死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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 今回から過去編に突入です。それと今回のNGはお休みします。

 あと章設定はタイトルが思いつき次第やろうと思います。


過去編
第1話「全ての始まり」


「……サツキ」

「なんだ?」

「……昔はどんな感じだったの?」

「あ、それは(ウチ)も気になってたんよ」

 

 韓国冷麺を食べてから一時間後。クロが唐突に口を開き、ジークがそれに乗っかってきた。

 昔ねぇ……どっから話そうか。ぶっちゃけ幼少期からでもいいんだよなぁ。

 

「親父が言うにはやんちゃだったらしい」

「……今と大して変わらない」

「ただ、幼少期はおふくろと共に山籠りしてたしな。その前はまだ大人しかったのかもしれない」

「あはは、サッちゃんのことやからきっと獣みたいに吠えながら暴れてあだぁあああああっ!!」

 

 ムカついたのでジークにアイアンクローをかます。

 山籠りしていたのは事実だが間違っても吠えたりはしてない。

 

「いたた――待って。さらっと聞き流しそうになったけど山籠り!?」

「そうだ。かなり過酷だったぜ? 何度も死にかけたし」

 

 熊や猪に追いかけられたり、追い詰められたときは戦ったり、川で溺れかけたり、崖から転落しそうになったり……そのときの出来事は今も鮮明に覚えている。

 もちろん得たものもあるけどな。例を挙げるなら気配に敏感になったことだ。

 

「……じゃあ、魔法が使えるようになってからは?」

「あー……まあなんだ、そっからはまとめて話してやるよ」

 

 このままだとただの質問ラッシュになってしまう。それだと拉致が明かない。

 そもそもクロはアタシの過去を知りたがってるんだし、ジークはまあ……どうでもいいか。

 さて、時間は今から約5年前に遡る。つまりアタシが小学生の頃だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 始業式を明後日に迎えたある日。道行く先で咲き誇る桜がとても綺麗で、それを見た通行人の大半が写真を撮ったりしていた。

 しかし、アタシはそれに目もくれずとある目的を執行している最中だ。それは――

 

「はぁ、はぁ…………」

「ぇ、おぉ……」

 

 ――お礼参りだ。なぜなら今日は鑑別所から出所した日でもあるのだから。

 アタシは自分が収容される原因となったクソヤローを血眼で探し回り、路地裏にてやっと見つけたわけだ。ソイツを含めて四人ほどいたが、そこらにあるものでなんとか始末できた。

 当然、アタシとて無事ではない。頭を負傷し、右足もやられてしまったのだから。

 残るはその野郎だけだ。奴はたった一人で中学生を蹴散らしたアタシを見て腰を抜かしている。

 

「に、人間じゃねぇ……!」

「ははっ、それは――こっちのセリフだァ!」

 

 鉄パイプを片手に持ってソイツに歩み寄り、脳天目掛けてそれを振り下ろした。

 奴は寸前で頭を守ったらしく、左肩を押さえていた。チッ、そこに当たったのかよ。

 もちろん休ませもしないし、見逃しもしない。再び脳天目掛けて鉄パイプを振り下ろす。今度は右肩に直撃したようだが……しつけえな。

 アタシはソイツの鳩尾を蹴りつけ、その隙に鉄パイプで何度も殴りつけた。

 さすがに同時に防ぐのは無理があったらしく、ついに鉄パイプが脳天に直撃し、奴はその場から動かなくなった。あら、気絶したのか――っ!?

 

「いって……っ!」

 

 今になって頭の傷が痛んできやがった。ここにいるのは得策じゃねえな。

 アタシは隅っこに置いていた荷物を持って路地裏から走って脱出した。右足の痛みは気合いで切り抜けている。要するに我慢だ。

 そして数キロほど離れたところにある河原に身を隠し、まずはおふくろがくれた包帯を頭の傷に巻く。次に負傷した右足に絆創膏を大きくしたようなやつを貼り、これの上からも包帯を巻いた。

 

「よし、こんなもんかな」

 

 しばらく安静にしていた方がいいかもしれない。さっきから頭がクラクラするし。

 一通りの応急処置を終えたアタシはポケットからタバコを取り出し、マッチで火をつける。

 

「――けほ、けほっ!」

 

 くっそ、不良ってやつになってから1年経つとはいえまだ慣れないなこの感覚。ビールを飲むときだってそうだ。

 やっぱり未成年というのが大きいかもしれない。……未成年ってなんだっけ?

