死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第21話「アタシとハリーと逃亡劇」

「お前のせいで死にかけたぞ……」

「なんで生きてんだ? てっきり仕留めたかと思ってたわ」

「こっちは必死だったんだよ……!」

 

 ジークのメイド服姿を拝んでから数十分後。学校に来てみればハリーが頭に包帯を巻いた状態で登校してきた。

 よくその程度で済んだな……。アタシとしては本気で殺ったつもりだったんだぞ。

 付き合いが長い分、体も丈夫になってきたみたいだな。結構結構。

 

「次からは実力行使も行うので夜露死苦!」

「夜露死苦じゃねーよ。試合でもないのに暴れるのはやめろ!」

「試合ならいいのか!?」

「お前が思ってるようなことはやめろよ!?」

 

 なんでやねん。

 

「チッ。仕方ないから行ってくるわ」

「どこに行くんだ?」

「そもそも何が仕方ないんだ?」

「またリーダーから逃げるとか?」

 

 そうしたいのは山々なんだが……そうだな。アタシはある事を確認するために懐に手を突っ込む。

 うん、やっぱりだ。タバコがない。そうとわかれば買いに行かなきゃな。

 

「いやなに、ちょっとタバコを買いに」

「待て。タバコってどういうことだ?」

 

 しまった。口が滑った。なんて誤魔化そうか……そうだ。これならいける。

 

「間違えた。タバコを取りに帰るんだった。あははは」

「あははは、じゃねーよ!?」

〈マスター。それじゃほとんど変わりませんよ〉

 

 恨むぞアタシの判断力。

 

「これ、オイルライターってやつか?」

「あ、ビールもある」

「それに……薄い本?」

「おいコラ人の鞄を勝手に弄るな」

 

 マズイ。鞄の中にはタバコやビール以外にもいろんなものが入っている。これ以上はヤバイ。

 アタシは三人組から力ずくで鞄を取り返すことにした。

 

「だらっしゃあ!」

「お、おいっ!?」

「それ以上はいけない!」

 

 よし。鞄はなんとか死守したぞ。ホントに危なかった。いやマジで危なかった。

 しかし、そうは問屋が卸してくれない。今度はハリーが出しゃばってきたのだ。

 

「サツキ。その鞄をよこせ」

「しかし断る」

「よこせ」

「でも断る」

「……よこせ」

「けど断る」

 

 なんてしつこいんだこの番長は。このしつこさが試合で生かされてんのか。

 そりゃあヴィクターと泥試合になるわけだ。アタシには全く関係ないけど。

 

「サツキ、これが最後だ。鞄をよこせ」

「……いいだろう」

「やっとその気にな――」

「実力行使だ」

「――って待て待て待て待て! なんでそうなる!?」

「そんなの決まってる。鞄を守るためだ」

 

 連続でやりたくはなかったが……そうせざるを得ないなら仕方ねえな。

 目立たない程度に構え、いつでも逃げられるようにしておく。

 

「鞄のためだけに実力行使とか、大袈裟すぎないか!?」

「鞄は学生生活における重要なパートナーなんだよ。つまり一心同体ってわけだ」

「それっぽく言っても無駄だ――」

「さらばだっ!」

「結局逃げんのかよ!」

 

 先手必勝ってなぁ!

 

「待てサツキ!」

「――なんてなっ! 食らえ鉄拳!」

「ちょ、おまぐふぅ!?」

「「「リーダー!?」」」

 

 教室から出る寸前で振り返り、追ってきたハリーを殴り飛ばした。実力行使と言ったろうが。

 その隙をついて一気に走り出す。そこそこ全力疾走だな。

 

「はっはっは! キサマはそこで寝てろぉ!」

「ち……ちくしょう……!」

 

 こうなりゃこっちのもんだ。一旦止まっていたアタシは今度こそ屋上へと走り出した。

 待ってろアタシのアガルタ……いや、桃源郷だっけか? まあなんでもいいや。とにかく待ってろよアタシの屋上!

 

「またなハリー!」

「く……次は負けねえからな……!」

 

 上等だ。いつでもかかってこいや。

 

 

 

 

 

 

 

「待ちやがれサツキィィ――!!」

「待てと言われて待つアホはいない!」

 

 あれから時間が経って昼休み。復活したハリーから逃走中なう。なんでこうなったかは言うまでもない。

 実はこのやり取り、結構続けているんだけど……最近、奴の判断基準が厳しいでござる。

 これがなかなか撒けないんだよ。奴もそれなりに成長しているってことか。

 

「朝は抜かったからな。午後はちゃんと授業を受けてもらうぞ!」

「それ言うの何回目だよ! いい加減飽きたぞ!?」

「お前がちゃんと授業を承けるまで何度でも言ってやる!」

「冗談じゃねえー!」

 

 アタシにはアタシのペースがあるんだよ!

