死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第42話「さらばチビデコ」

「チャンピオン?」

「え、どこどこ?」

「本当だ! 2階席のあそこ!」

「一昨年の世界戦優勝者! ジークリンデ・エレミア選手!」

「それに去年の都市本戦2・3・5・8位の上位選手が揃い踏みっ!」

「でも……なんでハリー選手たちはバインドされてるんだろう?」

「……なんでだろ?」

「それにサツキさんが……なんていうか……」

「見てるこっちが怖いよ……」

「ヤバイ。キレちゃってる、姉さんモロにキレちゃってるよ……」

 

 

 

 

 

 

 

「ま、ここは大人しく退散すっか(パキィッ)」

「嘘っ!?」

「まったくよ。どうしてあなたと会うといつもこうなるのかしら(パキィッ)」

「そんな簡単に!?」

「………………めんどくせえ(パキィッ)」

「この人に至っては魔法なしで!?」

 

 とりあえず四肢に掛けられたバインドを力ずくで引きちぎる。

 よく考えたらこの程度なんてことねえわ。

 ちなみにさっき下からヴィヴィオたちの声が聞こえたがそんなもんはどうでもいい。

 

「さ、サッちゃん? (ウチ)のジャンクフード勝手に食べるのやめてくれへん?」

「いいじゃねえか別に。お前だってよくアタシのお菓子食うじゃん」

 

 そのせいでどんだけお気に入りのお菓子が犠牲になってることか。

 アタシの分だけでなくクロの分まで犠牲になってるからな。

 

「それでもあかんよ~!」

「やかましい。これでもアタシなりに抑えてるんだ」

「何を抑えてるのかわからへんよ……」

 

 しかも今、かなりイライラしてるからな。下手すればジークに矛先が向くかもしれない。

 いや、周りにいる連中全員に矛先が向いても不思議じゃない。

 

「お、そういやアホのエルス」

「誰が『アホの』ですっ!?」

 

 お前だよお前。

 

「あと私は年上! できれば敬語!」

「うるせえよアホ」

「黙れデコ」

「誰がデコですか!?」

 

 だからお前だよチビデコ。

 

「お前とオレは同じ組だからよ、楽しくやろうぜ」

「去年の雪辱、果たしますからね」

 

 そういやコイツら、去年当たってたな。今まで忘れてたわ。

 そもそもアタシには関係ないんだよね。試合で当たらない限りは。

 

「おうよ。やれるといいなぁ。――それまでに生きていればの話だが」

「へ? それはどういう……」

「話は終わったか?」

「………………お、おう」

 

 やっとバトンタッチしてくれたよ。ホントに待ちくたびれたぜ。

 アタシは首と拳を鳴らしながらタスミンことチビデコと向き合う。

 今のアタシは泣く子も黙るほど綺麗な笑顔を浮かべているに違いない。

 

「おいチビデコ」

「チビデコじゃありません!」

「どうでもいい。さっそく一つ質問がある」

「な、なんでしょう?」

 

 そんじゃ、最後まで付き合ってもらうぜ?

 

「なんでバインド掛けた? アタシ、なんもしてなかったんだけど」

「あ……て、てっきりケンカしてるのかと思いまして――」

「オーケー。遺言はそれだけか?」

「待ってください。さらっと私の死が確定しているのですが」

 

 そりゃそうだろ。テメエは半殺し決定なんだから。

 むしろ全殺しでないだけマシだと思ってほしいくらいだ。

 

「ジーク、先帰ってろ。ヴィクター、見送りは任せる」

「え、ええ……」

「や、やり過ぎたらあかんよ……?」

「大丈夫だ。死なない程度にするから」

「遺言と言った時点でその言葉は信用できないのですが!? というか皆さん止めてくださいよっ!」

「わ、私はまだ死にたくないので……」

「悪いがオレもだ……」

「右に同じや……」

「一体何があったんですか!?」

 

 さすがに死んだら洒落にならん。まあ、アタシとしては問題ないが社会的にアウトだ。

 よしよし、どうやって料理してやろうかな。タコ殴りか? 頭突きか? 踏みつけか?

 

「さて、こいチビデコ」

「え、ちょ、待っ――」

 

 このあとどうなったかは想像に任せる。

 だけどアタシが言えることはただ一つ――タスミン、お前のことは多分忘れない。少なくとも三分くらいは。いや、一分ほどでいいか?

