ディーオーMIA話を書いている最中に忘れてました。
「何を拗ねている」
通信機からは八代通が未成年だらけのベトナム行きメンバーだとわかっているのに、ベトナムの簡易的な歴史と食べ物に合う酒の話をしているのを横目にバトラが後席が見えるバックミラーに目を向けながら、後席に座るファントムに声を掛ける。
「知りません! 話しかけないで下さい。次に話し掛けたら前席だけベイルアウトしますよ」
バトラはファントムの拗ねた一言を聞いて『おお、怖い怖い』とおくびにも思っていない言葉を吐きながら目線を前へ向ける。
ファントムは拗ねて右横の景色を見てから、現在地と目的地のベトナムまでの距離を調べる。
後席用のディスプレイにはベトナムの地形が映り、もう既に近海の中頃まで来ている事を知った瞬間。
「ベイルアウトさせてもバトラさんなら辿りつけそうですね」
「マジヤメテ!!」
実際にバトラもこの距離からなら何のトラブルが無ければ辿り着ける距離だと思ったからこそ本気で辞めて欲しくなり、機体を小刻みに左右に揺らす。
バトラはここまでファントムを拗ねらせたのも、ファントムが何気無しに聞いた乗せてくれと言う理由が、ベトナムに予備機候補達が駐機しているので試乗して選び、そのままそこで買うつもりだからだ。
無論ながら購入すれば小松までの輸送費が掛かるがこのご時世だと海運ではザイに沈められかなず、可能な限りの陸運も朝鮮半島が陥落まじかとあればベトナムから海運した場合と危険度は変わりない。
だったら、自分が操縦して戻った方が良いと言う考えだった。
ただしAJZでもドーターでも無いので逃げるしか出来ない。故に護衛と称してベルクトとファントム、グリペンが同行するベトナム行きは渡りに舟だった。
「全く、私は都合のいい足ですか」
ファントムの拗ねた様な言葉に苦笑いしか浮かべられないバトラだが、なにかを思いついたのか、ファントムに聞かれる事を知った上でベルクトにプライベート回線を送る。
<<何でしょう?>>
<<ベルクト。すまんがファントムに通信して低速機動の講習を受けるか聞いてくれないか?>>
まさかの通信にベルクトは内心ではご自分で言えばいいじゃないですかと思いながらも通信をアニマ間のデータリンクを使って繋げる。
<<聴こえてますよ!>>
ファントムからは苛立ちげな声で返されしまったベルクトが通信先でひぅっと声を上げるとファントムは通信を切って、前のバトラに話し掛ける。
「この程度であいこだと思わないで下さいね!」
「わかってるよ」
「ええ、わかってくれないと困ります! 早くこの機体を使い来なさいといけないんですからね!」
バトラはファントムの言葉を聞きながら通信で一次先行する事を告げてから機体を加速させるとスロットルを絞ると同時にエアブレーキを展開して減速。
最も機動性が高くなる速度域になった瞬間を狙ったコブラ機動と言うにはそこまで上げない機首上げで機体全体を使った空中停止にも思える機動。
無論ながらこれくらいはファントムでも出来る機動だが、その先を行くのが歴戦のパイロットたるバトラの機動だ。
機体が空中で静止したと錯覚した瞬間には偏向ノズルを操作、腹を基点に機体を回して横向きに向けるとスロットルを操作を行う事で回し蹴りを放つ様な軌跡を描いて360度ターンを繰り出した。
「(っ! なんて機動を!)」
初っ端から始まった無茶な機動にファントムは耐えながらも必死にその体感を覚えようと脳細胞をフル回転させる。
アニマのダイレクトリンクによる操縦は言ってしまえば想像で動かすと言って良い物で頭の中にビジョンを完成させた上で、機体限界を超えない限りの機動ならば直ぐに出来る。
