死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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 季節的にはもうすぐハロウィンですが、こっちでは七夕です。あと今回のNGはお休みします。


第39話「アタシと乞食と七夕祭り」

「サッちゃん、七夕祭りってのに行こー」

「へぇ、こっちでもやってんのか」

「なんや今年から始めたみたいやで?」

「……………………え? 今年から?」

「うん」

「ま、まあいいか」

「そやから行こー!」

「やだよめんどくさい」

「今日ぐらいええやん!」

「七夕は今日だけだ」

「行かへんのなら――」

「はっ、何を言おうと無駄無駄」

「――ガイスト使うで?」

「喜んで行こう」

 

 

 

 

 

 

 

「マジで来ちまったよ……」

「わー! サッちゃん、食べ物がいっぱいや!」

 

 7月7日。アタシとジークは七夕祭りに来ている。

 しかもジークは浴衣を着て髪を簪で束ねているから結構新鮮だ。

 最初に見たときは誰かと思ったよ。無駄に美人化しやがって。

 ちなみにアタシはいつも通りパーカーだよ。浴衣は動きにくいからな。

 

「サッちゃん。あれ食べてもええかな?」

「奢らねえぞ」

「サッちゃんのケチ……」

 

 そうは言うがなジークよ、お前めちゃくちゃ嬉しそうじゃねえか。

 あとあっかんべーはやめろ。周りの男たちがこっち見てるから。ていうか見んな殺すぞ。

 

「はいサッちゃん!」

「サンキュー……フランクフルト?」

 

 いきなり定番がきたな。まあいいや――

 

「ふんぐっ」

 

 ――噛みちぎろう。まさか官能的に食べると思っていたのか?

 

「あむっ!」

「…………」

 

 いたよ、官能的に食べてる奴。とはいってもしゃぶってる感じだけどな。

 ほら見ろ、また周りの男たちがこっち見てる。だからこっち見んな殺すぞ。

 

「――熱っ!? サッちゃん、これ熱いんやけど……」

「冷まして食べないからだ」

 

 まあフランクフルトだしな。できたての。それにしても、これだけじゃさすがに足りないな。

 他には……綿菓子にたこ焼きに焼きそばか。地球じゃ定番のものばっかりだな。

 

「んじゃ、これ食べるか」

「それなんなん?」

「なにってお前……回転焼きだよ」

 

 まさかあるとは思わなかったが、これは思わぬ収穫だ。

 カスタードクリーム大好きなんだよ。普通はあんこなんだけど。

 

「一つ食うか?」

「あ、おおきに」

 

 とりあえず一つ分けてやることにした。コイツにも回転焼きの美味さを知ってもらいたいしな。

 いやーホントに美味い。相変わらず美味い。懐かしさも感じる。

 

「んぐ……補正付きで美味しいってことやな」

「補正付き?」

 

 何が付いてくるというんだ。

 

「それじゃあ素では美味くないと?」

「あっ! そ、そうじゃないんよ! サッちゃんがこれを作ってくれたら嬉しいとか思ってたわけじゃ――」

「今度作ってやろうか?」

「え?」

 

 アタシも食べたいし、何より好きな食べ物だ。作り方なんぞとっくに学んでいる。

 

「どうなんだ? つっても作るがな」

「そ、そんならお願いします……」

「素直でよろしい」

 

 ちょっと嬉しかったのでジークの頭を撫でてやる。

 すると顔を真っ赤にしながらも嬉しそうに微笑んだ。ヴィクターが夢中になるわけだ。

 

「えへへ……」

「恋人じゃあるまいし、そこまで照れなくてもいいだろ」

「え、違うん?」

「待て。なんだそのすでに恋人同士やろ? みてえな顔は」

「違うん!?」

「違うわ!」

 

 お前の中でアタシがどういう存在なのか非常に気になるんだが。

 

「次は何を食べるん?」

「お前、七夕って知ってるか?」

「食べ物のことやろ?」

「帰る」

「ああっ! 違うんよ! ほんまは竹の子って言おうとしたんよ!」

「なぜそこで竹の子!?」

 

 確かに笹と竹って似ているけどさ。わざわざ竹の子にしなくてもよかったんじゃないか?

