スノーフレーク   作:テオ_ドラ

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※お知らせ※
作者の生活スタイルの変更に伴い、
今後は更新頻度が非常に遅くなることが予想されます。
いつも欠かさず読んでくれている方々には大変申し訳ないですが
あまり期待せず「お。珍しく更新されてるじゃん」程度の
軽い気持ちでお付き合い頂ければ幸いです。


【挿絵表示】



102.「……私だって!」

彼女たちがいるのは戦場から遠く離れたビル。

20階建てのビルは結構な高さがあり、

柵もない屋上は落ちたら

アークスといえど無事では済まないだろう。

 

「……想定していたどの事態よりも、

 これは危険な状態ですね」

 

そんな中、極力周囲が見えないように

座り込んだ銀髪の少女、

レシアは端末に送られてくる情報を見ながら呟く。

アークスシップのどこかの空調設備が

ダーカーの襲撃で壊れたのか

ほんの少しだけ風が吹いている。

微風程度で飛ばされるはずもないのに

高所恐怖症のレシアはしっかりと

命綱をつけて屋上の中心に座っている。

 

「ダークファルス、ヒューナル……」

 

下界は渦巻くダーカー因子の霧。

中にいるメンバーたちも視界は

そこまでよくないだろう。

「@家パーティ」のチームメンバーが

奇襲を受けたのも無理なからぬ話だ。

レンジャーが周囲を注意深く警戒していなければ

音もなく忍び寄る人型ダーカーを

このダーカー因子舞う空間で見つけるのは難しい。

敵が戦闘態勢に入った今でこそ、

こうして遠くからでも把握できるようになったのだ。

 

「結局、使うことになっちゃったね」

 

屋上の縁側、そこに立つメディリス。

彼女の横には設置型の銃座……

いや、それよりも砲身が大きい

フォトン粒子砲が置かれていた。

元々は拠点防衛に使われるシロモノで、

備え付けられたエネルギーパックと

座ったアークスのフォトンを装填することで

強烈なレーザーを放つことができる。

 

スノーフレークの所有物ではなく、

「@家パーティ」のマスター、

アインが敵討ちのために用意していた武装だ。

 

「念には念を……

 正直、大げさかもしれないとは思ってましたが、

 けれど必要になりました」

 

向こうにいるメンバーたちはかなり苦戦しているらしい。

スノーフレークの面子に加え、

アイン、そしてナイトメアとアリス。

7人掛かりだというのに、歯が立っていないのだ。

レシアとメディリスが一緒に戦っていたとしても

恐らくは状況は変わらなかっただろう。

 

「それで、私はどうしたらいいんだい?」

 

ふうっ、タバコを吸っていたのはシェスタ。

ダーカーの巣窟でも共に戦ったチーム「フリージア」の

マネージャーをしているガンナーだ。

相変らず派手な青のチャイナドレスに、

青いポニーテールの存在感のある少女である。

彼女もこの作戦に参加していたのだ。

 

「テクターとして支援もできる貴方には

 シフタでフォトンを活性化させて欲しいんです」

 

「……いいけどさ、

 フォトン粒子砲には効果はないよ」

 

彼女の疑問も最もだ。

最前線での支援を得意とするテクターが

狙撃ためにできることがあるだろうか。

だがレシアには考えがあった。

 

「恐らく、ここから

 フォトン粒子砲を撃ったとして……

 多分避けられるか、

 もし直撃をさせたとしても倒せないでしょう」

 

「……本気で言ってるのかい?

 こいつの破壊力は

 ダークラグネも一発で仕留めるほどだよ。

 あんな小さい相手ならば……」

 

「いいえ、倒せるのならあの巨躯との戦いの時に

 アークス本部は用意していたはずなんです」

 

そのレシアの言葉にやっとシェスタも理解した。

あの場にいたアークスならば

本部が「ダークファルスとの戦い」を想定していたことは

直接言われたわけではないが感じていたはずだ。

万全を期して挑んだ決戦……

そこに粒子砲をあえて用意をしなかったのには

それが効かないと最初からわかっていたから。

 

「でも、レシアさん。

 ならどうするの?

 私たちにできることはない気もするけれど」

 

メディリスの疑問にレシアは頷き、

 

「フォトン粒子砲を使います」

 

「え、だから効かないって……」

 

「ええ、そのままでは効かない……

 なら、効くようにするまでです」

 

端末を開いて空中に情報を表示する。

 

「おいおい……アンタ正気かい?」

 

それを見てシェスタは苦笑いをした。

メディリスは呆然と見つめる。

 

「メナアリスを……使う?」

 

出力が高いとはいえ

ある程度の範囲をカバーするために

粒子砲はレーザーとしてフォトンを放つ。

だがそれでは威力不足……

ならば収束、凝縮した一撃ならばどうか。

そのために砲身にメナアリスを接続するのだ。

単純に言えば、

メナアリスをフォトン粒子砲にくっつけるだけ。

だがそんなことが果たしてできるのか……

 

「できます」

 

だがレシアは断言した。

 

「メナアリスのスペックは以前に調べました。

 三対の爪でフォトンを収束し

 連射を可能とする長銃……

 あわせてフォトン収束率も高く、

 照準補正機能も優れています」

 

「うん……」

 

それは勿論、持ち主が一番知っている。

爪はロングバレルとなり、

精密射撃も可能なのは

ビックヴァーダーの時にも証明してみせた。

 

「……メディリス」

 

マネージャーはこう言っているのだ。

「後はあなたの覚悟次第」だと。

 

「任せて、やってみせるよ」

 

だから迷ってなんかいられない。

遠くをちらっと見る。

轟音と共にビルが傾き、砂煙があがる。

あそこでみんなが戦っているのだ。

そして、ウェズもいる。

 

(なら、私も格好良いところ見せないと)

 

レシアにはできなくても、私にはできる。

それがちっぽけで後ろ向きな理由とはわかっている。

でも今、この瞬間くらいは許して欲しい。

好きな人のために見せ場を作りたい……

それで集中力が高まるなら、いいじゃないか。

 

「シェスタさん!

