ガーリーエアフォース PMCエースの機動   作:セルユニゾン

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ラファール「…………」

「不満そうですね」

ラファール「久々の出番と聞いて意気込んだら、前書きと後書き手伝って……」

「え? ピンチの仲間を助けに颯爽と現れるカッコいいサブライダー的な事を予想してたの? バカなの? 死ぬの?」

ラファール「13000文字超える話を書いた貴様がな?」

無誘導爆弾の爆心地が広がる。


作戦60 越えるべき壁

夜空には街の明かりに負けずに輝く幾つもの星が瞬く時間に露天で駐機されたカノープスの機内でバーフォードがPCを前に英語で報告書を作成していた。

 

内容は今回の作戦での事だった。

 

暫くはカタカタとキーボードが叩く音だけが響き、とある動画ファイルを添付して、しっかりと再生出来る事を確認する為に再生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<全機無事か!!>>

 

ゲートを抜け出て地面がある事を確認すると同時にバトラが通信機に叫ぶ。

バトラが駆るサファイアブルーの機体はこれと言った損傷は外見、中身共になく五体満足で飛行を行っている。

 

<<ANTARES02、無事です!>>

 

保護膜として展開していたスライスは全てが分解されていたが、陽光を弾くスノーホワイトが眩しいSuー47 ANM ベルクトが少し後ろにズレた位置を飛ぶ。

 

<<ANTARES03も健在です>>

 

<<04、コピーです>>

 

そしてそのベルクトと斜めになる様に並んで飛ぶのは片宮姉妹が操るパールホワイトとパールブラックのF-2X-AJZ ヴァイパーゼロ改だ。

 

<<良かった。全機が無事ですね>>

 

ベルクトとは逆隣にエメラルドグリーンに輝いたRF-4EJTP-ANM ファントムⅢが並ぶとその後ろを付いて来る様に少し離れた場所にファントムのスライスで操られたAn-225が飛行し、その側を真紅のJAS39D-ANM グリペンが飛行する。

 

<<無事だったか!青蠍に白黒姉妹にベルクト、お兄さんにピンク色も!>>

 

彼方からクロームオレンジのSu-27M-ANM ジュラーヴリクに引き連れられたアクアマリンのMig-29SMT-ANM ラーストチュカにイリデッセンスに輝くSu-57-ANM パクファが近付いて編隊を組んだまま飛行する。

 

近付いた瞬間にジュラーヴリクが仕事が遅いと文句を垂れ流し終えた瞬間にファントムからはバトラ達の事を心配しっぱなしで迎えに行くと煩かったと愚痴られて、ジュラーヴリクの声が裏返り抗議するとAn-225を操作していたファントムのスライス、トゥエルブはジュラーヴリクと本体のファントムがそっくりだと称するとディーオーも似ていると同意した事で微笑ましい問題で一悶着が発生する。

 

<<誰も欠けてない……>>

 

<<ああ、完全勝利だ>>

 

そんな時にベルクトは周りを見渡す。

 

日露含めて10機。1機の脱落が無い少し歪な編隊が帰るべき基地に機首を向けた瞬間にそれは発生する。

 

<<ANTARES01、作戦しゅッ!? 高熱源反応複数!! 急速接近中!>>

 

バトラのAWACSPが急速で接近する物体を捉えるとOFFにしていたマスターアームをONに素早く切り替える。

この情報をデーターリンクで受け取ったアンタレス隊の面々とファントムが即座に対応する。

 

<<包囲と数!>>

 

ファントムから叫ばれる様に要求された情報にバトラも兵装士官として鍛えた情報処理処理能力で即座に答える。

 

<<ゲートの合った場所から飛んで来る! 数は4!!>>

 

<<はっ! たかが4機だろ!>>

 

そう言って翼を翻そうとするジュラーヴリクに残りの2機が付いて行こうとするが。

 

<<ディーオーを連れて撤退、簡易整備と補給を受けて来い>>

それをバトラが拒否する。

ジュラーヴリクも文句を言いたかったが、ディーオーはゲート内での無茶が祟ったのか機体が万全な状態とは言えなかった。

 

<<すまん。だが、直ぐに戻って来る!>>

 

ジュラーヴリクがそう言い残すとバーバチカが飛び去って行くとバトラはトゥエルブに通信を入れる。

 

<<あの4機だが、ヤバい。一足先に帰れ>>

 

<<でしょうね。先に戻っています。くれぐれも死んでまで墜とそうとしないで下さい。1番を悲しませる様な事をしたら許しませんからね>>

 

<<生きて帰ってこその英雄だ>>

 