 まあ、ミッドチルダじゃ七夕は新しい文化だろうけどさ。

 

「え? 笹って竹の子やろ?」

「お前ホントに義務教育終えてんのか?」

 

 笹は竹にめっちゃよく似た植物なんだが。

 

「まあ、食べるもんは食べたしそろそろ短冊を吊るしにいくか」

「短冊?」

「あー……」

 

 

 ――しばらくお待ちください――

 

 

「理解したか?」

「願い事……」

 

 説明したのはいいが、コイツがホントに理解しているのか心配で仕方がない。

 それよりさっきから願い事願い事うるせえよ。いてまうぞゴラ。

 

「ほら、これが例の笹だ」

「願い事を書いた短冊をこれに吊るしたらその願いが叶う……やったっけ?」

「まあ、その通りではある」

 

 願い事が叶うかは知らんがな。

 

「ほんなら(ウチ)はそれ書いてくるな~」

「へいへい」

 

 じゃあアタシはその間に短冊の内容でも見ますかね。まずは……これはタスミンのか。

 

 

『新作アニメのDVDと雑誌とメガネが手に入りますように。

             エルス・タスミン』

 

 

 うん、まだ普通ではあるが……わざわざ短冊に書くほどのことなのか? これは。

 

「えーと次は……アピニオンか?」

 

 珍しいな。シスターも短冊は書くのか。内容は……

 

 

『休養日が増えますように。

           シャンテ・アピニオン』

 

 

 どんだけ仕事サボりたいんだよ。さすがのアタシもちょっと引いたぞ。

 

「にしても多いなやっぱ……お?」

 

 シェベルのやつもあったぞ。何々……

 

 

『相手の服を切り裂くスタイルを今年中にものにできますように。

             ミカヤ・シェベル』

 

 

 この願いが叶わないことを心から祈るよ。気を取り直して、次は……クロ?

 アイツがこういうのやってるとかなんか似合わねえな。

 

 

『いつも世話になっている友達が幸せでいられますように。

           ファビア・クロゼルグ』

 

 

 ヤベェ、泣きそうになった。自分より他人を優先した願い事とか……クロちゃんマジ良い子。

 

「お次はっと……ウェズリーか」

 

 まさか奴も来ていたとは。しかしだな……

 

 

『サツキさんにいじめ――構ってもらえますように。

             リオ・ウェズリー』

 

 

 願い事にまでアタシの名前を出すな。しかもいろいろと手遅れだぞ。

 あのガキ……次に会ったら八重歯を引っこ抜いてやる。もう一回気を取り直そう。

 

「お、ティミルも書いていたのか」

 

 ウェズリーの短冊の隣を見るとティミルのやつが吊るしてあった。

 

 

『ヴィヴィ×ア――友達がまともになってくれますように。

             コロナ・ティミル』

 

 

 うん、見なかったことにしよう。アタシまで対象にされると困るからな。

 これもなんか書き直されてるっぽいけど中途半端だから意味ねえぞ。

 その隣は……ストラトスか。あの堅物みたいな奴でも短冊は書けるようだ。

 

 

『覇王の悲願が成し遂げられますように。

         アインハルト・ストラトス』

 

 

 コイツだけシリアス過ぎんだろ。どんだけ過去を引きずってんだよ。

 まあ、これも気のせいにしておこう。さらにその隣は……リナルディね。

 

 

『赤点を回避する方法を教えてください。

            ミウラ・リナルディ』

 

 

 七夕はいつから質問BOXになったんだ。つーかアイツ、八神んとこで書かなかったのか。

 まあいいや、どうでもいいし。

 

「お、姉貴のじゃねえか」

 

 なんと姉貴のやつもあった。これは気になるぞ。

 

 

『いつか必ず、不良界の頂点に――不良界の頂点に立てますように。

                緒方スミレ』

 

 

 あんたもう立っているようなものじゃねえか。ていうか七夕でそんな物騒なこと書くなよ。

 それに書き直したつもりだろうが、内容は一切変わってない。姉貴だから仕方ねえけど。

 

「って、イツキと来たのか」

 

 姉貴の短冊の隣を見るとイツキのやつがあった。ふむ、どれどれ……

 

 

『盗聴器と隠しカメラと保健体育の参考書が手に入りますように。

                緒方イツキ』

 

 

 コイツ最低だ。なんでこれが処分されてないんだよ。

 アタシはふとその短冊の裏を見て――それに納得がいった。

 なるほどな。そりゃ処分されなかったわけだ。でもこれ公開処刑に等しいぞ。まあいい。

 

「これはハリーのか」

 

 やっと見つけたって感じだわ。さてさて、何が書いてあるのかな――

 

 

『今年は都市本戦まっしぐらだ。今度こそ覚悟しろよヘンテコお嬢様!

           ハリー・トライベッカ』

 

 

 ハリー、これは願い事ではなくて私情だ。一緒にするなよややこしい。

 ふと横を見るとヴィクターのやつがあった。なぜだ、イヤな予感しかしない。

 

 

『上等ですわ。ポンコツ不良娘!

