「がぁ……!」
無限書庫にて、アタシとハリーはタイマンを張ることになった。もう一度言おう、タイマンだ。
とはいっても吹っ掛けたのはアタシだけどな。こんな簡単に乗ってくれるとは思わなかったよ。
今は先制の前蹴りを受けて前屈みになったハリーを見下ろしている。こんな簡単にくたばる奴ならハナからケンカを売ったりはしねえ。
「うらぁっ!」
「おっ……!?」
体勢を整えてから繰り出されたハリーの左拳が頬に直撃する。もちろんこの程度じゃアタシを
けど今のは効いたなぁ。思わず一歩下がっちまったよ。
再び一歩踏み出すと同時に左ジャブをハリーの顔面に連続で打ち込み、回し蹴りを左肩に放ってから距離を取る。
奴はこれを両手で防いだりかわしたりして切り抜けたが、左肩を押さえているところを見ると回し蹴りだけは防げなかったようだ。
「はっ、もうギブアップとか言わねえよな!?」
「勝手に決めてんじゃねーよ! ガンフレイムッ!」
挑発に乗ったのかは知らないが、右手からお得意の砲撃を撃ってきやがった。
当たれば大ダメージ確定だが、直射ということもあって右に逸れるだけで回避できた。
それに今の状態で弾き返すのは得策じゃない。奴にはレッドホークもあるし。
アタシが避けたことに気づいたハリーは魔力弾をマシンガンのごとく撃ってきた。
もちろん逃げはしない。弾幕をかわしつつハリーに詰め寄っていく。
「おっ?」
その矢先、一つの魔力弾が右脚に迫ってきた。これかわせねえぞ……。
あまり触れたくはなかったが、命中するよりはマシなので仕方なくその魔力弾を蹴り返した。
ハリーは顔を驚愕の色に染めつつも蹴り返された魔力弾をかわす。次にその勢いを保ったまま飛び蹴りを繰り出すも両腕でガードされた。
「チッ……!」
「ずいぶんと余裕だなサツキィ!」
「そりゃお前が雑魚だからじゃねえかぁ?」
「誰が雑魚だてめー!?」
「テメエだバカヤロー!」
叫びながら突き出してきた右拳を片手で受け止め、ハイキックを左右ほぼ同時にぶつける。
ハリーは倒れそうになりながらも踏ん張っていた。まさかハイキックが左右同時に来るなんて思いもしなかったはずだしな。
アタシは倒れそうなハリーに掬投をかまし、仰向けに叩きつけたところを一撃踏みつけた。
ちなみに今使った掬投は柔道のやつだ。決して相撲の決まり手の一つである掬い投げではない。
「げほ、げほ……ッ!」
咳き込むハリーから少しだけ離れて一息つく。
右脚が妙に熱いので視線を向けてみると、見事な焼け跡があった。さっき魔力弾を蹴り返した際にできたもので間違いないな。
ていうかズボンに穴が空いたってことじゃねえか。ま、炎熱だから当然か。
それと前々から思っていたことだが、どうしてミッドチルダの連中は打撃オンリーなんだ?
特にグラップリングを使ってる奴とかジークだけじゃん。
「――ブラックホーク!」
「それアタシが知ってるブラックホークと違ぐふっ!?」
アタシの知るそれは確か乗り物の名前だったはず。なのにハリーが打ち込んできたそれはレッドホークに守られた左手での拳打だった。
ヤベェ、顔がめちゃくちゃ熱い。火傷したかのように熱いです。
再びハリーが殴りかかってくるもアタシはこれを頭突きで弾き返し、奴の胸ぐらを掴んでもう一度頭突きをかます。
「よく覚えとけ番長。これが頭突きだ」
前にも言った覚えがある言葉だが、ふらつくハリーには……まあいいだろう。
ふらつきを押さえた奴の蹴りが左肩に直撃するも、アタシはこれを意に介さず再び胸ぐらを掴んで頭突きをお見舞いし、前蹴りで吹っ飛ばした。
ハリーが壁に激突したのを確認してすぐさまドロップキックを繰り出すも、ギリギリのところでかわされた。
「てめーばっか攻撃してんじゃねーよ! 今度はオレの番だっ!」
怒りと笑いが込められたような表情でアタシの懐に右拳を打ち込んできた。次にやはりと言うべきか左拳が顔面に突き刺さる。
なかなか効いたな。それにしても、これだけやっといてレッドホークは使わねえのか。……あれ? もしかしてアタシ、舐めプされてる?
「――こんのガキャァ!」
「っ!?」
ちょっぴりキレたアタシはお返しに魔力の衝撃波を投げつけるような感じで放つ。
続いて右のハイキックを繰り出し、顔面を左拳で殴り飛ばす。ハイキックはガードされたが、拳はドンピシャで食らわすことができた。
ハリーは膝をつきながらも、右の手のひらの上にいくつか魔力弾を生成していた。
「おりゃあ――っ!」
そしてその魔力弾をアタシ目掛けて投げるように発射してきた。アタシはこれを弾いたりせず、必要最低限の動きでかわす。
別に弾いてもいいんだけど……距離が近い分、その隙をつかれる確率が高い。いや、どっちもどっちか?
全ての魔力弾を回避したアタシは右の跳び回し蹴りを奴の顔面目掛けて繰り出し、次にそのまま回転して左の跳び後ろ回し蹴りをぶつける。
完全に不意をつかれたハリーはこれをモロに食らい、見事にぶっ倒れた。
「ほら、早く立てよ」
「……上等だっ!!」
ハリーは起き上がると、プライムマッチで使っていたバーストバレットの4連発をアタシの懐にかましてきた。クソッ、さっきのよりも熱いな。
それを受けきってからすぐに左の肘打ち二発と右拳をハリーの顔面に打ち込み、その勢いを保ったまま回し蹴りを懐に放った。さすがに拳は防がれたが、それ以外は食らったようだな。
あーあ……また燃えちまったじゃねえかコノヤロー。お腹が冷えたらどうすんだよ。……後でルーテシアからタオルか毛布でももらおうかな。
「なに寝てんだコラ」
倒れていたハリーの頭を両手でしっかりと固定し、膝蹴りをぶつける。もちろん一発で終わらせはしない。
そのあと顔面に三発、懐に二発ほど膝蹴りをかまし、トドメに右のアッパーを打ち込んだ。
「……ナ、メんなっ!」
「ぐっ……!?」
が、それでもハリーは立ち上がって殴りかかってきた。今の確実に入ったはずなんだが……少し詰めが甘かったか。
ストラトスのときと同じ課題だなこれ。ちょっと反省した方がいいかも。
「は~……あのさ、そろそろ終わらせてもいいか?」
「どういう、意味だよ……!」
よろめくハリーにラリアットをかまし、それに続く形でアタシもわざと体勢を崩して倒れ込み、エルボー・ドロップを食らわせてから一言。
「こういうことだよ」
《今回のNG》TAKE 57
「は~……あのさ、まだ気づいてないのか?」
「どういう、意味だよ……!」
「いや、その……さらし破けて丸見えになってんぞ」
「へ? ――●◇☆*×#♪↑▼□◎!?」
なんつーか……シェベルが言ってた眼福の良さってのがなんとなくわかった気がする。