 

〈マスター、諦めてちゃんと授業を受けましょうよ〉

「サツキ! そろそろ諦めろ!」

〈ほら、ハリーさんもああ言ってることですし〉

「アタシは絶対に諦めねえ!」

「諦めろよ!?」

 

 ここ最近いろいろあってストレスを発散しきれなかったんだ。マジで休ませてくれ。

 でなきゃこの学校を潰しかねない。こうなったらあれを使うしかない!

 

「誰か助けてぇ! 変態番長に犯されるーっ!」

「お前は毎回なんて悲鳴を上げやがるんだ!?」

 

 毎回って……この前は確か『やめて番長! アタシにそっち系の趣味はないのよっ!』だっけか?

 思い出すと恥ずかしいな。女口調で喋ってしまうなんて……屈辱だ。

 

「とりあえず、とにかく逃げよう。捕まれば()()行きだからな。それだけは避けたい!」

〈まあ、せいぜい頑張ってください〉

「大人しく捕まりやがれ!」

 

 愛機が味方してくれない件について。

 

 

 

 

 

「まずは荷物を回収だ!」

「さ、サツキ!? リーダーはどうしたんだ!?」

「後ろだ」

『サツキィィ!!』

「よし! 荷物は確保した。悪いが先を急がせてもらう!」

「っておい! サツキ!」

「窓から行くのかよ!?」

 

 

 

 

 

「どけテメエら!」

「ぼふっ!?」

「ぶべらっ!?」

「お、緒方さん!? 廊下は走っちゃダメですよ!」

「待てサツキ!」

「トライベッカさんも!」

 

 

 

 

 

「あ、あのっ! この前はありがとうございました!」

「ん? 何が?」

「助けていただいて……」

「ああ、ナンパの件か。あれは――」

「そのまま動くなよサツキ!」

「ま、気にすんな! そんじゃアタシはこれで」

「あ、はい……」

 

 

 

 

 

〈それでまた屋上へリターンですか〉

「ははっ。返す言葉もねえな……」

 

 あれから結構逃げ回ったが、なんだかんだで屋上に戻ってきてしまった。

 まあ、ここには炬燵もミカンもあるしな。仕方ねえや。

 

 

『サツキ! どこにいやがる!』

 

 

 ハリーは未だに校舎でアタシを探している。アイツに学習能力というものはないのだろうか。

 アタシの逃げ込む場所なんてわかりきってるはずなのに。

 これはこれで時間稼ぎになるけど。さすがに飽きてきたなぁこの追いかけっこ。

 

〈ところでマスター、さっきの件……〉

「ナンパの件か? あれは別に助けたわけじゃないさ」

 

 ナンパしてたクソヤローがお金持ってる発言したからぶっ殺しただけだ。そうでなきゃスルーしていた。

 おかげで儲かったけどな。大丈夫だ、病院送りにはならない程度にボコっただけだから。

 

「今日は外食でもするか」

〈ジークさんの分はどうするんですか?〉

「ジーク? 誰それ?」

 

 そんな奴いたっけ?

 

〈マスター。冗談もほどほどに〉

「はいはい。買ってやればいいんだろ買ってやれば」

 

 めんどくせえが仕方がねえ。ていうかなんにしようかな? 今日の晩飯は。

 なんせ外食だからなぁ。たまにはラーメンとか食いたいな。

 いや、ここは贅沢に回転寿司でもいくか? でもこの辺りに寿司屋なんてあったっけ? 別に握り寿司でもいいけどさ。

 

「それよりも、アイツに余計なことをされてないか心配――」

 

 待てよ。今家にいる可能性があるのは貧乏神じゃないかという疑いが浮上している()()()

 おそらく食料でも漁っているに違いない。それかファビアのために買ってきたお菓子でも食ってそうだ。

 

「――よし、帰ろう。食料どころか部屋まで荒らされているかもしれない」

〈いつもなら止めますが、空き巣のように荒らされては困りますからね〉

 

 奴はそれだけのものを持っているからな。間に合うといいんだが――

 

 ガチャッ

 

「それよりも午後の授業だ……!」

 

 ――その前にようやくやってきた絶賛息切れ中のハリーをなんとかしなきゃならんみたいだ。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 15

〈マスター、諦めてちゃんと授業を受けましょうよ〉
「サツキ! そろそろ諦めろ!」
〈ほら、ハリーさんもああ言ってることですし〉
「諦めるわけねえだろバーカ! 弱虫バーカ!」
「誰が弱虫だぁ!?」
「お前だよペッタンコ!!」
「なんだとてめー!?」
〈……こちらが本編でもよかったのでは?〉



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