スノーフレーク   作:テオ_ドラ

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すいません、今日で決闘を開始して
決着をつけるはずだったのが、
前振りが長くなってしまって明日になりました。
てへぺろ、スローパさん、許してください。


【挿絵表示】


表紙を描いてくれたRimiQwiさんのページはこちら
http://www.pixiv.net/member.php?id=10995711

登場人物紹介はこちら
http://novel.syosetu.org/61702/1.html

ファンタシースターオンライン2、通称「PSO2」を舞台にしたオリジナルの話です。
本来のストーリーモードの主人公とは違った視点で、
PSO2の世界を冒険していくという内容となります。
気軽に感想とか要望を書いてくれると作者喜びます


047.「負けないで……ください」

「きゃっ……」

 

大型ミサイルの直撃で

崩れ落ちるコンテナの上を

ウェズはメディリスを抱えて飛ぶ。

 

「……最後もきちんと締めないとな!」

 

神経を最大に集中させる。

相手を見て、精確に居合を決めることに長けた

ブレイバーであればいけるはずだ。

落下しながら足場から足場へ移って行く。

 

「っとと!」

 

なんとか無事に着地をするが、

勢い余ってよろける。

 

「おっと、だーいじょうぶ?

 そこでコケたらカッコ悪いよ?」

 

黒耀の牙のファイター、

ケーラという名のデューマンだ。

後ろに倒れそうだった背中を支えてくれた。

ハマノイクサを着た小柄なデューマンだが、

さすがはファイターというところか、

支える腕は力強い。

ケーラが背中をポンポンと叩く。

そういう彼女もよく見れば

全身が煤けて傷だらけで、

どれだけ苦しい戦いだったかは一目でわかる。

 

「……勝てたのか」

 

「君たちのお蔭だよ、

 無事にミッションは成功ってわけね」

 

ビックヴァーダーのいる方向を見ると、

そこはもう瓦礫の山だった。

周囲には数えきれないほど壊された

ギルナッチコアの残骸。

レシアが雷のテクニックで

撃ち落としたのだたろう。

戦艦の台座は無事な部分がないくらいに

アックスボンバーズの

ザックスでボコボコにされている。

 

「あいつ……」

 

そんな中、戦艦上の本体のコア、

そこにカタナを突き刺して佇む女のアークス。

黒いポニーテールが揺れ、

気怠そうな雰囲気をまとっていた。

黒いカグラシズメもあわさって、

まるで死神のようだ。

 

レイ=タチバナ……悔しいが

やはり腕は立つと言わざるを得ない。

 

「ウェズ!」

 

レシアが駆け寄ってくる。

彼女も特に怪我もないようだった。

 

「……大丈夫そうですね」

 

無事な様子を見てほっと胸をなでおろした……

が、すぐに不機嫌そうな顔になった。

 

「で、いつまでそうしてるんですか?」

 

「……あっ」

 

メディリスをお姫様だっこの状態だったことに気付き、

慌てて地面へ降ろす。

 

「ありがとう、ウェズさん」

 

顔を真っ赤にして

メディリスは頭をぺこぺこ下げる。

その様子にレシアは額に手を当てながら、

小さく「この女たらし」と呟いた。

 

「おぅ、スノーフレーク!

 まだ新米チームとは聞いていたが、

 なかなかやるじゃねーか!」

 

そこへやってきたのが巨漢の三人。

みんな刈り上げ頭で似たような体格、

一瞬兄弟なのかと思ったが、

種族もバラバラなのでただの偶然なのだろう。

 

「特にそこのレンジャーのおねーちゃん!

 あんな距離から、

 しかも上級のPAも使いこなして

 すっっっっっげぇじゃねえか!

 なあ、うちのチームにこねーか!」

 

本人は怒ってるつもりも何もないのだろうが、

怒鳴り声にしか聞こえないダミ声。

先ほどまでの戦いで

耳が馬鹿になってるのかもしれない。

メディリスは怯えたように

ささっとウェズの後ろに隠れた。

 

「親分、怖がれてますぜ!」

 

「親分、顔が怖いからですぜ!」

 

メンバーたちが笑いながら言う。

そんな二人に顔を真っ赤にしながら

「うるせぇ!」と叫び手に持った

ブレイザックスを振り回そうとする。

けれど先が折れてなくなっていることに今更気付き、

「なんじゃこりゃあ!」と叫びだした。

 

「……むさ苦しいうえに鬱陶しいから、

 これだからアックスボンバーズとは

 同じマルチパーティを組みたくない」

 

心底不機嫌そうな顔をしながらやってきたのは、

ビックヴァーダーにトドメを刺したレイ。

 