いやに真面目なトゥエルブにバトラは真面目な声で答えるとならいいんですと言い残してAnー225が飛び去る。

 

<<各機、<<02は問題有りません>> <<03から04も同様です>> <<ミサイルの残弾が少ない以外は問題無いです>>……了解した。接敵まで1分!>>

 

高度有利を取ろうとファントムと慧が上昇、アンタレス隊も編隊を整えながら旋回上昇を行い、高度有利を取る。

 

<<ボギー、カバーをキャストオフした。反応増大。ボギーコンタクトまで20秒>>

 

高速で上昇する4機の機影。その姿はアクアマリンの白い筋が入った結晶体に何かの模様を彷彿させる白い装甲が施されたザイだった。

 

<<ブレイク!!>>

 

予想を上回る速度に全機が安全を優先して回避に専念する。

 

新手のザイも機銃弾を1秒放つだけでそのまま上昇するが、ファントムとバトラは回避と同時にザイが上昇で通り過ぎたタイミングでLOAL機能を使用して、投下したミサイルを誘導して体勢を整えながら攻撃を行っていた。

 

余りにも速い攻撃に反応が遅れたザイの1機にミサイルが突き刺さり、揚力生む翼は千切れ、推力を生むエンジン部は脱落して、見るも無残な姿に変わった胴体は重力の鎖に縛られたのかゆっくりと回転しながら落下する。

 

<<はぁ!?>>

 

だが、ファントムの放ったミサイルは上昇機動から素早く垂直移動された事で躱されたが、ファントムの誘導でミサイルは再度のアプローチを掛けたが、今度は機体後部を基点に一回転すると言う馬鹿げた機動で回避し、ハンマーヘッドの要領で機体の向きを変えてミサイルを放ち、追随する様に他の3機もミサイルを放って来る。

 

<<ブレイク!!>>

 

人類側は蜘蛛の子を散らす様に散開して回避するが、機動が遅れた詩苑とファントムが2発のミサイルにロックオンされた。

 

詩苑は機体をフル加速で上昇させたタイミングでエンジンのフューエル供給を切って熱源を無く直前に更にダイブを仕掛け、同時にフレアとチャフを放出する。

 

ミサイルは2発とも熱源探知だったのかフレアに吸い込まれてあらぬ方向に飛んで行き、自爆する。

 

<<ベルクト!>>

 

ファントムはミサイル回避の為にパワーダイブをしながらベルクトに自分が動いて欲しい行動をアニマ特有の通信方式でHUDに送り付ける。

 

<<ちょっ、お前……>>

 

慧の文句をファントムは無視する。と言うよりもそんな事に反応する為の処理能力を機体制御にファントムは割り振った。

ミサイルは角度が悪く。ドーター化された機体にアニマが操縦したとしても元がRF-4EJのドーターではいくらファントムでは無理がある。

 

「(やってみせます!)」

 

そう、これがRF-4EJのドーターならばの話だ。

ファントムの機体はバトラの機体を混ぜて改修と修理を行った機体で低速域での機動性はその機体の意志とも言えるアニマであるファントムですら追い付けない程の性能を有する。

 

つまりは機体の限界性能を超えた機体と言う事をファントムは信じてエアブレーキを展開して急減速させてバレルロールを繰り出すが1発はロストさせるがもう1発が迫る。

 

<<今!>>

 

ファントムがHiMAT機動の応用で機体の後部を横滑りさせる様に動かし、カナード翼で機体を無理矢理に捻った事で機体に悲鳴を上げさせる相当な無茶をさせて機体を後ろ向きに変える。

 

そこに意図せずとしてヘッドオン飛び込んでしまった新型ザイが飛び込む。

これによりファントムは初めて敵の姿を完全に捉える事に成功する。

 

敵は白い筋の入った水色の水晶体に白い装甲だが、白い装甲は細長く伸びた胴体の先、コクピットの様に配置され、コクピットアーマーを挟む様に噛み合わさった小さな牙を思わせる様に細く並んだ装甲が斜めに2本、そして機体後部は全翼機を思わせる程に大きく、白い装甲はアーチを作る様に大きな牙を噛み合わせた様なラインが1本だけが走る。

 

<<インガンレンジ、フルファイア!>>

 

機首下部に備え付けられた20mmガトリング砲とカナード翼取り付け位置を膨らませて搭載した30mm機関砲が同時に火を噴く。

ザイも操縦席を思わせる白い装甲を挟む様に配置された機銃を放つ。

 

互いに機銃を躱す為かファントムは更に降下、ザイは上昇を行う。だが、それを待っていたと言わんばかりにグリペンが背面を突いていた。

 

