ガーリーエアフォース PMCエースの機動   作:セルユニゾン

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長らくお待たせしました。

合同誌に参加する為のネタ探しと取材やら何やらでなかなか書けなかったんですよね。

あ、後書きで詫びバトラしときます。

バトラ「え?」


作戦70 白い世界で懐旧を……

MS社M42飛行中隊が到着したイルクーツクの大地は積雪と朝靄で白く煙り、排気炎が朝靄を朧げに照らず上に積もった雪が排気炎の光を反射して幻想的な光景を作り出す。

 

4機の戦闘機と1機の空中管制機が編隊を組んだまま、雪原の上を飛ぶ中で突如として自然物だけが支配する光景の中で突如として巨大な人工物が姿を現わす。

 

「やっと着いた」

 

夜通しで飛び、航続距離は空中給油で済ませた故にコクピット内で夜を越したバトラが狭いコクピット内で器用に身体を動かしてコリを取ろうとしながら呟く。

 

「アレですね」

 

ファントムが覗き込む様に前方のモニターを視界に納めて呟く。

 

それは幾何学模様を浮かべ、襞のような物の先には巨大な機影、爆撃機のシルエットが鎮座しているそれはロシア軍の空港施設のそれだった。が、それは空を飛ぶ人間達の一部はデータ上でしか確認出来ず、目視で確認すべき人間でも朧げな物に見える。

 

周りを包む朝靄に積雪、それらから反射や屈折で届く光は施設だけで無く、掩体の生み出す陰影だけで無く、併走する様に流れる河川の水の煌めきも、針葉樹林の樹の葉や枝に乗る雪の輝きすらも朧げな存在にさせてしまう程だった。

 

「到着してすぐブリーフィングは勘弁願いたいですね」

 

「シャワーだけでも浴びたいか?」

 

機体が高度を下げ始めた事でマスクを剥がしたファントムに遅れてバトラは 一昔前までしか使っていない慣れないタイプである故に少しぎこちない手つきでマスクを口元から剥がした。

 

「えぇ、ご一緒にいかがです?」

 

「楽しみにしとけよ。覚悟出来てるって事だもんな」

 

バトラがバックミラーの反射でファントムに見えるようにしつつ、バイザーも上げた上で口元に嫌らしい笑みを浮かべながら告げた瞬間にファントムがビクッと跳ねる。

 

ヘルメットを被って無ければ髪の毛が持ち上がる程に身体を跳ねさせると同時に顔を真っ赤するファントムだが、コクピットの空気が甘い空気に変わりかけた瞬間を狙ったかの様に警告灯が光り、警告音がコクピットを埋め尽くした事でバトラが反射に近い動きで機体に急旋回を掛けつつもループ機動を行う。

 

<<何を話してるかはわかりませんが、抜け駆けは許しません!>>

 

<<ベルクト越しにファントムのEGGは観測してますからね!!>>

 

<<い、色仕掛けはいけないと思います!フェアに行くべきです>>

 

空対空ミサイルのロックオンをしてきたのは僚機の3機であり、ロックオンから逃れたバトラとファントムは3人は口での攻撃を浴びせ掛けられながらも編隊の定位置に戻ってくるとバーフォードから連絡が入る。

 

<<あぁ……そろそろ着陸の準備をしてくれ……>>

 

この談笑と冗談で判る通りにわかる通りに5機の航空機は迷う事なく飛行を続ける。全てが朧げで、曖昧で、不確かな空間でも、空に挑んだ者を、空に旅立った者を、空に生きる者を無条件に全てを受け入れ導く航空灯火が空を飛ぶ飛行機に帰るべき場所を、降りるべき場所を示し続けていてくれるからだ。

 

4機の戦闘機は危なげなく滑走路へとアプローチを開始。最初にアプローチコースに入ったのはバトラとファントムのRF−4EJTP ANMだった。

 

他の機体は一足遅れで通常通りの迎え角を調整して機首上げ状態で降りようとする中でバトラは徐々に機体推力を落とし、可能な限りのエアブレーキを全開にまで作動させて徐々に機体を水平に保ったまま高度を下げて行く。

 

滑走路の端からは少し離れた場所まで来た瞬間にエンジンの出力を更に下げてエンジンカット寸前までエンジンの回転や出力を絞ってドシンとした衝撃を感じる程に3本のランディングギアで同時に降りたバトラとファントムの機体だが、最初から速度を殺していたのとブレーキを強化していたお陰で直ぐに止まる事が出来た。

 

バトラは直ぐに滑走路を空ける為に管制官と早口で情報公開を要求、管制官も早口で返しあうと直ぐに機体を誘導路へと持って行き、滑走路が空いた瞬間に片宮姉妹の2機がランデブーランディングをしようと進入し、ランディングギアが地面に触れて暫くした瞬間に2機が揃ってフラついた様に機首を降り始める。

 

「あ、滑った」

 

バトラが開けたキャノピーの端から見えた2人の機体を見て顔を手で覆う。

 

雪や濡れた滑走路では当然だが、スリップの危険がある為にパイロットはそれを考慮して少し乱暴に機体を地面に押し付けるように着陸する場合がある。

 

バトラがエンジンの出力を絞り3本同時に降り立ったのもスリップ防止の抵抗力を上げたかったからだ。無論ながらこんな無茶が出来るのは艦載機という足が強い機体であるからこそ、対して片宮姉妹はソフトな着陸をしてしまったのと滑走路上の雪が先に降りた機体の熱で溶けて水に戻り、マイナスを下回る気温とアスファルトの冷却効果で氷になっていた事、更に降りた場所がバトラの時よりも前だった事で機体が首を振る様にゆらりと動く。

