もうあれこれ言いません。どうぞ!
「数時間後には空に居させるんだ!」
小松の自衛隊、取り分けて独飛が専用で使う格納庫では独飛所属のドーターをほぼ専属で弄っている機付長、船戸の叫び声が響く。
というのも、F-15とJAS39の発進準備が遅れ気味であったからだ。
「……了解した」
そんな喧騒に包まれる中で取り分け静かに、冷静に少し燻んだ緑のRF-4EJのノーズしたで自衛隊の制服では無く、民間軍事会社MS社の制服を着たバトラが自衛隊の制服を着る老兵から機体の状況などの説明を受けていた。
バトラに説明を行う人物の他にも発進準備を行う機付員達も皆が熟練の見た目と雰囲気を持っており、ドーターの中では唯一と言って良い程に発進の準備が滞りなく行われている。
「そんな事をしなくても私の身体は万全です」
終わったタイミングでファントムがコクピットの縁に両腕を組んで乗せたまま覗き込む様な体勢で声を掛けて来たのは、ファントムだった。
ファントムの声にバトラと機付員が首を上げるとやるべき事は終わったいたタイミング故に自然な所作で機付員は別の仕事へ、バトラはタラップを登って前席へと身体を滑り込ませる。
「あの時のままか」
コクピットに乗ったバトラが驚いたのも無理はないだろう。
ファントムの前席はファントムでベトナムまで飛ばした時のままだったからだ。
ファントムはバトラの呟きに身体を前席の背もたれに枝垂れかかる様に上半身を動かして顔を上から覗かせる。
「ええ、また貴方を乗せようと思っていたのでそのままです」
普段は後席で操縦と火器管制をしていましたと妖艶な微笑みを浮かべるファントム。
それを聞いたバトラはなんて無茶をと思ったりが、ドーターは全周モニターに加えて、操縦方法はアニマで有ればダイレクト・リンクであるが故にそう大した問題にはならないのだろう。
「キャノピーを閉めるぞ」
座席のハーネスや酸素マスクなどの固定具合を確かめたバトラが発進の為にキャノピーを閉める操作を行う。ファントムは少し名残惜しそうにしながらも座席に戻り、座席に自分の身体を固定する。
「急な予定変更とは、やってくれる」
機体を格納庫から自走で誘導路の上へと動かしながら、出撃前の合同ブリーフィングの内容を思い出して呟いたバトラにファントムはその独り言を聞いてか会話を楽しみたいのか、背後から言葉を投げる。
「実際にどうなんでしょうね。電子戦機か、或いはライノの様に」
思案を巡らせる様なファントムの声にバトラも周囲の完全確認をしながら思案を巡らせる。
バトラ達がこうして出撃をしようとしているが予定ではもう少し後の予定だった。が、中国国境部で消息を絶った英空軍の電子戦機がNATOの戦術ネットワークに不正にアクセスされていた事が発覚、作戦内容がバレた可能性も考えて予定を前倒しにした訳だが、ファントムとしては如何して消息を絶った電子戦機が不正にアクセスをして来たかが気になるようだった。
「電子戦機ごとアンフィジカルレイヤーに連れて行って洗脳か……まぁ、わからない事を考えても生産性は皆無だ」
「だから、目の前の仕事をやる。と?」
セルフを取られたバトラが背後に視線を向けるとフライトジャケットにアニマは被る必要が無いヘルメットのバイザーを上げたファントムがしてやったりと言う感じで目を細めて見つめていた。
「流石が俺のF−4だ。わかっている」
そう言って前を向き直ったバトラの言葉にファントムが目のバイザーの隙間からでも分かるほどに真っ赤にしているファントム。
「(無意識か天然なんですか!)」
ファントムの声ならぬ声は怨嗟と歓喜が混じった目で語られるが、前方に向き、機体を滑走路脇の誘導路まで進める事に集中していたバトラに気付かれる事は無かった。
それが幸か不幸かはさて置いておき……
<<ANTARES01、滑走路への進入を許可する>>
バトラとファントムの乗る戦闘機に滑走路への進入許可が降りる。バトラを手早く返答すると機体を進ませ、滑走路へと進入する。
<ANTARES01、離陸を許可する>>
管制塔からの許可を聞いたバトラは念入りに滑走路上、滑走路脇に離陸を阻害する物が無いか確認する。
航空機はどの機種も通じて離陸時と着陸時が最も危険な時間だ。特にエアインテークからの異物侵入が襲撃を受けていない空港で最も多い墜落の原因だ。
「離陸する。準備はいいか?」
普段は1人乗りの機体に乗るバトラだが、最初は2人乗りの複座型搭乗員だったバトラが後方のファントムに準備が良いか伺うとファントムは慌てた様に自分の身について確認すると大丈夫だと身振りで伝える。
<<ANTARES01、クリアード・フォー・テイクオフ>>
ファントムの身振りを確認したバトラも大きく頷いて了解の意を伝えると離陸の宣言と共にゆっくりとスロットルを操作して機体を滑走させる。
強化改造が施されたJ79-IHI-17Aから赤から青に変色した炎を吐きながら機体を押し進める。
最初はゆっくりと、だが徐々に加速する機体に合わせてキャノピーに施されたモニターに映る小松空港の風景が背後へと流れて行き、機体からフワリとした浮遊感が2人を襲い、機体は夜明け寸前の藍色の空へと吸い込まれる様に進んで行く。
