死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第83話「ちっちゃくなった(前編)」

 

「ぎ、ギタギタ……」

「カッカ……」

「ゲゲゲッ……」

「ん~……?」

 

 ジークを某磔の呪文よろしくと言わんばかりにボコってから二日後。アタシは眩しい日差しをモロ顔に浴び、聞き覚えのある騒音をモロ耳にして目を覚ました。騒音がなんなのか気になるが、まずは上半身を起こして背伸びを――

 

「あれ……?」

 

 なんだろう、寝惚けているせいかいつもより視点が低く感じる。それにギリギリ布団に納まっていたはずの足が、それはもう亀がびっくりするレベルですっぽりと納まっている。

 両手で自分の頬を叩き、眠気が吹っ飛んだのを確認してもう一度今の状態を確認する。……やっぱり視点がいつもより低い。それによく見ると手のひらが子供のサイズに縮んでおり、アタシの周りをクロの使い魔であるプチデビルズが、どこか慌てた感じで飛び回っていた。

 プチデビルズと言えば、前に無限書庫でジークに呪いを掛けていたな。幼児退行の呪いを。最近クロから聞いた話だが、幼児退行だけでなく真逆の成長する呪いもあるらしい。そんなことを思い返しつつ、ベッドから降りてパジャマを脱ぐ。今着てるパジャマ、どういうわけかサイズが全く合っていない。しかもパジャマだけではなく、下着もサイズが合っていなかった。一言で言えばブカブカだ。

 

「……え?」

 

 制服を取ろうとクローゼットへ向かう途中、近くに置いてある鏡に自分の姿が写った。それだけならアタシはスルーしていたに違いない。しかし、鏡に写る自分の姿を見て完全に目が覚めた。

 

 

 ――身体が縮んでいたのだ。容姿を見る限り、5歳児と言ったところか。

 

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!?」

 

 それを理解した瞬間、アタシはひたすら言葉にならない悲鳴を上げていた。

 

 

 □

 

 

「最悪ね……」

 

 悲鳴を上げてから数分後。今の身体のサイズに合った服を急遽一から縫って完成させ、すぐさまそれを着たアタシは駆けつけたジークと偶然やってきたクロに事情を話した。

 やはりと言うべきか、アタシの身体が縮んだのはプチデビルズが使う幼児退行の呪いによるものだった。しかも本当ならすぐ元の姿に戻せるはずが、運の悪いことに反対の成長する呪い爆弾を切らしているらしく、丸一日はこの姿で過ごさなければならないとのこと。

 それを理解したアタシは少なからず絶望し、泣きたくなった。なぜなら――

 

「ロリサッちゃんキター!!」

 

 ――アタシが幼女になったと聞いて、口からよだれを垂らしながら暴走しかけているこの変態と共に過ごすはめになったからだ。

 最初はそれを危惧したクロが無理やりジークを追い出そうとしたのだが、非力な彼女にそんなことができるわけがなく、結局いつも通りの形に落ち着いてしまった。

 ていうかそろそろジークには離れてもらいたい。さっきからアタシを後ろから抱きしめているのだが、体格があれなだけにマジでウザい。とりあえずぶっ殺してもいいかなと思ってる。

 

「離れなさいこのドアホっ!!」

 

 後ろにいるジークへ思いっきり頭突きをかまし、座っていた椅子からジャンプして倒れた彼女の腹部を踏みつけた。その際、両足に力を込めたのでダメージにはなっているはずだ。

 ちなみに今、女の子のような喋り方をしたのもアタシだ。一体どうなっているのか定かではないが、男口調で話すことができなくなっている。まあ性別は女性なので特に問題はないけど。

 

「い、今誰が喋ったんや……?」

「……サツキだけど」

「嘘や。サッちゃんが女の子みたいに喋るなんて幽霊が目の前に現れました並みにあり得へんよ」

 

 訂正。ここに問題あり。

 

「ジーク。アタシよアタシ」

「………………」

 

 女口調で喋ったのはアタシであることを認めさせようと声を掛けるも、ジークは信じられないという感じの視線を向けてきた。頼むからそんな目でアタシを見るな。

 ジークが再び「嘘や」と抗議してきたが、アタシがもう一度喋るとすぐに諦めてくれた。意外とあっさりしているが……ま、別にいいだろう。

 ある程度今の自分を把握したところで、冷蔵庫から隠しておいた缶ビールを取り出し――

 

「――げほっ、げほっ!」

 

 飲んだだけなのに思いっきり蒸せた。何この感覚。昔味わったことがあるんだけど。

 まさかと思ったアタシはすぐさま缶ビールを冷蔵庫に直して自室へ走って戻り、制服のポケットに入れていたタバコとオイルライターを取り出す。そして火を付け――

 

