死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第84話「ちっちゃくなった(後編)」

 

「えっと……つまりその子はサツキさんということになるんですか?」

「まあ、そやね」

 

 不本意ながらジークと手を繋いでスーパーに着いたのはいいが、運悪くヴィヴィオたち初等科組と遭遇してしまった。

 というかこの状態、傍から見れば姉妹か親子にしか見えない気がする。アタシがこの変態と姉妹もしくは親子だと……? 最悪にも程がある。今日だけの辛抱とはいえ、今までで最大級の拷問かもしれない。早く帰りたいんだけど。

 ヴィヴィオ達は幼女化したアタシを見て信じられないという顔になっている。――いや、ウェズリーだけ新しいオモチャを見つけたと言わんばかりに目を輝かせているな。それを見たティミルは小声で『リオ×サツ!? リオ×サツなの!?』と呟き、さらにそれを見たヴィヴィオはあたふたし始めた。うん、ぶっ殺してもいいかな?

 

「小娘のくせに生意気ね」

「…………い、今のサツキさんですか?」

 

 三人ともアタシが喋ると今度は呆然とし、その内の一人であるティミルが恐る恐ると口を開いた。どうやらアタシの女口調はコイツらにとっても違和感を感じるものだったみたいだ。

 はっきり言って今すぐ帰りたい。ジークが説明したから事情は把握しているはずだが、それでもガキ共はまだ半信半疑といった感じである。

 ……仕方がない。物は試しようって言うし、コイツらなら問題はないだろう。

 

「ウェズリー」

「はい! なんです――かは……っ!?」

 

 とりあえず、新しいオモチャを見つけたような視線を未だに向けていたウェズリーへ鋭い腹パンをかましてみる。

 拳をモロに打ち込まれたウェズリーはお腹を押さえながらその場で踞りそうになるも、気合いと根性で切り抜けやがった。おかしいな……手加減した覚えはないんだが。もしかして体格が小柄になったせいで力を充分に発揮しきれなくなったとかそんなんだろうか? それでもどこか嬉しそうな顔をしているのはある意味大したもんだが。

 次はアタシをカップリングの材料にしようとしたティミルへ腹パンをかまそうとするも、二度は打たせまいとジークに止められた。

 

「離しなさいジーク。この子たちは殴られて当然なのよ」

「当然なわけないやろ!? この子たちが何をしたって言うんや!?」

「人のことをオモチャを見るような目で見た。殴る理由なんてそれだけで充分でしょ」

「すみませんっ! リオには私から記憶に焼きつくほど厳しく言っておきますから!」

 

 ヴィヴィオが涙目で必死に懇願してきたので仕方なくやめた。それに場所が悪すぎる。公園でいう中央広場のようなところにいるせいか周りの連中からの視線がとても痛え。

 まあ、この調子ならウェズリーはいきなり腹が痛くなったのでお腹を押さえたとしか見られないし大丈夫だな。そう思うとティミルを殴らなくて正解だったのかもしれない。

 そろそろ立ち話を始めてから時間が経っていることを感じ、ガキ共と話し込んでいるジークを置いて行こうと――

 

「あっ、こらロリサッちゃん!」

「何度言えばわかるの!? その呼び方はやめなさいって言ったでしょう!」

 

 一歩動いただけなのにあっさりと捕まってしまった。やっぱり気配でアタシの存在がわかるジークから逃げられるわけがなかったんだ。

 ジークはアタシを捕まえるとすぐに抱き上げ、逃げられないようにするためなのかそのまま肩車されてしまう。いい歳して肩車とは……さすがに恥ずかしいぜこれは。

 しかし、この程度でアタシが諦めると思ったら大間違いだ。

 

「あーっ! あんなところにおでんが!」

「ほんま!? どこどこ――」

「チェスタァァァァッ!!」

「くぺっ!?」

 

 ジークの気を違うものに引き付け、その隙に彼女を気絶させる。決して頭は悪くないであろうジークの単純な部分を利用した作戦だ。

 気絶したジークをガキ共に任せ、その場から離脱した。さてさて、どこに行こうか?

 

 

 □

 

 

「なるほどね……」

 

 あれから一時間後、かなり暇になっていたアタシは八神家を訪れていた。当然、最初は全員から『誰だお前』的なお出迎えを受けたがな。

 幸いと言うべきか、今回は八神家の全員が集合していた。八神にシグナム、クソガキもといヴィータにシャマル。ついでにリイン二世とアギト。ザフィーラはアタシの事情を知ったあとすぐに表へと出ていった。どうやら愛弟子のリナルディを指導するのに忙しいようだ。二世とアギトも八神と一緒についさっき出掛けていったし。

 今のアタシを面白いとでも感じたのか、シグナムが楽しそうな笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「ミウラと組み手をしてみないか?」

「おっ、それいいな」

 

 何を言い出すんだこのクソガキとボインバーサーカーは。

 

「…………いいわよ別に。ちょうど身体も鈍りかけてたし。理由は?」

「その姿ならお前がサツキだとミウラにはバレないからだ。それにあいつの練習相手としては不足がない。万が一のときにはシャマルもいる」

 

