死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第38話「大惨事まであと一歩☆」

「たでーまー」

「お帰りや」

 

 夕方。帰宅したアタシを迎えてくれたのはやはりジークだった。

 無理もねえか。クロは居候じゃねえし。それにコイツには会わせたくない。

 ていうかお前は何をしているんだ? なんでまた割烹着を着てるんだ?

 

「それ、気に入ったのか……?」

「うんっ! これ意外と着心地がいいんよ~」

 

 割烹着で着心地が良いとかいう奴はお前しかいない。

 そうだ、猫耳は……さすがに合わねえか。今回はパスしよう。

 

「まあいいか。後で写真撮らせろよ」

「ん? 別にええけど……」

 

 これはこれで絶対に売れる。

 

「サッちゃん! 今日のご飯はおでんやんな!?」

「まあ、そうだけど」

 

 いくら好きだからって盛り上がり過ぎだろ。少しは落ち着けよ。

 やっぱりおでんじゃなくてイカそうめんにすべきだったか?

 

「――おかずは!?」

「だからそれがおでんだよ!」

 

 え? 何? もしかしてコイツ、おでんが主食なのか?

 

「先に言っておくが、主食はおにぎりだ」

「具は?」

「海鮮丼で使ってたやつを全部」

「……具は?」

「だから海鮮丼で使ってたやつを――」

「入るわけないやろ!?」

 

 入るんだなこれが。誰にでもできる方法としておにぎりの大きさを調節すればいいのだから。

 ほら、海鮮丼の具が全て入るサイズにすれば大丈夫だろう?

 ……しかしそれだとおにぎりが大きくなって食べにくくなってしまうな。

 

「大丈夫だ。お前のやつだけ特別製にしてやるから」

「と、特別って?」

「通常よりも大きなおにぎりを握ってやる」

「なんや複雑やけど……まあええわ」

 

 なんだかんだで納得してもらえて何よりだ。従順な奴は好きだよ。

 アタシは机に置いてあったタバコとオイルライターを取り、その場で一服する。

 ジークはこっちを見てしまった! という表情をしているがもう遅い。

 にしてもよく没収されなかったな。いや、ジークが勝手に忘れていたのだろう多分。

 

「タバコ吸ったらあかんて何回言うたらわかるんや!?」

「うるさい黙れ。キサマはそこに這いつくばれ」

「なんやその理不じ――ふにゅう!?」

 

 なんかジークが邪魔してきたので組み伏せてから頭を踏んづける。

 せっかく人が一服しているというのに邪魔しやがってコノヤロー。

 

「あれ? またオイル切れか?」

 

 ヤバイな。最近オイルの入れ忘れが多くなっている。

 今回も仕方なくマッチを使うことにした。明日こそはオイルを買わねば。

 それにしてもさっきから足下に何か柔らかいものがあるような気がするんだけど……。

 ほら、あれだよ。なんというかその……おっぱいというか顔というかそんな感じのやつだよ。

 

「さ……サッちゃん……! そろそろどいてくれると嬉しいんやけど……!」

「…………………………なにしてんのお前」

 

 足下を見てみるとそこにいたのはジークだった。いやホントになにしてんのお前。

 

「なにしてんの、ちゃうよ!? (ウチ)を踏んづけたのサッちゃんやろ!?」

「はぁ? お前やっぱ頭湧いてんのか?」

「なんで(ウチ)がおかしいみたいな言い方になってるん!?」

「いやいや、お前が地べたで寝てるからこうなるんだよ」

「記憶が改竄されとる……!?」

 

 何を言っているんだお前は。記憶の改竄とかした覚えないんだけど。

 せっかくなのでもっと踏みつけることにした。おおう、柔らかいぞこれ。

 

「さ、サッちゃんやめひぇっ! (ウチ)にしょんな趣味はにゃいんよっ!?」

「え? 何? なんて言ってんのか聞こえないんだけど~?」

(ウチ)は、(ウチ)は……純粋にサッちゃんが――」

「……………………」

「あっ! 痛っ! サッちゃ……っ! それ以上の踏みつけはほんまにあか……っ!」

 

 せっかくなのでもっと踏みつけることにした。――本気で。

 

「オラ、早く立てよ」

「サッちゃんのアホ~……」

「飯食わせてやるから立てよ」

「ほんま!? ほんまにほんま!?」

「うん。マジだから落ち着け」

 

 魔法の言葉って便利だな。

 

「気が変わった。お前の飯は――」

「え? おでんやろ? 違うんか?」

「――お皿だ」

「一文字しか合っとらんよ!?」

「じゃあ空気でも食っとけ」

「待って! それはもはや有機物でもないんよ!」

 

 そんなのアタシの知ったことじゃねえ。空気、というか酸素だな。

 生きるためには必要不可欠だろうが。相変わらずバカだなお前は。

 

「ま、運がなかったということで諦めるんだな」

「待ってほんまに待って! お願いやからおでんを! (ウチ)におでんとおにぎりをー!!」

 

 いや、気が変わったつっただろ。だからあげない。

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……」

「ん……? なんだよ……最悪だ」

 

 翌朝。目を開けて声が聞こえた方を見てみると、そこにはジークの顔があった。元々コイツはかなり整った顔立ちをしているのだが――

 

「えへへ……」

 

 今のコイツにそんな面影はなく、もはや人には見せられない表情になっていた。なんてだらしない寝顔なんだろう。

 しかも()()の距離はほんの数センチ。大惨事まであと一歩というヤバイ状況だ。

 

〈これはですね……思いきってやっちゃいましょう、マスター〉

「ふざけんな」

 

 誰がやるか。何があっても絶対にやんねえよ。

 

〈ですがここでやれば既成事実が成立――〉

「しねえよ」

 

 あれはキスだけじゃ成立しねえんだよ。ていうか成立させたくない。

 幸いにも同性だと成立は不可能だから問題はないけど……ないよね? 問題。

 いや、レズビアンなんてものもあるし……あれ? 何気にアタシヤバくね?

 

「起きろジークコラァ!」

「ぐふっ!」

 

 とりあえずジークをベッドから蹴り出す。朝から久々に最悪の目覚めだ。

 蹴り出されたジークは少し転がって壁に激突した。うわぁ、ひでえな……。

 それでもまだ寝てやがるぞ、アイツ。普通なら起きて当たり前なんだけど。

 

「ったく……」

〈そういえば昨日、ジークさんは寝る前にマスターの――〉

「殺す! コイツの口から白いもんが出るまで殴り続けてやる!」

 

 もう許さねえ! これ以上は許さねえ! ぜってーに許さねえ! ぶっ殺すマジ殺す!

 

「くたばれジーク! そしてアタシに詫びろ!」

「な、なんや!? 朝からサッちゃんがめっちゃ怒ってとにかくキまっとるんやけど!? (ウチ)なんかしたん!? (ウチ)なんもしてへんよっ!?」

 

 このあとひたすらジークを殴り続けたが、残念ながら口から白いもんは出なかった。

 まあ、なんだかんだで許してしまったアタシも甘ちゃんだな……クソッタレが。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 8

「うーん……」
「ん……? なんだよ……は?」

 翌朝。目を開けて声が聞こえた方を見てみると、そこには――ホッケーマスクがあった。

「ってお前かい!」
「ごふっ!?」

 正確にはそれを被ったジークだったけど。



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