死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第47話「玉砕しろ、ジーク!」

「…………誰?」

「そっちこそ誰や……?」

 

 なんか居候と癒しが対面してしまったが……そうだ、話をしよう。

 あれは確か4、5年前ほどのこと。不良デビューして1年経った頃だ。アタシはいつものようにケンカをしてからジュースを買おうと近くにあった自動販売機に立ち寄った。

 とりあえず冷たいやつが飲みたかったのだが、どういうわけかその自販機には熱いのしかなかった。いや、あるにはあったのだが値段が160円のやつしかなかった。アタシは思わず某総統閣下みたく「ちくしょうめぇぇぇぇ!!」って叫んじゃったよ、うん。

 だって財布には200円しか入ってなかったんだから。こういうのはさ、160円ぴったしで払いたいじゃん? なのにここで200円を使うと40円のお釣りが出る。なんか中途半端でイヤじゃん? もっかい言うけどこういうのはやっぱり160円ちょうどで払いたいじゃん? なのに財布の中には200円しかないんだぜ?

 ……アウトだバカヤロー。納得がいかなかったから自販機の下とか周辺とかを探しまくったよ。そしたら上級生っぽいクソガキが三人ほどやってきたのよ。リーダー格らしい爽やか(笑)な奴は子分たちに自慢話ばっかりしてたね。傍から聞いてもわかるほどの捏造話をさ。だから聞いてるこっちはイライラしてきたんだよね。おいテメエこっちは必死になって60円を探してるっつーのにくだらねえこと話してんじゃねえぞコノヤロー。そこでアタシは思いついたんだ。

 

 

 そうだ、()()調()()しよう。

 

 

 さっそくアタシはその三人に声をかけ、勇気を出して、できるだけ優しくこう言ったんだ。「にーちゃん、有り金全部ちょーだいっ!」って。それなのに向こうは嘲笑しやがったんだよ。これにはいつも超笑顔なアタシもムカついたね。だから不本意とはいえ実力行使に――

 

 

〈マスター!! あることないこと考えてないでさっさと現実に戻ってきてください!!〉

 

 

「――はっ!?」

 

 なんだ!? アルマゲドンか!?

 

「…………あれ?」

 

 あれ? アタシは何をしてたんだっけ……あ、そうだそうだ。確かジークとクロが対面してしまったんだっけか。

 それにしても静かだな。二人は睨み合って動こうともしな――ん?

 

「なんだあれ?」

 

 ジークの方を見ると、なぜか奴は仮面ラ○ダーのお面を被っていた。しかも初代の。

 そのおかげ? いやそのせいか? まあいい。それにより奴の素顔は見えない状態にある。

 なるほど、どうりでクロが大人しいわけだ。顔が見えてないから。ていうか震えてんぞコイツ。

 

「へ、変人……!」

「誰が変人や!?」

 

 いや、クロの言う通り今のお前は一般人から見ても変態だぞ。なんせお面を被った知らない人が家にいるのだから。……決してパンツではない。

 どうやらクロの感性は一般人だったようで、震えながらもジークを睨みつけていた。

 とはいえ、そのお面を取ってしまえば今度こそ我が家がお星様になってしまう。

 

「あっ! 後ろに黒ツヤが!」

「ひゃっ!?」

 

 よし、ジークが後ろを振り向いた今のうちに……!

 

 

 ダッ(クロを抱えて部屋に直行する音)

 

 ポイッ(クロを部屋に投げ込む音)

 

 ダッ(部屋から元の位置に戻る音)

 

 

 この間、わずか一秒未満である。

 

「……おい、嘘だから安心しろ」

「また(ウチ)を騙したんか!?」

 

 いや、今回は騙したというよりお前の気をクロから逸らすための策なんだけどね。

 まあ本人がそう思っているなら別にいいか。バレさえしなければ問題はないし。

 

「悪い悪い」

「…………あれ? 幼女がおらへんよ?」

「幼女? そんなのいたか?」

 

 とりあえずクロは元々存在しなかったことにしておく。でないと後々めんどくさいからな。

 ジークはアタシの返答に納得がいかなかったのか、辺りを見回していた。

 

「………………何を探してるんだ?」

「幼女に決まってるやろ」

「その発言、聞き方次第じゃ犯罪のそれにしか聞こえねえぞ」

(ウチ)にそんな趣味はないんやけど!?」

「ないのか!?」

「ないよ!?」

 

 チッ、せっかく通報してやろうと思ったのに。

 

「……サッちゃん、なんか(ウチ)に隠してへんか?」

「アタシがお前に隠し事をしたことがあったか?」

「めっちゃしとった気が――」

「お姉ちゃん……」

「――い、今なんて言うた……?」

 

 お姉ちゃんって言ったんだけど……ダメだったか? 年齢的には間違ってないはずだが。

 よし、一気に仕留める。アタシはジークからお面を奪い取ると同時にしがみつき、少ししゃがむことでクーデレの上目遣いを再現する。

 いくらアタシでも涙目は無理だからな。ジークの顔を見てみると、見事な茹で蛸が出来上がっていた。

 

「さ、サッちゃん……!? どないしたん!?」

「お姉ちゃん――」

 

 玉砕しろ、ジーク!

 

 

「――い、一緒に寝よ……?(※サツキ)」

「☆●◆♪◎×@*%▽□!?!?(ブシャァァア)」

 

 

 うわぁ……。こういう反応が返ってくることは予想できてたけどまさか鼻血を噴水のように出すとはな。

 完膚なきまでに散ったジークは血溜まりを残してその場にぶっ倒れた。

 どうすんだよこれ。掃除がめっちゃ大変じゃねえかこんちくしょう。

 

「…………終わったぞ」

「……なんだったの?」

「どうやら変態だったらしい」

 

 とりあえずクロにも嘘をついておく。あれはエレミアの子孫ではなくジークという名の変態だということにしておこう。

 このあとアタシはクロを家まで送り届け、ジークのせいで汚れた床の掃除に励んだ。

 ちなみにジークはアタシが寝る前に一度だけ起きたが、貧血だったのかすぐに眠っちまったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サッちゃん……」

「どうした?」

「昨日おった幼女はなんやったと思う?」

「お前まだそんなこと言ってんのかよ」

「確かにおったんよ!」

「気のせいだろ」

「気のせいやないって! おったのは間違いないんよ!」

「だとしたらソイツは幽霊だな」

「ゆ、幽霊……?」

「おう。あの死んだ人が成仏できずに現世に留まってしまった存在だよ」

「う、(ウチ)はいつから霊能者になったんや……!?」

「……………………いや、今回はたまたまだったのかもしれないぞ?」

「たまたまで幽霊なんて見えるんか……?」

「そういうこともあるんだよ。――多分」

「それとなんや一部だけ記憶がなくなってるんよ」

「…………そうか」

 

 

 

 




《今回のNG》


※サツキが疲労のあまり寝込んでしまったのでお休みします。



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