死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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 今回は主にハリー視点でお送りします。


第33話「激おこぷんぷん丸」

「チィッ……!」

「どうしてこうなったんだ……?」

 

 オレの友達である緒方サツキは今、めちゃくちゃイライラしている。

 いやいや、そこまでイライラする必要あんのか? まあ、気持ちはわからなくもねーけどさ。

 

「あ、あのさサツキ――」

「じゃかましいクソヤローがァああああッ!!」

「ぶふっ!?」

 

 なんとか宥めようと声をかけたら顔面に裏拳をかまされた。

 いてーなおい!? 何も問答無用で殴り飛ばす必要はねーだろ!?

 

「今アタシはすげえイライラしてんだよ!! テメエは気楽でいいよなぁ!! 次また気安く声をかけたらブチのめすぞゴラァ!!」

「待て! さすがにそれは――」

「はいドーン!!」

「ぶふぉ!?」

 

 またしてもサツキの拳がオレの顔面に突き刺さった。

 ていうか頼む。せめて会話ぐらいはさせてくれ。

 クソッ、オレが一体何をしたってんだチクショー……!

 事の始まりは今から五時間ほど前だ。あんなことさえなけりゃ……!

 

 

 

 

 

 

 

「またやらかしたのか……」

「だったらなんだゴラ」

「サツキ。とりあえず落ち着け」

 

 オレとサツキは職員室に呼び出された。なんでもサツキがまたやらかしたとか。

 何をやらかしたって? 大方ケンカだろーな。それ以外に思いつくことはない。

 コイツ、初めて会ったときからこんな調子だもんなぁ。

 

「だったらなんだ、ではない。いいか? 大体君はだな――」

 

 あー、また始まったよ。この先生の説教、めちゃくちゃ長いんだよ。

 しかもサツキはこれで三度目だ。停学じゃないだけマシだけどな。

 ちなみにオレは証人ということで呼び出されている。まあ、慣れてるけどよ。

 

「少しは反省しないか! しかも今回は――」

「……………………っ!」

 

 あ、ヤバイ。サツキの奴、かなりキレそうになってる。

 表情は話を聞き流すときのそれだが、握っている拳からは血が出ている。

 耐えろサツキ。頼むから耐えてくれ。あと殺気は抑えろ。

 

「それと君には学習能力がなさすぎる!」

「……っ!!」

 

 お、おい? なんか前よりも沸点が低くなってねーか?

 だとしたら早く帰りたい。でないとオレの胃が持たねえ。

 

「――不良なんてくだらないことはやめて、他の生徒のように将来のことを考えるんだな」

 

 っておい先生! それは禁句だって! 今なんかプッツンって聞こえたから!

 

「…………い、今なんつった?」

「だから、不良なんてくだらないことはやめて他の生徒のように将来のことを考えろと言ったんだ」

 

 あ、これもうダメだ。

 

「――殺すぞテメエぇえええええええッ!!」

「サツキストップ! 相手考えろ!! 先生だぞ!? 洒落にならねーって!!」

「知るかボケぇ!! つーかウジウジと話長えんだオラァ!! 簡潔に20文字以内でまとめろやァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「――クソッタレが……!」

「はぁ……」

 

 とまあ、こんな感じで今に至るわけだ。

 いつものことだから大丈夫だと思ってた自分が凄え憎い。

 そーいやサツキに常識が通じるなんて思ってた時期もあったなぁ。

 

「そんでさー」

「へぇー」

 

 すると前から他の生徒が二人ほど歩いてきた。忘れていたが今は放課後だ。

 つまり下校中の生徒もいるわけで――

 

 

 ドンッ

 

 

「――ちょっと、気をつけなさいよ!」

 

 見事にサツキとぶつかってしまった。ていうかサツキ、前くらいは見ろよ。

 まったく、完全に周りが見えてねーな。……あれ? これヤバイんじゃ……?

 

「――あァ?」

「「「っ!?」」」

 

 おいおい!? これ威圧じゃなくて殺気じゃねーか!?

