死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第18話「なんでそうなる!?」

「久しぶりだな、ウェズリー」

「は、はい……」

 

 放課後。偶然にもや……や……や、八重歯が特徴的なウェズリーと出会った。

 たまにはルートを変えてみるか、なんて思ったらこれだよ。

 ていうかこっち見んな。チラチラと見てんじゃねえよ。

 

「そういやお前んとこも前期試験あるんだってな。大変か?」

「大変に決まってるじゃないですか……」

〈マスターのように全ての教科書を暗記してみては?〉

「無茶ぶりにもほどがありますよ!?」

 

 大丈夫だ。その気になれば誰にでも可能なはずだから。

 

「サツキさん! 質問です!」

「なんだ」

「タメ口で話しても――」

「殺すぞ」

「――最後まで話を聞いてくださいよ!?」

 

 やだ。なんかムカついたからやだ。

 つーかなんでタメ口なの? 年上ナメてんのか? キレるぞおい。

 アタシが怒りを抑えていると、ウェズリーがとんでもないことを呟いていた。

 

「どうすれば弄――構ってもらえるのかな……」

 

 まさかの構ってちゃん発言だった。コイツって確かまだ10歳だよな?

 この年であっちに目覚めることってあるのだろうか。だとしたら笑えねえぞ。

 

「おい。まさかとは思うが……構ってほしいのか?」

「そ、そんなことありませんっ!」

「待て。なんだそのツンデレは」

「あっ! いえ、これはその……!」

 

 非常にわかりやすい反応をありがとう。

 

「マジかよ……」

「な、なんですか?」

 

 まさかウェズリーにMっ気があるなんて思いもしなかった。

 それがどんだけのものか試してやろうじゃねえか。暇だし。

 

「最近アタシに構ってもらえなくて寂しいのか? 寂しいんだよな?」

「う……。だからそういうのじゃありません!」

「だよな。それはない――」

「はぅ…………」

「ダウトだリ――♪☆◆△◎×∵■○」

「また早口!?」

 

 見事に否定しなかったぞコイツ。

 

「まさかお前がマゾ――構ってちゃんだったとはな」

「否定はしませ――ち、ちちち違いますよぉ!!」

「…………それはそれで残念」

 

 今肯定しかけたな。それと少しずつ本性が現れているような感じだ。

 もしかしたらコイツ、ジーク並みかその次くらいにはめんどいのかもしれない。

 

「まあ、お前が構ってちゃんでないならもういいわな」

「もういいって……?」

「ウェズリー。お前には――」

 

 これは言っておかないとな。

 

「――お前にはもう飽きた」

「…………ぇ……?」

「待て。まさかそこまで驚かれるとは思わなかったぞ」

 

 マジで巨人に食われる一秒前……みてえな顔になりやがった。

 たった一言でここまで絶望した奴は初めて見たぞ。

 

「あ、ああ飽きたってどどういう……」

「そのままの意味だ。実はドッキリでした! なんてオチもない」

「うぅ……」

「やっぱり構ってちゃんか」

「違いま――違いますよ……」

「力なく言われても説得力がねえぞ。あと言い直せてない」

 

 なるほど。これがマゾの弄ってもらえないときの反応か。

 

「ウェズリー? おーい」

「………………あ、はい」

 

 大丈夫かコイツ。全身真っ白になってんじゃねえか。

 もしかして口から白いもの出る? 出るなら見せてくれ。写メ撮るから。

 とりあえず弄ってみよう。この状態だと反応はどうなるのだろうか。

 

「八重歯」

「はい……」

「リオズリー」

「はい……」

「ウィスラー」

「はい……」

 

 ダメだ。想像以上のダメージを受けてやがる。脆すぎるだろコイツ。

 いっそ額に根性焼きでもしてみるか? いや、それはマズイか……。

 

「悪い。ちょっと言い過ぎたな。事実だから謝りはしねえけど」

「ぐすっ……!」

 

 何がいけなかったのか、とうとう泣き出してしまった。え? なんで?

