死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第46話「これはヤヴァイ……!」

「試合、どうだった?」

「……とりあえず勝った」

 

 リナルディ対シェベルの試合から数時間後。アタシはクロと合流して近くにあったスーパーで晩飯の材料を買っている。

 ちなみに試合は二つとも秒殺でクリアしたよ。説明する必要もねえや。

 

「……サツキ」

「どうした?」

「なんでこのシフォンケーキ、こんなに高いの……!?」

「どれどれ……」

「シフォンケーキだけじゃない……! ホットケーキやロールケーキも同じように――」

 

 少し怒りながらなんか語り出したクロから差し出されたシフォンケーキの値段表を見てみる。

 ……マジかよ。いつも行っているスーパーのやつよりも10倍は高いじゃんこれ。

 どうりで違和感あったわけだ。他の商品を見てみると、やはり高価なものばかりだった。

 

「明らかにぼったくってるな……」

「…………告訴しよう」

「やめろ恥ずかしい」

 

 それに何より、ひたすらめんどい。

 

「ソイツは諦めろ。今度アタシが作ってやるから」

「……わかった」

 

 クロは少しだけ目を輝かせるとシフォンケーキがあったであろう場所へと走っていった。

 子供は風の子っていうけどあながち間違いでもねえな。

 そんなことを考えていると、クロが今度はショートケーキを持ってきた。

 テメエ値段が高いとかケチつけときながら別のケーキ持ってきてんじゃねえぞコノヤロー。

 

「これは安い……!」

「うん。だから?」

「そ、その……! か……か……!」

「か?」

 

 なんだ? 風邪でも引いたのか?

 

「買………………………………ってください」

「悪いクロ。間が長すぎてわからなかった」

 

 さすがのアタシもこれには驚いた。いくら口下手といってもこれは長い。

 まあ、これもこれでクロなりに勇気を出して言ったんだろうが……わからなかったよ。

 

「とりあえず、それを買ってほしいんだな」

「…………矛盾してる」

「えっ」

「え」

 

 え?

 

 

 ――数十分後――

 

 

「うはー、買った買った」

「……いつもより多い」

「今後の分も買ってあるからな」

 

 あれからアタシとクロはとにかく買いまくった。野菜やらお肉やらお魚やらと。

 それに加えてクロ希望のショートケーキ二箱分。さりげなく多い件について。

 クロはそれを持ちながらスキップしている。落とすなよ、頼むから。

 

「このあとどうする?」

「鍋……! 鍋……!」

「いやなんで鍋? もう晩飯の材料は――」

「鍋ぇ……!!」

「はいはい。とりあえず落ち着け」

 

 かなり興奮しているのか、スキップしながら無表情で鍋を連呼してきた。

 なんの鍋かは知らんが懐かしいな。最近は全くやってなかったし。

 何鍋にしようかな? ちゃんこ鍋か? すき焼きか? 餃子鍋か? あんこう鍋か?

 

「……闇鍋がいい」

「ダメだ」

 

 それだけは絶対にダメだ。

 

「……どうして?」

「想像してみろ。何も見えない真っ暗な部屋にて、お前を含めた数人の若者が鍋を囲っているところを」

「…………むぅ」

 

 何を思ったのかは知らんが、とりあえず想像したらしいクロはなんとも言えない表情になった。

 いやいや、そこは普通に苦虫を噛んだような表情になるべきだろ。

 闇鍋はハリーたちと何度かやったことがある。アタシはとにかくタバスコや砂糖をブチ込んでたっけ。そんでそれを食べたハリーたちが悶えていたのはマジでおもしろかった。

 ちなみにアタシも食べたがそこは気合いで堪えた。人を笑っといて自分が倒れるとか普通に恥ずかしいからな。

 

「ま、今回はしゃぶしゃぶにすっかぁ」

「……何それ?」

「あ? んー……薄く切った肉を鍋にブチ込む料理だ」

「…………雑すぎる」

 

 否定はしない。

 

 

 

 

 

 

 

「なんか荷物増えたんだけど……」

「……頑張って」

 

 さらに数十分後。鍋はしゃぶしゃぶに決定したので、いつものスーパーで材料を買い占めた。

 その結果、アタシはさっき買った分に加えクソでけえ袋を片手に二つずつ、合計四つも持つはめになっちまった。

 クロもクロでさっきの箱に加え、モンブランが入った箱を持っている。

 偶然とはいえ、事前に()()調()()しといてホントによかった……。

 

「バイト代だけだったら絶対に足りなかった」

「…………そのバイト代はどうしてるの?」

「家賃その他諸々」

「……把握」

 

 どこで覚えたんだそんな言葉。

 

「……着いた」

「そだな」

 

 なんだかんだと話しているうちに着いたみたいだ。

 アタシは扉を開けようとするが……ヤバイ。手が塞がっていてドアノブに触れられない。

 

「…………(ガチャッ)」

「お、サンキュー」

 

 アタシが仕方なく袋を置こうとしたらクロがドアを開けてくれた。

 こういうときの人手はホントに便利だよな。クロ本人は早くケーキを食べたいのか、いつもより若干早歩きでリビングへと直行していった。

 

「そんじゃアタシも……」

 

 さっそく自分の部屋へ戻り、まずはこっそり買ってきたビールをお手製の道具箱に隠す。

 次にこれまたこっそり買ってきたタバコを上着のポケットに仕舞う。

 後はライターのオイルとマッチだな。うん、オイル以外はタバコと同じ場所にでも仕舞っとこう。

 よし、ざっとこんなもんかな。別に堂々と出してもいいけどジークがいると没収されるんだよ。

 

「…………ジーク?」

 

 ここでアタシは思い出す。今、アタシの家にはジークリンデ・エレミアという居候がいる。

 クロことファビア・クロゼルグはベルカ時代にいた魔女の末裔で同時代に存在したエレミアと覇王と聖王の末裔に恨みを持っている。

 居候であるジークリンデ・エレミアは黒のエレミアの後継者、つまりエレミアの末裔であること。

 よってコイツらとクロを会わせてしまうと面倒事しか起きないという――

 

 

『あれ? なんで幼女がおるんや?』

 

 

 ――マズイぞ非常にマズイぞこりゃ。まさに最悪の事態じゃねえかコノヤロー!

 事の重大さも思い出したアタシはすぐさま部屋から飛び出し、リビングへと直行する。

 なぜアタシがクロの私情を知ってるかというと、クロ自身がさりげなく話してくれたからだ。

 そしてそれを知ったアタシはできるだけソイツらとクロを会わせないようにしていた。

 まあ、ヴィヴィオを除くソイツらとは今年知り合ったばっかだけど。

 って、そんなこと考えてる場合じゃねえ! 早くしないとこの家がお星様になって……!

 

「っと!」

「あ、サッちゃん!?」

「…………サツキ!?」

「……………………」

 

 どうする? どうすんのアタシ!?

 

 

 

 




 活動報告にて過去編に関するアンケートをしているので、協力してくれると助かります。

《今回のNG》TAKE 1954

「いやなんで鍋? もう晩飯の材料は――」
「なビぇッ!」


「…………………………ぐすっ!」
「……………………」

 まさか泣くとは思わなかった。



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