 

「…………あ、あのですね――」

「何が気をつけろだァ……?」

「ひぃっ!? な、なんでもありません! すみませんでした――っ!!」

 

 サツキが少し目を細めると、ぶつかった女子生徒は脱兎のごとく逃げていった。

 相変わらず凄まじいな。見てるこっちが怖えよ。

 

「チッ、雑魚が」

「…………」

 

 えー……。

 

「いや、威圧ならまだしも殺気はどうかと思うぞ?」

「…………はァ?」

「待て待て! 今の言葉のどこに怒る要素があったんだ!?」

 

 なんかさっきよりも苛立ってねーかお前!? だんだん殺気が濃くなってるぞ!?

 明日には元に戻ってくれるといいんだが……大丈夫か?

 

「タバコは……お、あった」

「だからやめろ――」

「テメエ……黒ツヤみてえに駆除したろか?」

 

 さすがにあの虫と同列にされるのは心外だな。

 そう考えてる間にも、サツキは一服してしまった。またしても止められなかったよ……。

 

「ったく……散々な一日になりそうだ」

 

 お前のおかげでもうなってるとか言ったら間違いなく殺される。

 

「でよー……ん?」

「どうした?」

 

 今度はサツキの言う意気がってる男子生徒二人とすれ違った。

 サツキは相変わらず苛立ったままだ。お願いだから面倒事はよしてくれ。

 

「…………なんだよあんた?」

「あ? テメエなに見てんだ――」

「はいはいはいはいストップストップ!!」

 

 ゆっくり振り向いたかと思えばこれかよ!? 目が合っただけだぞ!?

 

「は、早く行こうぜ」

「ああ、そうだな」

 

 オレがサツキを止めてる間に男子生徒はどっかに行ってしまった。

 よ、よかった……いろんな意味で。しかしこれじゃしばらく続きそうだ。

 

「いい加減に機嫌直せよ!!」

「なんだゴラァ!?」

「なんだじゃねーよ! 些細なことでイライラすんな!」

「甘ちゃんの分際で何を言うかと思えば……ぶっ殺すぞ?」

「上等だ。ビビってたオレがバカだったよ」

「テメエは常にバカだろうが」

「んだとてめー!?」

 

 チクショー! こうなったら当たって砕けろだ!

 

 

 

 

 

 

 

「炬燵が気持ちいいなぁ~」

 

 翌日。アタシは学校の屋上に設置してある炬燵で寝ている。

 なんか昨日はいろいろあったけど……まあいいや。今となってはどうでもいいし。

 それと今日は珍しくハリーが休みなんだよな。なんでも体調不良かつ頭を負傷したとかで。

 

「珍しいこともあるもんだ」

〈それはひょっとしてギャグで言っているんですか……?〉

 

 いや、そんなつもりで言ったわけじゃないんだけど……。

 

「平和もたまにはよし、だな」

 

 退屈なのはつまらんが、刺激がありすぎても困る。要はバランスが一番だな。

 今日は何をしようかな~?

 

 

 ――ガチャッ

 

 

 そんなことを考えていると屋上の扉が開き、二人の男子が入ってきた。

 あの服は……1年か? うん、1年だな。つーかなんでケンカ腰なんだ?

 

「ま、別にいいか」

 

 そっちがその気ならやるまでだ。

 今日もアタシは退屈しない。全く、いつまで続いてくれるのやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リーダー! 大丈夫っスか!?」

「これが大丈夫に見えるか……?」

「何があったんですか?」

「昨日サツキが……そうだ、サツキは?」

「屋上で1年の男子二人とケンカしたらしいっス。そのあとはいつも通り――」

「寝てたってか?」

「お、オッス!」

「…………誰か胃薬持ってねーか……?」

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 5

「昨日サツキが……そうだ、サツキは?」
「屋上で1年の男子二人とケンカしたらしいっス。そのあとはいつも通り――」
「寝てたってか?」
「いえ、授業に出てました」
「はぁ!?」



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