 

 

 

 

 

 

 

「ここにいたか」

「……思ったより早かったわね」

 

 あれから数十分後、アタシはヴィクターと合流した。ジークは……いないな。

 チッ、アイツのジャンクフードをもう少しだけ食べてやろうと思ったのに。

 

「一応聞くが、ジークは?」

「ついさっき帰ったわよ」

 

 どうやら遅かったらしい。

 

「……不安か?」

「ええ、多少は」

 

 いや、雰囲気で多少どころじゃないってのが丸わかりだぞ。そんなに心配かよ。

 まあ、親馬鹿でない分だけマシ……いや、もうダメなくらいには親馬鹿だったなコイツ。

 

「あなたはどうするの?」

「そうだなぁ……買い物と用事を済ませてから帰るよ」

 

 タバコとビールを買って、あとは喧嘩三昧といこうか。

 とはいっても最近は雑魚しかいないわけだが。

 

「どうしてかしら。今すぐあなたを止めなければならないような気がしたのだけど」

「気のせいだ」

 

 コイツもコイツで鋭いな。

 

「じゃあな」

「ええ。また都市本戦で戦いましょう」

「……当たればな」

 

 

 

 

 

 

 

「ぐほっ!」

「はいお疲れー」

 

 数時間後。アタシは珍しく日中からケンカをしていた。夜じゃなきゃしないとでも思ったか?

 ケンカができるなら時間や場所は問わねえんだよ。――いや、場所は問うか。

 今回も相手は集団である。強者の一匹狼はいねえのか。地球の連中みたいにさ。

 

「えーっと……こんだけか」

〈もうやめません?〉

「やめねえ――」

「このガキィ!」

「よっと」

「がぁっ!?」

 

 まだいたのか。思わずストマックブローを使ってしまったぞ。なんの問題もないけどな。

 アタシは倒れたソイツをひたすら踏みつけ、最後に思いっきり蹴飛ばした。

 

「どうせなら正面からこいよ」

〈どっちにしても同じ結果になりそうなんですが……〉

 

 そんなことは気にしない。

 

〈マスター。そろそろずらかりましょう〉

「そうだな」

 

 最低限の資金は手に入った。もうコイツらに用はない。

 一服しつつも裏路地から離脱し、周りを見渡す。ホントに今日は誰もいねえな。

 

〈ずっと聞きたかったのですが、ケンカの何が楽しいんですか?〉

「そんなもん、やってみなきゃわかんねえよ」

 

 これは言葉じゃ語れない。むしろ語る方がおかしいかもしれない。

 

「早く帰らねえと、ジークがなんかやらかしそうだ」

〈そうでしょうか?〉

「ああ。こないだはお菓子を探すためだけにアタシの部屋を漁ってたしな」

〈そのせいで下着とか散らかってましたね~〉

「下着を被ったり臭いを嗅いだりしてたわけじゃねえから軽い罰で許してやったけどな」

〈…………軽い罰ってなんでしょうね〉

 

 軽い罰は軽い罰だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 今日も良い汗掻いたな。疲れたけど。帰ったらシャワーでも浴びるか。

 とまあ、そんな感じでアタシは帰路につくのだった。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 4

「チャンピオン?」
「え、どこどこ?」
「本当だ! 2階席のあそこ!」
「一昨年の世界戦優勝者! ジークリンデ・エレミア選手!」
「それに去年の都市本戦2・3・5・8位の上位選手が揃い踏みっ!」
「でも……なんでハリー選手たちはバインドされてるんだろう?」
「……なんでだろ?」
「それにサツキさんが……なんていうか……」
「見てるこっちが怖いよ……」
「ヤバイ。キレちゃってる、姉さんモロにキレちゃってるよ……」










「うぅ…………っ!」
「あ、アインハルトさんっ!?」
「なんで泣いてるんですか!?」
「私だけ、セリフがありません……っ!」
「あ……」
「け、けど出番はあった――」
「それらしい描写もありません……っ!」
「あぁっ!? このままだとアインハルトさんが大泣きしちゃう!?」
「大丈夫ですよアインハルトさん! 次がありますよきっと!」
「イツキさんっ! なんとかしてください!」
「無茶言うなよ!?」
「うぅ………………っ!」
「は、早くしないと大泣きしてしまいます!」
「だから無茶言うな――」
「ぐすっ……!」
「ああもう! 泣くなアイちゃん! テメエチームの最年長だろうがぁああああああ――っ!!」



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