死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第60話「小さな修羅場」

「…………あのさ」

「な、なんや?」

「なんでクロがいるんだよ。ていうかどっから連れてきたんだよ」

「…………」

 

 二度も事情聴取を受けた翌日。料理中に誰か来たと思ったらジークがクロを連れて帰ってきた。

 思わず通報しかけたよ。お前、ついに幼女を誘拐しちゃったのかと。

 クロはジークをジト目で睨みつつ、早く放せと言わんばかりにジークに握られた手を振りまくっている。

 なのにジークは全く気づいてない。普通なら気づくだろ……。

 

「さ、サッちゃん? これはその……たまたまなんよ……!」

「…………クロ、どうなんだ?」

「……連れてこられた。鬼のような形相で」

「「…………」」

 

 もう逃げ場はないぞ、ジーク。

 

「……二人はどーゆー関係なん!?」

「よく見とけクロ、これがアホミアだ」

「…………(コクコク!)」

「変なこと吹き込むのやめてほしいんやけど!?」

 

 まだ引きずってたのかよお前。あの温厚なクロですらドン引きしてるぞ。

 

(ウチ)はアホやない、お代官様や!」

「なあクロ。お前が恨んでた相手はこんな変態だぜ? 恨んでてバカバカしくならねえか?」

「…………恨む相手を選ぶべきだった」

「やめて! そんな目で(ウチ)を見んといて!」

 

 クロのジークを見る目はまさに可哀想なものを見る際のそれだった。

 うわぁ、ここまで避けられちゃうとはな。哀れジーク。そしてざまあ。

 

「それにこの子幽霊やろ!? なんでこうして触ることができるんよ!?」

「そりゃお前が霊能者だからだよ」

「……霊能者? 幽霊?」

「要するに痛い子だ」

「サッちゃんの方がよっぽど痛いわ!」

「………………」

「あっ! 痛っ! サッちゃ……っ! ビンタはフライパンでするもんと……っ!」

 

 気づけばアタシはフライパンでジークに往復ビンタをかましていた。

 誰が痛い子だテメエ。次言ったらフライパンじゃ済まさねえぞ。

 にしてもフライパンでビンタはちょっとダメだな。後で洗う必要がある。

 台所にある道具って武器として使えるやつが意外と多いんだよな。

 

「ま、来ちゃったものは仕方ねえ。昼飯、食べてくか?」

「………………お言葉に甘えて」

「待って。さりげなく(ウチ)から離れんのやめて。地味に傷つくから。あとサッちゃんにしがみつくのもやめーや」

 

 そんなんだからお前はアホなんだよ。いい加減に気づけっての。

 

 

 ――数十分後――

 

 

「サッちゃんとはどーゆー関係なん!?」

「……(擬似的な)友人」

「いくら友達でも普通はしがみついたりせーへんよ!」

「静かにしろジーク。鼻の骨へし折るぞ」

(ウチ)だけ!?」

 

 昼飯を食べたのはいいが、さっきからずっとこの言い争いが続いている。クロもマジでうんざりしてるっぽいし。

 ていうかうるさいのお前だけなんだよ。クロは静かにしてんだろうが。

 あと普通はしがみついたりしないって言葉、いつもアタシのベッドに侵入したりちょっぴり過激なスキンシップかましてきたりするお前が言っていい言葉ではない。断じて。

 

「……ざまあ」

「今なんて言うた……?」

「ざまあ」

「サッちゃんのアホー!」

 

 アホはお前だ。アタシとクロに事実を言われたからってアタシだけに当たるなよ。

 まあ、クロに当たって泣かせようものなら徹底的にブチのめすけど。

 

〈マスター。ハリーさんから通信です〉

「ハリーから?」

 

 久々に愛機のラトが喋ったかと思えば意外と普通の内容だった。

 ハリーからの通信? もしかすると決闘の申し込みかもしれない。とりあえず出てみよう。

 

『よっ、サツキ!』

「おっす。さっさと用件を言え、ほら」

『何様だお前は』

 

 不良様にしてヤンキー様だ。

 

『まあいい。ちょっと頼みがあるんだけど』

「頼み? 報酬はいくらだ?」

『金ならねーぞ』

「冗談だからそう硬くなるなって」

『お前の冗談は笑えねーんだよ……』

 

 つまりアタシにはジョークのセンスがないと言いたいのか? 失敬な奴だ。

 なんかイラついてきたので切ってやろうとしたが、ハリーがなんか言おうとしてるのでやめた。

 

『今度――』

「教えて魔女っ子!」

「……やだ」

『――なんか今ジークと魔女っ子の声が聞こえなかったか?』

「気のせいだ」

 

 ここでバレるわけにはいかない。

 

