スノーフレーク   作:テオ_ドラ

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013.「一番の見せ場を用意してやったぜ!」

間一髪間に合った。

ウェズはカンランキキョウで

倒れたウーダンを蹴り飛ばしながら叫ぶ。

 

「レシア、その人を頼むぜ!」

 

「わかりました!」

 

レシアがすぐに木蔭に倒れていた

女性の治療にとりかかる。

フォースが扱うレスタと呼ばれるテクニックは、

体内のフォトンを活性化させて傷などを癒すことができる。

 

「アンタ、大丈夫じゃなさそうだな!」

 

「かたじけない……しかし、貴殿たちの実力では危険だ。

 今すぐにシュリを連れて逃げて――」

 

「ンなボロボロの体で何言ってやがる!

 説教は後で聞くから戦おうぜ!」

 

レシアが守ってくれるのを信じてウェズは前へ出る。

誰かを守らなければいけないという足枷は、

想像以上に戦闘を拘束する。

だからこそ、後ろで引き受けてくれる相方は心強い。

 

「カウンターエッジ!」

 

飛びかかってきたウーダンを鞘で受け止め、

そこからカタナを抜き、瞬速の抜刀で切り裂く。

相手の勢いを利用したカウンターは、

完全に無防備な体を一閃した。

 

「ライジングフラッグ!」

 

ウェズの前に立ったキャストは、

槍を思い切りすくいあげるように切り上げ、

衝撃波でウーダンを吹き飛ばした。

 

「ライガン=ボルテックスだ!

 ならばこの命、貴殿に預けようではないか!」

 

「俺はウェズ=バレントス!

 そうこなくっちゃな!」

 

今、この戦いで必要なのは気迫だ。

相手はダーカー因子に浸食された浸食種ではない。

いくら獰猛な原生種とはいえ生物なのだ、

勢いに対しては怯みもする。

窮鼠猫を噛む……本能でそれを知ってるからこそ、

突然息を吹き返したかのように反撃をしてきた得物に、

慎重にならざるを得ないのである。

 

「ピークアップスロー!」

 

後ろに下がろうとしていた最後の一匹のウーダンを

ライガンは槍で突き刺し、器用に遠くへ放り投げた。

ウェズよりもベテランだけあり、

放つフォトンは彼らより質が高い。

 

「アンタ、強いな!」

 

「貴殿の思い切りの良さも称賛に値する」

 

瞬く間にウーダン4体を倒した二人は、

視線を合わせてニヤリと笑う。

まだ大物が残ってはいるがそれでもこの勢いは本物だ。

 

「グォォォォォォォォォォ!」

 

雄叫びを上げてファングバンサーが跳躍してくる。

二人は慌てて左右に分かれて避けた。

巨大な図体はのしかかられるだけでも危険だ。

 

ライガンとの戦いで前足の爪は割れており、

勢いを殺し切れずに獣は滑ってこける。

 

「サクラエンド!」

 

「ライジングフラッグ!」

 

左右からカタナと槍で斬りつけた。

だが獣はすぐに立ち上がり、裂帛の咆哮をあげる。

二人をギロリと睨むのは血走った眼。

 

「効いていないのか!?」

 

ライガンは首を振る。

 

「いや、ダメージは蓄積されている!」

 

前足で思い切り払うように攻撃してくるのを槍で受け止めた。

 

「しかし……決定打がない!」

 

勢いに押し切られてライガンが吹き飛ばされる。

その隙にウェズは何度も斬りつけるが刃が奥まで通らず、

バンサーが振り返りもせず伸ばしてきた後ろ足に強打された。

 

「ってぇ……!」

 

かろうじてシガルガの鞘で防いだものの、衝撃で腕が痺れる。

フォトンの力で衝撃を緩和しなければ鞘も腕も折れていただろう。

 

「トゥリア……!

 こいつの弱点は何かないのか!?」

 

正直期待はしていないが頼れるモノが他にない。

藁にもすがる思いで彼女の名前を呼んだ。

 

『……ファングバンサー。

 森林に住む原生種。

 見た目通り俊敏な動きで、

 木から木へ素早く動き回る強敵だ』

 

トゥリアは端末でデータを調べているようだった。

 

『非常に獰猛で森林の原生種の生態系の王と言える。

 腕力もあり、体力も非常に高い。

 唯一の弱点とも言えるのは火に弱いことだ。

 山火事が一切ない惑星ナベリウスでは、

 原生種は火に対する経験がなく耐性もないからである』

 

「なるほどな!

 サンキュー、トゥリア!」

 

『……怪我をしているアークスはテレパイプで回収した。

 だから後はソレを倒して帰還して。

 ……あ、お礼は帰ってから物品でお願い』

 

ウェズは最後の言葉は聞こえないことにした。

 

「ライガン、アンタと俺であいつの動きを止めるぞ」

 

「どうするつもりだ」

 

「そうすりゃなんとかなる!」

 

説明をしている暇はない。

怒り狂い、どんどん獰猛になっていくファングバンサー。

そろそろ決着をつけねばならないだろう。

 

ライガンは彼を信じることにした。

 

「ならば先陣は私に任せてもらう!」

 

彼は槍を構えて突撃する。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!」

 

お前の相手はこの私だ、そう言わんばかりの叫び。

ファングバンサーが思い切り噛みついてくるのに対し、

怯まず突っ込み、槍で受け止めた。

 

「おらぁ!」

 

横から飛び出したウェズは、

思い切り振りかぶってカタナを突き刺す。

狙ったのは左の後ろ足。

全力を込めた一撃は深々と刺さり、足を縫い付けた。

 

「頼んだぞ!」

 

そして叫ぶ、自分が信用する相棒の名前を。

 

「レシア、一番の見せ場を用意してやったぜ!」

 

「叫ばなくてもわかっています!」

 

物陰に潜んでいたレシアが飛び出す。

彼女のテクニックならば火を起こすことができる。

けれど生半可な火力では倒しきれない。

レシアの法力は正直に言って至らないだろう。

 

しかしそれは正面から攻撃した場合だ。

 

「……本当はこんなことしたくないですけど!」

 

ファングバンサーの後ろに肉薄した彼女は

手にしたタリスを……

 

「ごめんなさい!」

 

深々と獣のお尻に突き刺した。

 

60センチはある大きな羽、

しかもそれは柔らかそうな見た目とは違い結構堅い。

そんなモノが突然に自分の尻に押し込まれたことに、

さすがの森林の王も「キャイン!」と甲高い声をあげた。

 

そして……

 

「ギ・フォイエ!」

 

タリスに込められた炎のテクニックが、

ファングバンサーを内部から焼き尽したのだった……


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