スノーフレーク   作:テオ_ドラ

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市街地、そして謎の人影……
素直にアークス本部に相談して大部隊へ調査へいけよ、
という無粋なツッコミは心に閉まっておいてください。


【挿絵表示】


表紙を描いてくれたRimiQwiさんのページはこちら
http://www.pixiv.net/member.php?id=10995711

登場人物紹介はこちら
http://novel.syosetu.org/61702/1.html

ファンタシースターオンライン2、通称「PSO2」を舞台にしたオリジナルの話です。
本来のストーリーモードの主人公とは違った視点で、
PSO2の世界を冒険していくという内容となります。
EP1が終わり、EP1.5は EP2との間の時間軸となります。


096.「……引き留めて悪かったね」

アインというヒューマンの少女を一言で表すなら

「優等生」というのが一番しっくりくるだろう。

研修生時代から成績も良く、

周囲への面倒見も良く責任感もある。

それはアークス就任後も、

きちんと結果として残してた。

アークスになってからしばらく

ソロ活動で適当にしていた

ウェズとは雲泥の差だ。

 

ピシっとした白いスーツ……

ストアコレットと白い士官帽。

青いショートカットに

右目を隠すくらい長い前髪。

小柄ではあるけれど大人びた表情と

意思の強さを感じさせる瞳は、

彼女の生真面目な人柄をよくよく表していた。

 

「アイン、どうしたんだ?」

 

ウェズも研修生時代には

何度か彼女には世話になったので面識もある。

卒業後は一度も顔を合わせたことはなかったが、

風の噂で「@家パーティ」という

チームを率いるマスターになったと聞いていた。

普段から落ち着いた物腰のクールな少女、

という印象だったのだけれど、

彼女のこんな深刻そうな顔は初めてである。

 

「……ああ、すまないね」

 

気遣わしげな声色に

自分がどんな表情を浮かべているか察したのだろう。

彼女は一度、目を閉じて深呼吸する。

 

「ふう……」

 

目を開いた彼女は

やっと落ちついたようだった。

 

「実はチームメンバーたちが医務室に運ばれてね。

 その様子を見に行ってきた帰りなんだ」

 

彼女は静かな口調で話し出す。

 

「医務室……?

 何かあったのか?」

 

チームメンバー「たち」と言った。

一人ならまだしも複数名が同時に運ばれたということ。

いよいよもってただ事ではないらしい。

アインは話そうか少し悩んでいたようだが

 

「メンバーたちはダーカーに

 襲撃を受けた後のアークスシップへ、

 要救助者がいないか救援に行っていたんだ」

 

「……確か数日前に022番艦が

 ダーカーの被害にあったと聞いたな」

 

「そう、それのことだよ。

 けれどもうダーカーは撃退され、

 もう敵性反応はないはず……だった」

 

「その口ぶりから察するに

 何かいたってことか……」

 

彼女が端末を見せてくる。

映っているのは廃墟と化した薄暗い市街地。

それは恐らくメンバーが

直前まで見ていた映像なのだろう。

キャストの種族のアークスは

リアルタイムで自分の視界の映像を

記録していることは珍しくないからだ。

彼らは取り残された人がいないか捜索していたが、

もうそろそろ引き上げるところらしい。

複数名が何か話して、

さあ戻ろうかと振り返ると……

 

ザシュッ!

 

何が起きたかわからなかった。

鈍い音が鳴ったと同時に、

突然画面が真っ赤に染まったのだ。

悲鳴のようなモノが何度か聞こえ、

そこで映像が途絶えていた。

奇襲、まさにその一言。

ほんの一瞬ではあるが、

何か大柄な人影が映ったような気がする。

どこかで見たことがあるような、

しかしウェズは思いだせなかった。

 

アインは彼女を抑え、

端末を懐にしまう。

その手は、少し震えていた。

彼女が持つ感情は

怖れか、あるいは怒りか……

 

「……メンバーは無事だったのか?」

 

「ああ……けれど全員意識はなくて、

 治療には時間がかかりそうだよ。

 私はこの時、別の場所にいて

 連絡が途絶えた後に駆けつけた時には

 もうみんなボロボロになって倒れていた」

 

悔しそうに唇を噛む。

 

「せめてレンジャーの私がいれば、

 事前に危険を察知することができたかもしれないのに」

 

「アイン……」

 

あるいは、

襲撃者はアインがいない時だからこそ

彼らを狙ったのかもしれない。

 

「アイン。

 まさか一人だけで

 もう一度そこへ行くつもりじゃないだろうな」

 

問いかけではあるが、

彼女がどうするつもりかウェズにはわかってしまった。

 

「……そのつもりだよ。

 このまま引き下がれるはずがない」

 

「いくらなんでも無茶だ!

 不意打ちとはいえメンバーがやられている……

 どういうことかわかるだろう」

 

「……」

 

長い前髪から覗く迷いのない、

強い光をともした瞳と見つめ合う。

聡明な彼女のことだ、

それくらい当然、理解している。

だが納得できるかは別だ。

けれど彼女の気持ちはわかる。

ウェズも同じ状況下なら、

同じことをしていただろうから。

 

「……引き留めて悪かったね。

 私はもう行くよ」

 

話は終わりだとばかりに彼女は踵を返す。

彼女を止めることはできないだろう。

その姿にウェズは彼女らしいなと思う。

 

「やれやれ……」

 

だが研修生時代とは違う、

彼もまた「チームマスター」なのだから。

 

「アイン」

 

もうウェズが彼女にかける言葉は決まっていた。

 

「俺も……いや、

 俺たち『スノーフレーク』も行こう」

 




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