バトラはRF-4EJTP-ANM ファントムⅢの限界に近い機動を行うと続けてコブラ機動からのハンマーヘッド、そしてコブラ機動からスロットル操作とカウンターマニューバを披露する。
その後は機体限界を見切ったバトラによるイメージで作り上げた敵機を追うイメージトレーニングを実機で行う様な機動を披露するとそれを見ていたグリペンが呟く。
「あんな低速度であの機動性は可笑しい。変態」
「スゲー」
抑揚の無い声で紡がれた言葉に慧も絶句する。
確かにバトラの機体特性を付与したファントムのRF-4EJTPは低速機動性が飛躍的に上がったが、偏向ノズルの多機能化と高性能化、動翼面の増加と強化と合わさり、その機動性は第一次世界大戦の機動性の悪い複葉戦闘機並みと言う今のジェット戦闘機ならおおよそ考えられない機動性を披露していた。
「? 中のファントム大丈夫か?」
複葉戦闘機の機動性を知らない慧だが、流石にあの機動がF-4と言う機種の限界を超えている事だけはわかった。
アニマが戦闘機そのものと言うならそれを超える機動をすると言う事はファントムの限界を超えると言う事であり、流石の彗も心配にもなる。
「多分だけど、バトラのRF-4を混ぜているから大丈夫……だと思う」
嫌な間が有ったが、一通りの機動を終えたバトラとファントムの乗るRF-4EJTPが隊列に戻った瞬間にベトナムの陸地が見える。
インドシナ半島の汀、北緯十一度五十九分東経百九度十三分、小松から飛行機の速度で6時間の距離にあるベトナム社会主義共和国カインホア省カムラン国際空港。
カムラン国際空港に普段の機体とはかけ離れた機体が3機も降りて来ようと特に慌てた様子はなかった。と言うのもカムラン国際空港の出で立ちとベトナム政府のしたたかさあってこその出来事だった。
ベトナム戦争時は米軍の基地で冷戦ではソビエト政府が使用した敷地を殆どそのまんま使っているカムラン国際空港は今だに冷戦の残りが至る所に残り、ベトナム政府の各国軍隊を平等に受け入れると言う外交スタンスにより、大なり小なり軍用機が少なくない数が訪れる。
対ザイ戦争があってからはPMCにとってはベトナムと言う国は西側・東側製造の機体を関係無く受け取れる数少ない場所であると同時に制約少なく寄港出来る場所となり、各社がベトナム防衛の為に二線・三線級ではあるが数多くの部隊を自社の物資防衛を建前に部隊を常在させている。
そしてバトラの所属するMS社も部隊を置いているが、バトラが此処に来たのは予備機体の購入以外にも、カザフスタンの一件で各国が話し合う為の会談場所がベトナムであり、実働部隊同士の顔合わせも兼ねていた。
「此処から車移動だが……着替えの時間は?」
「ある訳ないでしょう」
グレアムの言葉にバトラはだろうなと返す。
実は一向の行く手に気流の乱れが現れた事で否応無く避けた所為で時間を余計に食っていた関係で会談相手との時間が迫っていた。具体的にはフライト直後の着替えをする時間もギリギリな時間だった。
「車移動でも構いませんが、着替えのスペースくらい準備してくれませんか。6時間のフライトの見返りが公開ストリップではあまりにも報われません」
異様な量の汗で濡れた髪を後ろに流しながら、眉根を寄せる苛立たしい表情の八代通に歩み寄るファントムだが、八代通がバンだから車で着替えろと言って車のキーを投げ渡して直ぐにある方向を指差す。
「なにが」
ファントムの言葉が止まった。
2人の視界には汗で脱げなかったであろうマイケルの服を掴んで天に掲げるバトラと自慢に両膝と両肘を付いて悔しがるマイケルが居た。
何故にこんな光景が出来上がっているか簡単に説明しよう。
着替えないと不味い?
