死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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 えーっと……ギャグのつもりで書いたんですけど……どうしてこうなった。


第二章「インターミドルと無限書庫」
第31話「癒し要員を泣かす奴は極刑な」


「我が家よ! アタシは帰ってきたぞ!」

〈マスター。死ぬほど恥ずかしいのでやめてください〉

 

 無事に合宿を終えたアタシはついに我が家へと帰還した。

 いやーホントに大変だったよ。街に帰ってくるなり集団に絡まれたし。

 もちろんボコってから持ってるもん奪ったけどね。お金やタバコとか。

 

「たっだいまー!」

「……お帰り」

「おう、ファビア」

 

 出迎えてくれたのはファビアだった。ジークじゃなくてよかったよ。

 もしジークだったら顔面に絶花をブチかましていたに違いない。

 ほら、某バスケ漫画の影薄い主人公みたいにさ。

 

「ギタギタ!」

「お前らもいたのか」

「カッカッカー!」

 

 へぇ、今日はプチデビルズも一緒か。

 

「ゲゲゲッ!」

「ん? 何々、家の近くに不審者がいたから追っ払った? ナイスだ三号」

 

 どうやらアタシん家の近くに不審者がいたので、それを追っ払ってくれたらしい。

 なぜだろう、その不審者が知り合いな気がしてならない。

 

「ファビア、タバコ」

「…………ここにある」

 

 アタシはファビアからタバコを受け取り、久々にマッチで火をつけて一服する。

 ……これだよこれ。荷物を置きながらタバコを懐かしむ。

 

「……サツキ。二つほど言いたいことがある」

「なんだ?」

「……………………そ、そろそろ――クロって呼んでほしい」

 

 ファビアが顔を真っ赤にしながら俯く。なんだ、そんなことか。

 そういや会ってから一週間でそれらしいの言ってたっけ。忘れてたけど。

 

「ファ――クロ。これでいいか?」

「うん」

 

 クロが目を輝かせながら顔を上げる。すげえ嬉しそうだな、おい。

 今にもぴょんぴょんしながらバンザイでもしそうな勢いで歓喜してやがる。

 しかもプチデビルズまで歓喜してるからパレードみたいになってやがる。

 やっぱりお前はアタシの()()()()だよ。今のところはな。

 

「……で、もう一つは?」

「今日はケーキの特売……!!」

「…………は?」

「ケーキの特売がもうすぐ始まる……!!」

「よし30秒ルートで行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

「どけどけどけぃ――っ!!」

「ごふっ!?」

「あべしっ!?」

 

 近くのスーパーでケーキの特売があることを知ったアタシは全力疾走していた。

 ちなみにクロは箒に乗って飛んでいる。

 あと邪魔な通行人は風のごとく殴り飛ばす。時間短縮は大切だもんな!

 

「クロ! あと何分だ!?」

「もう始まってる……!」

「ちくしょう! 邪魔だコノヤロー!」

「ぶほっ!?」

 

 クソッ、間に合わなかったか……!

 そしてついにスーパーに到着した。うわぁ、店ん中女だらけだな。

 なんか無駄に若いのがいっぱいいる。まあ、ブチのめすから関係ねえけど。

 だってアイツら――全然並んでないし。

 

「クロ。お前は晩飯のおかずを買ってこい。アタシは――戦争してくる」

「頑張って……!」

 

 口ではそう言っているクロだが、目がヤバイ。絶対に取れよ!? みたいな感じになってる。

 

「はいはい、邪魔邪魔ァ!」

 

 さっそく近くに群がっていた若いのを無理やり引っ張り出し、道を作る。

 次にその道を塞ごうとしてきた奴らを強引に押し退ける。弱っちいのが無茶してんじゃねえよ。

 この光景は地球でも見たことがある。そのときの特売は豚肉だったけど。

 別に殴り飛ばしてもいいのだが、ここのスーパーは通常時でもお買い得だから出入り禁止にはされたくないんだよね。

 

「ごめんねごめんね~」

 

 軽い感じの口調とは裏腹に、一人一人を投げたり押すような感じで退けたりと結構大変だ。

 だってキリがないし。ていうか人気ありすぎだろこのスーパー。

 

「よしっ! ケーキ確保ぉ!」

 

 ケーキを二つゲットしたアタシは代金を奪い取った札で支払い、女の群れから脱出した。

 これでクロに顔合わせができる。別にしなくてもいいけど。

 

「……終わった?」

「こっちは疲れてるってのに余裕だなぁお前は」

「……疲れてるようには見えないけど」

 

 だって嘘だもん。

 

「さてさて、早くケーキ食わねえとな」

「……楽しみで仕方がない」

 

 お、おう、無表情なのにわかってしまうほど喜んでんなコイツ。

 スーパーから出たアタシとクロは達成感に満ち溢れていた。

 アタシはケーキゲットの記念として一服した。やっぱ基本はオイルライターだな。

 ってクロ。早く現実に帰ってこい。前見ろ前。思いっきり意気って群れてるのがいるから。

 つーかアイツらも前見てねえな。頼むから避けろ、ホント頼むから。

 

「それでよ~」

「あう――っ!?」

 

 しかし、アタシの願いが通じることはなく見事にぶつかってしまった。

 もちろんその衝撃でクロはケーキを落としてしまった。うわー、原型留めてねえよ。

 

「………………!?!?」

 

 クロはこんなの嘘だ! と言わんばかりに震えながら膝をついた。

 これが絶望した人間の面か。なかなか暗いな。何度か見たことあるけど。

 耳を澄ますと泣き声みたいなのが聞こえてきた。……え? マジ?