ファントムはヘッドオンに持ち込み、敵を上昇させるつもりで機銃を放っていた。

 

「貰った!!」「取った!」

 

ザイはJASー39Dが放った27mm弾を機首の先を基点に機体後部を回して鉄棒競技の様な動きで躱し、そして回転しながらバックすると言うとんでもない機動で背後を取る。

 

「慧!」

 

「わかってる!」

 

ミサイルにロックオンされていると言う電子機器からの情報を貰って下降でシーカーから逃れようとする慧にファントムからの賞賛の声が聞こえる。

 

<<FOX2>>

 

ファントムの落ち着いた声と共に放たれたミサイルはザイの背後にJを逆さにした機動で2発が取り付いた。

ザイはコブラ機動から側転する様な機動で1発を回避、次に迫るミサイルは横風に煽られた木の葉の様な機動で回避して見せる。

 

<<FOX2!!>>

 

回避したタイミングで慧が放ったグリペン誘導のミサイル2発が迫る。

横っ腹を見せ切っていたザイだが、機体後部を跳ね上げる様な機動中にエルロンロールを加えて機体の投射面積を少なくして1発は避けるが、それを見越したグリペン誘導にのミサイルは1発が真後ろから迫る。

 

ザイは垂直移動で背中側に動いて回避してみせるが先に回避したミサイルが戻って来た事で背中側にミサイルを喰らった事で錐揉み状態へとなってしまう。

 

<<慧さん!>> <<ああ!!>>

 

此処で決める。そう覚悟した2機からの十字砲火に晒されたザイが翼に抱えていたミサイルの誘爆とエンジンの爆発で木っ端微塵になって地面へと落下する。

 

<<他の2機は!>> <<1機捉えました>>

 

レーダー上ではIFF反応のある3機が1機のザイを追い掛け回していた。

 

<<FOX2!>>

 

ベルクトの放ったミサイルは機体を一回転させながら後方に下がるクルビットと言う機動で躱され、更に背後を向いた瞬間にミサイルがリリースされ、後方を飛んでいた詩鞍へと迫る。

 

<<フレア放出!!>>

 

詩苑の言葉に反射で詩鞍はパワーダイブをしながらフレアを放出、詩苑も上昇しながらフレアを放出する。

ザイのミサイルは2機分のフレアに惑わされてその場で自爆してしまう。

 

<<コレなら!!>>

 

詩苑の機体から連続して4発のミサイルが放たれる。

 

ザイは1発目をコブラ機動で回避、2発目は戻った勢いのまま腹側から一回転して回避すると続けて飛来した3発目は捻れたバレルロールにエルロンロールを加えた動きで回避されてしまう。4発目は間髪入れないコブラ機動で回避する。

 

<<逃がしません!!>>

 

回避機動の度に速度を失っているザイに弱点を見出したベルクトが胴体腹側に設けられた格納型のハードポイントから4発のミサイルを迫り出させると立て続けに放つ。

 

ザイも側転移動で1発目を回避、続く2発目も同じ様に回避するが3発目と4発目は挟み込む様な機動で迫った事で1発目を機銃で迎撃するとその爆風に乗っかる様にフワリと舞い上がりながらフレアを放出した事で3・4発目も躱される。

 

<<当たって!!>>

 

詩鞍からも最後のミサイルが放たれる。

 

1発目は腹側への垂直移動で躱され、2発目は側転運動で右に躱され、左から迫った3発目はバレルロールにエルロンロールの半回転を混ぜた動きで躱され、4発目はクルビット機動でミサイルの背後に回られてしまい、不発に終わる。

 

<<今!!>>

 

だが、攻撃はコレで終わらなかった。ベルクトが自身の危険と引き換えに超誘導で誘導した先程の4発がザイを挟み込む様に飛来し、回避機動を取られる前に指向性爆薬を爆発させて破片を浴びせる。

 

<<やった!?>>

 

ベルクトが黒煙の花を見つめていると高速でザイが迫る。

倒したと油断したベルクトは反応が遅れてしまう。

 

やられると目を瞑ったベルクトだが、ベルクトの鼓膜を揺らしたのは機体が機銃に引き裂かれる音では無く……

 

<<<<インガンレンジ・ファイア!!>>>>

 

頼れる姉妹2人の機銃発射の符丁。

2機から放たれた20mm機銃4門分の弾丸はザイの頭の先から機体下部を通り過ぎるまで横薙ぎに撃たれた事でザイが2つに割かれ、ベルクトの機体を挟む様に通り過ぎると1つの爆発で破片とバラバラになった胴体が重力に引かれて落下する。

