死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第35話「待ていッ!!!!」

「よーし、着いたぞジーク」

「し、死ぬかと思った……!」

 

 あれから数十分後。ようやく隣町に着いたのでバイクを専用の駐車場に置いてきたところだ。

 さて、こっからは歩きかぁ。アタシは問題ないけどジークが心配だな。

 だってコイツ――方向音痴でもないのに勝手に迷子になることがあるのだから。

 

「どうした? そんなにぐったりして」

「サッちゃんのせいやろ……!」

「あ?」

「サッちゃんが何度か急ブレーキ掛けた際に放り出されそうになったんよ!?」

 

 そういやそんなこともあったな。

 

「そのまま放り出されてたらよかったのに」

「サッちゃんのアホー!」

「誰がアホだと!?」

「サッちゃんに決まってるやろ!」

「街灯ぶつけたろかテメエ!?」

 

 そうすればコイツのイカれた頭も元通りになるかもしれない。

 命の保証はどこにもないけどな。ていうか必要ない。

 

「オラ、さっさと名物のお菓子を買いに行くぞ」

「ぶー……!」

 

 だから可愛らしく頬を膨らませてもダメだつったろうが。

 それにしても……マズイな。前に来たとことは違う場所だぞここ。

 

「ヤバイ、道がわからねえ」

「え? う、嘘やろ……?」

「嘘じゃねえよ。テメエのせいで道がわからねえんだってば」

「なんで(ウチ)のせいなん!?」

「バイク乗ってるときにテメエが後ろでじっとしてれば予定してた場所に着けたんだよ!」

「サッちゃんのバイク運転が荒いのが悪いんよ!」

「アタシの華麗な運転技術にケチつけてんじゃねえよ!」

「あれのどこが華麗やて!? あれでほんまに華麗やったらまだヴィクターと自転車の二人乗りをした方がマシやっ!」

「例えが意味不明なんだよ! このアホミア!」

(ウチ)はアホミアとちゃうよ!?」

 

 クソッ、やっぱりこんな奴を連れてきたのが間違いだったぜ。

 ちなみに運転が荒かったのは何度かジークを振り落とそうと試みたからである。

 

「アホミアじゃなければ百合ミアだ!」

「ゆ、百合ミアぁ!?」

 

 こればかりは絶対に間違っていない。なんかそんな気がするからな。

 図星だったのか、ジークは顔を赤くしながら呆然としていた。……え? マジだったの?

 だとしたらあれを実行するしかないな。アタシはジークの顔を両手で掴む。

 

「ひゃっ!? さ、さささサッちゃぁん!?」

「ジーク、頼む――」

 

 退くなアタシ。ここでやらなきゃいつやるんだ。

 

「――アタシと縁を切ってくれ」

「やーっ! それだけは絶対にごめんなんよっ!」

「縁を切れぇ!」

「イヤに決まってるやろ!」

「アタシが切れつったら切るんだよっ!」

(ウチ)がイヤって言うたらイヤなんよっ!」

 

 そんな決まりはどこにもない。

 

「じゃあなんだ!? 愛してるとでも言えばいいのか!?」

「…………い、今なんて……?」

「だから、愛してるとでも――」

「それほんまっ!?」

「んなわけねえだろ!?」

 

 しもた。こんなことを言ったらコイツは盛大な勘違いをするってことを忘れたのかアタシは!?

 ジークはさっきよりも顔を真っ赤に染め、ぐるぐると目を回していた。

 マズイ。このアホ、見事に混乱してやがる。

 

「さ、サッちゃんが、サッちゃんが(ウチ)を愛してる……!」

「だから違うつってんだろうが!」

「ほ、ほんなら今すぐウェディング――」

「戻ってこいオラァ!」

「ぶふぉ!?」

 

 とりあえずジークの顔面をぶん殴る。これで無理だったらいつものあれをやるしか……!

 

「――はっ!? う、(ウチ)は一体……」

「悪いもんにとり憑かれてたんだ」

「そ、そうやんな。サッちゃんが(ウチ)のことを愛してるなんてあり得へんからな……」

 

 それだけは絶対にあり得ねえよ。

 

「わけのわからねえこと言ってねえで、早く行くぞ」

「道わかるん?」

「知らん」

 

 だがバイクが置いてある場所さえ覚えとけば戻ってこられるさ。

 アタシとジークによる名物探しというちょっとした旅が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

「思ったより早く見つかってよかったよ」

「おにぎりおにぎり~♪」

 

 あれから二時間後。アタシはお目当ての名物を探し当て、ジークはおにぎりを大量に買い込んでいた。

 当然、そのおにぎり代はアタシが仕方なく出したものである。

 

「どんだけ買ってんだよお前」

「その場にあったやつを全部買い占めたんよ!」

「返せよ!? おにぎり代ぜってーに返せよ!?」

 

