スノーフレーク   作:テオ_ドラ

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システム:クシナ・ホウジョウにクライアントオーダーが発生しました。


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Episode 1.5 :Warmth of an family(凍土緊急編)
104.「うまいだろ?」


「……お腹減った」

 

アークス本部へ書類を提出しに行った帰り、

ウェズの隣を歩いていたアンジュがポツリと呟く。

彼女は特に用事があったわけではないのだが、

なんとなくでついてきていたのだった。

 

「そうだな、なんか食べるか」

 

データでの転送でもいいのに、

というか専任オペレーターのトゥリア経由で

こういうのは済ませても良いと常々思うのだが、

何故かたまにアークス本部は

こういう非効率的なことを強要してくる。

しかも大した用事がないのに、だ

そして、当然ながら

チームマスターであるウェズにそういうことは押し付けられる。

毎度毎度、嫌々やらされているのである。

だから少しくらいは贅沢しても許されるだろう。

 

「……なんか肉の匂いがする」

 

突然立ち止まるアンジュ。

ウェズも「ん?」と足を止めると

 

「肉っていうか……なんの料理だろうな」

 

場所はショップエリアより下の階層の居住区。

アークスより一般市民が多い場所だった。

周囲を見回すと飲食店がちらほらとあり、

なるほど、改めて空腹だと自覚すると

これはとても抗いがたい誘惑だ。

 

「アンジュ、何か食べたいモンとかあるか?」

 

「ん~」

 

少女はきょろきょろと見回して

「あっ」と何を見つけたようで指を差した。

 

「あの人」

 

その視線の先にいたのは

ずんぐりとした体に四角く見える刈り上げ頭。

見るからに近寄り難そうな強面。

 

「あいつは……

 アックスボンバーズのアックスか」

 

彼は行先が決まってるらしく、

迷いない足取りでとある店の前へと立ち止まった。

『豊穣』という看板があげられている。

 

「アックス」

 

アンジュが声をかけるとアックスは怪訝な顔をしたが、

ウェズの顔を見てやっと彼女のことも思いだしたらしい。

 

「なんだ、スノーフレークのお嬢ちゃんかよ。

 びっくりしちまったぜ」

 

「……なんで驚くことがあるんだよ」

 

「いやなぁ、俺っちに声かける

 女の子ってのはなんでかな、

 どいつもこいつも手癖が悪りぃんだよ」

 

出会ってそうそうよくわからないことを言い出す。

 

「ご飯、食べるの?」

 

「ん、ああ……なんだ、

 お嬢ちゃんたちも昼飯だったのかよぉ」

 

「うん」

 

「じゃあせっかくだし、

 俺っちが奢ってやるぜぃ。

 ついてきなぁ!」

 

そう言ってそのまま豊穣という店に入った。

ウェズたちが続いて入ると

 

「いらっしゃい~」

 

少し派手めの料理屋だった。

明るい赤で統一されて、

どこか民族的な部屋の装飾……

チャイナテーマというモノだったか。

少し独特なデザインであるために、

あまり見ない部屋のタイプといえる。

ウェズもアンジュも見慣れない部屋を

物珍しそうに見回していると

 

「あら、兄さんじゃな~い」

 

真っ赤なチャイナドレスの女性が

アックスにそう声をかけた。

かなり際どいスリットの服に、

破れるのではないかと思うくらいぴっちりした胸元。

その女性は艶やかな黒髪を

後ろで丁寧に御団子のようにしていた。

 

「なんだ、おめぇー非番じゃなかったのかよ」

 

「そうだったんだけれどね~

 うちの子が一人倒れちゃったのよ~」

 

その女性はどうやら店主らしい。

店内には女性のウェイトレスしかおらず、

ちらりと見える奥の厨房も同じだった。

若い少女が多く、

そして何故か全員チャイナドレスで統一しており、

みんなそれぞれ色が違うから少し目が痛くもなる。

一瞬、いかがわしい店なのかと思ってしまったが、

改めて見回すとどうやら普通の定食屋らしい。

 