 

「「そこです!!」」

 

直ぐに氷が薄いバトラの降りた場所を走った事に加えて、2人が巧みな機体の制御を的確に行っていた事で接触する事無く2機は誘導路へと進入すると空中待機していたベルクトが着陸体勢に入る。

 

「緊張しました……」

 

そう言うベルクトだが、ロシアの空を飛んでいた経験か、もしくはSu−47のアニマ故かスリップしないのは当然と言いたいのか、平然とした佇まいで機体を誘導路へと入ってくる。

 

無事に全ての機体が無事に地上へと降り立つとバトラの手が思い出した様に機体から降りる為に切るべきスイッチやバイパス、データを盗み見られ無いようにロックを掛けたりとするとキャノピーが開かれる。

 

高高度を飛び、凄まじい空気抵抗を喰らう戦闘機、それも装甲キャノピーのドーターとなれば外気の一切の侵入を許さない程の密閉性を持つが、電源が落とされたことでキャノピーが暗転すると即座に蒸気が排出される音と共にキャノピーが開き始めた事で外の明かりと共にロシアの寒気が侵入してくる。

 

「寒っ!」

 

雪が残り、滑走路も凍ったレベルとなると氷点下に至っている外気に冬季でのサバイバルを意識した飛行服でも身体を震わせてしまう程には冷気が身体を突き刺す。

 

「バトラさん」

 

バトラが身体が縮こまって動けなくなってしまうのを防ぐ為にストレッチをしていたバトラに頭上からファントムの声を聞いて見上げるとコクピットの淵を蹴って飛び降りようとするファントムの姿を捉える。

 

「危ねぇ!!」

 

咄嗟にお姫様抱っこで受け止めたバトラだが、当のファントムは幸せそうに顔を赤らめながらもバトラの首に手を回して甘える様に自身の頬をバトラの胸元に擦り付ける。

 

「何をしてるんですか!!」

 

そんな光景を見せられて楽しく無いのは当然と言え、ファントムの抜け駆けが如き所業を見て、ファントムの顔面に手一杯の雪を押し付ける。

 

「いい気味です!!」「頭を冷やしなさい!」

 

器官が雪で押さえられたファントムはバトラの腕の中で必死に顔の雪を退けようともがいていると詩鞍と詩苑の2人がファントムをバトラの腕からはたき落とす。

 

落とされたファントムは足元の足首まである雪の中へと落ちた事で真新しい雪原にファントムの身体にピッタリ合う穴が製造され、空いたバトラの両サイドに詩鞍と詩苑がくっ付いてキープする。

 

「え、ええっと……えい!」

 

そんな2人を見て出遅れたと思ったベルクトだが、空いている正面に抱き付くと困る様で嬉しいが正直言うと少し邪魔だなと密かに表情に出していたバトラの顔は真っ赤に染めたると周りの人間からも周りが白いだけに余計に赤く見えるバ。

 

何かと女性の多いM42飛行中隊のバトラだが、最初の1番機への恋慕が過去の物になった事と最終決戦が近い事もあってかアプローチが徐々に激しくなった影響かベルクトでさえもスキンシップを取る様になりバトラとしては不意な事や慣れない事をされると顔を赤くする場面が増えていた。

 

「昔を見ている様だ」

 

流石に正面から抱き付かれるのは慣れていない様子を隠す事無く見せるバトラを見たバーフォードが懐かしむ様に呟く。

 

初期のアンタレス隊は女子ばかりの華やかな部隊に別の場所から金で引き抜かれたバトラが加わると言う少し異色な部隊だったアンタレス隊だったが、バトラの性格が功をそうしたのか周りから目の前の光景の様な可愛がられを受けていた。

 

そんなバーフォードの横にマイケルが立って、バトラ達の他愛も無いじゃれ合いの観察に加わる。

 

「違いがあるとすれば……」

 

バトラに引っ付く女性達がバトラに恋愛感情を抱いていたか否かだろう。

 

少なくとも今は亡きアンタレス隊の彼女達は一部を除いてバトラを息子か弟かの様な可愛がり方をしており、バトラもそれを何処かで喜んでいる様な素振りを見せていた。

 

「……こんな光景が……」

 

いつの間にかマイケルとは逆の方に立ってバトラ達5人のじゃれ合いを見ていたグレアムが残酷な光景を思い出したのか寂しそうに呟く。

 

前のアンタレス隊でも出撃前はこうして隊の仲間同士でじゃれついていたが、作戦を終える度に人数は減り、戻っても顔ぶれは変わっていた。

 

「彼の人生を考えれば、な……」

 

バトラの若さに対して背負った不幸は余りにも大き過ぎ、大きな犠牲の果てに手に入れた栄光や名誉ではその傷は癒せない。

 

人の心を傷付けるのは一瞬だが、その傷を癒すのは下手をすれば一生をかけても治らない物だ。

だからこそこんな何気無い幸福な日々が長く続いて欲しいと願うのはこの場の3人だけでなく、MS社でバトラの過去を知る者全員の想いでもあった。

 

「本当にこんな光景が長く続けば良いのにな……」

 

バーフォードの声をうら若きパイロット達は自身と仲間の楽しそうな笑い声で聞こえていなかった。




詫びバトラなんですが、初期アンタレス隊のお姉さま方におもちゃにされてた時のバトラの写真です。


【挿絵表示】



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