死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第37話「癒しだけはまともであってほしい」

「サッちゃーん!」

「…………な、なんだ? そのクソでけえ荷物は?」

 

 朝から誰だコノヤローとか思ってみれば案の定ジークだった。

 朝に来る来訪者はまずコイツだと覚えておこう。

 ていうかその背中に背負ってる荷物なんすか? いやマジでなんすか?

 

「サッちゃん! 実は(ウチ)――今日からここで暮らすことになったんよっ!」

「………………ふぁっ?」

 

 今なんつったコイツ。

 

「も、もっかい言ってみろ」

「そやから(ウチ)――今日からここで暮らすことになったんよっ!」

 

 

「――クソッタレぇえええええええええっ!!」

 

 

 その言葉の意味を理解した瞬間、アタシはひたすら叫ぶしかなかった。

 

 

 ――しばらくお待ちください――

 

 

「ほな、今日からよろしくやサッちゃん」

「今すぐ帰れ」

 

 ジークの衝撃発言から数分後。そのジークを殴り飛ばすことで落ち着いたアタシは頭を抱えた。

 いやそうだろう? いきなり居候ができちまったんだぜ? しかも足手まといでしかない奴。

 正直、コイツに期待できることなどほぼない。あるとしたら――なんだろう?

 ちなみにジークはアタシに殴られた右頬を押さえながらも平静を保っている。

 

「そう言われても……仕方ないんよ。(ウチ)、サッちゃんが恋し――」

「あ、後ろに黒ツヤ」

「ぴゃっ!?」

 

 おおう。めっちゃ跳ね上がったぞ。どうやったらそんな跳ね上がり方ができるんだ?

 

「どどどこにおるん!?」

「いねえよ」

「………………え?」

「だから、最初からいねえつってんだよ」

「なんやて!? まさかサッちゃん、(ウチ)を騙したんか!?」

「うん」

 

 仮にホントだったとしてもアタシは嘘だと述べるだろうな。

 だっておもしれーじゃん。コイツがマジで失神するところを見るのは。

 

「うー……! サッちゃんのスカポンタン……」

「シバいたろか」

 

 最近、アタシの口調に少しずつ関西弁が混じってきているが気のせいではない。

 まあ、コイツやウェズリーによるストレスも原因の一つだろうな。

 そういやウェズリーとは最近会ってないな。一体どこで何をしているのやら。

 

「まあええわ。そんなことよりもサッちゃん」

「なんだよ」

(ウチ)の寝る場所ってどこなん?」

「路上」

「…………へ?」

「だから、路上のど真ん中――」

「さすがの(ウチ)も本気で怒るよ!?」

「――あァ?」

「ごめんや。今のは言葉のあやなんよ」

 

 だったらなんも言わずに受け入れろや。

 

「ま、とにかくそれがイヤなら帰れ。いや、今すぐ帰ってくれ」

「それだけはイヤなんよ。サッちゃんと、サッちゃんと離れてまうのはイヤなんよ!」

 

 ホントに頼む。誰かコイツを引き取ってくれ。

 もし引き取ってくれるならコイツのあられもない写真を無料で提供してやる。

 

「まあいいや。今日は泊めてやるから明日になったら帰れよ。あ、お前の寝場所はバスタブな」

「サッちゃんのアホー!」

 

 アホはお前だ。

 

 

 

 

 

 

 

「――ってことがあったんだよ」

「…………サツキ」

「ん?」

 

 数時間後。ジークを家に置いてきたアタシはクロと一緒にスーパーに買い物に来ている。

 アイツが居候するとなれば食材は常に買わねばならないからな。

 つーかクロ、お前なんか怒ってないか? 珍しく怒ってないか?

 

「今すぐそのアホに会わせて……!」

「ぜってーにダメだ」

 

 ()()だけはまともであってほしいんだよ。

 

「ほら、そんなことより早くほしいもん買ってこい」

「…………うん」

 

 クロはどこか納得いかないという表情でケーキのコーナーへと走っていった。

 さてと、アタシも……あれ?

 

「なんの材料を買おうと思ってたんだっけ……………………あ」

 

 そうだそうだ、おでんだ。おでんの材料を探していたんだ。

 アタシはすかさず野菜コーナーへ駆けつけた。よかった、まだ残ってる。

 

「えーっと大根にごぼう、こんにゃくに……」

 

 他に何があったっけ?

