死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第2話「魔法と翠屋」

「こ、こうか……?」

〈そうです。術式の性質上、難しいでしょうが頑張ってください〉

 

 謎の現象から数ヶ月経った夏のある日。小学4年生になったアタシは夏休みを利用し、とある広場にて魔法の練習に励んでいた。

 あの日、アタシが呆然としているとなんの偶然かアリサとすずかが駆けつけた。二人によるとアタシが足下に発生させた三角形は魔法陣というものらしく、簡単に言えばアタシは『魔導師』とやらになったとのこと。……あれ? 魔法使いや魔術師とは何がどう違うんだ?

 それからいろいろと大変だったよ。なんとかハラオウンっておばさんがやって来たりスミ姉がとっくに魔導師になってることがわかったりと……思い出すとキリがない。

 そんな中、理解できたこともいくつかある。アタシが異能の力を使えるようになったこと、それをちゃんと使うにはデバイスと呼ばれる制御杖のようなガラクタが必要なこととかだ。

 もちろん、アタシにもそのデバイスとやらは贈られた。名前はアーシラト。首に付けるチョーカー型なんだけど……

 

「術式の性質上?」

〈はい。マスターの術式はベルカ式なので、魔力の直接射出や放出はどうしても難しいものになってしまうんです〉

 

 コイツ、やたらとうるさい。今はちゃんと指導してくれてるが普段はマジでうるさい。

 マスター認証のときは機械らしかったのに一週間でこれだよ。どうしてこうなった。

 

「つまり弾幕やビームは出せないってことか」

〈基本的に厳しいかと〉

 

 それは残念だ。某龍球のキャラみたいにか○はめ波とか撃ってみたかったのに。

 どうやらベルカ式ってのは格闘戦には向いてるけど遠距離戦はダメダメってことになるのか。

 そういや今ではミッド式とやらが一般的になってることもあってベルカ式そのものが希少な存在だと聞いているが……なんでだ?

 まあコツは掴んだことだし、そろそろ例のあれをやることにしよう。

 アタシは脱力した自然体になり、両腕に魔力をまとっていく。

 

「んー…………こんな感じか?」

〈えっとですね、対戦ゲームで自機を操作するような感じでやればいいかと〉

「……自機ってあれか? 1Pってやつか?」

〈そうです。ゲームでいう主人公のことです〉

「つまり自分自身をゲーム感覚で操作しろってことか……」

 

 魔法には当然バリエーションがあるわけで、それを知ったアタシはその中から必要と思ったものだけを習得することにした。

 そのうちの一つが今練習している『身体自動操作魔法』というやつだ。

 この魔法、リスクがかなり高いとか言われてるけどアタシには関係ない。身体を自動で動かせるとか最高じゃねえか。緊急時に使える。

 

「んん――お? 今のはどうだ?」

〈確かに一瞬だけ発動していましたが……まだです。使えるには至ってません〉

「………………だよなぁ。リスクが高いってのに簡単に使えるわけねえよな」

〈はいはい。それと周りには少しでも警戒してくださいよ? マスターは最近、周囲の不良から“暴虐の帝王”と呼ばれつつあるんですから〉

 

 なんだその物騒な呼び名は。

 

「警戒しろと言われてもなぁ……ていうかその呼び名はなんだ? 初めて知ったんだけど」

〈だから言ったじゃないですか。呼ばれ始めたのは最近だと〉

「アタシなんか大それたことしたっけ?」

〈では最近の出来事を思い出してください〉

「えーっとまず鑑別所を出所してすぐに中学生数人を蹴散らして、次に5月下旬に高校生とタイマンを張って、その次は――」

〈それですよそれ! 今言ったこと全部です!〉

「いや、ケンカしただけで全部勝ったわけじゃないんだけど……」

 

 むしろ最初のやつ以外は黒星が多かったはずだ。少なくとも“負け犬の帝王”と言われるのが当然なほどには。

 ちなみになんで中学生や高校生とケンカできてるかというと、アタシの容姿が小学生にしては大人びている、まとっている雰囲気が強者のそれ、ということが当てはまる。

 なんでも中学生どころか高校生と言われても違和感がないとか。泣くぞコラ。

 

〈マスター。そろそろ晩御飯の時間です〉

「おっとそうだった。今日はアタシが料理担当だしな」

 

 集中しすぎて忘れていたよ。空は星で輝き始めてるし。確かに周りには気を配った方がいいな。

 すぐさまダッシュで広場を後にし、そのまま全力でスーパーに向かったのだった。

 はぁ、これからいろいろと大変だな。先が思いやられるよちくしょうめ。

 

 

 

 

 

 

 

「で、その顔の傷は何?」

「階段で転んだだけだ」

「さすがにその言い訳は苦しいと思うよ……?」

 

 翌日。午前中に出所した日に叩きのめした連中とはまた別の中学生とケンカしたアタシは、傷だらけのまま海鳴市に訪れた。

 今は途中でたまたま出会ったアリサやすずかと一緒に喫茶店【翠屋】でゆっくりしている。

 

「ふーん……それにしてもあんた、本当に小学生なの?」

「どこからどう見ても普通の小学生だろうが」

「どこからどう見ても中学生か高校生にしか見えないけど……」

「どこからどう見ても普通じゃないわね」

 

 まさか近隣の不良だけでなくコイツらにまで言われるとは思わなかった。

 

「いや普通だろ!?」

「普通の小学生だったら会う度に傷だらけとかあり得ないわよ!」

「アタシはよく転ぶ体質なんだよ!」

「だとしても転びすぎだよね!?」

 

 やっぱりこのバニシング野郎、一発ぶん殴った方がいいか?

 

「――はいどうぞ。元気なのはいいけど、身体は大切にね? サツキちゃんも女の子なんだから」

 

 アタシとアリサが張り合う中、そう言ってアタシにショートケーキを持ってきてくれたのはこの店のパティシエ、高町桃子。

 見た目だけなら間違いなく大人のお姉さんってやつだが、話によると子持ちらしい。話によるとってのは実際に会ったことはないからだ。

 桃子って名前、どっかで聞いたことあるような気がするんだけど……気のせいか?

 ほら、なんかのアニメにそんな名前のキャラいたじゃん。見た目は違いすぎるけど。

 

「はいはい、できるだけ善処しとくよ。……ところで善処ってなんだっけ」

「うふふ、頭の方はまだまだ小学生ね」

 

 どういう意味だ。

 

「あっ、なんか今日で一番安心した気がする!」

「大人なのは見た目だけってことね」

 

 えっ? 何々? なんでお前らまでホッとしてんだよ?

 

「ほら、早く食べなさい」

「わかってるよ」

「サツキちゃん、帰りはどうするの?」

「徒歩に決まってんだろ」

「送ってくわ……」

 

 このあと本当に車で送られてしまった。別にそんなことしなくてもいいのに。

 ちなみにまだ先の話ではあるが、アタシは魔法が文化になっている街へ移住させられるらしい。魔法が文化になってる街か……チ○カラホイとかやってたりすんのかな?

 そしてアタシが一番気掛かりなのは向こうにも強い奴がいるかどうかだ。まあ、いるにはいるんだろうけど……祈るしかないな。

 

 

 

 




 地球にいた頃の話はこれで終わりです。次回からミッドチルダ編に突入します。

《今回のNG》TAKE 33

「はいはい。できるだけ善処しとくよ。……ところでクソババア、善処ってなんだっけ」
「うふふ、頭の方はまだまだ小学生ね」
「今のを流そうとする桃子さんが凄いわ」
「う、うん……」



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