 

「私の……私のケーキが……!!」

「…………」

 

 気づけばアタシはタバコを捨て、無言で動き出していた。標的はもちろん――

 

「――おい」

「マジかよ!」

「おう、マジだって!」

 

 クロを泣かせたクソ共だ。

 

「おいカス」

「……あ? 俺?」

「テメエらだよ。待てコラ」

「なんだお前? てゆーか誰?」

 

 なるほど、四人か。ソイツらはアタシを見てなんだコイツ? みたいな感じで笑い出した。

 おーおー、その面今すぐ整形してやんよ。あと遺言残しとけや。

 

「……ちょっとこい」

「は?」

「ちょっとこいつってんだお前ら。面貸せゴラ」

「なんで俺らが――」

「早くこいよオラ」

 

 

 

 

 

 

 

「ひぃっ!?」

「逃げんなクソが!」

 

 近くの裏路地にて、アタシはカス四人を相手に大暴れしている。

 四人のうち二人を一撃で沈め、残り二人を落ちていた鉄パイプでシバいてる最中だ。

 なんで鉄パイプを使ってるかというと、最近あんまり使ってなかったからだ。

 ほら、たまには使いたいじゃん? それに相手は多人数なんだし。

 

「な、なんなんだよお前!?」

「さあ、なんでしょうな?」

 

 やっぱり群れる奴は雑魚だ。ヘドが出るほどに雑魚だ。

 

「大体俺らが何をしたってんだよ!?」

「何をした……だと……?」

 

 おいおい、ここまでされといてまだ自覚がねえのか。

 お前らがやったことは重罪のそれなんだよ。その薄汚え体に刻み込んでやろうか?

 

「――テメエらのせいでアタシのケーキ代が水の泡になっちまったじゃねえかおい!」

「はぁ!?」

「お前なに意味不明なこと言ってぐふっ!?」

 

 なんか叫ぼうとしたカスを思いっきり蹴飛ばす。

 意味不明だと? あのケーキはアタシが金を出して買ったんだぞ!?

 せっかくの報酬が無駄になっちまったんだよ! わかってんのかお前ら!?

 

「ケーキ代返せクソヤロー!」

「知るかよそんなもん!」

「あァ!?」

 

 残った一人にたった一言で一蹴されたので鉄パイプでぶん殴る。

 痛そうに肩を押さえているとこ悪いが、一発で終わらせはしねえぞ。

 アタシは鉄パイプを両手で持ち、足を滑らせて倒れたソイツ目掛けて何度も振り下ろした。

 

「…………こんなもんかな」

 

 最後の一人が動かなくなったのを確認し、鉄パイプを投げ捨てる。

 あースッキリした。とりあえずケーキ代をもらうとしますか。

 

〈いつもよりさらにやり過ぎてませんか?〉

「そりゃそうだろ」

 

 今回ばかりは否定しない。

 

「ま、金はもらったことだしもう一回特売へ行くわ」

〈……マスター〉

「んだよ」

〈その特売、ついさっき終わりましたよ?〉

「……は? う、嘘だろ?」

〈いえ、時間的にもうおしまいです〉

「…………」

 

 最悪だ……。

 

 

 

 

 

 

 

「ぐすっ……!」

「いい加減に泣き止めよ」

 

 家に帰宅したのはいいが、クロがなかなか泣き止んでくれないでござる。

 あれからダッシュでスーパーに戻ったら店自体が閉まってやがった。

 まあ、飯の材料はクロに買わせたから特に問題ないけど。

 

「私の、ケーキが……!」

「ここにあるだろ」

「でもそれはサツキの――」

「ここにあるだろ」

「…………」

 

 とりあえずケーキに関してはアタシのやつをあげることでなんとかできた。

 後はクロを泣き止ますだけか。とはいってもここまで泣かれちゃあそう簡単にはいかねえよなぁ。

 

「……クロ。屋上行こうぜ」

「………………屋上?」

「ああ」

 

 

 ――そんなわけで――

 

 

「どうだ、風当たりがいいだろ?」

「……うん」

 

 マンションの屋上に来ちゃった。風がめちゃくちゃ気持ちいいのだよ。

 しかも夜だから星空が綺麗だし。まさかここでもこんな眺めが見られるとはな。

 肝心のクロはというと、今は泣き止んでケーキを食べている。

 

「お前、目が腫れてんぞ?」

「…………!? み、見ないで……!」

 

 もう見ちゃったから無理。顔を真っ赤にされても無理なものは無理。

 

「まあなんにせよ、泣き止んでよかった」

 

 これ以上泣かれたら額に青筋が浮かぶところだったよ。

 こういう適応力の早さも癒し要素の一つなんだよな。いろんな意味で。

 

「…………サツキ」

「ん?」

「…………あ、ありがとう」

「いいよ別に」

 

 お前が癒しであるならそれで。

 今は一服してるから平常でいられるが、もしタバコを吸っていなかったらコイツを膝の上に乗せていたかもしれない。

 それだけストレスを発散してくれるんだよ、()()()()ってやつは。

 この日は結局、クロを泊めることにした。帰って早々いろいろあったからな。

 

 

 

 




 クロちゃんの出番はできるだけ増やすつもりです。

《今回のNG》TAKE 24

「…………サツキ」
「ん?」
「ひ、膝の上には乗せないんじゃあ……?」

 やってもうた。



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