 

「おい泣くなよ。な? お前は元気に振る舞ってこそ真価を発揮するんだから」

「で、でもサツキさん、あたしには飽きたって……」

「…………」

 

 しまった。言い方を誤ったからか盛大な勘違いをされている。なんとかこの誤解を解かなければ。

 そしてジークがいなくてよかった。もしこの場にいたらヤバイからな。いろんな意味で。

 

「ウェズリー。さっきの言葉は少し訂正させてもらう」

「訂正……?」

「そうだ。お前を弄るのは飽きたって意味で、お前に飽きたわけじゃない」

「な……」

「構ってほしいのならいつでも構ってやる。だから安心して泣き止め」

「なんで……」

「ん?」

「なんで飽きちゃうんですかっ!!」

「待て! キサマ正気か!?」

 

 ガキのくせになんて発言をしやがる。とても小学生とは思えない。

 ……てことは合法か? コイツ合法ロリか? うんにゃ、それはヴィータか。

 

「あたしはサツキさんに弄られて楽しかったんですよ!? 不器用なお姉ちゃんって感じだなと思ってたんです。なのに飽きたって……!」

「待て。いやマジで待とうか。それ以上はいけない。本音出ちゃってる、モロ出ちゃってるから」

「なら撤回してくださいっ!」

「だが断る」

「やっぱり、サツキさんはあたしに飽きたんですね!」

「なんでそうなる!?」

 

 昼ドラでも見てんのかコイツは。それとアタシは不器用なお姉ちゃんでもない。

 

「じゃあ構ってください!」

「それはいいが弄りはしねえぞ。飽きたからな」

「飽きてるじゃないですかっ!」

「お前の言うそれとは違うからな!?」

 

 なぜお前と昼ドラみてえな展開を繰り広げなければならんのだ。

 マゾってのがここまでめんどくさいとは思わなかった。

 

「もう一度言おう。お前には飽きてないから安心しろ」

「安心できません! それだとあたしは生まれたての小鹿みたいになっちゃいます! 泣き喚いてしまいます!」

「それはそれで見てみたいものだ」

 

 見れたそのときにはネタとして撮っておきたい。そしてファビアに見せてやるんだ。

 ていうかコイツの本性、ヴィヴィオやその他二名のガキが知ったら泣くぞ。

 

「酷いです、サツキさん……」

「酷くて結構。それがアタシだ」

 

 優しいアタシとか……あかん。心身ともにアウトだ。

 イツキならまだしも、アタシが優しいなんてマジねえわ。

 

「それで、これからどうするんですか?」

「じゃあな」

「サツキさんの大バカ野郎! 間抜け面!」

「お前、どこでそんな言葉を覚えたんだ……?」

 

 マジギレしなかったアタシは絶対に偉い。

 

 

 

 

 

 

 

「ハリー、帰っていいか?」

「ダメに決まってんだろ」

 

 翌日。学校に着いたのはいいがアタシのライフはゼロどころかマイナスの域だ。

 早く屋上の炬燵に入ってお寝んねしたい。でないと眠気で倒れそうだ。

 とりあえず今は休眠を取らなきゃな。

 

「それじゃあお休み――」

「誰が寝ていいと言った?」

 

 えー。まだ学校に来たばかりだぞ?

 

〈学校は寝る場所ではありません〉

「ラトの言う通りだ。学校は勉強する場所だ」

「なん……だと……」

 

 バカな。学校は青春をまっとうする場所だというのは嘘だったのか……?

 学校はなんでも学べる場所だというのは嘘だったのか……?

 

「とにかく、アタシは寝る。別に起こさなくてもいいからな――パトラッシュ、アタシはもうダメだ……」

「サツキ! 寝るな! 起きろぉーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

「もう昼か」

 

 昼休み。アタシは欠伸をしながら体を起こす。どうやらスッキリ眠れたようだな。

 よし、家に帰るか。ケンカもしたいし一服もしたい。そして何より寝たい!