機体はある程度の高度まで上がると水平飛行に移り、戦闘機にしてはゆっくりとした速度で、ランディングギアを出したまま直進飛行を行う。
<<ANTARES01、貴機の高度制限を解除する>>
<<ANTARES01、ラジャー>>
管制官からの言葉を聞いてバトラはランディングギアを機内へと格納し、機首を僅かに上に上げて安全な高度まで手早く上昇しようとする。
<<ANTARES01、小松の地から武運を祈る>>
<<……Thank you>>
管制官からの言葉に感謝の意を伝えるとファントムが無線のチャンネルを管制塔の物から空中管制機『カノープス』の物へと切り替え、バトラはMS社で使われる独特なナンバリングで告げられた場所を太腿の地図で確認を行う間にファントムはレーダーで周囲を警戒、そして目視確認の合間に上昇する機体のバックミラーから小松の基地を眺めると翼端灯の間が妙に長い機体が滑走路に進入していた。
<<ANTARES03の離陸を許可します。幸運を>>
バトラとは違う女性の管制官からの言葉に詩苑は頷きながら返事の言葉を吐き出すと同時にスロットルレバーを操作する。
<<ANTARE03、クリアード・フォー・テイクオフ>>
バトラのエンジンとは違うエンジン音を吐き出しながら徐々に加速する黒いA−10は小松の地から重力の鎖を断ち切って、未だに夜の帳が残る大空へと進んで行く。
<<ANTARE04は滑走路へ進入しそのまま離陸して下さい>>
急かされているのか少し慌て気味な管制だが、それに慣れた様子で詩鞍は機体を進め、滑走路へと進入、既に許可は出されているので新たな異物が舞いこんでいないか目視で確認した後に無線機のスイッチを入れ直す。
<<ANTARE04クリアード・フォー・テイクオフ>>
先にに飛び立ったA−10と似た音を奏でながら地面を滑る様に滑走路、重力を振り切れるだけの空気の力を得た機体はフワリとした動きで地面から離れ、空中管制機から受けた方角へと機首を向ける。
<<ANTARE02、お待たせしました。滑走路へ進入して下さい>>
管制官からの指示を受け、滑走路へと入ってきた機体は先程の白とは違う白をした装甲で覆われたSu−47だった。
薄暗い小松空港の滑走路に白に輝く機体と薄っすらと光る青いハニカム模様は幻想的な光景だった。
<<進路上に障害なし、離陸を許可>>
<<ANTARE02、ベルクト。クリアード・フォー・テイクオフ>>
ベルクトがスロットルを操作したのかエンジン後端部が赤く光り、次第に青い炎を吐きながらSu−47の巨体を押し出し、地面を高速で滑らせて行く。
武装の搭載に加えて様々な装備を足した機体はそのエンジンパワーを持ってしても浮かせるには一苦労で小松基地の滑走路ではギリギリの長さでの離陸だが、安全な離陸を果たし、水平飛行に移行するのと同時に管制官から高度制限の解除を受けてランディングギアを機体内部へと格納する。
<<ANTARE隊全機の離陸成功を確認した。編隊を組め>>
カノープスに乗るバーフォードの指示を受けてF-4を戦闘にフィンガーフォーの編隊を組めANTARE隊の4機達。
エンジンを強化されたA-10も最高巡航速度なら他の2機の最低巡航速度に追従できるまでは強化されている為に編隊を組み続けるのはそう難しい話ではない。
<<此れから長距離移動になる。自動操縦装置に不備はないな>>
バーフォードの言葉に4機から、1番機からはファントムの返信で異常がない事を伝えられると暗いカノープスの機内でバーフォードが頷くのとカノープスのコクピットに編隊を組むANTARE隊の4機が映るのは同時だった。
5機の機体が編隊を維持したままその機首を目的地の方角へと向けるとコクピットに赤い明かりが映される。
<<空が……>>
ベルクトの様々な思いが詰まった言葉が響く。
東の水平線から徐々に太陽が上がり始めようとしており、弱くも確かな明かりが水平線から漏れ出る様にしてカノープスのコクピットを照らし、ANTARE隊の戦闘機のコクピットには赤い明かりが映し出され、その面積と光量は徐々に上がって行く。
<<夜明けです>>
<<綺麗ですね>>
詩鞍の言葉に歴史が決まるかもしれない時が近いと言っても変わらぬ姿で現れる夜明けに詩苑が無意識に抱いた感情を呟く。
陽光は徐々に空を輝かせ、戦闘機と空中管制機の装甲を照らされて僅かに赤く輝く。
「バトラさん。この戦争が終わった時にまた……」
「ああ、また……みんなで……」
ファントムの言葉にバトラも色々思いを混ぜた言葉で返すとファントムは映像の朝焼けの明かりに照らされながらもバトラのそれとは僅かに少し違うのだと不満そうな表情を浮かべるがバトラの事を考えればそう言うだろうと納得して頷く。
<<そうだ。この戦いに勝ち、ANTARE隊全員でまた、この日の出を見よう。目指すはロシア連邦、ベラヤだ!>>
ファントムとバトラは会話が通信機で流れていた事に驚くがバーフォードの言葉にカノープスの乗員の全員が頷き、目付きを鋭くさせる。人間の戦闘機乗りも操縦桿を握り直し、アニマは座り直して前を見据える。
次は苦手な政治ムーブが予想されるだけに憂鬱ですが頑張ります!最悪は全カットだな。