死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第17話「安心と信頼のサッちゃん」

「なあファビア」

「……なに?」

「お前ってさ、アタシに見返りを求めたりはしないのか?」

「…………そんな必要はない」

「マジかよ」

「……だって、もう見返りは得たから」

「……は?」

「…………」

「まあいいか。お前がそう言うのなら」

「……あの」

「…………ケーキか?」

「うん。モンブランがいい」

「別にいいけど……よく知ってるな」

「……これくらい当たり前」

「あ、そう……」

 

 

 

 

 

 

 

「ミカンうめえなぁ~」

〈マスター。その組み合わせはどうかと思います〉

 

 学校の屋上なう。いつものように炬燵に入りながらミカンを食べているのでござる。

 組み合わせつってもよ、ミカン食いながらタバコ吸ってるだけじゃねえかコノヤロー。

 まあ、一番合うのはラーメンだな。ラーメンとタバコ……悪くない。

 

「……お前、なんつー組み合わせしちゃってるんだよ。ていうかタバコやめろ!」

「あっ! 返せゴラァ!」

「返せじゃねーよ! 大体どっからタバコ仕入れてんだよ!」

「禁則事項です♪」

「…………サツキ。冗談でもそういうのはやめてくれ。マジで気分が悪くなるから」

「……正直、悪かったと思ってる」

 

 ぶっちゃけお前よりもアタシへのダメージの方が大きいけどな。

 

「んで、何しに来たんだよ」

「おめーを連れ戻しに来た」

「あ、後ろにテケ○ケ」

「ガンフレイ――」

「落ち着け」

 

 テケ○ケの名前を出した途端、いきなりセットアップして得意の砲撃魔法をぶっ放そうとしやがった。どんだけ怖いんだよ。

 ていうかそこまで引きずってるとは思わなかった。これはこれでいい収穫だな。

 

「大丈夫だ。アイツは夜にしか現れないから」

「ほ、本当か……?」

「ああ。昼、というか夕方に現れるのは口○け女だ」

「~~~~!!」

 

 こういう反応はマジでおもしれーな。だからこそ弄り甲斐があるってもんよ。

 

「そうだハリー。たった今思い出したんだけどよ」

「今度はなんだよ……!?」

 

 その場で踞りながら怒鳴られても全然怖くない。むしろカワイイってやつだ。

 アタシはハリーの背後に回り込み、耳元で囁くように呟いた。

 

「実は夢の中に――」

「やめろぉ――っ!!」

 

 やはり耳を塞ぎながら一目散に逃げ出してしまった。結構おもしろい話だったんだけどなぁ。

 

「まあいいか。邪魔者はいなくなったことだし一服するかぁ」

 

 その日、アタシは久々に授業をサボった。午前のみならず、午後の部も。

 

 

 

 

 

 

 

「ヴィクタァァァァァァ!!」

「ぶっ!?」

 

 翌日。アタシは本能的な感覚でヴィクターの屋敷を訪れた。目的はジークの件だ。

 今日こそコイツに奴を引き渡して、喧嘩三昧のアウトローな日々を取り戻すんだ。

 

〈マスター。それならいつもやってるでしょう?〉

 

 違った。平穏な一人暮らしを取り戻すんだった。

 

「いたた……挨拶がてらにドロップキックだなんてどうかしてるわよ!?」

「キサマこそどうかしてんぞ!? 何が目的だ!」

「あの子が駄々を捏ねて聞いてくれなかったのよ」

 

 清々しいほどにあっさりと認めたなコイツ。さて、そうとわかれば処刑せねば。

 首折りか? 腰折りか? 目潰しか?

 

「そっちでなんとかしろよ! アタシは関係ねえだろうが!」

「そうは言っても――」

 

 今度はなんだ?

 

 

 

 

 

「――『うん、サツキならどうなってもいいわね』って思ったからごふっ!?」

「またかおい! あと離せエドガー! アタシはコイツの頭を撃○指で粉砕しなければならねえんだ!」

 

 コイツといいジークといいハリーといいノーヴェといい、マジでアタシをなんだと思ってんだ!?

