死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第53話「浴場にとつげきー!」

「ヤバイ、結構なタイムロスだ」

〈マスター、急いでください。試合に動きがあったようです〉

「そんなもん歓声でわかるわ」

 

 トイレから戻っている途中なのだが、どうも試合に動きがあったらしい。

 さっきからジョギング感覚で走ってはいるが、観客席まで意外と距離があるから困る。

 

「よし、出口だ」

 

 やっと観客席に出られたよ。しかしハリーたちのいる場所からはちょっと遠いな。

 早く戻りたいってのに階段を降りなきゃならんとか骨が折れる。

 

「試合はどうな……って……」

 

 リングの方を見てみると、まるで削り取ったかのような痕があった。それもかなり大きいやつ。

 とうとうガイストを使いやがったか。相変わらずえげつねえ破壊力だな。

 

「クソッ、こうしてる間にも時間が……ええい、しゃらくせえ!」

 

 ちょっとイラついたのでハリーたちがいるであろう場所に向かってジャンプした。そして……

 

 

 ――ズドォンッ

 

 

 という音と共にさっきまでアタシが座っていた席の前へ着地した。

 ……よし、クレーターはできていない。どうやら成功のようだな。

 

「さ、サツキ!? お前今どこから降ってきたんだ!?」

「そんなことはどうでもいい。試合はどうなってるんだ?」

「ジークがエレミアの神髄を発動しましたの」

「果てしなくわかりやすい説明をありがとう」

 

 別にジークの状態を聞いたわけではないが、そのキーワードだけで状況は掴める。

 要はストラトスが命に関わるほどの攻撃をジークに食らわせたのだろう。それによりエレミアの神髄が発動した。それだけだ。問題は……

 

「ストラトスの奴、生きて帰れるんかねぇ?」

「お前、めちゃくちゃどうでもよさそうだな」

「そうか? これでも心配してる方なんだが……」

「あ、あのサツキが誰かを心配するなんて……!」

「あり得ねえ……!」

「テメエら後でヤキ入れな。それに今のは嘘だ」

 

 そんな会話をしているうちにも、ジークはストラトスに容赦なく拳を打ち込んでいく。

 ただの拳ならまだしも、消し飛ばす魔法であるイレイザーをまとったそれは強力だもんなぁ。

 そしてフィニッシュと言わんばかりに大技をかまそうと――

 

「あの馬鹿! あんな大技をかましたらまた……!」

「ジ――――クッ!!」

 

 ――したところでストラトスがギリギリでかわし、大事には至らなかった。

 

「……戻ってるか?」

「ええ」

「…………あ、戻ったのね」

 

 なんだ、もう終わりか? と言おうとしたが空気的に厳しそうなのでやめておいた。いくらアタシでも空気を読むぐらいはできるってんだ。

 ストラトスは満身創痍ながら最後の力を振り絞ったであろう右拳を放つも、ジークはそれを左拳で迎え撃ち、その隙に空いていた右拳をストラトスに打ち込んだ。

 当然それを食らったストラトスは倒れ、試合はジークの勝ちで終了した。

 

「ったく、ヒヤヒヤさせやがって」

「そうか?」

「お前はもう少し緊張感を持て」

「緊張感? 何それ食えんの?」

 

 お前らは緊張し過ぎなんだよ。

 

「…………」

「どこに行くのかしら?」

「ちょっと野暮用があってな」

「「「野暮用?」」」

「別にいいだろ。じゃあな」

「……待てよ。オレも行く」

 

 そんなわけで、アタシとハリーは観客席を後にした。――目指すはジークだコノヤロー。

 

 

 

 

 

 

 

「よっ! 邪魔するぜ!」

「ば、番長!?」

「あのさジーク、サツキを見なかったか?」

「え、サッちゃんもおるん!?」

「遅えぞハリー」

「お前が早すぎるんだよ……」

「………………ほ、本物!?」

「…………」

「あっ! 痛っ! サッちゃ……っ! ビンタは手刀でするもんと……っ!」

「サツキ抑えろ! 頼むから今は抑えてくれ!」

 