 

「ま、こんなもんか」

「……サツキ」

「ん?」

「…………これ」

「おお、サンキュー」

 

 クロが足りない分の材料を持ってきてくれた。なんだこの便利屋は。

 いや、言うほど便利でもねえか。それでも助かったけどな。

 

「はぁ、これからどうしようか……」

「……そんなの簡単」

「お? なんか案でもあるのか?」

「……さっき言ってた居候の名前を教えて」

「…………何をする気だ?」

 

 なぜだ。絶対に教えてはならない気がする。

 

「――ブチのめす」

「まさかお前からそんな汚え言葉が聞けるとは思わなかった」

 

 ヤベェ、目がめっちゃ怖い。コイツわりとマジで本気だ。

 なんか背中から黒いオーラみたいなのが出てるんだけど。あ、翼の形になった。

 

「だから名前を――」

「いくぞクロ。ソイツはアタシでなんとかする」

「……………………わかった」

 

 これまた納得いかないという表情で歩き始めるクロ。撫でてもいいかな?

 

「……サツキ」

「今度はなんだ?」

「……あれ、何?」

 

 クロが指差す先にあったのは福引き会場だった。へぇ、ミッドにもあるのか。

 そういやこないだ手に入れた福引き券の使い道がなくて持ちっぱなしなの忘れてたわ。

 せっかくなのでアタシとクロはそこに立ち寄ることにした。

 

「おっ、やっとお客さんきたよ」

 

 アタシたちを見た女性店員がそう呟く。

 え? ここ今まで誰も来なかったのか? こんなに目立つのに?

 

「……やっとって?」

「うん。ついさっき開店したのに誰も来なくて困ってたんだよ」

 

 そりゃ来ねえよ。

 

「……景品表ある?」

「こちらになります」

 

 えーっと何々……

 

 

 0等 シークレット(はぁと

 1等 地球旅行

 2等 ホテル・アルピーノ

 3等 タワシ(1年分)

 4等 万札つかみ取り

 5等 犬耳

 6等 蚊取り線香と歯ブラシ

 ハズレ 翼をください

 

 

 おいこれ間違ってんぞ。なんかいろいろ間違ってんぞ。

 つーか最初のシークレットってなんだよ。表記がむっさ腹立つんたけど。

 しかも3等がタワシとかどうなってんだよ。明らかに4等の方がお得じゃねえか。

 ハズレに関してはもはや要求である。あれ? アタシらお客さんだよな?

 

「「……………………」」

 

 とりあえず4等狙うか。

 

「……最初は私」

 

 どうやらトップバッターはクロで決まりのようだ。

 クロはアタシが渡しておいた福引き券を店員に渡し、抽選器のハンドルを持った。

 

「…………残り物には福がある」

 

 いやこれ出だしだから。まだ残ってるとは言わねえから。

 

 

 ガラガラ(抽選器を回す音)

 

 ポロっ(玉が出てくる音)

 

 

「おぉ――! 0等当たりました!」

「キタコレ」

「いやキタコレじゃねえよ!?」

 

 いきなり大穴引くとかどんな神経の持ち主だお前は!?

 

「では、こちらがシークレット景品になりま~す!」

「……どうも」

 

 店員はそう言いながらクロにそこそこ大きな箱を渡した。

 何が入ってんだろうなあれ。めちゃくちゃ気になるんだけど。

 っと。次はアタシか。待ってろ4等! 後はいらねえから!

 

「うしっ、いくぞー」

 

 

 ガラガラ(抽選器を回す音)

 

 ポロっ(玉が出てくる音)

 

 

「5等当たりました!」

 

 ハズレの間違いだろ。

 

「ではこの箱に手を入れて掴んでください」

 

 あれ? 犬耳なのに4等のやつと同じことすんの?

 ま、まあ、やってみるしかないよな。うん、やってみよう。

 アタシは仕方なく右手を箱に入れ、適当なやつを掴んでから引っ張り出した。

 

「……猫耳?」

 

 おかしい。確か5等は犬耳のはずだ。なのにどうして猫耳が出てきたんだ?

 

「これはどういうことだ?」

「それは数ある犬耳の中に一つだけ混ざっていることがある猫耳ですね。当たりですよお客様」

 

 だからハズレの間違いだろ。

 

「まあいいか。さてさて、この猫耳はどうしたものか……」

「…………どうしよう、これ」

 

 会場から離脱したアタシは猫耳を、クロはシークレット景品(らしい)をどうしようか考える。

 手っ取り早い方法としてクロかジークに装着させるというやつがあるけど……。

 クロはいつでも大丈夫そうだからパスしよう。となるとそれ以外だな。

 

「何が入ってんだ? それ」

「…………帰ってから見てみる」

 

 どうやら今ここで開けるつもりはないみたいだ。ちくしょうめ。

 そんな調子で、アタシとクロは帰路についたのだった。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 2468

「――ブチュっ!」


 ダッ(身を翻すクロ)

 ガッ(その肩を掴むアタシ)


「放して……! もう生きていける気がしない……!」
「セリフ噛んだぐらいで大袈裟なんだよ……」

 まあ、めっちゃ可愛いから癒されるんだけど。



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