死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

19 / 179
 サツキの弟であるイツキを主人公とした外伝作を投稿したので、よろしければそちらもご覧ください。


第19話「この恨みは一生忘れない」

「……よう」

「久しぶりだね、サツキ」

 

 街をぶらついていたらミカヤ・シェベルと遭遇した。相変わらずのおっぱいだな。

 コイツの揺れるおっぱいでも見たいのか、周りの男たちはチラチラとこっちを見ていた。

 なに見てんだゴラァ。ぶっ飛ばすぞコノヤロー。

 

「なにしてんの? お前」

「見ればわかるはずだが?」

「わかんねえよ」

 

 どう見たって洋服買いに来てるようにしか見えねえぞゴラ。

 ……洋服? コイツが? マジで?

 

「ああ、洋服買いに来たのか!」

「正解だ」

 

 とりあえず素直に答えを言ってみた。うん、だよな。お前も一応、一応女だもんな。

 つーか笑ってもいいかな? アタシは懐からタバコを取り出して一服……あれ?

 

「って……この……!」

「…………何をしているんだい?」

「見てわかんねえのか。火をつけようとしてんだよ」

 

 クソッ、つかねえぞこれ。どうやらオイルが切れたみたいだ。

 仕方がないので上着のポケットからマッチを取り出し、それでタバコに火をつけた。

 

「かー! マッチでやったの始業式の翌日以来だな……多分」

「うん。とりあえずタバコを吸うのはやめないか? まだ未成年だろう?」

 

 そんなことは気にしない。

 

「で、まだ買う気なのか?」

「当然だ。明日からまた稽古だからね」

「ようやるなぁお前ら」

「そういう君はどうするのかな?」

「さあな」

 

 ぶっちゃけケンカするしか思いつかないんだよね。いや、それでいいんだけどさ。

 まあ、ちょうどいいか。夜まで暇だし。

 

「付き合うよ」

「へぇ。どういう風の吹き回しだい?」

「気まぐれ」

 

 そろそろ服も買い換えないとなぁ。昨日着てたジャケットとか返り血が取れなくなったんだよ。

 返り血がついたままなのはさすがにマズイからな。下手すれば足がつくし。

 ちなみに今日着ている服はパーカーだ。頭を隠すフードがたまんねえんだよ。

 

「この店か?」

「そうだよ」

 

 なんか見かけはブランド物とかそういうの売ってそうな感じの店だな。

 まあ、中に入らなきゃなんにも始まらねえな。

 

 

 ――そんなこんなで時間が経ち――

 

 

「ふぅ~買った買った」

「……意外と楽しんでないか?」

「気のせいだろ」

 

 とにかく服を買いまくったアタシとシェベルは公園のベンチで休憩することにした。

 もちろんアタシは一服している。さっき何度も注意されたけど。

 実はシェベルの目を盗んでライターのオイルを買ったのは内緒である。

 

「さて、このあとどうすっかなぁ……?」

「帰らないのか?」

「帰るには帰るさ。けどたまには飲みてえだろ」

「…………2年前を思い出すよ」

「2年前……なんかあったっけ?」

 

 全く記憶にございません。

 

「私が都市本戦で負けたその日に君が来たんだが……そのときの第一声を覚えてるか?」

 

 ……ああ、ちょっと思い出した。確かにその日はシェベルのところに行ったな。

 えーっと第一声……第一声……なんて言ったっけか……そうだ。

 

「確か『よう! 慰めに来てやったぞ!』だっけか?」

「いいや、『よう! 負け犬という名の間抜け面!』だ。しかも君は笑顔でビールを飲みながらそう言ったんだ。目が点になったよ」

 

 最初の二文字しか合っていなかったようだ。

 

「まあまあ、おもしれーからいいじゃねえか」

「おそらくそう思ってるのは世界中どこを探しても君だけだ。それと私がおもしろくない」

「テメエの事情なんざ知ったことか。アタシがおもしろけりゃそれでいいんだよ」

「……変わらないな、本当に。初めて会ったときもそうだ。特に第一声で君に『お前がおっぱい師範か』と言われた恨みは一生忘れない」

 

 お、懐かしいこと言ってくれるじゃん。だってお前でけえだろ。実際に。

 ていうかまだ恨んでたのな。試合で水に流してくれるって言ったのは嘘だったのか。

 

「そんじゃ、飲みにいこうぜ」

「いや、だから君が……はぁ。食べにいくのなら構わないよ」

 

 そんなわけでシェベルと外食することになった。どさくさに紛れて飲んでやるがな!

