スノーフレーク   作:テオ_ドラ

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表紙を描いてくれたRimiQwiさんのページはこちら
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登場人物紹介はこちら
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017.「くだらない……くだらない!」

剣士はまるで神官のような、

それでいてどこか巫女を思わせる礼服……

カグラシズメを彼女は真っ黒に染めていた。

 

黒い髪を高い位置でまとめポニーテールにしており、

その細められた瞳には他者を排他するような雰囲気を持つ。

はっきりとした輪郭が美人と言えるが、

明らかに敵意を向けてきている彼女は、

それが余計に威圧感を表していた。

 

「お前……いきなり出てきて言ってくれるじゃねーか!」

 

彼女が腰に差したカタナ……

スサノグレンを一目見ただけでわかる、

相手は確実に「格上」のブレイバーだ。

 

けれどウェズは引かない。

相手の意図がわからないからだ。

 

「ふんっ、事実にそう吠えるな。

 雑魚のくせに声がでかいとはどうしようもない」

 

ウェズを見下すように吐き捨てる。

 

「あなた……!」

 

「レシア、下がってくれ」

 

前に出ようとしたレシアを後ろに下がられる。

 

理由は不明だが、

彼女はウェズだけを敵対視しているらしい。

下手に刺激してレシアに矛先が向くのは危険だ。

最速を誇るブレイバーにとって、

テクニックのチャージを必要とするフォースは相手にならない。

 

偶然を装っているが、

今いるのはレーダーで地形を見れば行き止まり、

明らかに狙ってきていたのだろう。

 

「で、何の用だよ。

 めんどくせー前置きはやめて、用件を言え」

 

カタナに手を添え、臨戦体制をとる。

それを見て彼女はニヤッと笑う。

 

「お前が気に食わない……それだけ」

 

「あーそうかい。

 俺も同じ気持ちだよ」

 

知ってる相手ではない。

だというのにこれだけ敵視されるのはどういことだろう。

悲しい話だが「他のアークスに恨みを買う」ほどの、

スノーフレークだけでなく、ウェズ自身も活動をしていないのだ。

 

アークス同士の私闘は禁止されている。

争い合う理由はないし、

勿論、相応のペナルティはある。

それを知らぬわけではないだろう。

 

「ふっ」

 

彼女はが爆発したような速度で飛び出してくる。

 

キンッ!

 

居合で繰り出してきたスサノグレンを、

辛うじてシガルガの鞘で防ぐ。

 

「ぐっ……!」

 

「足に根でも生えているのか。

 ブレイバーとして情けない」

 

「ナメんな!」

 

カウンターで一閃するが、

既に彼女はカタナの届く範囲から離れていた。

 

「遅い…! 遅い遅い遅い遅い遅い……!

 この程度か、貴様のカタナは」

 

「くっそ……」

 

相手から仕掛けてきたのだ、

戦わざるを得ない……。

けれど今の一太刀だけでわかる、力量が違いすぎる。

 

「くだらない……くだらない!」

 

まるで彼女は呪詛のように呟く。

 

レシアがアークス本部に連絡をしてくれているだろう。

悔しいが、相手が強制送還されるまで耐えるしかない。

 

「ツキミサザンカ!」

 

神速の剣士ブレイバー……

実力者ともなると目で相手を追うだけで精一杯だ。

気付ければ既に敵は懐にいて、

相手の下から救い上げるような一撃をなんとか防ぐ。

 

ツキミサザンカは相手を打ち上げて自身も空へ追撃し、

無防備になったところを仕留めるPA。

けれど防いでしまえば、

逆に相手の体は浮かび上がり無防備な胴がある。

 

「……ちっ」

 

そこに攻撃しようとしたが、

 

「ふっ」

 

彼女が嘲笑したような気がした。

 

……誘われているのか!

 

咄嗟にバックステップで距離を開けると、

先ほどまで自分が立っていた場所に

 

「ゲッカザクロ!」

 

相手のカタナが全力で振り下ろされていた。

刃がまとうフォトンの力はアークスには効かない、

けれどだからといって、

刃を脳天に受けて無事であるはずがない。

今更ながら相手が本気だと痛感する。

 

防戦一方では無理だ。

反撃するしかない……!

 

「終わりだ、くだらない」

 

回避したウェズが踏み出そうとした。

けれど彼女にとってウェズが後ろに逃げることなど、

最初からわかっていたのだろう。

むしろ、その無防備な瞬間を狙われていた。

 

「ヒエンツバキ!」

 

「なっ……!?」

 

彼女はウェズを追撃するようにカタナを投げていたのだ。

それは突き刺すようにではなく、

そう、切り裂くように横に回転して飛んできている。

 

普通であれば弾いてしまえばいい。

けれどフォトンにより勢いのついたそれは

 

「うわあああああああ!」

 

猛スピードで回転し、

シガルガで防いだがそのガードの上から

何度も何度も斬りつけてくる。

急所は守ってはいるが、

全身を切り裂かれていく。

さながらスクリューに巻き込まれたような

激しい容赦ない斬撃の嵐。

 

そして……

 

パリンッ……!

 

「ウェズ!」

 

悲痛なレシアの声。

ウェズの持っていたシガルガが、

復元不可能なほどに砕け散ったのだ。

もう持ち手だけしか残っていない。

 

そのままウェズは後方に吹き飛ばされて、

レシアに支えられる。

 

得物を失ったウェズに対しても、

相手は容赦なく追撃をしかけようとするが……

 

「そこまでだ!」

 

重い、重音の電子音。

 

「ちっ……」

 

彼女は舌打ちをしてカタナを収めた。

 

「ライガン……!」

 

「すまない、マスター、マネジャー。

 遅くなってしまったな」

 

レシアの投げていたテレパイプから、

遅参してきたライガンが姿を見せた。

 

「ワリィ……良いタイミングだぜ……」

 

たった一撃のPAでボロボロにったウェズが力なく笑う。

それを見て、「すまない」と繰り返しライガンは詫びる。

 

「貴殿、アークス同士で争うなどどういうつもりだ!」

 

そしてウェズを庇うように、

キャストのハンターを立ち塞がったのだった。


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