「今回は助けられたんじゃ、

 文句を言うでないぞ、マスター」

 

後ろについているのは腰を痛めたのか、

へっぴり腰のテクター。

狸のようなずんぐりとした初老のニューマンだ。

名前は確かガンスだったか。

 

やってきたレイはウェズの姿を見て、

鼻をふんっと鳴らし、けれど

 

「……スノーフレーク、礼は言う」

 

短くそう答えた。

そしてメンバーである

レシアとメディリスを見て

 

「無様に負けてから、

 少しは鍛練でもしたのかと思っていたが……

 上手になったのは女の扱いだけのようだな」

 

肩を竦めてつまらなさそうに言う。

 

「あなた……!」

 

助けてもらった立場で挑発するような口調に

レシアが食って掛かろうとするが、

 

「レシア」

 

ウェズがそれを止めた。

彼は笑いながら挑発に乗る。

 

「なら、試してみるか?

 どれだけ俺が女の扱いに慣れたか。

 ……アンタ自身でよ」

 

背中から真新しいカタナ、

ディオシガルガを取り出す。

その答えに、レイは少し意外そうな顔をしたが

堪えきれないようにニヤリと笑った。

 

「口は達者になったみたいだな」

 

彼女もスサノグレンを取り出し、

背を向けて歩き出す。

その方向には開けた場所。

意図を察してウェズは後ろについていく。

 

「ちょっと、やりあうっていうの!?

 せっかく完遂したのに、

 またペナルティペナルティもらっちゃうじゃん!」

 

ケーラが嫌そうに叫ぶ。

レシアも頷く。

 

「二人とも、そんなボロボロの体なんですから

 わざわざ今する必要もないでしょう!」

 

だがウェズは首を振る。

 

「なに、先輩アークスが

 後輩に稽古をつけてくれるっていうんだ。

 ありがたい話だろ?」

 

「……ふん、減らず口を」

 

二人の意志はもう止められないらしい。

 

「ははははは、いいねぇ!

 ムカつくことがあるなら、

 殴り合いで解決すればいいってことよ!」

 

がはははと笑いながら

アックスはドカッと座り込む。

 

「おい、おめーら!

 どっちが勝つかメセタ賭けようぜ!」

 

「いっすね、親分!」

 

メンバーたちも高みの見物を決め込んだらしい。

 

「あーもう、マスターは言い出したら聞かんからのぅ!」

 

ガンスも諦めたように座り込み、

どこから取り出したのか徳利で酒を飲みだした。

アックスが分けてくれてと絡むが、

しっしっと手を振って追い払う。

 

「あなたたちもさ、座ったらどう?」

 

スノーフレークの面々に座るように

ケーラが催促そうにする。

 

「……あの二人が何故そうまでするか、

 私にはわかりません」

 

レシアは不満そうに言いながらも

止められないことはわかっているので座る。

 

「ウェズさん……頑張って」

 

メディリスは心配そうな顔をしながら、

ウェズの背中を見送る。

事情を知らない彼女だが、

お互いの間に漂うただらぬ空気を察したのだろう。

 

そんな二人を見て、

黒耀の牙のケーラは

 

「私もさ、レイがどうして

 あの子に突っかかるか知らないんだよね」

 

ポツリとが呟く。

 

「そうなのですか?」

 

頷き、小さな声で話し出す。

 

「いつでも一人でなんとかしようとするし、

 強くならなきゃいけないって

 脅迫観念に駆られてさ」

 

その声は少し、寂しそうだった。

同じチームメンバーだというのに、

それは壁を感じている姿。

彼女は膝を抱えて背中を丸める。

 

「だから……私は、あの子が羨ましいよ。

 あんなレイ、初めて見た」

 

きっと慕っているのだろう。

けれど想いが届かない、そんなもどかしさ。

 

「そうじゃな。

 あそこまで他人に興味示したのは初めて見るのぅ。

 それに、坊主のやる気に、

 楽しそうな面をしてるおるじゃないか」

 

あれが楽しそうというのだろうか。

けれど確かに前回は憎悪の感情の塊だったのに、

今は雰囲気が明らかに違う。

それは、少しでもウェズを

認めたということだろうか。

そもそもレイ=タチバナが

ウェズを敵視したか

その理由がわからないのだけれども。

 

「おい、そろそろ始まるぜぇ!」

 

能天気なアックスのはしゃいだ声。

レシアは考えるのをやめて、

ウェズを見守る。

 

「負けないで……ください」

 

今、自分にできることは、

彼の勝利を祈ることだけだ。

 

――信じよう、

信頼していてる彼がすることを。

 


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