 

 

 

 

 

 

 

「ヤベェ、飲みすぎたか……?」

〈そのわりには平常通りですよ?〉

「あ? そうなのか?」

 

 二時間後。あれからシェベルと別れたアタシはいつも以上に大暴れした()()()

 らしいっていうのはその辺りの記憶が曖昧になってるからだ。まあ、いつも通りだったらしいけど。

 とりあえず一服して頭の中を整理する。……うん、これ明日は二日酔いだな。

 

「……終わった?」

「なんでいるんだよ」

「…………たまたま」

 

 一服しながら裏路地から出ると、ファビアがいつの間にか隣に立っていた。

 おかしい。アタシは誰にも教えてないはずなんだけど……?

 

「……サツキの行動パターンくらい読める」

「なるほどな」

 

 コイツはアタシが死戦女神だということを知ってるからな。それに付き合いも短くはない。

 しっかし、わざわざここまで来たのはなんでだ? 普通なら家で待つ方が安全だぞ。

 

「…………そ、その」

「ん?」

「チーズケーキが食べたくて待ちきれなかった……!」

「……うん、そうか」

 

 それは仕方ないな。だって材料ないし。加えてどこぞの乞食が食べまくるからあったとしても一気になくなるし。

 思い出したら腹が立ってきたな。今度会ったらフランケンシュタイナーかましてやる。

 

「じゃ、買いにいくか」

「…………(コクリ)」

 

 ……あれ?

 

「あのさ、この時間に空いてるスーパーなんてあったか?」

「…………………………あ」

 

 ダメだ。コンビニならいけるが、スーパーとなれば夕方辺りに行くべきだった。

 明日にするか。アタシもチーズケーキ食いたかったけど。

 

「……帰ろう」

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 あれから何事もなく家に着いたけど……マズイな、この気配。これ確実にいるぞ。

 ファビアを見てみるも、全く気づいていないようだ。なんとか最悪の事態をかわすしかない。

 

「そぉい!」

「……!?」

 

 家に入ると同時にファビアをアタシの部屋に投げ込み、ドアを閉めた。

 閉まる寸前に見えたのだが、ファビアはベッドの下に潜り込もうとしていた。

 もしかしてアタシの考えがわかったのか? まあいい。

 

「お帰りや~」

 

 平常心を保ってリビングに向かうと、やはりと言うべきかジークがテレビを見ながらお菓子を食べていた。

 ていうかなに勝手に食ってんだコラ。それファビアのために取っといたんだぞ。

 とはいえ、他にもいくらかあるから問題はねえけどよ。

 

「なんでいるんだよ?」

「おったらあかんの?」

 

 あかん。

 

「それと勝手にテレビ見てんじゃねえよ。電気代に影響すんだろうが」

「別にええやん。お金払うの(ウチ)やなくてサッちゃんやろ?」

「だからダメだつってんだよ」

 

 食費だけでもピンチなのに、電気代まで危ういとマジで終わる。

 さて、そんなことは後にして……どうやって追い出そうか?

 

「帰らないのか? いや帰れ」

「イヤや。今の時期やとあれが出るし」

「うん。確かに出てるな」

「やろ? そやから一番確率の低いサッちゃん家に泊まろうと思ったんよ」

「で、本音は?」

「サッちゃんと一緒に寝たくて――」

「ファ――ッ!!」

「サッちゃんあかん! いつも通り洒落にぶっふぉ!?」

 

 ジークの本音を聞いた瞬間、アタシは奴にフランケンシュタイナーをかました。

 

「あたた……首の骨が折れたらどうするん!?」

「ドラム缶に入れて亜空間に放り込む」

 

 海に捨てると言いかけたが、それだと海がかわいそうだ。

 ていうかさっさと帰ってくんねえかなぁ? ファビアもそろそろ限界だろうし。

 

「ぶー……今日のところは帰ったるわ」

「二度と来るな」

 

 アタシの願いが通じたのか、なんとジークは自分の意思で帰っていった。

 ふぅ……危なかった。もしアタシの部屋に入っていったりしたらバレてたよ。

 

「…………よし、いいぞ」

「…………一体何が起きていたの?」

「気にすんな」

 

 とりあえずジークの気配が完全になくなったのを確認し、自分の部屋の扉を開ける。

 するとめちゃくちゃ疲れたという感じでファビアがアタシのベッドの下から出てきた。なんかすまん。

 それとコイツの反応を見る限り、アタシとジークが何をしていたのか知らないようだ。

 おそらくさっきまでリビングにいたのがエレミアの末裔なんて想像もつかないだろう。

 

「……寝よう」

「そうだな」

 

 そのあとは普通に寝た。だって疲れたし。ちなみにファビアは布団で寝たよ。良い子の鑑だ。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 44

「…………よし、いいぞ」
「…………一体何が起きていたの?」
「気にす――」
「サッちゃーん!」
「そぉい!」
「また……!?」

 すまんファビア。どうしてもバレたくないんだよ。もしバレようものならお前が危ないし。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。