 

「また顔を殴るなんて……!」

「次は頸動脈、最後に脳髄だ」

「待ちなさい! それ以上は危険よ!」

 

 殺すのだから当たり前だろう。今さら何を言うかと思ったら……。

 実はサンドバッグにしてから吊るしてやろうと思っていたのは内緒だ。

 

「まったく……前にも言ったはずよ? 少しは加減しなさいって」

「充分すぎるくらいにしてるわ」

 

 これ以上どうやって加減しろというんだ? フルパワーでビンタとか?

 

「それより、お前らアタシのことなんだと思ってんだ? 聞けばアタシなら何をしても大丈夫みたいなこと言いやがって。これでも普通の人間だぞ?」

「……え……?」

「待てコラなんだそのバカな……! みてえな面は」

 

 コイツとジークは一度精神科に突き出す必要があるかもしれない。

 あと数人ほど追加で。ついでにウェズリーも。アイツは礼儀を知る必要がある。

 

〈マスター。自分のやらかしたことを一つずつ思い出してください〉

「えーと……まずアスファルトを粉砕――」

「待ちなさい。その時点でとんでもない気がするのだけど!?」

 

 いきなり驚かれたが、まあいい。いや、驚くようなことか? お前らだってその気になればできるだろうに。

 特に重装甲のお前ならそれくらい朝飯前だろう。多分。

 

「次に街灯を引っこ抜いたな」

〈マスター。当たり前のようにおっしゃられてますが、普通ならできませんよ?〉

 

 そんなことはない。身体強化魔法があれば誰でもできる。

 ヴィヴィオやストラトスだってそれで一時的に強くなったりしてるんだから。

 

〈次で最後にしましょう。マスターのやらかしたことは多すぎますから〉

「最後はそうだな……」

 

 何にしようかな……そうだ。あれがあった。

 

「力ずくでバインドを振りほどいたこともあるな」

「い、意外と普通ね……。いえ、本当に普通なのかしら?」

〈ヴィクターさん、惑わされないでください。今挙げたことをマスターは魔法なしでやっているんです。決して普通ではありません〉

「…………」

 

 あ、絶句した。おいおい、その顔おもしれーじゃん。写メ撮っておこう。

 よし、これでまたネタが増えたぜ。ついでに加工もしてやろう。

 

「……ま、まあ、今回のことでわかったことがあるの」

「なんだ?」

 

 なぜだろう。イヤな予感しかしない。

 

「――サツキになら何をさせても大丈夫だということがわかったわ」

「よし表に出ろ」

 

 アタシは人外じゃねえ。ましてやお前らの実験台でもねえ。

 アタシは人間だ。どこにでもいる普通の女の子だ。……ごめん、不良に訂正するわ。

 

「いえ、今の話を聞いたあとでサツキが普通の人間だなんて……誰がどう聞いてもあり得ないって答えるはずよ?」

〈マスター。こういう諺を知っていますか?〉

「諺?」

〈安心と信頼の街づくり……です〉

「つまりアタシは人外だから何をさせても安心と信頼ができるってか? ふざけんなよ!?」

 

 そういやジークも安心感がスゴいとか言ってやがったな。こういうことだったのか。

 しかもそれは諺じゃない。

 

〈弁解の余地はありませんよ?〉

「だがアタシは人間だ……!」

 

 これだけは譲れない。

 

「サツキ? そろそろ現実を受け止めた方がよくてがふっ!?」

「離せエドガー! 今度こそ……今度こそコイツの頭に破壊の鉄槌を!」

〈マスター。これ以上人間をやめないでください〉

 

 アタシは人間だコノヤロー。なぜ見た目と中身だけで判断するんだテメエらは。

 おっと危ない。本来の目的を忘れるところだった。

 

「ヴィクター。お前に話がある」

「ジークを私に引き渡したいと?」

「…………」

 

 おかしい。アタシはまだなんも言ってないはずだ。なんで知ってんのコイツ。

 けどまぁ、知ってるなら話は早い。

 

「そういうことだ」

「それは無理な相談よ」

「嘘ぉ!?」

 

 あまりにも予想外な返答だったので驚いてしまった。あり得ねえ。

 お前なら息を荒くしつつ喜んで承諾してくれると思っていたのに!