 

<<お兄様は!?>> <<バトラさんは!>> <<居ない!? まさか!!>>

 

敵機撃墜を確認して自分達の長機を確認する3人の側にエメラルドグリーンの機体とが近付く。

 

<<私たちよりもバトラさんですか? 気持ちはわかりますが>>

 

そう言うファントムの隣を真紅の機体が並ぶ。

 

<<こんな悠長にしていていいのかよ! 早く助けに……>>

 

マッハ2を超える速度で大きく旋回するザイを同じ速度で追い掛けるバトラ。

 

その機首に埋め込まれたTLSは確かに射程範囲に収めてこそいるが加害範囲に押し込めないでおり、ザイも変な機動を行えばTLSで焼かれると知っているのか被弾面積を広げたり、速度を失う様な機動を行わない。

 

無言で有るが高度な読み合いをする2機を見ながらファントムが呟く。

 

<<速度を奪わせない旋回……アレに横槍入れられるならどうぞ入れて下さい>>

 

いや、無理だろうと思う慧にグリペンが語り掛ける。

 

<<アレじゃ無くても無理。バトラが通信を切ってる>>

 

その言葉に慧が肩越しに振り返って目を見開くと直ぐに遥か遠くでザイを追うバトラに目を向ける。

 

バトラが通信を切る。それは即ち、今のバトラは目の前の敵を墜とす為に他に意識を向ける事を辞める程に本気の戦いをしていると言う何よりの証拠だった。

 

現にバトラのコクピットでは音楽が流れていた。

それはバトラが恐怖心を忘れる為に行う愚かな行為。だが、同時にバトラを無意識かつ潜在的に縛る枷を外す行為でも有る。

 

ザイは今のバトラに落とされる筈は無いと確信しているのか高速で有るが単純な機動で飛んでいるがバトラは武装のトリガーを引いたりはせず、機体下部に設けられたTLS装置が格納される。コレにより空気抵抗が減った機体が加速する。

 

ザイは機体をバンクさせて背後を取ろうとするが同時にバトラも機体を大きく傾けて旋回するが、ガンの射線から逃げられてしまうが、エアブレーキの作動と同時ににTLSを露出させる事で空気抵抗を増やしながら減速して機動性を一時的に高めながらも、緩めていたスロットルを全開にする。

 

減速した事でガンの射線に無理矢理に入れられたザイは放たれた20mm弾を避けられず、背中に何発か当たってしまうとそれから逃れるように斜め上昇を行うが、バトラは増やした機動性が仇となり反応が遅れるがエアブレーキとTLSを格納した事で一気に速度を上げた機体の馬力とトルクに物を言わせたパワーアップで追い縋る。

 

ザイはクルピット機動で回りながらバックしたかの様に動いて背後に回り、バトラはカウンターマニューバにコブラ機動で機銃を放つが寸前でジャム(弾詰まり)をディスプレイが訴え、即座に機首を戻して加速する。だが、ザイの加速力も同等のもので追い掛けながら機首に設けられた2門の機銃を放ってくる。

 

バトラはバレルロールにエルロンロールからの旋回や不規則な回避行動で機銃を避ける。だが、その間にもミサイルのロックオンアラートが喧しく鳴らしながらコクピットを赤く光らせる。

 

バトラはそんな空間にも背後を飛ぶザイに何か懐かしさを感じていた。

 

細長い胴体が突き刺さったエイの様な主翼とエンジン部、そしてV字の垂直尾翼。何よりも牙を思わせる装甲はある部隊の特徴でもあった。

 

「ヴィルコラク……」

 

ザイからミサイルが6発のミサイルが集中砲火で放たれた。バトラの意識がノンタイムで切り替わる。

 

1発を90度バンクをしながらの旋回にフレアをばら撒いて回避するが5発が接近。2発目をパワーダイブでシーカー範囲から逃れるが距離のあった4発が迫る。続く3発目と4発目は円を描く様な機動で回避するが4発目が帰ってきて1発のみの回避となる。

 

「くそッ!」

 

悪態を吐きながらクルビットを行い、機首が真後ろを向いた瞬間にアフターバーナーをON。推力に物を言わせてザイに接近すると同時に泣け無しのミサイルをヘッドオンで放つ。

 

バトラを追い掛けるミサイルは2発が追尾を続け、バトラの放った最後の2発はGなど考えないごくバレルロールからの無理矢理なループ機動と言う機動で2発とも躱される。

 