「……アンタ、アックスの妹だったのか」

 

「あら、アナタはスノーフレークの」

 

目の前に立っている女性のことをウェズは知っていた。

チーム「フリージア」のクシナ・ホウジョウ。

何度かクエストで一緒になった

ガンナーチームを率いるマスターだ。

よく見れば他の店員も何人か見たことがある。

 

「腹減ってたらしいから連れてきたぜぃ。

 勝手に座っとくからよ、日替わり3人前な!」

 

アックスは手慣れたもので

奥のテーブル席にドスンッと座り込んだ。

アンジュはいそいそと座り、

今時珍しい紙のメニュー表を見始めた。

ウェズは少し気まずそうに座る。

 

「なんかこう、

 いつも双機銃持ってるアークスが

 両手に配膳のトレー持ってるのが違和感があるな」

 

その言葉にアックスは笑う。

 

「俺としてはアークス稼業なんて辞めて、

 こうして店を切り盛りしといてくれた方が

 安心なんだがよぉ」

 

少し呆れたように溜息をつき、

 

「次から次へと『妹』を増やすもんだからな、

 アークスの稼ぎが必要なんだとよ」

 

「……妹を増やす?」

 

どういうことだろうか?

アックスは店内を見回し、

 

「ここにいる連中は、みんな孤児でな。

 それをあいつは引き取ってんのさぁ」

 

「もしかして、フリージアっていうチームは……」

 

「おうよ、みんなあいつの『妹』だ。

 アークスとしての素養が

 あるやつたちが勝手にあいつの手伝いを初めて、

 あれよあれと言う間に大所帯よ。

 ガンナーしかいないのは、

 バランスが悪いから辞めろって言ってんだがよ。

 あいつらクシナが双機銃使ってるのに憧れてるから

 どいつも聞きやしねぇ。

 クシナも他のクラスのことは教えれないしよ」

 

「アンタのチーム、ハンターしかいねーじゃねえか」

 

「うっせいぃ!

 迷ったらハンターだろうがぁ!」

 

いつもは声量が大きく耳障りなダミ声。

けれどウェズにとっては、

今は少し違った響きを持って聞こえた。

クシナの妹ということは、

アックスにとっても大切な家族ということだ。

ウェズも孤児、誰かに想ってもらえるということが

どれだけ嬉しいことか……身に染みて知っているから。

 

「あら~兄さん。

 私は兄さんの真似をしただけよ~」

 

そこへクシナが料理を運んでくる。

日替わりは炒飯と麻婆豆腐、ザーサイだった。

……名前は知ってるが、

「中華」とカテゴライズされる料理を

食べるのは初めてである。

そもそもオラクルで遥か昔に母星に存在したという

「中華」についてきちんと

理解している人間などいるかは怪しい。

 

「……っ」

 

さっそくスプーンで麻婆豆腐を

食べようとしたアンジュだったが、

凍土で育ったせいか熱いのが苦手な彼女は

思わず呟いてしまう。

そんな少女にクシナは笑いながら

 

「ご飯は逃げないから、

 ゆっくり食べればいいのよ~」

 

そう言ってハンカチで彼女の頬についた

麻婆豆腐を拭いてあげていた。

ウェズはクシナのアークスとしての顔しか知らない、

だから世話を焼くのに慣れた彼女というのも

どこか新鮮な感じがした。

 

「うまいだろ?」

 

「ああ、また足を運びたくなるな」

 

初めて食べる味でなんと表現したらいいかわからないが、

ボキャブラリーに乏しいウェズは

とにかく「美味い」と思った。

上品ではないけれど、飾らない実直的な味が

食べていてどこか安心感を覚えるのだ。

 

「私もね~この人に拾われたのよ」

 

クシナがポツリと呟く。

 

「兄さんはガサツで声も煩いし~汗臭し~デリカシーもない上に自分勝手で~人の話も聞かないのに加えて~食べ物も好き嫌いも多くて~洗濯もまともにできないし~後先は考えないからいつも行き当たりばったりで~」

 

