死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第2話「アタシと魔女と居心地の悪さ」

「……サツキ、朝だから起きて」

「ん~……おう、ファビアか」

 

 覇王とやり合った翌日。アタシは魔女っ娘ことファビア・クロゼルグに起こされて目が覚めた。

 コイツとはもう2ヶ月の付き合いだ。その過程でわかったことなのだが、アタシの知る人物の中では一番良い子だったりする。

 だから友達とまではいかなくとも合鍵を渡せるほどの関係にあるわけだ。どっかの放浪乞食とは大違いである。

 とはいってもコイツがこうして家に訪れてくるのはかなり珍しいんだけどな。

 

「……お腹すいた」

「飯食ってねえのかよ」

 

 せめて食ってから来いよ。イチイチお前の飯まで作るのめんどくさいんだよ。

 それにしても、コイツの生活がどうなっているのか気になる。魔女だけど良い子だからな。

 

「ま、いいか。そんじゃついてこい」

「…………(コクリ)」

 

 しかも扱いやすくて非常に助かる。おかげでストレスも溜まらないし。

 

 

 ――数分後――

 

 

「ほれ、目玉焼きだぞ」

「………………ケーキは?」

「悪いが材料を切らしてるからなしだ」

 

 即席で作った目玉焼きをリビングで食べていると、ファビアがそんなことを言ってきた。昨日は買い物し忘れたからな。仕方ないんだよ。

 

「それとな、目玉焼きにケーキは合わねえんだぞ」

「…………忘れてた」

 

 コイツ、ケーキを始めとするお菓子のことになるとよく暴走するんだよな。

 そして今のように他のことが見えなくなる。まあ、今のはまだマシな方だけど。

 

「さてと、行ってくるかぁ」

「……いってらっしゃい。もしサボるなら、道中に気をつけて」

 

 さっさと飯を食い終わったアタシは用意してあった制服に着替え、ファビアに見送られながら家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ眠い……」

 

 家から出て数分。目を擦りながら欠伸をする。昨日の疲労が半端じゃねえ。

 というか初日から行かなきゃならねえって誰が決めたんだよ全く。

 

「やっぱ帰ろうかな?」

〈初日からサボる気ですか……〉

 

 気にしたら負けである。

 

「ちゃんと出席日数は計算してあるつもりだ」

〈そういう問題ではないかと〉

 

 抜かりはない、今までもそうしてきたからな。でなきゃとっくに留年している。

 ……うん、サボろう。そう考えるとなんかめんどくさくなってきた。

 

「よし、というわけでお家へ――」

「サツキさ~ん!」

「――ん?」

 

 誰かアタシを呼んでいるな。声を頼りに振り返ってみる。

 そこには年齢10歳ぐらいであろう、金髪カラーコンtゲフンゲフン、オッドアイのガキんちょがいた。というか高町ヴィヴィオだった。

 

「おはようございますっ!」

「おう、ヴィヴィオ」

「昨日に続いて今日も早起きなんですね。いつもはギリギリなのに」

「あれ? アタシお前に教えたっけ?」

「昨日、サツキさんがせっかくだからとか言って教えてくれたじゃないですか~!」

 

 前言撤回。思わぬところで抜かっていた。

 

「ホラホラ、早く学校行け」

「そういうサツキさんは?」

「眠いから家に帰るんだよ」

「……えっ?」

 

 今のアタシはきっとドヤ顔だろう。そんな確信が持てるほどのサボり宣言だった。

 ヴィヴィオはそんなアタシを見て何を言っているんだこの人は? という表情になっていた。

 

「んじゃそういうことで」

「ダメですよっ!?」

 

 帰ろうとしたら腕を全力で掴まれたでござる。わけがわからないよ。

 つーかお前、ガキのくせに意外と力あるんだな。格闘技やってるなら当然か。

 

「ヴィヴィオ、離してくれるとお姉さんとても嬉しいんだけど」

「そしたらサツキさんは学校サボっちゃいますよね!?」

 

 当たり前だ。眠いしダルいしタバコも吸いたい。

 

「……チッ、わかったよ。行けばいいんだろ? 行けば。途中まで一緒に行ってやる」

 

 このままじゃラチがあかないので途中まで一緒に行くという提案をしてみる。これなら問題はないだろう。多分。

 

「それならいいです……」

 