バトラのコブラ機動からまたも推力任せの上昇で巻き上げた海水で1発を迎撃、遅れた2発はバレルロールをしながら吐き出したフレアで防ぐ。

 

ミサイルが各所で爆発を起こして青空を焼き尽くす。

 

バトラは前を飛ぶザイに空に来たなら撃ち墜とすと言わんばかりに殺意を改めながらレティクル越しに睨む。

 

そしてザイはバトラのミサイルから無理矢理に逃げた所為か背後に付かれ直されている事に気付いたのか、フラフラと機体を揺らして揺さぶりながら微笑にラダーで横にズレるという回避行動を起こすが、バトラは引き金を引かずにジッと耐え、必中にして必殺の距離まで耐える。

 

<<取りましたね>>

 

<<バトラさんの状況です>>

 

バトラの狙っている事を悟ったベルクトとファントムが短く会話する。

 

「この魂は譲れない」

 

ある意味ではこのザイは自分達、MS社……正確にはM42飛行中隊が生み出してしまった化け物達。

もう一度、落とさなければならない。だからこそこの空戦にバトラは己が魂を賭ける事に躊躇は無かった。

 

「それはお前の機体じゃない……」

 

初めて追い越したいと思ったパイロット達4人の背中がレティクル越しに薄っすらと映る。それはMS社の兵士としての魂を与えた4人のパイロットの背。だが、此れは幻覚だとバトラは即座に理解する。

 

同時に己の心で鎌首を擡げた存在も。

 

「この心は俺だけのもの」

 

全てが終わった後に生き方を示してくれた4人反面教師と言う勝手が過ぎる恩を感じた4人のパイロット。その中でもこのザイの機動はそののリーダーの機動と全くの瓜二つだった。

故に芽生えた恩人の静かな眠りを妨げる様なザイの行為に対する怒りや憎しみ。

 

「無駄だ!」

 

そして何よりも自分の初恋の相手であり、最後まで自分の長機だった未来奈を墜としたエースに対する心からの情景と、此奴を墜として未来奈を超えたいと思う欲望、何よりも此奴を墜としたいと言う殺意。

 

それがザイの仕掛けたブラフを見抜いた。

 

ザイは背中を右に倒して右旋回すると思わせて本当はジェットノズルの向きを変えて左に並行移動したが、バトラは機首を平行移動すると同時に左に振っていた。

 

「掴んだ!」

 

レティクルに飛び行った敵を掴み取ったと確信するのと全く同時にTLSからレーザーが噴き出すが、ザイはレーザーのチャージ中に素早く機体を平行にした後に水蒸気の尾を流星の残光の様に引き連れながら真下に移動、そのままコブラ機動で機首を上げたまま失速で下がりながら機銃を放つ。

 

「逃すか!!」

 

だが、その動きはレーダーが捉えていた。

逆コブラ機動で機首を下に向けると同時に推力偏向ノズルと動翼、エアブレーキを巧みに利用してすり鉢状のドームを腹滑りさせる様な動きで機銃を躱しながら、機銃の代わりにTLSを細かく連射する。

 

レーザーの攻撃は苛烈の一言で、幾度となく海面を叩き水面の海水を即座に蒸発させて水蒸気の結界を作り出すが、連射の速射重視だった事で威力が下がった事もあり、数発は被弾したザイだが戦闘に支障は無かった。

 

「吹っ飛ばせ! バトラ!!」

 

水蒸気の中から白い煙を吐きながら現れたザイを追うバトラのサファイアブルーの機体を見た慧が聞こえないとわかっていながらも叫ぶ。

 

それに呼応したのかバトラの機体が作る飛行機雲の軌跡に鋭さが増し、ザイはカウンターマニューバを仕掛けるタイミングを探ろうとするが、バトラは機動だけでそれを許さない。

 

バトラの殺意はその瞳に宿る。今のバトラをパイロットが見たならば、全ての敵を打ち砕けるだけの雰囲気を纏っていると誰もが答えるだろう。

 

「俺の為に墜ちてくれ、この時代のエースは俺なんです」

 

亡き誰かに呟いたバトラがTLSを放とうとしたタイミングで機銃の弾詰まり(ジャム)が直った事をディスプレイが伝える。此れが隙になったのかザイが素早くバトラの背後に回った。

 

此れには慧が息を吐いたが……

 

<<ああなったお兄様は止められないですよ>>

 

<<ええ、誰も……あれは死の運命そのもの>>

 

詩鞍と詩苑の声。

 

「視えてる! その翼を寄越せ!!」

 