「おい、俺っちのことが嫌いなのかよ」

 

不満そうな顔のアックスには取り合わず、

クシナは静かな笑みで続きの言葉を口にした。

 

「でもね~私が困ってる時に、

 体を張って助けてくれたの~。

 見ず知らずの~女の子をね~。

 その日から、私はこの人の妹なの~」

 

そこで振り返り、

店で働く少女たちの姿を見る。

 

「だから~私もあげたいのよ~、

 この人がくれた優しさを~

 もっとたくさんの子たちに~」

 

「俺っちはンなことより、

 お前が早く男連れてきて結婚して

 あぶねーアークス稼業から手を引いてくれる方が

 万倍も嬉しいんだがよぉ」

 

「あら~兄さんが先に良い人見つけてくれないと~

 私も嫁げないわよ~」

 

「意味がわからん!

 俺っちのことはどうでもいいだろうがぁ!」

 

「も~そんなのだから兄さんはモテないのよ~」

 

賑やかなやり取り。

それを見つめながら、

ウェズは自分の胸に手を当てる。

育て親であるアザナミは……どういう気持ちで、

自分を引き取り、育ててくれたのだろう。

あの人が抱えている想いは、なんなのだろうか。

自分があの人にできることは、

何かないのだろうか。

 

「あれ、アックスさんじゃないですかー!」

 

「ホントだ、やだもー来るなら言ってよね」

 

そこへ店に入ってきたのは、

武器を腰に下げたままのフリージアの面々だった。

クエストから帰ってきたところなのだろう。

やはり、みながチャイナドレスで

口々に叫びながらどかどかと近づいてくる。

 

「うげ!」

 

その顔を見てアックスが露骨に顔をしかめた。

何故そんな表情をするのかと思ったが、

それはすぐにわかった。

 

「私、欲しいリアユニットあるんですけど、

 メセタがほんの少し足りないの!

 アックスさんお願い、グリエラにメセタ頂戴!」

 

「この前、ラーシアにお小遣いあげたのに私にはなんでないの!」

 

「アタシだってそうだよ!」

 

「……財布、もらっていくね」

 

4人組に囲まれてあれやこれやと詰め寄られ、

わずか2分でアックスは財布を取り上げられていた。

彼は怒鳴りながら財布を取り返そうと追いかけるのだが、

少女たちは黄色い悲鳴をあげながら

店の奥へと入って行った。

 

「好かれるだろ、あん人」

 

気付いたら横に立っていたのは

タバコを吸った青いチャイナドレスのシェスタ。

 

「……まあ、な」

 

彼女は端末をクシナに投げて

 

「姉さん、今回のクエストリザルト

 そこにまとめておいたよ」

 

「ありがとうね~。

 今日はもうゆっくり休んで~」

 

「いや、私が店入るさ。

 姉さん、疲れてんだろ」

 

そのやりとりはチームメンバーというよりは、

確かにまるで家族のようだった。

勿論、スノーフレークの仲間たちとの

関係と比べるモノではないのはわかっている。

 

だけれど、少しだけ…ほんの少しだけ、

ウェズは彼女たちの姿が羨ましいと思ってしまった。

 

「ウェズ」

 

黙々とご飯を食べていたアンジュが声をかける。

そして彼女も、

フリージアたちの様子を見て思うことがあったのだろう。

少女を頷いてこう告げた。

 

 

「トーチャに会いに行きたい」

 




久々の更新です。
次は凍土に行くことになりました。
どんな話が待っているかは不明です。


表紙を描いてくれたRimiQwiさんのページはこちら
http://www.pixiv.net/member.php?id=10995711

登場人物紹介はこちら
http://novel.syosetu.org/61702/1.html

ファンタシースターオンライン2、通称「PSO2」を舞台にしたオリジナルの話です。
本来のストーリーモードの主人公とは違った視点で、
PSO2の世界を冒険していくという内容となります。
EP1が終わり、EP1.5は EP2との間の時間軸となります。

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なおイラストとか挿絵書いてくれる人は万年募集中です。

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