 アタシの提案を聞いてホッとした表情になるヴィヴィオ。大人しくしていれば撫で撫でしたくなるほどカワイイんだけどな。

 

「なんせアイツが母親だからな……」

「なにか言いましたか?」

「いや別に」

 

 苗字ですぐにわかったことなのだが、コイツの母親はあのエース・オb……白い悪m……高町なのはだ。おお、怖い怖い。

 ま、そんなわけでヴィヴィオと一緒に行くことになった。そっからはコイツのデバイスの話で盛り上がっていたな。――ヴィヴィオだけが。

 

「お、ここまでのようだな」

「みたいですね」

 

 気づけば別れ道じゃないか。時間が経つのってホントに早いな。

 

「じゃあなヴィヴィオ、ちゃんと学校行けよ」

「それはこっちのセリフです!」

 

 別れ際にそんなセリフが聞こえる。お前はどっかの番長(笑)か。

 ガキのくせになんておせっかいな奴……時間帯によっては障害になり得るな。

 

「さて、アタシも行くとするかな」

〈その意気ですよ、マスター〉

 

 ああ、行くに決まっているじゃないか――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――我が家に!」

 

〈私の応援を返してください〉

 

 何を言っているんだ? コイツは。つーか誰が応援してほしいなんて言ったよ。

 

「いいか? ラト」

〈良くないです。今この状況が良くないです〉

「アタシはな――」

 

 勘違いしているな、このバカな愛機は。だとすればこれは言っておかないとな。

 アタシはラトの戯言を無視しつつ一旦言葉を句切り、笑顔ではっきりとそれを告げる。

 

「学校に行くとは一言も言ってない」

〈そんなことだろうと思ってましたよ!〉

 

 なんだ、予想できていたのか。それならツッコミは不要のはずだが?

 疑問に思っていると、ラトがこんなことを言ってきた。

 

〈マスターほど思考回路がまともじゃない人はそういませんからね〉

「……どういう意味だテメエ」

 

 これでもアタシは常識人だぞ。少なくともそこらの不良よりは。

 やるときは相手を選ぶし、空気を読むときはちゃんと読む。それぐらいのことはできるんだよ。

 

〈そもそも常識のある人は()()調()()なんてしません〉

「それについては否定しない!」

〈そこは否定してほしかったです……〉

 

 めんどくさいからやだ。それに楽しいからな。ケンカは! ()()調()()はそのついでだ。

 

「そんじゃ、帰るとしますか」

〈いつになったら治るんですかね……そのサボり癖は〉

 

 大人になるまでは決して治らないと思う。よし、懐かしでもない我が家へGOだ!

 

 

 

 

 

 

 

「……それはどういうことだ」

『つまり、ヴィヴィオがお前とも練習してみたいって言ってんだよ』

 

 あれから家に帰って爆睡し、起きたら夕方になっていた。そしてちょうど通信がきてたから出てみるとその主はノーヴェ・ナカジマだった。

 ノーヴェとは楽しいケンカから始まった仲だ。それでも知り合い程度だけど。

 

「断るに決まってんだろ?」

『即答だな……じゃあ、見るだけでもいいから来てくれ』

「へいへい……」

 

 適当に返事して通信を切る。さて、面倒なあまり了承してしまったが……ま、見てるだけなら問題ないな。

 アタシは未だに痛みの感じる体を無理やり起こし、外出の準備を始めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「やっと来たか」

「ったく。こっちだって暇じゃねえんだよ」

「嘘つけ」

 

 そんなわけで練習場なう。ていうかいきなり失礼な奴だな。アタシからすれば充分に忙しいんだよ。

 あと居心地が悪い。生理的なレベルで無理なんだけど。これを我慢しつつ、辺りを見回してヴィヴィオを探す。

 

「…………へぇ」

 

 ヴィヴィオはすぐに見つかったが、アタシはそれを見て少し驚いた。アイツのストライクアーツは初めて見るが、筋はいい方なんじゃねえの?