「で、頼みってなんだよ」

『おおそうだそうだ。今度オレと――』

「お菓子あげるから教えて!」

「…………そんな誘惑には釣られない……っ!」

「気のせいだから早く用件を言え」

『いや気のせいじゃねーだろ!? そっちで何が起きてるんだ!?』

 

 ダメだ。あっけなくバレてしまった。こうなったら適当にはぐらかすしかない。

 とはいえ、やっぱり気が引けるなぁ……ま、それでも言うしかないな。

 

「なにってそりゃお前――修羅場だ。女の戦いとも言う」

『……マジか?』

「マジだ」

『原因は?』

「つまようじ」

『………………は?』

「だから、つまようじの取り合いだよ」

『つまようじが原因で修羅場とか聞いたことねーぞ!?』

 

 安心しろ、アタシも聞いたことないから。

 

「そういうことだから、また今度な」

『あ、ああ……』

 

 とても会話できる状況ではないので頼み事は持ち越しとなった。

 全くお前らは……せっかく金になりそうな頼み事だったのにフイにしやがって。

 

「……少しは落ち着いたら?」

「これが落ち着いてられるんか!?」

「騒いでるのお前だけだから。マジで黙れ」

 

 客人に対して失礼だろうが。普通なら間違いなくそう言われるだろう。

 するとジークは何かを決心したかのような表情になり、アタシとクロにこう告げた。

 

 

「――サッちゃんと寝るのは(ウチ)や!」

 

 

「クロ。今からケーキを作るんだが食べるか?」

「もちろん」

「スルーだけはやめてー!」

 

 聞こえない。アタシたちには何も聞こえない。

 

 

 

 

 

 

 

「コラー! 魔女っ子~!」

「…………なんなの一体」

「もうすぐ晩飯の時間だっつうのにうるせえよ。殺すぞ」

 

 数時間後。買い物から帰ってみるとこの有り様である。まだ言い争ってたのかお前ら。

 ……いや、ジークだけか。クロはなんもしてないしな。

 つーか今度はなんの話題で言い争ってんだ? アタシとクロの関係でないことは確かだけど。

 

「…………サッちゃん、最近なんや口が悪い気がするんやけど?」

「気のせいだ」

 

 いつもこんな感じだから。

 

「タバコあったかな……」

「待って。さらっとタバコ吸おうとしてもあかんよ?」

「お前がうるさいのが悪い」

「……サツキ、これ」

「お、サンキュー」

「鉛筆をあげるような軽さでタバコを渡すのやめーや!?」

「だからうるせえんだよ」

 

 もはやストレスでしかない。……今さらか。よくジークを生かしといたな、アタシ。

 そう思いながら、オイルライターでタバコに火をつける。

 もちろんジークには内緒だが、ビールもきちんと買ってある。

 

「……大丈夫?」

「おう、ありがとな。アタシの心配をしてくれんのはお前だけだ」

「……そうなの?」

「ああ。これはアホだし、家族もそこまで優しくはないんだよ」

「それ関係ないやろ!」

 

 大ありだね。賢くて気遣いのできる奴ならクロみたいな対応ができるんだよ。

 

「クロ、変態。飯はどうする?」

「……任せる」

「おでん――待って。(ウチ)だけ名前で呼ばれてないんやけど!? 今明らかに変態って言うたよな!?」

「クロ。お前が――」

「もうええやろ!?」

 

 そうだな。アタシもそろそろ飽きてきたし。

 

「そんじゃ、今日の晩飯は韓国冷麺にすっか」

「「??」」

 

 あー……そうだ、お前らは知らなかったっけか。あれ結構旨いのになぁ……。

 そういやミッドチルダの料理ってどんなやつがあるんだっけ? 地球産のものばっか食ってたせいで全然わからねえ。

 

「いいか? 韓国冷麺ってのはな――」

 

 ジークとクロに韓国冷麺のなんたるかを教え込み、そのあとは普通にそれを作って食べた。

 なかなか美味しかったよ。クロは喜んでたし、ジークは喉に詰まったとか言ってたし。なんで詰まったのかは全くもってわからんが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでサッちゃん。外にあるはずのないバイクがあったんやけど?」

「ちょっと親切な人から拝借した」

「…………前に来たときはなかった」

「サッちゃん……またやらかしたんか……」

「いつものことだ」

「ようバレへんな……」

「……ある意味凄い」

「今度は自動車でも運転しようと思ってるんだけど……お前らもどうだ?」

「「……………………」」

「なんか言えよ」

 

 

 

 




 次回からいよいよ過去編に突入します。

《今回のNG》TAKE 1

「いいか? 韓国冷麺ってのはな――」
「ちょっと待って。韓国ってなんや?」
「……………………」
「あっ! 痛っ! サッちゃ……っ! ビンタはスリッパでするもんと……っ!」

 少しは空気を読めこのKYが。



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