「リオ、どこいくの?」
「サツキさんの部屋!」
「でもスミレさんもいるんじゃ……」
「さっき頼んだらとっても楽しそうにオーケーしてくれたよ!」
「そ、そうなんだ……」
「あれ? じゃあスミレさんは」
「やっはろー!」
「あ、スミレさん!」
「うんうん、皆大好きスミレさんだよ~」
「スミレさんはどこで寝るんですか?」
「野宿だよ」
「「「……え?」」」
「なあウェズリー」
「あ、はい」
「夜這いってのは主に異性に対してやるもんだよな?」
「そうですけど……それがどうかしたんですか?」
「そうかそうか。ならアタシの認識は間違ってないんだな?」
「そういうことになりますけど……」
「よかった。てっきりアタシがおかしいのかと思ったよ。はっはっは――」
「――じゃあなぜお前はアタシのベッドで寝ているんだ!?」
ご飯を食べてから部屋に戻ってみればこの有り様だちくしょうが。
なんか布団が膨らんでいるなー、とか思って捲ったらウェズリーがアタシのベッドを占拠していやがった。
「スミレさんが許可を出してくれたんです!」
あのクソ姉貴……!
「とりあえず自分の部屋に戻ろう、な?」
「イヤですっ! サツキさんと一緒に寝たいんです!」
それだけの理由でベッドを占拠したのかこの八重歯は。
いつも破天荒な笑顔のアタシもこれは笑えない。
「どうしてもダメだと言うのなら噛みますよ?」
「なぜそうなるのかお姉さんにもわかるように説明してくれ」
わけがわからないでござる。
「わかったよ。一緒に寝てやるから床――外で寝ろ」
「それはサツキさんの方ですよいだだだだだっ!!」
意味不明なことを言い出したウェズリーにアイアンクローをかける。
なんで自分の部屋なのに床で寝なければならんのだ。頭おかしいぞこの八重歯。
「さ、サツキさんっ! 頭が、頭が割れるように痛いですぅうううううっ!!」
「じゃあそっからどけ。それだけで許してやる」
運がよかったな。今日のアタシは紳士だ。
「離れますっ! 離れますからアイアンクローをやめてくださいっ!」
どうやらこのままでは動けないらしい。仕方なくウェズリーを解放する。
……やっぱり握り潰しておけばよかったか? その方が何かと手っ取り早いし。
「いたた……」
「謝らねえぞ」
逆に謝罪を求めたいくらいだ。
「ま、もう遅いしアタシは寝る」
全く、ガキのくせに夜這いとか――
ピョンッ(ウェズリーがベッドに飛び乗る音)
ボフッ(ウェズリーがベッドに寝転がる音)
――もう殺っちゃっていいよね?
「…………っ!!」
〈マスター。表情が引きつって額に青筋が浮かぶほどムカつくのでしょうが抑えてください〉
アタシだって人間だ。どんなに抑えても限界というものはある。
「ほらサツキさん! 早く寝ましょうよ!」
「何事もなかったかのように誘うのやめろ。そしてベッドから降りなさい」
最後辺りで口調を和らげることができたアタシは絶対に偉い。
いつもならここでマウントを奪ってひたすら殴っていたはずなのだから。
「何事もって……最初からこうでしたよ?」
「待て。さりげなく記憶を改竄するな」
少なくとも最初からではない。最初はお前なんていなかった。
そうだとも、ここにいたのはアタシだけだ。ウェズリーなんて変態はいなかった。
「…………オラ、どけ」
「サツキさんは気にせず入ってきてください!」
むしろ気にしない方がおかしいだろう。
「はーやーくー!」
「――ああ、わかったよ」
そうだ。最初からこうすればよかったんだ。
アタシはどこからともなくペンチを取り出し、それをウェズリーに見せつけた。
「待ってください。その右手に持ってるものってペンチですよね?」
「ん? お前の望み通りにしてやろうと思ってな」
「八重歯は抜かせませんよ!」
「チッ」
さすがにペンチを取り出せば気づくか。ならこのペンチには生け贄になってもらおう。
「ウェズリー。早くベッドから降りろ。さもなくば――」
――グシャッ
「こうなる」
内容はこうだ。見せしめとしてペンチを握り潰し、粉々に粉砕する。
これで効かなかったら文字通り遠慮なしの実力行使だ。死んでも責任は取らねえ。
「……………………あ、はい」
どうやら忠告が効いたらしく、ウェズリーはベッドから降りてくれた。
ついでに部屋から出ていってくれるとマジで嬉しい。ていうか出ていけ。
「さて、今度こそ寝るか」
さっそく布団に入り、明日に備えて寝ることにした。これでやっと眠れる――
モゾモゾ(布団の中で何かが蠢く音)
ガバッ(ウェズリーの頭がヒョコっと出てくる音)
「「…………」」
これは幻覚か?