 あれから時間は経って浴場なう。ジークに偽物扱いされちまったんで、その対処をしてやった。

 そして今は全員湯船に浸かっており、ハリーがジークを諭している最中だ。

 

「お前はいずれオレらが倒す相手だし、お前の『鉄腕』も隠し球も、全部含めてのお前を倒すつもりでいるんだ」

「…………」

「私もそう思うよ。まあ、自分を倒した相手が強い選手であってほしいというのも理由の一つだけどね」

「サッちゃんの次はミカさん……!?」

「油断したな。もうミカ姉の間合いだぜ」

「つーかあれ……」

 

 晴嵐? いや、いくらシェベルでも風呂場に持ち込むなんてことはしないはず。

 となればあれは練習刀かなんかだろう。それを殺気で隠しているのか。

 斬りかかろうとしたシェベルにジークはエレミアの神髄を発動させ、迫ってくるそれを弾いた。

 

「……練習刀?」

「だろうな」

「さすがに風呂場で真剣を振るったりはしないよ」

 

 ジークが弾いたのは予想通り、練習刀だった。

 当のジークは殺気でわかってなかったみたいだがな。そういうところも相変わらずか。

 

「全てを出しきった状態の君を超えて、次は必ず自分が勝つ。君と戦って負けた人は皆そう思っているはずだよ。選手なら負傷は覚悟の上だしね」

「…………」

「ハリー、こっち見んな」

 

 シェベルはかつて破壊されたらしい右手首を振りながら、今の言葉に偽りはないということを笑顔で語っていた。

 そんな中、アタシはハリーにジト目で睨まれた。……いやなんで?

 

「ちなみにそれは回復完了のお披露目だと思ってくれていい」

「へ? ……あ――!!」

「おおっ! 見ろよサツキ!」

「はいはい、とりあえずお前は落ち着こうか」

 

 アイツが居候になってから風呂で何回も目にしているジークの裸体が、バスタオルを斬られたことにより露となっていた。

 スタイル抜群とまではいかないが、ハリーといい勝負ができる体つきだろう。

 まあ、そんなジークの裸体をアタシは何度も見ちゃってるからなぁ……風呂で。

 

「サツキ。なんかお前をシバきたくなったんだが」

「ほう。なら今ここでやるか?」

「二人とも。さすがに風呂場で暴れるのはやめた方がいいよ」

「大丈夫。動くもの以外は攻撃しないから」

「そういう問題じゃない」

 

 説得は失敗に終わってしまった。暴れるのはまたお預けだな。

 

「サツキ。このあとお前はどーすんだ? オレらはジークと覇王娘の話に参加するけど」

「帰るに決まってんだろ」

 

 そんなのに参加してなんの得があるんだよ。

 

「そんじゃ、またいつか」

「もう二度と会えないみたいに言うな」

 

 そこは気にしたら負けだ。家に帰ったらビールでも飲むかねえ。

 久々に一人でゆっくりできそうだ。あとタバコも吸おう。最近吸ってなかった気がするし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サッちゃんにも参加してほしかったんやけど……」

「じゃあなんでそう言わねーんだよ」

「言うたところで断られるのは目に見えてるから……」

「まあな。普通に言っても酷いときはスルーされるし」

「うー……なんとかして参加させたいんよ!」

「なんでそこまでこだわるんだ?」

「そ、それは……」

「……そこまで言うのならオレに考えがある」

「考え?」

「ああ。ただし、失敗すれば殺されるぞ? それでもいいのか?」

「平気。それくらい日常茶飯事なんよ」

「お前の身に何があったのか詳しく知りたいんだが」

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 8

「サッちゃんにも参加してほしかったやけど……」
「じゃあなんでそう言わねーんだよ」
「言うたところでご飯を抜かれるのは目に見えとるから……」
「待て。なんかおかしいところがあったぞ」
「え?」
「ご飯を抜かれるってどういうことだ?」
「ごめんや。これ言うたら(ウチ)の命が危ないんよ」
「ちょっと待ってろ。サツキと話してくる」
「あ、番長! 行ったらあか――」



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