 

「可愛い子には旅をさせよ、って言うじゃない」

「…………」

 

 えー……。

 

「……そんだけ?」

「それだけよ」

 

 こうしてアタシは目的を果たすことができなかった。

 あと成長したな、ヴィクター。以前のお前ならジークいなきゃダメ! って感じだったのに。

 

(「うう、ジークぅ……!」)

 

 前言撤回。全然変わってなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ってことがあったんだよ」

「ほんまにもうヴィクターは……」

 

 帰宅後、今日の出来事をジークに話した。まあ、ヴィクターの過保護は今に始まったことじゃねえし。

 さすがのジークもそれは知っているのか、意外と困っていた。

 

「どうせなら愛の逃避行でも――」

「あー!! なんか言ったか?」

 

 何をどうやったら愛の逃避行なんて言葉が出てくるのかアタシには全くわからんのだが。

 

「誤魔化さんといてや……」

「はっはっは。なんのことやら」

「ところでサッちゃん」

「あ?」

(ウチ)のおらん間になんかあったん?」

「なんだよ急に」

「その……臭いが増えたっていうか……」

 

 なんか寒気がしたけど大丈夫だろう。……多分。うん、大丈夫だよね?

 ていうかなんで臭いなんだよ。そこは気配だろうが。

 

「そうか?」

「うん。他の女の臭いがする」

 

 今すぐコイツと縁を切りたい。

 

「そんなはずねえだろ。するとしたらそれは姉貴のやつだ」

「スミさん?」

「おう。こないだ帰ってきたんだよ」

 

 嘘は言ってない。帰ってきたというのはマジだからな。

 おそらくコイツが嗅ぎ付けた臭いはファビアのものだろう。

 さすがにアイツを巻き込むことはできねえな。こんな奴と会ったら道を踏み外しかねないし。

 

「……ダウトや」

「何が?」

「見え透いた嘘をついてもあかんよ。(ウチ)にはお見通しなんよ!?」

 

 ぜってーに言わねえぞコラ。いずれ会うことになるとしてもこんなことでアイツを巻き込ませはしねえ。

 アイツはある意味アタシにとって最後の希望なんだよ。

 

「サッちゃん! 答えて!」

「ハリーだ」

「番長?」

「おうよ」

 

 とりあえずハリーを生け贄にしよう。こういうときマジ便利だわ。

 お詫びになんか奢ってやるとするか。バレたらの話だけど。

 

「番長ぇ…………」

「聞くならインターミドルにしとけ」

「わかってる」

 

 今から聞きに行っちゃいそうでちょっと怖い。

 

〈最低ですね、相変わらず〉

「いつものことだ」

「あ、言い忘れてたんやけど――(ウチ)はいつでも(サッちゃん)一筋なんよ?」

 

 今小声でサッちゃんと言わなかったら完璧だったぞ。

 しかもそれだとアタシを恋愛対象として見ているような言い方じゃねえか。

 

〈夫婦の時間はそこまでにしてください〉

「待て。お前は何を言っているんだ」

(ウチ)とサッちゃんが……(ポッ)」

「…………」

 

 アタシの知っているジークはもう、どこにもいないのかもしれない。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 30

「んで、何しに来たんだよ」
「おめーを連れ戻しに来た」
「あ、後ろにテケ○ケ」
「ガンフレイ――」
「違った。足下にテケ○ケ、後ろに口○け女だ」
「頼むからやめてくれぇ――っ!!」

 まさかこう簡単に泣くとは思わなかった。弱虫ってのは伊達じゃねえな。
 もちろん写メは撮った。今度配信してみよう。



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