「ウェズリー。さっきの忠告が聞こえなかったようだな」
「え、えーっと…………テヘッ☆」
――このあとロッジ中にガキの悲鳴が響き渡ったが、何があったかは想像に任せる。
「さて、覚悟しろよサツキ」
「どうあがいても絶望な件について」
翌日。めちゃくちゃ突然で悪いがただいま例の模擬戦に参加している。
どうやら最初は1on1でいくみたいなんだが……アタシの相手は言うまでもなく姉貴。場所はビルに挟まれた地上だ。
上ではウイングロードやらエアライナーやらを道にしてそれぞれの1on1が展開されている。ついでに魔法の弾幕も飛び交っている。
アタシは赤組、姉貴は青組だ。ポジションは互いに
「1on1とか久々だかんなぁ……どうやって狩ろうか」
アタシが狩られるのはすでに決定しているらしい。冗談じゃねえけど。
「なら姉貴、素手でかかってこい。そのガントレットから出している鉤爪みたいな刃物は仕舞うんだ」
「これもれっきとした白兵戦だ」
おかしい。会話が微妙に成立していない。
ちなみに姉貴の愛機はエリアスというガントレット型のアームドデバイスだ。
外装どっかで見たことあるような? とかツッコんだら負けである。中身はデバイスだから。
「――そんなわけでくたばれ愚妹!」
「お断りじゃボケぇ!」
そんなことを考えていると姉貴が例の刃物を振りかざしてきやがった。
相変わらず動きも速いのなんの。アタシはそれをバックステップでかわす。
普通なら姉貴と正面からやり合っても勝ち目はない。幸いにも手加減+制限ありだからなんとか対抗できているけど。
残りLIFEが気になるけど姉貴相手にそれを確認する余裕はどこにもない。なんせそれだけで命取りになるからな。
「だらぁ!」
「甘いね!」
すぐさまハイキックを連続で繰り出すも、当然のようにしゃがんで避けられる。
その隙をつかれて足払いを掛けられる。もちろんかわせるわけがなく――
「ぶっ!」
見事に後頭部から転んだ。痛い。
「立てよオラ」
「るっせぇ!」
イラつきながら立ち上がって回し蹴りをかますが、これも余裕で受け止められた。
次に空いていた左脚で蹴り飛ばそうとするも、姉貴はその脚に拳を突き立てた。
「……っ!?」
完全に力負けし、思わず後退してしまう。相変わらずなんてパワーだ。
伊達に“
「おっとサツキ、残念ながら選手交代だ」
「は? 一体どういう――」
「――シュートッ!」
「なしてっ!?」
突如アクセルシューターと思われる桜色の弾幕が複数飛んできたのでアタシはこれを壊さずに受け止め、一つに束ねる。
そしてこれを撃ってきたクソヤローを迎え撃つ。姉貴は……どこ行きやがった。
ちなみに
さっき旋衝波とかいってヴィヴィオにかましてたからな。
「次は私が相手だよ、サツキちゃん」
やはりと言うべきか、上空から現れたのは高町なのはだった。なんだこの絶望感は。
姉貴がいないのを確認して残りLIFEを見てみる。えっと……1600か。まだやれるな。
「まさか魔王様が相手してくれるとはな」
「そういう――待って。魔王って私のこと!?」
「テメエ以外に誰がいんだよ」
「そっか……それじゃあ、その事について聞かせてもらおうかな」
「そのわりには殺気がすげえぞ」
にしてもエース・オブ・エースと正面からやり合うことになるなんてな。
勝てるかどうかは知らんが、相手に不足がないのは確実だ。
アタシは右手を突き出し、一つに束ねていた弾幕をなのは目掛けて弾き飛ばした。
――やってやんよクソッタレが!
《今回のNG》TAKE 1
「リオ、どこいくの? ――荷物まとめて」
「帰らせてもらうんだよっ!」
「「待って待ってストップストップ!!」」