      ヴィクトーリア・ダールグリュン』

 

 

 短冊で会話すんなこのバカ共。さらに横を見るともう一枚あった。

 わざわざ二枚も書くなよ――

 

 

『ジークをうちに居候させられますように。

      ヴィクトーリア・ダールグリュン』

 

 

 ――全面的に協力しよう。この願いが叶えばアタシに平和が訪れる。

 それにしてもろくな願い事がねえな。時期的にインターミドル関連があってもいいはずなんだが。

 あ、ハリーとヴィクターのはノーカンだ。あれ願い事じゃねえし。

 

「サッちゃん」

「お、書いたのか?」

「うん!」

 

 そういや、ある意味コイツが最後か。

 

「どれどれ……」

 

 せめてマシなのであってほしい。そう思いながらジークの短冊を手に取る。そこには――

 

 

『サッちゃんのヒモになれますように。

          ジークリンデ・エレミア』

 

 

「……………………(ビリビリ)」

「あー!! なんてことするんや!?」

 

 見てない。アタシは何も見ていない。幻覚だ、今のは幻覚に違いない。

 

「書き直せ。今すぐに」

「うー……」

 

 そんでもってなんでお前はそんなに不満そうなんだよ。

 あと頬を膨らますのはやめろ。それでアタシが動くと思ったら大間違いだ。

 

「さてと、アタシも書くか」

 

 せっかくだしな。しっかしなんて書こう……ううむ……ちょっと考えてみるか。

 

 

・願い事その1『知り合いの願い事全てが叶いませんように』

 

 うん、明らかに最低だ。だが今回限りは正義であること間違いなし。ま、次にいくか。

 

 

・願い事その2『天の川でス○ゴジが大暴れしてくれますように』

 

 ヤッベェ、めっちゃときめいたんだけど。これにしようかな? いや、まだ早いな。次だ次。

 

 

・願い事その3『早く地球へ帰れますように』

 

 これは完璧だな。――うん、言っちゃいけない感がスゴいけど完璧だな。

 

 

 要するにどれも最低な願い事であると考えられる。

 つまり、ここから新たな選択肢を生み出さないと短冊を吊るすことはできないわけだ。

 よし、こうなったら第四の選択肢にするとしよう。

 

 

『これからも元気にケンカできますように。

                緒方サツキ』

 

 

「よし、完璧だ。あとは……」

 

 念のため、アタシはその短冊の裏に荒々しくこう書き殴った。

 

 

『この短冊を弄らないこと。もしパクったり、喪失させたり、落書きしたり、破損させたりした奴は“死戦女神”の名の下に私刑を執行する』

 

 

 これでいいだろう。でないとおふざけとか称して破かれる可能性もあるのだから。

 

「サッちゃ~ん」

「お、ジーク。今度はマシなのにしたんだろうな?」

「その点は大丈夫や!」

「なら期待するとしよう」

 

 さてさて。コイツの短冊は……あったあった。えーと何々――

 

 

『サッちゃんのお嫁さんになれますように。

          ジークリンデ・エレミア』

 

 

 期待したアタシがバカだった。

 

「………………」

「サッちゃんストップ! ライターは、ライターは堪忍や!」

「じゃあ書き直せ」

「それはイヤなんよ!」

「なんでだよ!? さっきとほとんど変わってねえじゃねえか!」

 

 コイツ、最近マジでイカれてやがる。さっきだってなんの躊躇いもなくヒモを志願するし。

 しかしヒモよりはまだ可愛く感じるぞちくしょうめ。

 

「この短冊に手を出すならガイスト使うで!?」

「お前ガイスト乱用しすぎだろ!」

「ガイスト――」

「やめろジーク! 早まるなぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめんや。(ウチ)、気が動転してたんよ……」

「どう見ても正常だったぞ」

 

 帰宅途中。ジークに謝罪されたが惚けたので論破してやった。

 ちなみにあの短冊は討論の末、吊るされることになった。泣いてもいいよな? これ。

 あれの裏にあんなことが書かれてなきゃ確実に燃やしてやったのに。

 

「やっぱお前嫌いだわ」

「それ言われるん何回目やろ……」

 

 何度だって言ってやる。嫌いなものは嫌いだからな。

 脅しがなければとっくに追い出している。嘘じゃねえよ?

 

「それに今はサッちゃん家の居候……えへへ……」

「はぁ……」

 

 こればかりは祈るしかない――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早く昔のジークに戻ってくれますように」

「なんか言うた?」

「なんでもねえよ」

 

 

 

 




 ハロウィンに関しては原作13巻に追いついた辺りで書こうと思ってます。

《とある短冊の裏に書かれていたこと》


『いつかサッちゃんと仲直りできますように』



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