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夜の小松基地格納庫に3人の人影があった。
「え? 私達が兄様と呼ぶ理由ですか?」
陽光を弾く程にツヤのある黒髪を微風に舞わせる詩苑が微風に雪の様に白く美しい長髪をなびかせるベルクトに問い掛ける。
ベルクトがはいと頷いて見せる。
詩苑は詩鞍に視線を向けて話して良いか聞くと陽光を吸い込む程に美しい黒髪が舞わない様に抑えていた詩鞍が口を開ける。
「話しても良いですが、大切な思い出であると同時に思い出したく無い思い出でもあります。訳を聞いても良いですか?」
ベルクトは言葉を考えているのか少し考えると言葉を並べ始める。
「私もバトラさんは尊敬していますが、詩苑さんや詩鞍さんのは少し違う気がして……」
「……お話しましょう」
私達がお兄様と出会ったのは戦場でした。
驚かれてますね。まあ、出会い方で言えばあなたの方が全然、良いですよ?
それに戦場で会っていたと知ったのはずっと後ですが。
話を戻しますね。
お兄様と出会ったのは戦場で、敵同士でした。
ネバダ州の廃空港に集結していた私達、ゴールデンアクス計画私設軍のメンバーでAー10Aに乗って、地上攻撃を担当していました。
ああ、MS社に最初から所属していた訳ではありませんよ。強いて言えば、MS社に寝返ったと言った方が良いですね。
どうしてテロリストの仲間だったのかはヴァラヒア事変の時まで遡ります。
ヴァラヒアは最初に第七艦隊と航空自衛隊の合同訓練に参加していたMS社の部隊を襲撃した後に日本の東京を狙い、その後に新島と伊豆半島方面からの航空戦力と房総半島からの陸上戦力による挟撃が行われました。
兄様は防空戦に参加しましたが房総半島からの陸上部隊上陸を許してしまい私達はヴァラヒアの拉致にあいました。
その後は酷い物でした。
少年兵にする様な洗脳や教育を施されて……
「詩鞍。辛いならこれ以上は話さなくて良いわ」
顔を青くして震え始めた詩鞍を気遣い詩苑が話し掛けると少し気分が悪くなったのか木箱の上に横にさせる。
話は詩鞍が引き継ぐ。
深くは言いませんが、人間として扱われる時があった言った方が良いくらいの扱い方でした。
それでも、私達に脱走の選択を取れる余裕はありませんでした。
飛行機の操縦方法は知っていても、目的地への飛び方を知らない。自分達が飛ぶ頃には戦線は太平洋から欧州に移っていて、日本までの飛び方がわからず、洗脳されて自殺は出来ない、それでも自我が辛うじてあるという生き地獄の様な日々を過ごしていました。
兄様が核ミサイルサイロの破壊をした時は私達はトルコの小基地に居た私達は残存兵の人達に連れられてネバダ州の廃空港へと移動させられました。
其処ではヴァラヒア以上に酷い扱いを受けながら過ごしていました。
そんなある日に兄様達……アンタレス隊が攻撃を仕掛けて来ました。
地上部隊を連れていたMS社に私達はAー10Aでの出撃を命令されて攻撃に行く途中で先行していた兄様の機体が放った機関砲にエンジン2基を同時に破壊されて飛行不能にされて、詩苑も旋回しようとした瞬間にロケット弾を尾翼に喰らって撃墜されました。
その後にどれ位経った知りませんが、詩苑をコクピットから引きずり出してから荒野を彷徨って居ると低空飛行で兄様の乗る機体が近づいて来ました。
これで死ねると思った私達は其処では気絶してしまいました。
でも、闇の世界で聞こえたのは轟音と誰かに揺さぶられている様な感覚でした。
目を覚ました私達の目の前にはまだ、白色が混じった黒い髪の兄様がいました。
「え? バトラさんの髪って白いですよね?」
「ストレス性の白髪ですよ。まあ、その話はおいおいするとして、私達の話を続けます」
兄様は私達に色々な事をしてくれました。
ヴァラヒアや私設軍にいた時には考えられない待遇をする様にお願いしたり、契約や交渉したりしてくれました。
因みにその時の呼び方は貴方からバトラさん、バトラさんからバトラ様でした。
思えば、あの時から……脱線しましたね。
その時には徐々にヴァラヒアや私設軍で負ったトラウマも治って来ていたんです。それで、恩返ししたいと言いました。
私達は男性に恐怖を覚えていたので嫌な事をされると思っていましたけど、兄様からなら嬉しいだろうなって思ってました。けど……帰って来たのは予想外の言葉でした。
『気にするな。お前達の過去を調べたが、こっち側に居るべき人間じゃない。恩返しなんて考えずに向こう側で生きて行く準備をしろ』
私達は不運で兄様と同じ人殺しの道に行ったんです。それを知っているからこそ、戻れる今のタイミングで戻れと言っていました。
はい。優しい人なんです。
その2日後にゴールデンアクス事件もMS社の手により白日の元に晒されて集結。各国で起きていたテロも沈静化して行きました。
じゃあ、なんで私達がここに居るのかですか?