 合図をしたら支援頼みます!」

 

「あいよ、任せときな」

 

メディリスはメナアリスを取り出し、

グリップを外して外部出力モードに切り替える。

次にフォトン粒子砲の先端部分を取り外して

細かい調整をしていく。

元々ある程度の汎用性を持って開発された兵器だ。

連射するのは無理でも一発くらいは可能なはず。

 

(メナアリス……おじいちゃん、力を貸して)

 

大きなメナアリスの銃身をとりつけた。

 

「メナアリス・オーバーアームズ、

 粒子砲とシステム同期開始……」

 

巨大な3対の爪が光り、

自動調整で調整して補正をしてくれる。

元々はメディリスには勿体ないほどの

ベテランアークスのための武器、

その組まれたシステムはこんな場面でも

十分に求める性能を発揮してくれる。

 

「レシアさん、タイミング……

 私にあわせてくれるかな」

 

「ええ、わかりました」

 

メディリスは銃座に座り、

伸ばしたメナアリスの照準を取り付け覗き込む。

ウェズが立てた作戦は、

予め決められたポイントに敵をおびき寄せて狙撃。

単純ではあるがどんな場合にも対応しやすい。

そこまで敵を誘導することと、

狙撃の瞬間は相手の足を

止めなければならないという欠点はある。

だがメリットとしては

フォトンの反応をある程度の距離からでも

察知する敵に対しても狙撃を気付かせない。

強力な攻撃であればあるほど、

遠くないと反応を検知されやすいというわけだ。

 

(問題は……私が当てれるかってことだけ)

 

距離にして4.5キロ。

過剰すぎるロングレンジだ。

実弾であるならば3キロを超えての狙撃ですら

非常に困難で現実的でないのだが、

フォトンの弾丸であるならばギリギリ可能な範囲。

収束率と威力が高いのに加え、

アークスシップ内の大気や風の予測しやすい

限られた空間だからこそできる芸当。

 

照準器を覗いてあわせる。

みんなが「終着駅」である交差点に辿りついた。

そしてそこに現れる暴君。

縦横無尽に暴れ回り、

仲間たちを圧倒していく。

 

(……)

 

立ち止まり、

そして弱点が見える角度でなければいけない。

 

ヒューナルが剣を抜く姿が見えた。

それにあわせてみなが一斉に攻撃をする。

 

「シェスタさん!」

 

「任せておきな」

 

彼女はタバコを投げ捨て、

その言動には似合わないまるで

乙女が祈るような仕草でテクニックを発動させる。

 

「シフタクリティカル」

 

重ねて発動をさせていく。

すると周囲のフォトンが活性化していくのが

アークスでなるならば感じられた。

 

「……チャージ」

 

メディリスがフォトンを開始。

爪の先端に集まるフォトンが

ビー玉くらいの大きさの弾へと圧縮されていく。

派手さはいらない。

必要なのはどんな敵であれ貫く貫通力。

 

(……思ったより銃身への負担が大きい)

 

……一発が限界だ。

しかも長くはフォトンを溜めた状態を維持できない。

溜まったら早く撃たなければ焼き切れるだろう。

 

ヒューナルの剣が砕けた。

足は止まったが、けれど敵は後ろを向いている。

 

(お願い、こっちを向いて)

 

チャージが完了する。

だが、角度的に狙えない。

精確にコアを撃ち抜かなければいけないのに……!

銃身から焦げたような臭いがしてくる、

これ以上はまずい。

 

その時、ライガンがワイヤーを射出し

ヒューナルの注意を惹きつけた。

わずらわしそうにヒューナルが振り返る。

 

(……!)

 

「……メディリス、今だ!」

 

好きな人の声。

 

「ナ・グランツ!」

 

レシアがタリスを5枚投げる。

五芒星を描くように浮遊したタリスが、

それぞれ光の結界を発動させた。

 

「……私だって!」

 

狙いは胸の赤いコア。

メディリスは引き金を引く。

 

シュンッ!

 

そのフォトンの質量に比べれば

とても軽い音。

だが光の速度で放たれた弾丸は

光の結界で更に加速されて、

ダーカーに効果を発揮する光属性をまとう。

 

着弾には0.1秒にも満たない時間。

けれどメディリスには永遠にも感じられた。

 

――

 

コアが、割れた音が聞こえた気がした。

 

そして

 

「今回は貴様たちの勝ちにしておいてやろう」

 

敵が撤退する姿が、

スコープ越しに見えていた。




メナアリス・オーバーアームズ。
いくらフォトンで動く武器とはいえ
アサルトライフルを粒子砲の先端につけたら
間違いなくぶっ壊れるので良い子はやめましょう。
あと精密射撃するのに、目の前に結界みたいなの張ったら
絶対銃弾逸れるだろとか言わないようにしてあげてください、はい。
なんかこう、フォトンレールガンみたいな感じでイメージしてください

表紙を描いてくれたRimiQwiさんのページはこちら
http://www.pixiv.net/member.php?id=10995711

登場人物紹介はこちら
http://novel.syosetu.org/61702/1.html

ファンタシースターオンライン2、通称「PSO2」を舞台にしたオリジナルの話です。
本来のストーリーモードの主人公とは違った視点で、
PSO2の世界を冒険していくという内容となります。
EP1が終わり、EP1.5は EP2との間の時間軸となります。

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なおイラストとか挿絵書いてくれる人は万年募集中です。

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