 

〈他にも二人、ヴィヴィオさんのお友達でしょうか?〉

「だろうな」

 

 その傍らにはツインテールのガキと……や、八重歯? が特徴的なガキが練習していた。

 その二人とやらも……悪くはねえか? っと、そんなことより……

 

「おいノーヴェ」

「どうした?」

 

 今思い出したが、アタシからすれば明らかに場違いだ。ここにいるのは不良ではなく、どっからどう見ても誠実な連中ばかりである。

 まあ、なんだ……マジで居心地悪いぜ……。

 

「――帰っていいか?」

「さすがに早くないっスか?」

 

 アタシが帰れるかどうかを確認しようとノーヴェに問いかけると、姉の代わりと言わんばかりにウェンディ・ナカジマが話しかけてくる。

 お前のその軽い性格、どうにかなんねえのかマジで。ちょっと馴れ馴れしいんだわ。

 

「早いかどうかの問題じゃねえ。居心地がいいかどうかの問題なんだよ」

「いや、意味わかんないっス……」

 

 苦笑いをするウェンディにアタシは思わずため息をつく。話す相手を間違えたようだ。

 しかも、コイツと会話したところで居心地が悪いことに変わりはないわけで……

 

「なんで来ちまったんだろう――」

〈マスター、男は諦めが肝心です〉

「アタシは女だ」

 

 他の女子よりちょっと不良な普通の女の子だ。それかケンカが大好きな普通の女の子だ。

 

〈不良の時点で普通ではないことを理解してください〉

 

 あれ? そうなの?

 

「サツキさーん!」

「…………」

 

 誰かに呼ばれたかと思ったら、ヴィヴィオがこっちに手を振っていたのでとりあえず人差し指と中指をくっ付けてビッ! とカッコよく返す。

 一度やってみたかったんだよね、この挨拶。

 

「ま、もう少しの辛抱だ。それまで我慢してくれ」

 

 そう言うとノーヴェはヴィヴィオのところに行きやがった。あ、ヴィヴィオの体が成長した。

 それと同時にギャラリーが集まってきた。なぜだろう、居心地の悪さが増した気がする。

 

「変身魔法だな」

〈変身魔法ですね〉

 

 昨日やり合ったガキも使ってたっけ……思い出したらムカムカしてきた。

 少しイライラしていると、それを払拭するようにラトが話しかけてきた。

 

〈マスター、スパーが始まりましたよ〉

「そうか。……お、意外とやるなアイツら」

 

 ノーヴェと大人ヴィヴィオ、結構いい勝負してるでないの? 両者ともに一進一退の攻防が繰り広げられていた。

 そろそろ限界だ。アタシはいつものようにアタシのやりたいことをやるとしよう。

 

「ウェンディ、アタシはもう行くわ」

「どこに行くんスか?」

 

 はっ、そんなの決まってる――

 

「――ちょっと野暮用だ」

 

 

 

 

 

 

 

「がはっ!」

「今回も手頃なサンドバッグが見つかったな! アタシに楯突いたキサマらの愚かさを、その骨の髄にまで刻み込んでやるぜぇぇぇっ!」

〈マスター、今日はやけにハイテンションですね……〉

 

 あれから二時間後。アタシは夜道で集団を相手に大暴れしていた。

 ラトにハイテンションと言われたがそんなことはない。ほんの少しハイなだけだ。

 まあ、その原因が夕方の場違いによる不快さと思い出しによるムカムカであるのは否定できないが。

 

「し、死戦女神の噂は本当にあっぶべらっ!?」

 

 アタシの蹴りを受けてバタリ、と最後の一人が倒れた。今日もたくさんやったなぁ。

 うん、いい運動になったぜ。最後になんか聞こえたけどきっと気のせいだろう。

 

「さーて、今日の報酬額は――」

 

 アタシが資金を調達しようと財布を漁っていると、いきなりズドォン! という感じの轟音が響いた。

 あらやだ、面倒事の臭いがする。そうとわかれば早く帰ろうっと。

 

「ぬふふ、今日も大漁~♪」

 

 少し上機嫌になったアタシは、少し頬を緩ませながら帰路についた。さてさて、今日の資金はいくらだろうな~。

 このとき、ノーヴェvs覇王のバトルが繰り広げられていたことをアタシは知るよしもなかった。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 3

「やっと来たか」
「ったく。こっちだって暇じゃねえんだよ」
「嘘つけ」
「嘘じゃねえよ。ケン――練習で忙しいんだよ」
「待て。今ケンカって言おうとしたか? したよな?」
「いや、気のせいだろ」

 危ねえ、思わずケンカって言いかけたよ。



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