 なんか言ってることがよくわからないが、半分は褒め言葉か? シグナムなりの。まあ、シャマルがいるなら多少やり過ぎても問題はないな。

 そうと決まれば早くやろうぜ。すぐにシグナムやヴィータと共にザフィーラとリナルディがいる庭のような場所へと向かう。庭というより砂浜だけど。実際に八神家は海岸沿い(?)にあるし。

 ザフィーラとリナルディは、八神家から海岸沿い(?)に歩いて数分のところにいた。リナルディはアタシを見て首を傾げている。知り合いの中に見知らぬ女の子がいたらそうなるわな。

 

「え、えっと……は、初めまして……!」

「……落ち着けミウラ」

「そんなに緊張しなくてもいいわよ」

 

 まだ一日も経ってないのに女口調が染み付いている気がしてならない。

 ちなみに今のアタシは『ヴィータのツテで連れてこられた将来有望な女の子』ということになっている。釈然としないが仕方ねえな。

 簡単に挨拶を済ませ、時間が午後を過ぎているということもあり急いで構える。……ほう、ルーフェンに行って何をしてきたのかは知らんが以前よりちょっと剥けたか。いや、この場合は一皮剥けたと素直に褒めるべきかな?

 ザフィーラが審判をやるらしく、ルールを簡潔に説明してくれた。一言でまとめるならやり過ぎるな、ということらしい。

 

 数分もしないうちに、審判であるザフィーラの合図で組み手が始まった。

 開幕速攻でリナルディが猪のごとく突撃し、懐へ拳を入れてきたがすぐに反応して両腕でガードする。その際、腕から骨が軋むような音が聞こえ、それに伴った痛みも感じたがどうにか受けきった。コイツの拳、こんなに威力があるのか?

 次に彼女はお得意の蹴り――左のハイキックを繰り出した。拳の威力を考えると、この蹴りを今の素で受けるのは危ねえな。アタシは不本意ながら蹴りを右腕でガードし、三歩ほど後退する。

 リナルディは逃がすまいと間合いを詰め、今度は右のミドルキックを放つ。頭突きで弾き返してやろうと思ったが、見方を変えれば新鮮なシチュエーションでの戦いを体験してることになる。ならこの際、戦い方も変えてみよう。すぐさま左脚でリナルディの蹴りを受け止め、左の拳を彼女の顔面へ突き出して寸止めする。

 

「がら空き」

 

 一言だけリナルディに伝え、少しだけ距離を取る。リナルディは悔しそうに顔を歪めるも、気を引き締めるように頭を振って、殴り合いでもしたいのか拳を連続で打ち込んできた。アタシは拳の連打をちゃんと視認したうえでかわしていき、バックステップで後退する。そして後退したことでできた間合いを無造作に一瞬で詰めた。

 驚くリナルディをよそに、右の人差し指と中指を彼女の左胸に向かって突き出し――

 

「――ッ!?」

 

 すかさず握り込んだ右の拳を目にも止まらぬ速さでその左胸へと打ち込んだ。

 リナルディは反応すらできずに拳を食らい、口から血を吐いて踞るように倒れた。ちょっと力を入れすぎた気がしないでもないが……死んだわけじゃねえし大丈夫だろ。

 

「少しやり過ぎだぞ」

「あんたに言われちゃあおしまいよ」

 

 シグナムと軽口を叩きつつ、新鮮なシチュエーションでの戦いを体験したことに感謝してシャマルたちに一声掛けてからその場を後にした。ふむ、いい運動になったな。

 

 

 □

 

 

「アタシは元に戻ったぞ!」

 

 アタシは帰宅してすぐ元の姿に戻ることができた。この幸福感を無駄にはしない。

 クロは呪い爆弾を作るのに体力を使いきったのか、珍しくげっそりしていた。数時間前に置き去りにしたジークは嬉しいのか悲しいのかよくわからない複雑な表情になっている。頼むから嬉しいと言ってくれ。もう縮むのは懲り懲りだ。

 

「あーてふてふ……ぶっ殺すぞコノヤロー!!」

「なんでや!?」

「私、頑張ったのに……!?」

 

 しまった。叫んだせいで冗談だと言うタイミングを失ってしまった。

 

「……といきたいところだが、アタシも今日は疲れたから見逃してやる。ジーク、飯の材料は?」

「あ……か、買うの忘れてた」

「お前だけは殺してやるぞ」

「待つんや! あのときサッちゃんが(ウチ)を気絶させたのが悪いんよ!」

「人のせいにすんなバカヤロー。さあ歯を食い縛れ。今すぐ顔を差し出せ」

「いつもより短気になっとらんか!?」

「…………縮んていた際に溜まったストレスのせいかもしれない」

 

 このあとジークを三発ほどぶん殴り、ついでにクロを引っ叩いてからベッドへダイブしたのだった。もちろん風呂には入ったぞ。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 15

「私と組み手をしてみないか?」
「お断りよ」

 今の姿でシグナムと組み手なんてさすがにヤバイっての。



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