死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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 今回言えることは一つ、二人の関係はここから始まった。


第3話「最低な出会い」

「ダルいなぁ……」

〈いつものことじゃないですか〉

 

 放課後。今年で中等科1年になるアタシは、とある公園のベンチに座りながら一服している。

 魔法と出会ってから2年。魔力運用や魔法の制御など、必要最低限の技術を身につけたアタシは正月にミッドチルダという街へ移住した。

 こっちに来てからもう三ヶ月は経つが、まだ馴染めていない。というかおもしろいことがない。

 特にそれが顕著なのがケンカだ。手応えがなさすぎる。集団相手に余裕で勝ったことすらある。

 当然だが、こっちに来て驚いたことはある。それはこっちだと初等科は5年制、中等科および高等科は2年制ということ。つまり地球の学校よりも1年早く進級および卒業できるのだ。

 

「それにしても、まさかこっちにもタバコがあるなんて思わなかったぞ」

〈むしろなくなってしまえば良いんです〉

「アホか。そんなことになればアタシはフーセンガムを噛むしかないから困るんだよ」

〈そっちの方が健康的だと思いますよ?〉

「……………………」

 

 正論を突きつけられて思わず黙り込んでしまう。言われてみればその通りだ。なんでそうしなかったんだろう。気づけなかった自分が憎いぜ。

 

 

 ガタッ

 

 

「おぉっ!?」

〈どうかしましたか?〉

 

 せっかくだからもう一本吸おう、などと考えていると、突然ベンチが揺れた。

 

「なんか今ベンチが揺れたんだけど」

〈マスターが動いたからでしょう?〉

 

 いや動いてないんだけど。ならベンチの脚が不安定になってるのか?

 そう思って少しだけ動いてみたが、特にグラつきはしなかった。

 

〈ベンチが壊れているわけではなさそうですね〉

「おいおい、まさか心霊現象とかねえよな?」

 

 

 ガタッ

 

 

「……今アタシは動かなかったぞ」

〈わかってます〉

 

 いつからアタシは霊能者になってしまったんだ。それと気のせいか、なんか下半身がくすぐったいうえに湿ってるような感じがする。

 例えるならバスローブ姿で生暖かい風を浴びてるような感じだ。

 さすがにおかしいと思い、ベンチから立ち上がって座っていた場所に視線を向ける。

 するとそこには、

 

「やっと息ができる~…………ん?」

 

 アタシより少しだけ低い身長で頭にはフードを被り、顔が見えないこともあって胸の膨らみがなければ男にも見える中性的な容姿のジャージを着た女が横になっていた。――よだれを垂らして。

 

「変態だぁーっっ!!」

 

 目があった瞬間、思わず大声で叫んじまった。

 なんだコイツは!? 変態か!? そうでなければ変質者か!? いや変態だ!

 

「え!? 変態!? どこにおるんや!?」

「お前だお前! ジャージを着てよだれを垂らしてさらに息を荒くしてるそこのお前!」

 

 なんでいきなりキョロキョロと周りを見てんだよテメエは!? もしかして自分が変態であることに気づいてないのか!?

 ソイツは服装を指摘されたことでようやく自分のことだと気づき、よだれを拭いてから両手をこっちに突き出して振り始めた。

 

「ち、違うんよ! これはやな!」

「違う!? まさかこの期に及んで言い訳でもしようというのか!?」

「これは君のお尻に(ウチ)の顔が埋もれたからであって!」

「待てコラ! いくら尻フェチでも限度ってもんがあるだろ!?」

 

 気配もなくベンチで横になっていたのはアタシのお尻に顔をうずめるためだったのか!?

 ていうかなんでアタシがこの公園に来るってわかったんだよ!?

 

「待って、それも違うんよ! 君のお尻に埋もれてたのは(ウチ)が気持ちよく寝てた――」

「しかも野宿だと!? お尻に顔をうずめるためにわざわざ一晩寝てたのか!?」

「あかん! どんどん誤解が深まっていくー!」

「安心しろ! おそらくアタシは誤解なんざしてねえ!」

 

 コイツは間違いなく究極的な尻フェチだ! この行動力といい、尻に顔をうずめた後の状態といい、どうあがいても誤解のしようがねえ!

 

「お、お願いやから(ウチ)の話を」

「近寄んな! それ以上近寄ればアタシまで変態になってしまう!」

「違うって言うてるやろ――!!」

「来ないでくれぇーっ!」

 

 あまりにも普通に近寄ってきたのでその場から全力で走り去る。

 後ろを振り向くと、奴が猛スピードで迫っていた。この変態、尻フェチのくせにやたらと速い!

 

「オーケー! アタシは誤解していた! だから追いかけてくんな!」

「嘘や! 誤解したと思ってるなら今すぐ立ち止まるはずなんよ!」

「アホかお前! 変態に追われてるんだぞ!? 立ち止まったら大切な何かを失ってしまうだろうが!」

「それが誤解やって言うてるのに! こうなったら力ずくで」

「挙げ句の果てには力ずくだと!? ふざけんなこんちくしょ――っ!!」

「あ――っ!! それ以上はあかん! 誤解が誤解を呼んで大変なことになってまうっ!」

 

 撒くこともできず、かといって捕まるわけでもない。文字通り鬼ごっこという名の無限ループが完成していた。

 今までいろんな奴と対峙してきたが、こんな恐怖を味わうのは初めてだ。味わったことのない未知の恐怖……理屈ではどうにもならない。

 本能で逃げ回っていたアタシは、いつの間にか街中を走っていた。……街中? ということは人が大勢いるはず。一か八か、試してみるか……!

 

 

「変態だぁ――っ!!」

 

「誤解やぁああーっ!」

 

 

 ザワッ

 

 

『へ、変態……!?』

『いや変態というより不審者だろ!?』

『クソッ、男のくせに可愛い声出しやがって!』

 

 

 計画通り。

 

「ちょ!? (ウチ)は不審者でも変態でもあらへんよ!? ていうか最後の誰や!?」

 

 お前の声に嫉妬した勘違い野郎だよ。性別間違えられてるし。

 それにしてもマジでしつこいぞこの変態。こうなったらこっちから引導を渡すしかない。

 アタシは立ち止まらずにUターンし、変態に向かって走っていく。そして……

 

「くたばれやオラァッ!」

「なんでそうなるぶべらっ!?」

 

 左拳で変態を殴り飛ばした。どうやら殴られるとは思っていなかったのか、変態は数十メートルほど吹っ飛んだところでダウンした。

 よし、今のうちに逃げよう。今なら絶対に捕まらない!

 

 

『なんで……こんなことになったんや……。(ウチ)はただ、ベンチで横になって日向ぼっこしてたときに君が(ウチ)の顔の上に座ったから、息ができなくなったって言おうとしただけやのに……』

 

 

 逃げるために走り出した瞬間、そんな弱々しい声が聞こえたような気がした。

 

 

 

 




《今回のNG》


※エレ――変態とサツキの出会いそのものがNG。



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