その声に答えたのかバトラの機体は後ろに回られた瞬間には既にカウンターマニューバを行っており、ザイが機銃を放って止めた頃には背後に着き直していた。

まるで未来を知っているかの様な動きにベルクトの口が自然と動く。

 

<<この勝利は必然……>>

 

<<斯く、あれかし……>>

 

ベルクトの祈るような言葉にファントムの縋るような声が続き、バトラの20mm機銃が確かな殺意を込めて発射される。

対してザイは高度が欲しいのか背中から垂直に上昇してある程度の高度を得ると素早く機首をコブラ機動の様に起こしてフルスロットルで逃げる。だが、ただ逃げるだけで無く、奔流に飲まれる木屑の様に不規則に動きながら機体後部に付けられた12.7mm機銃2門を牽制兼迎撃で発射する。

 

「そんな怯え弾に!!」

 

だが、バトラに向けて放った奇襲の一撃は掠りもしなかった。

バトラは奔流に流される木片ををまるで奔流の上から撃ち下ろす様にTLSを放って撃墜しようとする。しかし、後部機銃は360度回せるのかバトラの動きを追随して放ってくるがバトラは奔流よりお激しい激流に乗っていると言わんばかりに機銃の対応力を置き去りにしながら隙あればTLSを放って来る。

 

ザイが賭けに出た。

 

一定以上の高度まで上昇し、尚且つバトラの速度が乗ったタイミングで奔流から吐き出されて勢いを無くした木片の様に空中で静止して自由落下を始めたザイをバトラが追い抜かしてしまう。

 

「ッ!!」

 

ザイは素早くエンジンに再び火を入れて、機首を上に向けてバトラを捉えるとコクピットの装甲が陽光で輝いた。それは捕えたぞ、お前は既に俺の手の内にいると叫んでいる様で、ザイはバトラが受けた印象を裏切らず、ザイは胴体に隠していた今までのどのザイのミサイルよりも細身のミサイルを露出させる。

ミサイルもミサイルでお前を逃さない、と陽光を弾く事で伝え、ロケットモーターの炎は撃墜の準備は整ったと言わんばかりに噴き出した。

 

バトラの行動は速かった。このザイを自分が墜とさばければ他の仲間は全員が撃墜される。それ程の相手だと認識すると、仲間を守るという隊長としての使命感がバトラの身体を即座に動かし、ハンマーヘッドで頭の向きを真下に変えて、ミサイルを照射のTLSで破壊し同時に攻撃するがその一撃はエルロンロールをしながらの横移動で躱される。

 

「隙!」

 

今度はバトラの本能が攻撃を緩めるなとバトラに命令する。バトラはその命令に従ってスロットを開けて加速、未だにエルロンロールをしている敵の横っ腹から機銃を放つ。

 

ザイは機体を攻撃から逃がす為に巨大な炎で青空を焦がしながらバク転の様に機体を逃し、機体を安定させて距離を取ろうとするが、バトラは飛ぶ暇も当てないと言わんばかりに追撃する。

 

「バトラがイニシアチブを握った」

 

グリペンが空戦を見上げながら呟く。

 

バトラがザイの逃げ場を潰し、何とかTLSか機銃で仕留めようとするがザイも加害範囲に入っても入り続けない様に巧みに機体を動かして逃げながら、何とか振り切るか背後に回ろうと増減速や左右への旋回、空中戦闘機動を繰り返すも、バトラも逃さず、回さずで動き回る為に空には2機の戦闘機が描く4本の飛行機雲で命の取り合いの光景を美しく、壮大に描いていた。

 

流れを完全に掌握し続けるバトラとバトラから逃れようとするザイが描いた飛行機雲の絵は空に未だに憧れる慧と慧とあんな中でも戦える様になりたいと、グリペンには幾つ物激戦を繰り広げたのにすら憧憬の感情を抱かせる。

 

ファントムはあの空間を自分の機体で描いてくれなかったバトラに対して怫然とした感情を抱き、操縦桿を強く握る。

 

詩鞍・詩苑はあの場所に入れない自分達の実力に激憤し、拳をハンマーの様に振るって計器盤を2人揃って強く叩き付ける。

 

そして、ベルクトはあんな光景を作り上げるバトラに自分もああなりたいと思うと同時に尊敬の感情を抱かせる。

 

様々な反応だが、総じて言えるのは惹き付けられている事。そして見る者を惹き付け、心を掴む機動はエース・オブ・エースと呼ばれる者全員が持つ素質だ。逆に幾ら敵を墜とそうとも心を掴めない機動しか出来ない者は何処まで行ってもエースというだけだ。

 

「今度こそ……」

 