「――ごほっ、ごほっ!!」

 

 ちょっと一服しただけなのにこれまた思いっきり蒸せた。間違いない、身体がタバコやビールに慣れていない状態へ戻ってしまっている。

 にしてもアタシが幼児退行するなんて思いもしなかった。タバコも吸えないしビールも飲めない。だけど右足に負担を掛けさえしなければケンカはできる。それが唯一の救いだな。

 一息ついたところで吸いきれなかったタバコを机の上に置いてある灰皿に押しつけ、ジーク達がいるリビングへと戻る。

 

「あっ、ロリサッちゃん」

「その呼び方はやめなさい」

「ほんならサッちゃんもその口調やめて」

「好きでこんな喋り方してるわけじゃないわよこのバカ!」

 

 戻るなりこれである。まずはロリサッちゃんと呼ぶのを心底やめてほしいところだ。あと口調に触れるのも心底やめてほしい。

 

「…………とりあえず呪い爆弾を作るから邪魔はしないでほしい」

「あー、早めに頼むわよ。でなきゃ首の骨へし折るから」

「……………………は、はい」

 

 よし、念のためクロに釘を刺しておいた。これで余程のことがない限り逃げ出しはしないだろう。そうと決まればアタシも行動するか。

 さっそく今のサイズ――つまりお子さまサイズに合ったパーカーを作る準備に入る。どうやら小さくなってもスペックは大して変化しなかったようで、さっき試しにジークの腹部へ拳を打ち込んだら見事に悶絶してくれた。

 それにしても5歳児かぁ……このときは確か、山籠りを終えたばかりの頃だったな。そんでひたすらケンカしてぶん殴ってたっけ。懐かしいぜ。

 

 

 □

 

 

「できたっ!」

「お上手やね~♪」

 

 数十分後。アタシは見事お子さまサイズのパーカーを作り上げた。ついでに下着も。これで外出には困らないぞ。

 次はお子さまサイズの靴を調達したいのだが、いかんせんジークがアタシを高い高いしたまま下ろしてくれない。しかも体格に大きな差が出ているせいでなかなか抵抗できずにいる。……魔力が撃てるか試してみようかな?

 右手に魔力を溜めようとするが、残念ながらなんの変化も起きなかった。身体能力はそのままだけど魔力はその限りじゃないということか。

 

「ジーク、そろそろ下ろしてくれない?」

「んふふ~♪ あと一時間はこのまごぺっ!?」

 

 このままじゃキリがないと判断し、ジークの顔面を蹴り飛ばして着地する。

 

「全く……さてと、服もできたことだし出掛けるわよ」

「あいたた――はぇ?」

「出掛けるって言ってんのよ」

 

 靴を調達しなければならないし、飯の材料の買い出しにも行く必要がある。さっき缶ビールを取り出した際に中がほとんど空っぽだったからな。

 少しサイズが大きいけどクロの靴を履き、不本意ではあるが荷物持ちとしてジークを同行させる。クロは呪い爆弾を作るのに忙しいからコイツしかいないのだ。イヤだなぁ……。

 いつも通り飛び降りようとするも、その寸前でジークに引き止められた。

 

「何すんのよ」

「何すんのよ、ちゃうよ!? いくら身体能力がそのままやからってお子さまサイズで飛び降りるのはどうかと思うんよ!」

 

 言われてみればそうかもしれない。いつも気にせずに飛び降りていたから全く気づかなかった。

 仕方ないので今回は普通に階段を下りることにした。……結構下りにくいな。いっそ途中でジャンプしてみるか?

 ということを考えつつもなんとか階段を下りることができたアタシは、後ろから微笑ましい表情になっているジークを見て殴りたくなった。いや、だってそうじゃん? 人が必死になってるってのに見てるだけなんだぜ? ムカつくわ。

 

「殴るわよ?」

「なんでや!? (ウチ)まだなんもしてへんやろ!?」

「まだ? ――遺言は?」

「待って。その二文字を聞いただけで遺言を求めるのはちょっとおかしいと思うんよ」

 

 何もおかしいことはない。ただお前を葬るだけなのだから。

 ジークはアタシの意図に気づいたのか、弁解するように慌て出した。おい待て、と言いたいところだが今回はそれでいい。

 

「…………さっさと行くわよ」

「はーい!」

 

 アタシ以上に子供っぽくついてくるジーク。これじゃどっちが子供なんだか……別にいいけど。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 32

「…………さっさと行くわよ」
「どこに?」
「はっ、バカね」
「待ってサッちゃん。なんで今鼻で笑ったんや? ちょっと歯を食い縛ってほしいんよ」

 絶対にお断りだ。



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