 どうりで万札が逝ってしまったわけだ。

 

「…………う、うん。多分返す」

「多分じゃねえ。絶対だ」

 

 テメエの多分は絶対に返さないのそれだからな。

 とはいえ、またとない機会ゆえにまだまだ買いたいものはある。

 

「そんじゃ、次に行くか」

「そやね! (ウチ)もまだ見たいものがあるんよ」

「あ、そう」

 

 

 ――さらに数時間後――

 

 

「ふぅ」

 

 疲れた。わりとマジで疲れた。特に食べ物を見るなり暴走しまくるジークを止めるのに疲れた。

 そんなことを考えながらも、アタシは近くにあったトイレで用を済ませていた。

 もしなかったら以前のジークと同じく漏らしていたかもしれない。

 

「ま、いざというときは――ん?」

 

 街灯下で待たせているジークの元へ向かうと、そのジークが三人の男に絡まれていた。

 へぇ、ナンパか。アタシも経験あるけど言葉で追っ払うのは大変なんだよ。

 だからいつもストレスの捌け――実力行使で追っ払っている。

 

「な、別にいいだろ?」

「そ、その、(ウチ)は――」

 

 しつこく食い下がられているが当然だな。なんせアイツ、押しには弱いし。

 それに加えジークには味方がいない。つまり一人だ。

 男たちもそれを知って絡んできたのだろう。

 

「どうせ暇なんでしょ?」

「そやから(ウチ)は人を――」

「大丈夫大丈夫。すぐに終わるって」

 

 ジークはアタシでも探しているのか、周りを見渡すように首をキョロキョロさせている。

 もちろん、アタシは助けない。だってめんどくせえじゃん。

 それにアイツはその気になれば実力行使で追っ払えるしな。

 まあ、運がなかったということで諦め――

 

「――あれ?」

 

 ジークを置き去りにしてその場を立ち去ろうとしたアタシの足が止まる。

 今持っている袋の中身を確認したのだが、なぜかおにぎりしか入ってない。

 おかしい。アタシは確かに例の名物品を入れたはずだぞ。

 ふとジークの方を見ると、痺れでも切らしたのか三人のうちの一人がジークの持っていた袋をはたき落としていた。

 その袋を見てみると、『地球名物! 結構美味いどら焼き』と書かれた大きな箱が入っていた。

 

 

 ――うん、あれアタシが買ったやつだ。

 

 

「待ていッ!!!!」

 

 

 気づけばアタシは自分でもわかるくらい大きな声を出していた。

 なんつーか……自分の財布と同じ柄の財布を持った奴とぶつかって、互いに落とした財布がその際に偶然すり替わってしまったような気分だ。

 

「あ?」

「な、なんだよ?」

「サッちゃん……!」

 

 当然、男たちが気づかないわけがない。ジークも救世主を見るような顔でアタシを見ていた。

 連中はアタシを見るなりジークのときと似たような感じで絡んできた。

 

「何々? 君も混ざりたいの?」

「悪いけど、俺たちこの子に用があるから――」

「お、おい待て。こいつどっかで見たような……」

 

 すると男の一人が、アタシを見て何かを思い出そうとしていた。

 それはそうと、アタシの買ったどら焼きを落とした罪は重いぞゴラァ。

 

「ちょっと面貸せ」

「はぁ?」

「お前なに言って――」

「面貸せつってんだコノヤロー」

 

 

 ~~しばらくお待ちください~~

 

 

「あースッキリした」

「そやからタバコ吸うたらあかんよ!」

「るせえな。ていうか、無事か?」

 

 とりあえずあの三人は楽にしてやった。今ごろあの世で喜んでいることだろう。

 

「う、うん。大丈夫やけど――」

「お前じゃねえ。アタシのどら焼きは無事かつってんだよ」

「それも大丈夫やけどたまには(ウチ)のことも心配してほしいんよ……」

 

 別にお前のために暴れたわけじゃねえんだよ。アタシはアタシのために暴れたんだよ。

 全く、せっかくアタシが稼いだ金で買ったどら焼きを危険に晒しやがって。

 

「帰るぞ。もうここには来たくない」

「うー……」

 

 何がそんなに不満なのかさっぱりわからないんだけど。

 まあいい。アタシとジークは早々にその街から立ち去ったのだった。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 27

「――あれ?」

 ジークを置き去りにしてその場を立ち去ろうとしたアタシの足が止まる。
 今持っている袋の中身を確認したのだが、なぜか名物のどら焼きしか入ってない。

「あ、どら焼きか。ならいいや」

 アタシは再びその場から歩き始めた。なんか忘れてるような気がするけど気のせいだろ。

「サッちゃーん!! (ウチ)を忘れとるよ!」

 人違いです。



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