 そんなことを考えていると、日が沈んでいくのが見えた。もうそんな時間なのか……。

 

「何ボーッとしてんのよ、サツキ」

「…………アリサ?」

 

 夕日を眺めていると、金髪のショートカットに声をかけられた。というかアリサだった。苗字は知らん。というか覚えてない。

 コイツ確か海鳴市在住のはずなんだけど……。

 あ、海鳴市といえば喫茶店の【翠屋】だな。コイツと出会った場所でもあるし。

 

「ボーッとしてたわけじゃねえよ。夕日を眺めてたんだよ」

「……どうりでボーッとしてたわけね」

「だからボーッとしてねえって」

 

 アリサはアタシの隣に座ると、まるで妹を扱うような感じで頭を撫でてきた。

 なんつーか……スミ姉とはまた違う感覚だ。振り払う気がしない。

 初めて会ったときからこんなんだったか? いや、まだツンツンしてたぞ。

 

「またケンカしたの?」

「…………ちょっと転んだだけだ」

 

 実はお礼参りしてました、なんて口が裂けても言えない。

 

「…………ふぅん。ま、元気そうでよかったわ」

「ていうか何しに来たんだよ? あんたは」

「気分転換にお買い物よ」

「……いつもの連れは?」

「いつもの連れ? すずかとは後で合流する予定だけど……」

 

 お買い物が気分転換とは……まあ、人それぞれだけどさ。

 それと――すずかって誰だっけ? 苗字を思い出せばわかるんだけど……えーっと月、月……。

 

「……すずかって誰だ?」

「相変わらず人の名前は覚えないのね……月村すずかよ。あたしの親友」

「んん?」

「ほら、あたしとよく一緒にいた紫髪の――」

「ああ! あのおっぱいが大きかった奴か!」

「…………間違ってはないけど、顔ぐらい覚えなさいよ」

 

 無理。おっぱいの方がインパクトあったもん。

 

「あ、でもカチューシャは覚えてるぞ!」

「……あのね、胸とカチューシャを覚える前にまず名前と顔を覚えなさい!」

「うるせえ! あんなのおっぱいが顔みてえなもんじゃねえか!」

「それすずかが聞いたら泣くわよ!?」

 

 それはぜひとも見てみたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あー、まだクラクラする……」

 

 あれからアリサと他愛のない会話をして別れたアタシは、人気のない丘に来ていた。

 もう辺りは真っ暗。幸いにも街灯はあるから真っ暗闇ではないんだけど……。

 この丘にも桜が咲き誇っており、満月によって照らされたそれは昼に見たときよりも綺麗なものとなっていた。一言で言うなら妖艶ってやつだ。

 

「こういうのを夜桜って言うんだっけか……ん?」

 

 その妖艶な桜に見惚れていると、一瞬だけ右手から稲妻のようなものが走った。……稲妻? 稲妻ってあの雷と同じ電気だよな?

 そんなものが走ったにも関わらず手がビリビリしないことを疑問に思っていると、

 

「え?」

 

 今度は全身が赤と紫を合わせたような色に点滅し始めた。な、なんだ? アタシの身体で何が起こってるんだ?

 頭がクラクラしているということもあり、状況の整理がつかなくなり始めたときだった。

 

「――っ!?」

 

 突如全身から衝撃波のようなものが放たれたのだ。あまりにもいきなりだったので、思わず吹き飛ばされそうになる。

 周囲にあった桜の木が暴風に晒されたかのように揺らされる感じの音が聞こえてくる。マジでなんなんだよ……!

 しかしそれが長く続くことはなく、気づけば何もなかったかのように治まっていた。すぐに周りを見渡すも、これといった変化は起こってない。

 

「ははっ、こりゃ帰ってすぐに寝た方がいいな」

 

 きっと夢でも見てたんだな。そう思って右手を見ようと下を向いたときだった。

 

「は……?」

 

 足下に巨大な正三角形が浮かび上がっていたのは。しかもただの三角形ではなく、内側にはわけのわからない紋様まで刻まれている。

 今度こそ夢じゃなかったことを実感したアタシは、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

 

 

 ――これが『魔法』との出会いであり、全ての始まりでもあった。

 

 

 

 


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