兄様を放って置けなかったというのが1番の理由です。
最終決戦前の最後の巨大兵器の撃墜作戦で2番機と3番機を喪失。志願した私達を3番機、4番機としてアンタレス隊は再編されましたが……最終決戦でゴールデンアクス私設軍のエースパイロットとの空戦で私達は退避して1番機と兄様が4機編隊のエースに挑み……兄様を残して1番機は撃墜され、発狂した兄様にエース部隊は立て続けに撃墜され、最後のエースパイロットもコクピットを30mmで粉々にされて、撃墜されました。
「それって……復讐を果たしてしまったんですか……」
「ええ、兄様はその場で復讐を果たしましたが、その後は酷い有様でした」
詩苑が木箱から起き上がりながら話す。
ベルクトが意識を向けたのを確認すると詩苑が語り出す。
復讐を目的に生きた人間は復讐を果たすと空っぽの人間になる。それは復讐のみを追い求めて大切な物を新しく得なかったから、友情や愛情に囲まれて、復讐の刃が鈍るのを防ぐ為。けど、大切な物を失って直ぐに復讐を果たした者は生き方を失う。
生きる理由が出来る前にその理由になり得る物を捨ててしまうから。
最終決戦が終わって世界が平和になったのに兄様の世界の時計は最終決戦の時から今も動いていません。
「今も動いていないって……どういう事ですか?」
「兄様は懐中時計はなんですけど、1番機が撃墜された瞬間に懐中時計が電池切れを起こして、その後から変えていないんです」
「どうして……」
「わかりません。兄様は何もしていない時はその懐中時計をいつも見ているんです。動かなくなった懐中時計の文字盤をずっと見ているんです」
悲しい雰囲気が漂う中で詩鞍が語り始める。
生きた屍の様な兄様を見て、兄様は強い人間なのだと思いました。強くなるには2つある。人間のまま強くなるのと人間で居られなくて弱い化物になる事だと。
数少ない大切な物を失った兄様は正しく、其処にあるだけの物で私達は恩返しとして兄様の生きる理由になれないか色々と努力しました。呼び方も家族を失った様な兄様に家族を感じられる様にと思ったからです。
「それでネグリジェ姿で寝室に突貫してたのか?」
突然の男性声に肩を触れてた感触を感じた詩鞍。
「ひゃぁ!! 兄様! いつから其処に」
「最後の俺を兄と呼び出した理由から」
そう話すと目に見えて安堵の表情を浮かべる詩鞍。
ベルクトはバトラに質問を飛ばす事にした。
「因みにどんな事を?」
「さっき言った夜這いまがいな行為以外にか? 妙にベッタリだったり、甲斐甲斐しく世話やこうとしたり、何処か連れ出そうとしたりだったかな?」
「バトラさんはその時……」
「鬱陶しい放って置いてくれって奴だったが……」
バトラが嬉しそうに笑う。
「こいつらが俺が死にそうで、何処か遠くに行きそうで、側に居て欲しい、生きたいと思って欲しい、その為の理由に私達を使って良いとまで言われてな。嬉しかったよ。自己嫌悪の行き着くとこまで行っていた身としては」
「やっぱり、依存してたんですか?」
「バッチリしてたな。まあ、1年位したら生きる意味を見つけたからそれ以降の依存はないな」
詩苑と詩鞍が聞こえない声でそのまま依存してくれれば良かったのにと恨み節を送る。
「お互いに助け助けられて、今の関係だ。今は辛い時を助けてくれた大切な戦友だよ」
そう言った瞬間に詩苑と詩鞍がバトラの両腕に抱き着く。
バトラは両腕に感じる柔らかい双丘に顔を赤くする。
「本当にそれだけですか!」
「あんな激しくしたのにですか!」
「何処まで行ったんですか!?」
「ベルクトが考えている様な事は無い!」
ベルクトが前から抱きついて来て精神的にピンチに陥っていると背中にファントムが張り付き、更に精神事情が悪化したバトラが助けられたのは精神が切れる5秒前にバーフォードによる一喝だった。
その後は5人仲良く正座で説教を食らったがバトラは終始心の中で突っ込んでいた。
俺は被害者だよ?
うん。薄いね。
まあ、お嬢様の2人が何故にパイロットしているのか? 何故に堅気の世界に戻らなかったのか? 原作クリア直後のバトラを語る回だったな。
すまない。こんな出来ですまない。