路地裏だ。

 

 

 

 

 

 

 

「ここもハズレか……」

 

 翌日。アタシは闇拳クラブの噂が本当かどうか確かめるべく、手始めに近辺の路地裏を訪れた。

 少し危険ではあるが、そこに群がる連中なら何か掴んでると思ったからだ。

 しかし残念ながら収穫はなし。しかも襲いかかってきたので返り討ちにしておいた。

 ちなみに表の連中にも聞いたが、結果はハリーから聞いた内容と同じものばかりだった。

 いくら信憑性が薄くても手掛かりはあるはず。まずは噂の出所を特定せねば。

 

「さすがに近辺はなかったか」

 

 あったらあったで手間が省けるから助かるんだけど……仕方ねえな。世の中そう簡単にはいかないってことだ。

 近辺の路地裏はこれで最後だし、今度は隣町にでも行ってみるか。

 歩きタバコをしつつ路地裏から出たアタシは、次の目的地へ向かうことにした。

 

〈隣町は一つだけじゃありませんよ?〉

「マジか。どこから調べりゃいいんだ?」

〈頑張ってください〉

 

 先が思いやられる。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 40

〈隣町は一つだけじゃありませんよ?〉
「マジか。どこから調べりゃいいんだ?」
〈頭を使ってください〉

 そろそろスクラップにしてもいいかな?



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