慎重に、且つ悟られないように機銃とTLSで敵を誘導するバトラ。

 

「掴んだ!」

 

だが、寸前に膨らんだ殺意を感じたのかザイがパワーダイブを敢行するが、バトラもダイブ程度で逃げられると思うなと言う自分の言葉を自身で行ったパワーダイブのGに負けて発する事は出来なかったが、鬼気迫りながらおい、放たれた機銃とTLSの連続射撃が殺意を隠そうともせずに物語る。

 

いつの間にかカットされたエンジンリミッターによりT追加生産された電力がTLSユニットに送られ、AWACSPに送っていた電力さえもTLSユニットに送り込んでまで放たれるTLSの連射とそれに合わせて指切りで放たれる機銃は正しく暴狂という言葉が当て嵌まる。だが、ザイも負けていない。

 

最後の賭けだと覚悟を匂わせる鋭い機動でバトラの背後を突き、バトラがカウンターマニューバをしようとするとコブラ機動からコクピットを軸に横向きに回転し、遠心力に負けて横に放り投げられるが、偏向ノズルエンジンである程度はねじ伏せる事でエルロンロールを行わせ、コブラ機動を終えたバトラの機体に横合いから機銃を放つ。

 

無茶な機動から放った弾丸は動翼こそ外したが垂直尾翼に穴を開け、背中のAWACSPを破壊する。

この攻撃にザイも諦めていないと察したバトラは雲の中に突っ込むがザイも怖気付く事無く雲の中に飛び込むのとバトラの首筋を蜘蛛が這うような感覚に襲われた。

 

やられると思ったバトラだが、あの機体を駆っていたパイロット達のリーダーがバトラに教えた言葉が蘇る。

 

『強者にならば諦めることなど許されない。最後までひたすらに勝利をおいもとめろ』

 

その言葉が蘇ったバトラは迷う事なく背中のAWACSPを投棄する。ザイは機銃が絶対に当たると思ったタイミングで風に任せて飛んで来たAWACSPを迎撃か回避か迷い、木の葉が風に迷うな機動で無茶して躱す事を選択する。

 

ザイが雲の中を突っ切るとザイはバトラの機体を見失っていたが、頭上を影が遮った事で直ぐにバトラの存在に気付いた。

 

バトラはザイの真上にいた。直上急降下の構図で機銃とTLSを確かに向けていた。

ザイは即座に加速、機銃は胴体とエンジンの間に数個の穴を開け、レーザーがエンジンの間をすり抜けた事で被害を与えられず、ザイはループ機動で背後に回ろうとするがバトラもそれはさせないと機首を上にあげた瞬間に下部銃座に晒され、回避機動を余儀無くされ、流れをザイに取られてしまう。

 

バトラは諦めていなかった。今もひたすらに勝利を求めて脳が回転し続けた事で導き出した答えをバトラはノータイプで戸惑う事無く実行する。

 

背後に付き纏われ、攻撃しようとしたその瞬間にパワーダイブ、更にエルロンロールをしながら残りのフレアを全て撒きながら、逆バーストモードとエアブレーキを掛けてオーバーシュートさせる。

 

<<フレアの使い方が無茶苦茶です!>>

 

革命的であるが同時に破滅的なフレアの使用法。だが、真実はバトラが敵の背後を取った。

ザイは緩いループを描きながら急速に上昇、バトラもそれを追い掛けると後部機銃が放たれる。

 

最初の一撃を浮き上がる様な機動で回避、二撃目と三撃目はエルロンロールをしながら僅かに横にズレて回避、四撃目は落ち込む様な機動で回避、五撃目はザイ自身が外してしまう。

 

「うぉおおら!!」

 

機銃が放たれる。これによりザイは回避を取るがその時にまたも木の葉が舞う様な機動で回避した事で互いに背中を向けながらの旋回戦へと移行する。だが、旋回半径はバトラの方が優れた事で背後を取る。

 

ザイは真下に降下しながら後部機銃を放つも捻りながら迫るバトラを捉えられずに弾丸は空を切る。

高度を失いたくないザイはある程度の所で機首上げを行った事でバトラもそれに追随、飛行機雲は互いに編み込む様な線を描くが、その隙間はあまりに狭い。

 

バトラは大きく膨れる機動を取るとザイは減速し、背後に回ろうとするがバトラは加速で慣性を増やすとエンジンパワーを絞りながらハンマーヘッドで減速した事で空中に投げ出された様な機動を作り、ザイを射線に飛び込ませる。

 

対してザイは垂直移動で対抗し下方へ逃れる。

 

「「「「「「!!??」」」」」」

 