 

「結局寝やがったか……」

「悪いか?」

〈むしろ悪くない方がおかしいでしょう〉

 

 そんな事実は認めない。

 

「さて、帰るか」

「さらっと帰ろうとしてるとこ悪いが、まだ午後の授業が残ってるぞ」

 

 しまった。早く帰って寝たいと思うあまりマジで忘れかけていたぜ。

 しかしそんなことで諦めるアタシではない。

 

「…………帰るわ!」

「言い直してもダメだ」

 

 解せぬ。

 

「そんじゃ、飯でも買ってくる」

「さっき鞄におにぎりが入ってるのを見たんだが?」

「プライバシーの侵害だぞ!」

「ならもうちょいまともな嘘をつけ!」

〈全くです〉

 

 これでも充分にまともである。相手が悪いだけなんだ。ホントだぞ?

 ちくしょう、こうなったら……!

 

「…………」

「その手にはもう引っ掛からないぞ」

 

 それはどうかな? パターンが一つとは限らないんだぜ?

 アタシは鞄に入っていた紙ボールを取り出し、真上に放り投げた。

 

「? こんなことしても無駄――っていねえ!?」

 

 ハリーが紙ボールに気を取られた一瞬のうちに離脱してやった。成功した以上やることは一つ。

 

「アディオス!」

 

 逃げるだけだ、窓から。でないと……

 

『サツキィィ――ッ!!』

 

 確実に殺される。

 

 

 

 

 

 

 

〈またですか〉

「まただよちくしょう!」

 

 また屋上に来てしまった。確かにここしか場所がないのは否定できないけど来てしまった。

 仕方がない。隙を見てここからずらかるしかねえな。

 

「さて、とりあえず準備でも――」

「サツキィィ!!」

「――しうえぇえええええっ!?」

 

 早い! 早すぎる! いくらアタシの隠れる場所がここだけとはいえ早すぎる!

 どんなトリックを使いやがったんだ!?

 

〈いえ、これくらいが当たり前かと〉

「…………」

 

 身も蓋もない発言である。

 

「さすがにもう抜からねーぞ」

〈マスター。私に策があります!〉

「聞こうか」

 

 これでもアタシの愛機。きっとそれなりの策に違いない。

 

〈正面突破です〉

 

 前言撤回。これもう万事休すだ。

 

〈もしかしてマスター、ご自分のスペックをお忘れで?〉

「…………はっ!」

 

 そうか。そういうことか。いつも逃げてばっかだったから忘れていたぜ。

 逃げてもダメなら向かっていけ、ということだな。果てしなくわかりやすいぜ。

 

「おい、サツキ?」

「……ハリー! テメエに恨みはな――」

 

 ここでアタシは思い返す。ホントに恨みがないのか。

 コイツとのやり取りは3年以上も続いている。ホントに恨みは……ああ、うん。

 

「――大ありじゃボケぇえええええっ!!」

「なんでそうなるんだあぁああああっ!!」

 

 

 

 

 

 その日の昼休み、屋上からとてつもない轟音と叫び声が聞こえたという。

 

 

 

 




《今回のNG》


※新聞部の特集によりお休みします。


《昼休みの出来事について聞いてみた》

同級生
「ちょうど友達とあっち向いてホイ! をしていたときでした。スゴい音と共に教室が揺れたんです。一体何があったんでしょうか……なんか叫び声も聞こえましたし」

先輩
「一瞬だったが揺れはスゴかったな。おかげで良いところまできていたジェンガが台無しになってしまった。ただ、叫び声の主には同情せざるを得ないね」

後輩
「とにかくスゴかったです。揺れも音も。思わず教室が崩壊するんじゃないかって思いましたよ! ……おかげで弁当が大変なことになりましたけど」

教師
「スゴい音が屋上辺りから聞こえてきたな。また緒方が何かやらかしたんじゃ……書類も大変なことになったしな」



提供:市立学校高等科新聞部



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