死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第40話「そんな偶然あってたまるか」

「サッちゃんって予選何組なん?」

「あ? えーと……3組のトップシードだ」

 

 選考会まであと数日。アタシとジークは朝食を食べていた。

 やっぱり和食は最高です。まあ、洋食も悪くないけどな。

 

「そうなん……」

「なんだよ? 初っぱなからアタシとやりたかったのか?」

「それはごめんや。サッちゃんと当たるのは都市本戦がええんよ」

 

 アタシとしてもそれには賛成だ。いきなり頂上決戦はおもしろくない。

 でも本戦でいきなり当たるってならそれはそれでいいけどな。

 

「だよなぁ。つーか都市本戦に出なきゃ当たんねえよ」

「やり過ぎたらあかんよ?」

「…………」

 

 マズイ。シェベルだけでなくジークにも知られていたのか。

 アタシが対戦相手に必要以上の攻撃を加えてよくエミュレートを越えそうになるのを。

 いや、都市本戦だと普通に越えてたっけ。多分そんな気がする。

 

「それは約束できねえな」

「なんでなん……?」

「一瞬の気の緩みが命取りだからだ」

 

 実際、コイツとの戦いはまさに死闘といっても過言じゃなかったし。

 だからこそ楽しかったんだよ。――あの一悶着さえなければ。

 

「…………試合とサッちゃんの言うケンカは違うんよ?」

「否定はしない」

 

 だけどその言葉、戦闘民族じみたエレミアの子孫であるお前には言われたくなかったな。

 

「はぁ……ちょっと話をしてやる」

「話?」

 

 あんまり言いたくはなかったが……コイツはアタシが死戦女神だってことを知ってるから問題はない。

 まあ、ぶっちゃけ今から話すことは死戦女神とはなんの関係もないがな。

 

「昔、怪我で入院したことがあってな――」

「入院!? どーゆーことや!?」

 

 おい、まだ話し始めたばっかだぞ。いきなり話の腰を折られては困る。

 

「人の話は最後まで聞くもんだぞ?」

「あっ……」

「まあいい。そこまで重傷じゃなかったから傷口自体は三日ほどで塞がり、無事に退院したところまではよかったんだが――」

 

 あれは良くも悪くも貴重な経験になった。これがアタシの歩む世界、姉貴のいる世界なんだってことを存分に思い知らされたからな。

 

「――怪我が完治する前に闇討ちを受けたよ。もちろん返り討ちにしたけどまた傷口が広がって病院へUターンだ」

 

 決して忘れられない当時の記憶。今でもそれは鮮明に覚えている。

 小学生だからそんなことはないと思っていた。でもあったんだよ。

 

「そ、そんなことが……」

「あったんだよ実際に。ベルカ時代じゃそういう闇討ちはなかったのか?」

 

 そのときはまだ経験が浅いということもあって今よりも暴れていたからな。

 おそらくどっかでケンカを売る相手を間違えたに違いない。

 それに不良がそこまでするなんて思いもしなかった。侮っていたアタシの失態だわ。

 

「前に何度か言うたけど、個人の記憶はほとんど残ってへんのよ……」

「チッ、役立たずが」

「サッちゃん酷い!?」

 

 そうだった。コイツが受け継いでいるのは戦闘経験だけだったわ。

 果てしなく気に入らないがなんて都合がいいんだこんちくしょう!

 

「とにかく、アタシが歩んできたのはそういう世界だ」

 

 ケンカに試合のようなルールはない。

 正攻法じゃ勝てないからよく武器を使ったり卑怯な手段を使う奴がいる。

 これが試合なら反則になったりするけど、それはルールがあるからだ。

 

「だから一瞬の気の緩みは命取りなんだよ」

「それはそやけど、でも……!」

「言いたいことがあるならプレイで示せ。まあなんにせよ――」

 

 毎回こうして釘を刺さなければならないのがコイツらのめんどくさいところだ。

 

「――アタシに勝ってから言うんだな」

「っ!」

 

 とりあえず威圧でジークを黙らせる。大会が近い以上、お前らの戯言なんざ聞いてらんねえよ。

 それに言葉だけなら誰でもいくらだって言える。そういう奴も見てきたしな。

 

「お前らがアタシと相容れることは決してないからな。立場的な意味では」

「それは…………」

 

 アタシたちはいわば誠実と不誠実の関係。常に対極であってナンボだろうが。

 

「ま、そんなことよりご飯だご飯」

「…………やらへんよ?」

「いらねえよ」

 

 なんでアタシがお前の食べかけを食わなきゃならんのだ。アホか。

 ていうかジーク、テメエは何を食ってやがるんだ?

 

「いやご飯前になにお菓子食ってんのお前?」

「これ? サッちゃんの部屋にあったやつなんよ」

「待て。それはアタシのお気に入りなんだが?」

(ウチ)の物は(ウチ)の物、サッちゃんの物も(ウチ)の物や!」

 

 

 ゴキッ ゴキン

 

 

「―――っっ!?」

「どうした? 急に涙目になって」

 

 一体どうしたというんだ……?

 

「当たり前のように(ウチ)の右手の関節を外してからまたハメ直すのやめてくれへん!? めっちゃ痛いんやけど!?」

「天罰だと思え」

「ひ、開き直った……!?」

 

 アタシは理由もなしに相手を痛めつけたりはしない。ケンカだと話は別だが。

 最近の奴は武器と数で物を言わせてるからな。こっちもたまに鉄パイプを使ったりする。

 

「やっぱお前といるとろくなことがねえわ」

 

 食料は犠牲になるし、合鍵は借りパクされるし、あられもない写真は撮られるし、アタシの不良としての実態は知られるし、背中を見せようものなら切り裂かれるし、部屋に侵入してくるし。

 

「うん。ゆっくり思い返してみると、ホントに良い思い出が微塵もないわ」

「うぅ……ぜ、全部たまたま起きたことなんよ!」

「待て! どうやったらあれだけのことを偶然でまとめられるんだ!?」

 

 ダメだコイツ。もう手遅れだ。

 

「そ、そんならサッちゃんのせいでええやん!」

「コイツよりによって被害者のアタシに押しつけやがったぁ!!」

〈マスターはいつでも加害者でしょう?〉

「久々に喋ったかと思えばなんてこと言いやがるんだお前は!」

 

 あれだけの被害を受けたにも関わらずその全部がアタシの自業自得だと!?

 さすがにそれは理不尽すぎて泣くぞ!? いや泣かねえけども!

 

「お前はアタシをなんだと思ってやがるんだ? 何度も聞くけど」

「え、えーっと……恋――愛――正――そんなんわからへんよっ!」

 

 ならどうしてアタシから目を逸らすんだ。しかもなんで今連続で言い直した。

 それと顔を赤くするなと何回言えばわかるんだコノヤロー。

 とまあ、こんな感じで今日もいつも通りだったよ。いつも通り過ぎて……泣きたくなったよ。

 

 

 

 




 ちょっとしたお知らせですが、実は無限書庫編が終わったあとに過去編を書こうと思います。
 なのでその辺りから更新が不定期になりますがご了承ください。では!


《今回のNG》TAKE 16

「そうなん……」
「なんだよ? 初っぱなからアタシとやりたかったのか?」
「…………さ、サッちゃん?」
「あ?」
「その……う、(ウチ)でええんか……?」
「とても良くないです」

 なんか身の危険を感じるんだけど。



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