下方へ逃れたザイにバトラの機体はまたも革命的動くを見せた事でバトラ以外のパイロット達の目がひん剥かれる。

 

最初に片方のエンジンのみを逆バーストモードにしながらパワーダウン、足して片方はフルスロットル。これにより反トルクが発生、機体がスピンし始めるが、ここで逆バーストモードを行なっていたプレートの片方が畳まれ、スロットルはフルスロットルにされた事で機体が横滑りを始める。

 

そして減速により落下していたバトラの機体は下方に逃れたザイと同高度まで落ち、ザイを中心に横向きに回りながら機銃を放つ。

 

「此処で!!」

 

機銃の弾が尽きた。だが、ザイにはトドメを刺し切れていない。ザイも必死の機動で落下しながらも機首をバトラの方に向ける。TLSは横Gが大き過ぎてる安全装置が作動して開かない。

 

ザイは攻撃出来ないバトラに勝ったと確信し機銃を放ち、着弾の寸前にバトラの機体が垂直に下がった。しかもヘッドショットで撃ったせいか傾斜装甲の様になった装甲が銃弾を弾くというオマケ付きだ。

 

ザイが急いで機首を90度下に向けるとエアブレーキを格納しながらチャージ済みのTLSを開いたバトラの機体と向き合った。

 

ザイは撃ち合いでは無く、離脱を選んだ。だが、此処でザイのエンジンが止まった。

最後のバトラが放った機銃の一撃で燃料タンクが破損して漏れ出ており、更に90度移動は相当な燃料を使っており、知らぬ間に燃料切れを起こしていた。

 

ザイの放った曳光弾とバトラのTLSから放たれた赤いビームが行き違い、銃弾はバトラの機体に命中し、辺りに炎と黒煙を撒き散らし、レーザーはザイを串刺しに天へと昇って行く。

 

<<バトラさん!!>> <<バトラ!!>> <<ANTARES01!>> <<お兄様!!>> <<オニィサマァァァァ!!!!>> <<そんな……>>

 

爆発をまじかで見たバービー隊とアンタレス隊が叫び、ようやく戦場に着いたバーバチカもその光景を遠目に見て絶句した。

 

直ぐに叫び声は止み、残されたアンタレス隊の嗚咽だけが通信機から流れるバービー隊とバーバチカ。

 

だが、直ぐにディーオーが気付いた。嗚咽に紛れて音楽の前奏が聞こえる事に。

そして、それが全員に気付かれて直ぐに黒煙を突き破って、TLSを露出させる口の様なパーツを開けて、そこから黒煙を吐き出してこそ居るがしっかりと飛んでいるバトラが現れる。

 

その光景に全員が安堵を表情を浮かべながら口々に通信を送るが、返事を送らないバトラを不審がったファントムとベルクトが内部カメラにアクセスするとシートベルトでシートに押し付けられたバトラが映る。まるで力がこもっておらず、現在はオートパイロットで飛んでいる状態だった。

 

<<嘘ですよね! 気絶してます!>>

 

<<! アイハブコントロール!!>>

 

ファントムの言葉で現実を認識したベルクトがすかさずもしもの為に作っていた専用通路からバトラの機体をハッキングしてシステムを奪うとベルクト操縦で帰るべき基地へと帰投した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事に帰れて何よりだったな」

 

動画の再生が出来る事を確認したバーフォードだが、バトラに対して心配させるなや無茶をするなと愚痴りながら書き忘れた一文を書き足すと本部へと送信し、眠気からか報告書の下書きを映しているタブレットに気付かず、椅子に深く座り眠りに落ちてしまうが自動OFFでタブレットの画面は黒く変わったがタブレットはこんなワードを映していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今作戦で最後に遭遇したザイは形状こそGAFー01ヴィルコラクに酷似しているがその性能は強化されており、遭遇したパイロット達はこの個体をファフニールと呼称し識別する。更に未だ未登録だったバトラの新機体の名をADFwー01 バルムンクとする』




ラファール「で? 書き方変えたらしいな?」(復活の呪文唱えて上げた)

「うん。初音ミクのTRPGと似た様な作り方にね」

ラファール「詳しい事は省くが……エスコンだろうな?」

「勿論ですとも。っと言っても攻めの攻守交代とか地の文の手伝い程度だけどね。空戦の動きは今まで通りに」

ラファール「描きやすいか?」

「元種あるだけすっごい楽。多用はするつもりはないよ」

ラファール「で? なんで私を呼んだ?」

「え? いや、いい加減ラファールスキーにもe『不味いと判断したラファールが爆撃した跡が広がる』

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