↓
会談なんだからせめて清潔な身嗜みしてください。
↓
着替えるか(バトラ・マイケル野郎2人による公開ストリップ)
↓
バトラが汗で脱げないとか言ってマイケルに脱ぐのを手伝って貰う。
↓
バトラ、脱げない様に首を上げるイタズラする。
↓
笑いながら謝るバトラにマイケルも仕返しで同じ事をする。
↓
バトラはパワーで服を剥ぎ取る。
↓
野郎2人の上半身が衆目の目に晒される←イマココ
因みに周りの整備員達はグレアムの公開ストリップと言う言葉に血走った目をしていたが野郎2人の鍛えられた腹筋を見えた瞬間に萎えたのか作業に戻っていた。だが、バトラの戦闘機パイロットでありながら多少の陸戦能力を得る為の訓練で付与された筋肉が程よく付いた身体に度重なる戦闘で少しづつ負傷した後が増えた事で僅かに傷跡が刻まれたバトラの肉体はファントムの思考を停止させるだけの羞恥心を与え、その隣で汗で張り付いた髪を風に当てて少しは乾かそうとしていたベルクトの顔が瞬く間に真っ赤に染める程の効果はあった。
「行きますよ、グリペン」
ファントムがベルクトの首根っこを掴むと同時にグリペンの背中を押して車に着替える為に慌てた様子で乗り込む。
「クリティカルな外交だな」
「そうですね」
グレアムは自分の脳内辞典でクリティカルな外交について引きながら、八代通の言葉に生返事で返答するとある事に気付く。
「運転手は?」
「俺が運転する。安心しろ、ユーラシア大陸は昔に散々運転した」
辿り着けるかだろうかとグレアムが心配していたが、荒い運転出会ったが時間通りに会談場所となるホテルへと辿り着く事に成功するが、バトラが荒い運転で少し車酔いになっており、ファントムがモンゴルでこれ以上に荒い運転の車に乗ったでしょうと突っ込み、ベルクトはバトラの背中をさすって少しは気を紛らわせようと甲斐甲斐しい態度を見せていた。
モンゴルのあれは戦闘中でアドレナリンが分泌されていたからこそでバトラ自身は車は少し弱い。
それでも揺れない地面を少し歩くだけで気分は戻ったらしく、周りの景色を物珍しそうに見ていた。
一行を挟むように生えるヤシの木のアプローチの先には南国風のレセプションが建てられ、ビーチを背景に小規模で有るがヴィラが立ち並び、ヴィラにはプライベートプールにビーチベット、ハンモックとリゾート施設のそれだった。
一向は会談場所だと言うヴィラへと辿り着く。
周りは煉瓦造りの塀に囲まれてたった1つの抜け戸口が唯一の出入り口であり、部屋は海側は全面ガラス張りで内装や調度品はオーシャンビューを損なわない様に瀟洒な物で固められているが、肝心の会談相手が居なかった。
「場所と時間は此処であってるのか?」
「合ってる。先方もこっちに向かっているらしい。気長に待とう」
そう言われた一向は思い思いの場所に座り、バトラとマイケルはバーカウンターを漁り始める。
航空機の乾燥した空気と汗で喉が渇いて仕方がないらしく、アルコールの分解に余計な水分を使う酒には見向きもせずにソフトドリンクの類を物色をしている。
2人が漸くソフトドリンクの類と栓抜きを見つけて開けると同時に扉からノックの音が響く。
それに2人は急いで一口だけでも潤すとパッと開けたばかりのドリンクを隠すようにしまう。
「「なっ!?」」
そして、入って来た存在に気付くと同時に叫び声が上がり、バトラはバーカウンターを飛び越えて、立ち上がったファントムの前に立ってファントムを制し、ベルクトはソファーから立ち上がると同時にバトラの側により、ファントムの隣に並ぶ。
入ってきた側にも動きはあり、クロームオレンジの髪を持つ少女を庇うかの様にアクアマリンの髪を持つ少女が立つ塞がる。
「バーバチカ」
遅れてグレアムがヒップホルスターのグロック17をマイケルがレッグホルダーに吊るしたM9に手を掛け、バトラもショルダーホルスターに入れたUSPに手を触れる。
「落ち着け。予定通りの来客だ」
なっとファントムから溢れた声と共にMS社のメンバーは銃から手を離すと同時に顔のパーツは悉くが大きい作りだが、体全体は細く小さい異相なロシアの将校用の軍服に身を包んだ軍人の登場にファントムとベルクトが固まる。
「バトラさん。ニキータ・カジンスキー、バーバチカの副官です。一度だけお会いした事があります。と言ってもロールアウトの祭典の時だけですが……」
ファントムからアイスピックを奪い取り、アイスバケットに投げ入れた事で鳴った金属音にグレアムが乗っかり、会談を始めましょうと言うと、互いに言いたい事を置いておき、社交辞令の様な言葉の応酬の後に会談から始まった。
バトラは首筋を蜘蛛が這う様な感触を受けて、異様な程に嫌な予感を感じつつ警戒を怠る事はせずに会談に耳を傾ける。
ディーオーの話を終わらせて試乗会に行けたらいいなー。